魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第47陣誘いしその声は

 時間的に僅か一分の出来事。だけどそれは、俺の中でずっと焼き付いて離れなかった。

(あの場所、あの声。一体何なんだ)

 まるで俺を探していたかのようなあの声。そしてあの場所
 。俺は何か大切な事を忘れているのだろうか?

「はぁ……」

 外もすっかり真っ暗になってしまい、俺は城の外で一人ため息をついていた。

「そんな所で座ってたら〜、風邪ひきますよ〜?」

 そんな俺に誰かに声をかけられる。何だか久しぶりにこの声を聞いた気がする。

「ちょっと考え事してたんですよ。利休さん」

 顔は向けずに、返事だけをする。

「考え事ですかぁ? よかったら私が相談に乗りますけどぉ」

「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」

「そうですかぁ。でもあまり無理しすぎると、ノブナガ様が心配しますよぉ?」

「無理は……してませんから。ただ、思い出していただけなんです」

 最近やたらとあの異世界での事を思い出す。自分から話したことはあったりしたけど、ほぼ毎日のようにあの日々のことが夢に出ている。決して忘れたいわけではないのだが、思い出すたびに彼女の顔が浮かび上がってきて、胸が苦しくなるのを感じる。

「思い出す事が辛いのですかぁ?」

「そういう事ではないんですけど、何か思い出したくないことまで思い出してしまって」

「それが辛いんですね?」

「はい」

 俺はあの一年間、様々な思いをしながら過ごしてきた。全てが辛い事ばかりではなかったのだけれど、それでもサクラを失った事は、俺にあまりに深い傷を与えてしまった。

「じゃあ少しお茶でも飲みますか?」

「え?」

「時間もまだ遅くはありませんからぁ、私の離れに来てください」

「でも……」

「遠慮はいりませんからぁ、さあ」

「あ、ちょっと」

 利休さんに腕を引っ張られ、離れへと連れて行かれる。

 俺が遠慮しているのは、あのお茶を飲まされる事なんだけどな……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 久方ぶりにやって来た離れは、以前来た時とは違い静けさに溢れかえっていた。

「ぶっ」

 ただいくら静まり返っていようが、お茶の苦さは変わりはしない。

「お茶が苦手なら最初から言ってくださいよぉ。勿体無いじゃないですかぁ」

「いや、そういうわけではなくて」

 あれ、なんかこのやり取りに酷くデジャヴを感じるぞ。

「そうじゃないなら、もっとたくさん飲んでください」

「い、今俺はそんなに喉が……」

「の・ん・で・く・だ・さ・い」

「はい……」

 ほらね。

「それで、サクラギ君はノブナガさんの事をぉどう思っているのですか?」

「ぶっ」

 今度は別の意味で吹き出してしまう。あまりに突飛つしたした質問に、俺は慌てふためいてしまう。

「な、何でそんな話にいきなりなるんですか!」

「だってぇ、さっきの話よりそっちの方が気になるじゃないですかぁ」

「だったら、何で俺の話を聞いたんですか……」

「気分ですよぉ、気分」

 どうやら最初から目的はそっちにあったらしく、利休さんはさっきの話を振り返ろうとは一度もしなかった。

(これ完全に計られたな)

 だがその質問に答えなんて用意してない。そもそもさっきまで別の事を考えていたのだから、いきなり言われても困る。
 なので、適当に答えてみることにした。

「別に俺はノブナガさんの事をどうとか、そんな事思っていませんよ。彼女は命の恩人なだけであって、そういう感情が生まれてこないんです。それにノブナガさんは……」

「ノブナガさんは?」

「俺の知りうる限りでは、もうじき死んでしまいます」

 本能寺の変。
 明智光秀が織田を裏切り、本能寺を強襲。結果信長は自ら命を落とし、その主犯格である光秀は羽柴秀吉によって殺される。

 もしこの時代、いやこの世界でそれが起きていないのなら、恐らく遠くない未来に起きてしまう。そしてそれは同時に、早くもやって来てしまうノブナガさんとの別れだ。そんな中で、特別な感情を俺は抱けない。たとえノブナガではなくても、だ。

「またまたぁ、ご冗談を」

 まあ、信じてもらえるわけないというのは分かっていたけどね。

「信じてもらえないなら、それで構わないんですけど。とにかく俺はノブナガさんには」

 言い直そうとしたその時、再び俺の視界は正気を保てなくなり始めていた。

『さ……き……」

 だが今度は声が聞こえただけで、俺の視界は正常に戻った。

(まただ……誰かが俺を……)

「サクラギくーん?」

 しばらくボーッとしていると、利休さんの声で現実に引き戻される。

「あ、ごめんなさい。ちょっと目眩がしただけなんで、部屋に戻りますね」

 フラフラになりながら立ち上がる。

「サクラギ君、まだ話がぁ」

「また今度話をしますから、だから今日は帰ります」

 おぼつかない足取りで俺は離れを出る。

(あの声、どうしてあんな所に……)

 あの空間での声と、今の声。どちらも俺には覚えがあった。あったからこそ、俺は信じられなかった。あの声の持ち主は俺の知っている中で、一人しかいない。一人しかいないから俺は……。

『来て……サッキー』

 その声に誘われてしまっていた。

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