魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第85陣祈りの先の悪夢 後編

 一瞬何が起きたのか分からなかった。突然俺が作った魔法陣とは別の魔法陣が現れたかと思うと、身体が炎に包まれていた。辛うじてイエヤスを守ることはできたものの、治療が中断してしまう事態に。ある程度完了していたとはいえ、これだとヒデヨシと同じように……。

「誰が……こんな事を……」

 とりあえず周りを見回す。だが誰かがいる気配はしない。まさか遠隔魔法か?

「ヒスイ様!」

「い、イエヤス様!」

 音でも聞いて駆けつけたのか、ノブナガさんと何故かボクっ娘が部屋に入ってきた。

「大丈夫ですか、ヒスイ様」

「何とか……。でもどうしてボクっ娘がここに?」

「説明は後でします。それより一度部屋を出ましょう」

 ノブナガさんに肩を借りて俺は歩き出す。イエヤスはボクっ娘が背負っている。

『逃がしませんよ』

 だが突然声が聞こえ、俺逹の足元に再び魔法陣が現れる。

「ノブナガさん、ごめんなさい!」

 魔法が発動される前に俺は彼女の体を魔法陣の外へと飛ばす。そして……。

「ひ……すい……」

 俺の身体は再び業火の炎に包まれた。

(やばっ、このままだと……)

 誰かを助ける前に、俺が……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「じゃあ翡翠は……」

「はい。私達を守る為に……」

 私がノブナガさんからその話を聞いたのは、事件が起きてから少しした後だった。ヒデヨシさんが私の部屋に慌てて入ってきたから、何事かと思ったら大事件が起きてしまっていたので、私はとにかくショックだった。

「じゃあ翡翠は今どこに?」

「それが……炎が消えたら既に彼の姿はなかったんです」

「嘘……」

 そしてその事件は、翡翠が行方不明になってしまうという思いもよらない結果を引き起こしてしまった事に、私は気を失いそうになってしまう。

「サクラさん、しっかりしてください」

「しっかりできるわけないでしょ! だって翡翠が……翡翠が……」

 言葉が出てこない。何で翡翠がそんな目に合わなければならないのか分からない。本当なら普通の人間だったのに、魔法を使えるようになってから彼は不幸な目にあってばかりだ。
 それを私は何もする事が出来ずに、見ている事しかできない。

「ヒスイ様は私達が責任を持って、見つけ出してみせます! 絶対死んでなんかいませんから」

「死んでなんかいないのは分かっている。でも、私も一緒に探す」

「サクラさんはまだ戦えるような身じゃないんですから、無理をしないでください」

「嫌よ! 今度こそ……今度こそ翡翠の側から離れたりなんてしないんだから」

「サクラさん……」

 もう何もできない自分にはなりたくない。だからノブナガさん達と協力して、翡翠を見つけ出してみせる。そうでもしないと……。

(約束、また破る事になるじゃない)

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 全身が焼けるような(実際に燃えていたが)痛みが、少しずつ消え、ようやく俺は目を開くことができた。だが目を開けた先で俺を待っていたのは、

「なんだよ……これ」

 見た事もない場所。言葉で表すなら歪み。まるで空間が歪んだような場所に俺は寝かされていた、


「ようこそ、私の住処に」

 その歪みから姿を現したのは、やはりマルガーテだった。

「随分と趣味の悪いところに住んでいるみたいだな、マルガーテ」

「決して好きで住んでいるわけではないんですがね。ここからなら気配すら感じられずに、攻撃する事が出来るので使わさせてもらっているだけですよ」

「さっきの魔法もそこから打ったって事か」

 とりあえずその話は置いておくとして、いきなりラスボスの住処にやって来れたのだから、これはチャンスなのかもしれない。

「ちなみに、私を倒そうと考えているならやめておいた方がいいですよ」

「何だと」

「この空間は私が支配してします。それが故に」

 突然姿を消すマルガーテ。

「こんな事も出来てしまいますから」

 そして気がつくと、俺の真後ろにその姿を現した。それはもはや魔法をも凌駕する力だった。

「あなたをここに連れてきた理由はただ一つ。あなたのその力を私が欲しいからです」

「この魔法をだと」

「はい。そうすればあなたを解放します。しかしそれが飲めないのなら」

「なら?」

「この場で死んでもらいます」

 再び正面に姿を現すマルガーテ。確かに簡単な条件かもしれない。しかもこの魔法を渡せば、俺の寿命が縮まることはなくなる。そうすれば長く生きられる。

 だけど……。

「これは師匠から教えてもらった魔法だ。簡単にはお前に渡せない」

「そうですか。では死んでいただきましょう」

 マルガーテは何かを投げてくる。あれは剣だろうか? だがそんなの簡単に避けてしまえば……。

「あれ? 身体が」

「残念ですけど先程あなたに束縛の魔法をかけさせていただきました」

「くそっ、動け」

「ということでさようなら。哀れな師匠の弟子」

 避けられない。そう感じた俺は、死を覚悟した。こんな簡単に死ぬのは悔しいけど、もうどうにもできない。

(ノブナガさん、ヒデヨシ、桜……ごめん)

 最後に俺は心の中で詫びて、ゆっくりと目を閉じた。



『……に……めて……のですか?』

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