魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第59陣深まる傷
ミツヒデを失った傷が未だに癒えないまま三日が過ぎた。俺も深い傷を負ったためか、その間も体を動かすことができずに、虚しい時間だけが過ぎていた。
「ヒッシー、ご飯持ってきたよ」
「ありがとうヒデヨシ」
今日も同じように何もせずに天井だけを眺めていると、ヒデヨシが昼飯を持ってきてくれる。そういえばあれからまだヒデヨシと一度も会話していなかったっけ。
「なあヒデヨシ」
「ん? どうしたのヒッシー」
「ごめんな」
急ではあるが、彼女にもちゃんと謝っておきたかった。ヒデヨシだってミツヒデが亡くなった事を悲しんでいるに違いない。だからせめてもの償いで、彼女にも謝罪した。
「そ、そんな急に謝らないでよ」
「俺が今回の戦いでもっと力があれば、こんな事が起きなかった。それにあいつが現れたのだって、俺に責任がある」
「でもそれだけで謝らないでよ」
「でも……」
「謝らないでってば!」
だけどヒデヨシの反応は、それとは別の悲しみを背負っているみたいだった。
「ヒッシーにだけは謝らないでほしくなかった。どちらかと言うと私が一番謝らなきゃいけないのに」
「何でお前が謝る必要があるんだよ」
「だって今回の事件の全ての発端は、私がただの誤解を大きなものしてしまった事から始まったんだもん。私に責任があるに決まっているでしょ」
「それは違うよヒデヨシ。誰が一番悪いとかそんな事はない。だからお前が自分一人で背負いこむ必要なんて……」
「ごめんヒッシー」
「あ、おい、ヒデヨシ!」
逃げるかのようにヒデヨシは俺の部屋から出て行ってしまった。
(馬鹿野郎……)
去り際ヒデヨシは微かにだが泣いていた。あそこまで自分を追い詰める必要なんてどこにもないのに、どうして彼女はあそこまでして自分で背負おうとしているのだろうか?
「ヒスイ様、今ヒデヨシさんが……」
それと入れ替わりでノブナガさんが部屋に入ってくる。
「少し一人りにさせてあげたほうがいいかもしれないです。多分ヒデヨシは、色々なことが起きすぎて気持ちを整理できてないんだと思います」
「本当にそれで、大丈夫なんでしょうか?」
「今ヒデヨシは何を言っても聞いてくれません。そういう時はそっとしておいてあげましょう」
さっきは追いかけようとしていた俺だが、冷静に考えて今は彼女を一人にした方がいいと結論づいた。あれだけ拒絶されて、今下手に刺激したら何があるか分からない。
「俺は信じます。ヒデヨシならきっと、乗り越えてくれると」
結局その日、ヒデヨシの姿を見た人は一人もいなかった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
翌日の晩、寝る支度を済ませそろそろ眠りにつこうとしたところで、誰かが俺の部屋を訪ねてきた。
「はぁ……」
「人の部屋にやって来るなりため息は失礼だろ」
「だってお姉様がいないんですもん」
訪ねてきたのは何とネネだった。二日も行方が分からないヒデヨシを心配した彼女は、心当たりがある場所を探し回っているらしい。
「何が起きたのか話は聞いていましたが、お姉様がそこまで責任を感じる必要ないのに」
「それに関しては同感だよネネ。ヒデヨシは今回の事件を自分のせいだと思っているんだよ」
「お姉様……」
かつてヒデヨシがそうであったように、ネネも同じようにヒデヨシがいない事を心配していた。やっぱりこの二人はお似合いだよな、女同士だけど。
「お前もそんなに気を負うなよネネ。ヒデヨシは多分、一人でゆっくり考えたい時間がほしいんだよ」
「一人で、ですか?」
「ああ。だからお前も下手に詮索しないで、少しの間だけでも一人にしてあげろよ」
「あ、あなたに言われなくてもそうします! ただ……お姉様が一人で苦しんでいる姿を見ているのは辛いです」
「それは俺もだよ」
ネネは最後にそれだけ言って、俺の部屋から出て行った。再び一人になる俺。果たして今ヒデヨシは一人で何をしているのだろうか。もし何か悪いことが起きているなら、すぐにでも彼女の元に向かってあげなければならない。
それが仲間としてできる、最大の事だと思うから。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ヒデヨシが城に戻ってきたのはそれから更に三日後の話。ノブナガさんに彼女が帰ってきた事を知らされた俺は、体の痛みを我慢しながら、彼女の部屋へと向かった。
「ヒデヨシ!」
部屋の襖を開ける。そこで待っていたのは……。
「ヒッシー……?」
あの元気だった頃とは全く違う、生気すらも失われてしまっているように感じられるヒデヨシの姿があった。
「どうしたんだよヒデヨシ、何があった!」
慌てて彼女に駆け寄る。食事もろくに取ってないのか、体も以前よりも細くなっている。
「ごめんねヒッシー……。私……私……何もできなかった」
「え?」
その言葉を聞いて俺は嫌な予感がした。まさかヒデヨシ……。
「今朝城下町で倒れているところをたまたま見つけたんです。今は目立っていませんが、その時ヒデヨシさんの身体には数え切れない傷がありました」
一緒についてきたノブナガさんが後ろで説明する。その言葉を受けて、失礼ながら彼女の体を見た。そこにあったのは、
「この傷……」
絶対この世界ではつけられない傷。闇の魔法によってつけられた幾多の傷の跡。そう、この傷は決してこの世界ではつけられない傷。それをつけられるのはただ一人。
