魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第70陣ヒスイとノブナガ 後編

 背後を取られてしまった事により、ピンチになった俺。だが俺だってそれだけで終われない。

「まさかあんなに飛ぶなんて驚きましたけど俺だって」

 ノブナガさんの次の一手を避けるために、俺は一度かがんで横転する。すると元いた場所には刀が振り下ろされていた。かがんだのは横薙ぎを避けるために、そして横転は今みたいな攻撃を避けるための行動だった。

「咄嗟の行動とはいえど、流石ですねヒスイ様」

「この世界で何度も戦ってきましたからね。自然と体が動くんですよ」

 再び向き合う俺とノブナガさん。そして俺は既に次の一手へと動き出した。

「だぁ!」

 彼女の横腹に向けて突きをお見舞いするが、それはガードされる。それを予想していた俺はそのまま体を九十度回転させてガラ空きの反対側の腕を狙う。勿論ノブナガさんはガードは間に合わないと思っていたが、何とそれを彼女は腕で止めた。

「手甲って知っていますか? こうやって反対側の守りもしっかりできるんですよ」

 刃を受け止めながら彼女は言った。そういえばそういったものがあるとは聞いた事がある。だが俺はそんなものをつけているわけではないので、

「と言う事で私の勝ちですね、ヒスイ様」

 ノブナガさんの次の一撃を防ぐ手立てはないのであった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「魔法を使えばまだ分からなかったのに、良かったんですか?」

「俺は最初に言いましたよ? 魔法を一切使わないで戦うって」

 戦いを終えた帰り道、俺とノブナガさんは横に並んで他愛のない会話をしていた。今この時間がとても幸せに感じているのか、自然とその歩むスピードは落ちている。

「改めて思ったんですけど、ノブナガさんってかなりの身体能力を持っていますよね」

「そうでしょうか? 私はこれが普通だと思いますけど」

「だってあの跳躍力とか、普通だったら考えられませんよ」

「まあ、あれはちょっと特殊なだけなんですけどね」

「特殊?」

「あ、いえ。何でもありません」

 突然不思議な事を言い出すノブナガさん。そういえばすっかり忘れていたけど、ここって俺の知っている本来の戦国時代ではなくて、全く別の世界なんだよな。ただ偶然同名の人物がいて、似たような世界が構築されている、それだけの話。だから特殊な何かがあっても、不思議ではないのか。

「あの、ヒスイ様」

「はい。何ですか?」

「ヒスイ様はいつ、またこの世界に来られるんですか?」

「え? えっとそれは……」

 突然な質問をするノブナガさん。さっきの手合わせが終わってから、急に様子が変わったけどどうかしたのだろうか?

「ヒスイ様は一度離れると言いました。ですが、いつもう一度戻ってこれるとは言っていません。それについてはどうなのでしょうか」

「それは今は分かりません。ですけど、いつかは……」

「離れる必要なんてないじゃないですか」

「え?」

 ノブナガさん?

「これからもずっとこの世界にいてくれたっていいじゃないですか。無理して離れる必要なんてないじゃないですか。私は……ヒスイ様ともっと同じ時間を過ごしていたいんです!」

 悲痛とも思えるその言葉に俺は思わずたじろいでしまう。そして俺は気付いた。急に様子が変わったんじゃなかったんじゃない、ずっと我慢していた事を。人前ではああ言っていたけど、本当はノブナガさんは誰よりも……。

「ノブナガさん、俺は……」

「もっと私と、いえ私達と一緒にいてください! もっともっと、私と……」

 涙を流し始めるノブナガさん。その姿を見て俺は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。彼女がずっと隠していた想い、それは告白ともとれるような言葉だった。
 だけど俺は……。

「ごめんなさいノブナガさん、やっぱり俺はこの世界から一度離れないと駄目です」

「どうして? もうあなたは私達にとってかけがえのないものなのに、それでもどうして……」

「ノブナガさんの居場所がここであるように、俺にも居場所があるんです。元の世界で待たせてしまっている人がいるんです。だから俺は一度自分の場所に戻ります。たとえ好きな人を置いていくような形になってしまうとしても」

 自分でも予想外な言葉が口から出る。まさかこんな形で自分が告白なんてするとは思ってもいなかった。

「え?」

 目を丸くするノブナガさん。まあ、その反応は正しいよな。

「こんな形で告白するのも少し恥ずかしいんですけど、俺ノブナガさんの事が好きです」

 いつからかは分からない。だけど二ヶ月同じ時を彼女や他の仲間と過ごして、とても幸せだった。サクラの事で色々迷惑をかけた事もあったけれど、その中で俺は俺自身の想いに気づけた。

「ヒスイ……様?」

「だから必ずもう一度戻ってきます。今度はちゃんとした形で。そしてその時は結婚式でもなんでもしてあげますよ。ノブナガさんがその気ならば」

 正直な話ノブナガさんが俺をどう思っているのか、明確には分からなかった。だから今の言葉も彼女を安心させるための一種の保険にしかならない。それで彼女がどう思ってくれるのか、俺の中では少しだけ不安が残っていた。

「そんな事言われたら私……」

 涙をぬぐって、もう一度私と言った後に彼女はこう言った。

「いくらでもヒスイ様を待ち続けるに決まっているじゃないですか」

 こうしていつ果たされるか分からない約束を俺とノブナガさんはした。それは永遠に叶わない事かもしれない。けど、いつかは絶対果たされると俺は信じている。

 そして最後の夜が明け、最後の朝がやってくる。

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