魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第76陣もう一度あの場所へ③
再び師匠が住む異世界へとやってきた俺は、とりあえず師匠を見つけ出す。
「ちゃんと来てくれたのですね、ヒスイ」
「勿論ですよ。ノブナガさん達にまた会えることもできますし、それにちゃんとした理由を聞いていませんから」
「理由?」
「何で俺は今後魔法を使ってはいけないか、その理由ですよ」
どうしてもその条件だけ頷けない俺は、改めて師匠に尋ねる。何か隠し事をするような人じゃない彼女が、俺に何か大事な事を黙っている事がどうしても引っかかっていた。
「その理由については……とりあえず一度荷物を部屋に置いてきてください」
誤魔化すように話をそらす師匠。恐らく話す気はあるのだろうけど、どこか躊躇いを感じる。
とりあえず案内された部屋に荷物を置いた俺は、すぐに部屋を出る。本来ならもう少しゆっくりしてもいいのかもしれないけれど、時間が有り余っているわけでもないので、すぐに話を聞くことに決めた。
「どうしてヒスイは、そんなに理由に拘るのですか?」
「どうしても何も、師匠が隠し事をしているからじゃないですか。何で師匠が挑んでやっとの相手に対して、魔法を使わないで戦えだなんて無茶なことを言うんですか」
「それにはちゃんとした理由があるんです。けど、それをあなたに話すには少し早い気がするんです」
「少し早い? それはどういう……」
「ごめんなさいヒスイ」
理由を言及する前に、突然師匠が頭を下げて謝ってきた。そのあまりに突然すぎることに、俺は動揺を隠せない。
「い、いきなり謝らないでください。師匠は何も悪いことなんか……」
「本当ならもうあなたを巻き込まないで、今回の件は終わらせたかった。だけど奴らは勇者の仲間であるあなたに目をつけてしまった。私があなたに教えた魔法は……魔法は……」
そこで言葉を詰まらす師匠。俺が使っている魔法に何の意味があるんだ?
「あなたのその魔法は……なんですよ」
「え?」
今何て?
「あなたに教えた魔法、つまり私が使っているこの魔法は、本来この世界に存在してはならないものなんです。自分の身を削って強力な魔法を放つ禁忌の魔法、それがあなたに教えてしまった魔法なんです」
「禁忌の……魔法?」
この一見なんともない普通の魔法なのに?
「じゃあ一年前俺が倒れた本当の原因は……」
「あなたを治療して分かったんです。あなたが倒れたのは魔力切れが原因ではない。魔法自体が原因なんです」
「そんな馬鹿な……」
つまり俺がこれ以上この魔法を使ってしまったら、
「本当の意味で死を迎える事になるんです」
それは俺にとって、いや魔法使いにとって到底受け入れられない真実だった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
思わぬ真実を知ってしまった俺は、改めてこの魔法を使うということの意味を考える。
(この魔法は強力な分、術者の命を削る。それを今後使うとなると……)
この前のように目を覚ますことができなくなってしまう。それはノブナガさんやヒデヨシ、桜や師匠達皆を悲しませる事になる。そんな魔法を俺は使えるのだろうか。
「師匠、俺は……」
使えない、という答えが普通だ。でも命をかけないと挑めない相手に俺は挑もうとしている。皆を守るために。だったら……。
「それでもこの魔法を、俺は使おうと思います」
「え? どうして……」
「一年前師匠も同じように守ろうとしてくれたじゃないですか。だったら俺も同じようにして守りたいんですよ。ノブナガさんもヒデヨシも、桜も師匠も。俺がこの魔法を使うのはその為なんだと思うんです」
「ヒスイ……お願いですから、無理だけはしないでください……。これ以上誰かを失うのは、私嫌なんです」
「分かっています。無理だけはしません。必ず生き抜く事を約束しますから。だから魔法を使うことを許してください」
迷いなんてなかった。俺はかつてこの世界で魔王を倒すために旅をし、その中で沢山の人を助けてきた。それが使命だとか、正義感とかそういう事じゃない。