「許さない、許さないぞマルガーテ」
魔王の娘、マルガーテただ一人だった。
「ヒッシー、ご飯持ってきたよ」
「ありがとうヒデヨシ」
今日も同じように何もせずに天井だけを眺めていると、ヒデヨシが昼飯を持ってきてくれる。そういえばあれからまだヒデヨシと一度も会話していなかったっけ。
「なあヒデヨシ」
「ん? どうしたのヒッシー」
「ごめんな」
急ではあるが、彼女にもちゃんと謝っておきたかった。ヒデヨシだってミツヒデが亡くなった事を悲しんでいるに違いない。だからせめてもの償いで、彼女にも謝罪した。
「そ、そんな急に謝らないでよ」
「俺が今回の戦いでもっと力があれば、こんな事が起きなかった。それにあいつが現れたのだって、俺に責任がある」
「でもそれだけで謝らないでよ」
「でも……」
「謝らないでってば!」
だけどヒデヨシの反応は、それとは別の悲しみを背負っているみたいだった。
「ヒッシーにだけは謝らないでほしくなかった。どちらかと言うと私が一番謝らなきゃいけないのに」
「何でお前が謝る必要があるんだよ」
「だって今回の事件の全ての発端は、私がただの誤解を大きなものしてしまった事から始まったんだもん。私に責任があるに決まっているでしょ」
「それは違うよヒデヨシ。誰が一番悪いとかそんな事はない。だからお前が自分一人で背負いこむ必要なんて……」
「ごめんヒッシー」
「あ、おい、ヒデヨシ!」
逃げるかのようにヒデヨシは俺の部屋から出て行ってしまった。
(馬鹿野郎……)
去り際ヒデヨシは微かにだが泣いていた。あそこまで自分を追い詰める必要なんてどこにもないのに、どうして彼女はあそこまでして自分で背負おうとしているのだろうか?
「ヒスイ様、今ヒデヨシさんが……」
それと入れ替わりでノブナガさんが部屋に入ってくる。
「少し一人りにさせてあげたほうがいいかもしれないです。多分ヒデヨシは、色々なことが起きすぎて気持ちを整理できてないんだと思います」
「本当にそれで、大丈夫なんでしょうか?」
「今ヒデヨシは何を言っても聞いてくれません。そういう時はそっとしておいてあげましょう」
さっきは追いかけようとしていた俺だが、冷静に考えて今は彼女を一人にした方がいいと結論づいた。あれだけ拒絶されて、今下手に刺激したら何があるか分からない。
「俺は信じます。ヒデヨシならきっと、乗り越えてくれると」
結局その日、ヒデヨシの姿を見た人は一人もいなかった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
翌日の晩、寝る支度を済ませそろそろ眠りにつこうとしたところで、誰かが俺の部屋を訪ねてきた。
「はぁ……」
「人の部屋にやって来るなりため息は失礼だろ」
「だってお姉様がいないんですもん」
訪ねてきたのは何とネネだった。二日も行方が分からないヒデヨシを心配した彼女は、心当たりがある場所を探し回っているらしい。
「何が起きたのか話は聞いていましたが、お姉様がそこまで責任を感じる必要ないのに」
「それに関しては同感だよネネ。ヒデヨシは今回の事件を自分のせいだと思っているんだよ」
「お姉様……」
かつてヒデヨシがそうであったように、ネネも同じようにヒデヨシがいない事を心配していた。やっぱりこの二人はお似合いだよな、女同士だけど。
「お前もそんなに気を負うなよネネ。ヒデヨシは多分、一人でゆっくり考えたい時間がほしいんだよ」
「一人で、ですか?」
「ああ。だからお前も下手に詮索しないで、少しの間だけでも一人にしてあげろよ」
「あ、あなたに言われなくてもそうします! ただ……お姉様が一人で苦しんでいる姿を見ているのは辛いです」
「それは俺もだよ」
ネネは最後にそれだけ言って、俺の部屋から出て行った。再び一人になる俺。果たして今ヒデヨシは一人で何をしているのだろうか。もし何か悪いことが起きているなら、すぐにでも彼女の元に向かってあげなければならない。
それが仲間としてできる、最大の事だと思うから。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ヒデヨシが城に戻ってきたのはそれから更に三日後の話。ノブナガさんに彼女が帰ってきた事を知らされた俺は、体の痛みを我慢しながら、彼女の部屋へと向かった。
「ヒデヨシ!」
部屋の襖を開ける。そこで待っていたのは……。
「ヒッシー……?」
あの元気だった頃とは全く違う、生気すらも失われてしまっているように感じられるヒデヨシの姿があった。
「どうしたんだよヒデヨシ、何があった!」
慌てて彼女に駆け寄る。食事もろくに取ってないのか、体も以前よりも細くなっている。
「ごめんねヒッシー……。私……私……何もできなかった」
「え?」
その言葉を聞いて俺は嫌な予感がした。まさかヒデヨシ……。
「今朝城下町で倒れているところをたまたま見つけたんです。今は目立っていませんが、その時ヒデヨシさんの身体には数え切れない傷がありました」
一緒についてきたノブナガさんが後ろで説明する。その言葉を受けて、失礼ながら彼女の体を見た。そこにあったのは、
「この傷……」
絶対この世界ではつけられない傷。闇の魔法によってつけられた幾多の傷の跡。そう、この傷は決してこの世界ではつけられない傷。それをつけられるのはただ一人。
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