魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第87陣忍びの里の裏切り者

 ネネと共に逃げ出したのはいいものの、迫ってくる殺気のスピードはかなりの早さだった。その為か追いつかれるのも時間の問題にまでなってしまった。

「どうするんだよネネ、このままだと追いつかれるぞ」

「分かってます。けど私はこんな所で捕まるわけにはいかないんです」

「じゃあやる事は一つしかないな」

「一つって?」

「お前が言ったように、追い払うんだよ」

 このたま逃げても拉致があかないと感じた俺は、逃げる足を止める。もう敵はすぐそこまで来ている。本当は戦うのは嫌なのだけれど、ここはやるしかない。

(集中して……)

 神経を研ぎ澄まして、もう一度あの力を使うことにする。するといとも簡単に時間が止まり、俺は迫ってくるの敵の数を把握し、ある程度の守備を固めてから時を戻す。

「なっ! さっきまでこんなのなかったはずじゃ……」

 忍の一人が声を上げる。俺が時間を稼ぐために用意したのは、二つを分断するための氷の壁。真っ直ぐ進んできた敵は勿論それに激突。それを避けた者は二人で片付けた。

「私も気がつかない間に、どうやってあんなものを?」

「ちょっとした小細工だよ」

 とりあえずこれで敵の足を止めることができたので、俺とネネは森の脱出を図るために移動する。

「ところでネネ、この森ってどこの領地に値するんだ?」

「ここは一応織田と徳川の領地の境界線にある森なんです。それでこの近くには私の生まれ育った故郷もあります」

「なるほど。だからあれだけの忍者が追っていたのか」

 それから三十分くらい歩いたところで、森の出口が見つかる。ネネは脱出の為に一応目印をつけておいてくれたらしく、こちらが織田の領地であるのはすぐに分かった。

「よし、とりあえずノブナガさん達の元へ帰るぞ」
  
 二人は一緒に森を出た。

 だが森を出た先で俺達を待ち受けていたのは、

「久しい顔をこんな所で見れるとは、婆も嬉しいのう。のう? ネネよ」

 この世界の忍者を総動員したくらいに思えるほどの数の忍者。どうやら俺達が出てくるのを待ち構えていたらしい。

「ば、婆様。どうしてここに?」

 忍達の先頭に立ついかにも百を越えていそうな老忍者に対して、少し怯えながらネネが尋ねる。恐らく彼女が、忍の中のトップなのかもしれない。

「どうしても何も、裏切り者であるお主を捕らえに来たからに決まっておる。さあ、その隣にいるものとともに、大人しくするんじゃ」

 少し離れた所にいた忍達が瞬時に俺達を囲い、逃げ場を消す。

(万事休すか)

 この場で時間を止めても俺だけしか動けないし、どうやら使える回数も限られているらしく、先程から何度か色々考えてはみているが、何も起きていない。
 つまりここは、大人しく捕まる以外に無さそうだ。

「私はこんな所で捕まりたくはありません!」

 そう覚悟した直後、隣にいたネネが突如煙玉を投げる。一瞬で周りが煙に包まれるが、その被害は何も聞いてない俺にも及んだわけで、

「あ、えっと。すいません」

 煙が晴れた後に残されたのは、無罪の俺とその他多数の忍達。えっと、これってまさか。

(裏切られたのか?)

 あまりに唐突なことで頭が理解できない。つまり俺は、ネネに助けてもらうどころか、一人だけ逃げられてしまった。

「えっと、見逃しては……」

「無理じゃ」

 ですよねー。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 抵抗する気も起きなかった俺は、大人しく同行する事に。マルガーテの事といい、今の事といい今日はついてない。

「なあ、何で俺が捕まらなきゃいけないんだ? 別に仲間を売るつもりはないけど、ネネだけを追っているなら俺は意味ないんじゃないのか?」

「お主の噂は一年ほど前から耳にしておった。どうやらお主はネネを庇っているようじゃのう」

「それは本人が嫌がっていたからな。それを無視できるほど薄情じゃないんだよ」

「だったら原因も分かるじゃろ。逃走の手助け及び、こちらの妨害もした。捕まるのは当然の事」

 確かにそれは正論だった。だがそれでも俺は、どこか納得がいかない。

「そもそもどうしてネネを捕まえようとしているんだ? ボクっ娘やイエヤスもそうだけど、そこまでこだわる理由はないだろ」

「それは単にお主が知らぬだけじゃ。ネネには重大な罪がある」

「重大な罪?」

 そういえば具体的な逃げ出した理由は聞いていなかったけど、それが関わっているのだろうか?

「まあお主に話す必要などない。ともかく大人しくついてくればよい」

 だがそれ以上の事は、聞き出せず気がつけばどこかの牢へと辿り着いていた。

「お主の処遇は後に決まる。それまでここに入っておれ」

 牢に入らされる俺。手は鎖で繋がれており、自由に動かすことはできない。

(初めてここに来た時も同じ目にあったな、そういえば)

 ふと思い出したくない事も思い出してしまう俺。この牢にいる以上は助けも何も呼べない。さてどうしたものか。

(これはネネを信じるしかないか)

 こんな状況の中、俺は一人だけうまく逃げ出したネネが援軍を呼んでくれると、信じて待つしかなかった。



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