ただ誰かを守りたい、ただそれだけの純粋な気持ちが俺を動かしていた。それは今だって変わりない。命を懸けて誰かを守れるなら、俺はその道を進む。かつて彼女が俺を守ってくれたように。
「分かりました。ヒスイがそこまで言うなら、許可をします。ただし、全てが終わったらもう一度その顔を私に見せてください」
「はい」
俺と師匠はそう約束して、いよいよノブナガさん達の元へ向かう準備を開始するのであった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
それから半日が経った頃、全ての準備が整ったと連絡が入ったので荷物を全て持ってその場所へと向かった。
「いいですかヒスイ、このゲートをくぐったらノブナガさん達の世界にたどり着くまで決して立ち止まらないでください。世界を跨ぐ道はいつ何が起きてもおかしくはないので、入ったら駆け抜ける形でお願いします」
「分かりました」
やってきた部屋の真ん中には、大きな門みたいな形をした次元空間がある。あれを通ればいよいよノブナガさんと桜が待つ世界だ。
「無理だけはしないでくださいね。次は何が起こるか分からないですから」
「無理は絶対にしません。絶対に誰も悲しませたりしませんから」
「約束ですからね」
「はい」
最後に師匠とそう言葉を交わす。そして俺は異次元に足をかけた。
「じゃあ行ってきます、師匠」
「行ってらっしゃい、私の可愛い弟子」
そして俺は一気に駆け出した。
一年前の約束を果たすため。
桜を連れて帰るため。
そして全てを終わらすため。
俺はもう一度あの場所へ向かう為に、駆け出していった。
翡翠の姿が完全に見えなくなった後、部屋に一人残されたノアは一人涙を流していた。本来なら自分も向かいたかった。可愛い弟子を一人で向かわせるのなんて本当は嫌だった。だけどそうするしかなかった。何故なら……。
「ありがとうヒスイ、私は最後にその姿が見れて幸せでしたよ……」
私自身の命も、もう残り少ない。彼よりも何倍もこの魔法を使ってきた私の命は、間もなく尽きる。その前に可愛い弟子の顔を見れて、彼女は幸せを感じていた。
「ヒスイ……」
徐々に視界が霞み始める。この門を作るために魔法を使ったからなのかもしれない。だからせめて最後に一言だけ、彼に届いてくれれば……。
「大好きです……」
「ちゃんと来てくれたのですね、ヒスイ」
「勿論ですよ。ノブナガさん達にまた会えることもできますし、それにちゃんとした理由を聞いていませんから」
「理由?」
「何で俺は今後魔法を使ってはいけないか、その理由ですよ」
どうしてもその条件だけ頷けない俺は、改めて師匠に尋ねる。何か隠し事をするような人じゃない彼女が、俺に何か大事な事を黙っている事がどうしても引っかかっていた。
「その理由については……とりあえず一度荷物を部屋に置いてきてください」
誤魔化すように話をそらす師匠。恐らく話す気はあるのだろうけど、どこか躊躇いを感じる。
とりあえず案内された部屋に荷物を置いた俺は、すぐに部屋を出る。本来ならもう少しゆっくりしてもいいのかもしれないけれど、時間が有り余っているわけでもないので、すぐに話を聞くことに決めた。
「どうしてヒスイは、そんなに理由に拘るのですか?」
「どうしても何も、師匠が隠し事をしているからじゃないですか。何で師匠が挑んでやっとの相手に対して、魔法を使わないで戦えだなんて無茶なことを言うんですか」
「それにはちゃんとした理由があるんです。けど、それをあなたに話すには少し早い気がするんです」
「少し早い? それはどういう……」
「ごめんなさいヒスイ」
理由を言及する前に、突然師匠が頭を下げて謝ってきた。そのあまりに突然すぎることに、俺は動揺を隠せない。
「い、いきなり謝らないでください。師匠は何も悪いことなんか……」
「本当ならもうあなたを巻き込まないで、今回の件は終わらせたかった。だけど奴らは勇者の仲間であるあなたに目をつけてしまった。私があなたに教えた魔法は……魔法は……」
そこで言葉を詰まらす師匠。俺が使っている魔法に何の意味があるんだ?
「あなたのその魔法は……なんですよ」
「え?」
今何て?
「あなたに教えた魔法、つまり私が使っているこの魔法は、本来この世界に存在してはならないものなんです。自分の身を削って強力な魔法を放つ禁忌の魔法、それがあなたに教えてしまった魔法なんです」
「禁忌の……魔法?」
この一見なんともない普通の魔法なのに?
「じゃあ一年前俺が倒れた本当の原因は……」
「あなたを治療して分かったんです。あなたが倒れたのは魔力切れが原因ではない。魔法自体が原因なんです」
「そんな馬鹿な……」
つまり俺がこれ以上この魔法を使ってしまったら、
「本当の意味で死を迎える事になるんです」
それは俺にとって、いや魔法使いにとって到底受け入れられない真実だった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
思わぬ真実を知ってしまった俺は、改めてこの魔法を使うということの意味を考える。
(この魔法は強力な分、術者の命を削る。それを今後使うとなると……)
この前のように目を覚ますことができなくなってしまう。それはノブナガさんやヒデヨシ、桜や師匠達皆を悲しませる事になる。そんな魔法を俺は使えるのだろうか。
「師匠、俺は……」
使えない、という答えが普通だ。でも命をかけないと挑めない相手に俺は挑もうとしている。皆を守るために。だったら……。
「それでもこの魔法を、俺は使おうと思います」
「え? どうして……」
「一年前師匠も同じように守ろうとしてくれたじゃないですか。だったら俺も同じようにして守りたいんですよ。ノブナガさんもヒデヨシも、桜も師匠も。俺がこの魔法を使うのはその為なんだと思うんです」
「ヒスイ……お願いですから、無理だけはしないでください……。これ以上誰かを失うのは、私嫌なんです」
「分かっています。無理だけはしません。必ず生き抜く事を約束しますから。だから魔法を使うことを許してください」
迷いなんてなかった。俺はかつてこの世界で魔王を倒すために旅をし、その中で沢山の人を助けてきた。それが使命だとか、正義感とかそういう事じゃない。
ただ誰かを守りたい、ただそれだけの純粋な気持ちが俺を動かしていた。それは今だって変わりない。命を懸けて誰かを守れるなら、俺はその道を進む。かつて彼女が俺を守ってくれたように。
「分かりました。ヒスイがそこまで言うなら、許可をします。ただし、全てが終わったらもう一度その顔を私に見せてください」
「はい」
俺と師匠はそう約束して、いよいよノブナガさん達の元へ向かう準備を開始するのであった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
それから半日が経った頃、全ての準備が整ったと連絡が入ったので荷物を全て持ってその場所へと向かった。
「いいですかヒスイ、このゲートをくぐったらノブナガさん達の世界にたどり着くまで決して立ち止まらないでください。世界を跨ぐ道はいつ何が起きてもおかしくはないので、入ったら駆け抜ける形でお願いします」
「分かりました」
やってきた部屋の真ん中には、大きな門みたいな形をした次元空間がある。あれを通ればいよいよノブナガさんと桜が待つ世界だ。
「無理だけはしないでくださいね。次は何が起こるか分からないですから」
「無理は絶対にしません。絶対に誰も悲しませたりしませんから」
「約束ですからね」
「はい」
最後に師匠とそう言葉を交わす。そして俺は異次元に足をかけた。
「じゃあ行ってきます、師匠」
「行ってらっしゃい、私の可愛い弟子」
そして俺は一気に駆け出した。
一年前の約束を果たすため。
桜を連れて帰るため。
そして全てを終わらすため。
俺はもう一度あの場所へ向かう為に、駆け出していった。
翡翠の姿が完全に見えなくなった後、部屋に一人残されたノアは一人涙を流していた。本来なら自分も向かいたかった。可愛い弟子を一人で向かわせるのなんて本当は嫌だった。だけどそうするしかなかった。何故なら……。
「ありがとうヒスイ、私は最後にその姿が見れて幸せでしたよ……」
私自身の命も、もう残り少ない。彼よりも何倍もこの魔法を使ってきた私の命は、間もなく尽きる。その前に可愛い弟子の顔を見れて、彼女は幸せを感じていた。
「ヒスイ……」
徐々に視界が霞み始める。この門を作るために魔法を使ったからなのかもしれない。だからせめて最後に一言だけ、彼に届いてくれれば……。
「大好きです……」
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