魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第89陣昨日の敵は今日の友

「百年祭、ですか」

 ヒスイ様を救出すると決めた直後、ネネさんは今まで語ることがなかった過去を語り始めた(ただし他の人には話さないという約束で)。

「そうですわ。ヒスイはもしかしたらその生贄としてこの他に埋められるかもしれないんです」

「ヒスイ様が!?  だったら今すぐに助けに向かわないと」

 珍しく焦りを隠せない私。一度そういえば百年祭の存在を聞いたことはあった。ただ、百年に一度なだけあって覚えておく必要はないと感じていたので、その存在は先程まで忘れていた。
 だけどヒスイ様が生贄になるなんて話を聞いたら、ただじゃおかない。

「ノブナガ様、ヒスイを助けに行く前に必要な事があります」

「必要な事? 何ですか?」

「ある人達にも協力してもらう事です」

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「裏切り者に協力してほしい? ボクにはそんな事できないよ」

 協力を要請したのは、例のボクっ娘忍者だった。確か彼女はネネさんと同じ里の出身らしいと聞いていたけど、どうして彼女に協力してもらう必要があるのか私には分からない。

「お願いします、ヒスイを……ヒスイさんを助けるのを手伝ってください」

「だからボクは里を裏切りたくないって。確かにヒスイにはお世話になったから、助けてあげたいけどこればかりは……そもそもネネをボクが今捕まえてもいいんだよ?」

「私がその後どうなってもいいですから、手伝ってください!」

 何度も断るボクっ娘に対して、何度も懇願するネネさん。でもボクっ娘の言う事もごもっともであるため、私がとやかく言うことができない。ここは諦めるしかないと思ったその時、

「ボクっ娘、手伝ってあげるのじゃ」

「イエヤス様?」

 あの後順調に回復を見せたイエヤスが、何故か仲介に入ってきた。しかも私達に味方をしてくれるらしい。

「徳川の傘下である以上、大事な兵を失うのは少々辛いのじゃが、正直妾はお主の里のやり方は気に入らん」

「しかしですね、それがボク達の里の平和を守る為に必要なことなんです」

「人の命を奪ってまで得るもののどこが平和と言える! そこにおるネネも、それに気づいたから裏切ったんじゃろ?」

 以前彼女を奪おうとした人の発言とは到底思えないものだったけど、イエヤスは今回の事を通して何かを感じたのかもしれないと私は感じた。

「ヒスイは妾にとって命の恩人でもある。その者を見捨てるなんて事、妾にはできぬ。これ以上何かを失うくらいなら、妾は将軍としている必要はない」

「そ、そんな事仰らないでくださいイエヤス様。誰もそんな事思っていません。それは勿論ボクだって同じです」

「そう思うなら何故協力せぬ」

「それは……」

 どこか思いつめ始めるボクっ娘。彼女も彼女なりの考えがあるのかもしれない。だから私は少しだけ助け舟を出してあげた。

「ボクっ娘さん、あなたが考えている事は分かります。しかしそれを越えてこそ、真の忍になれるのではないでしょうか?」

「真の忍?」

「昨日の敵は今日の友、という言葉があります。ヒスイ様がイエヤスを治療したように、あなたも敵であるヒスイ様を助けてみるのはいいことではないでしょうか?」

「でもボクは……」

 なかなか殻を破れず、苦しいのかもしれない。でもこれ以上私は何も言わない。後を決めるのは彼女自身なのだから。

「少しだけボクに、時間をください」

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 ボクっ娘に時間を与えている少しの間に、私はサクラさんとヒデヨシさんを部屋に呼んで、二人にも事情を説明した。

「翡翠が……生贄?」

 話を聞いたらサクラさんはあまりのショックにその場に倒れてしまう。

「ヒナッチ! 大丈夫?!」

「何とか……でも、どうして翡翠が……」

「私のせいです……ごめんなさい」

 頭を下げるネネさん。

「あなたが……翡翠をそんな目に! ちゃんと責任を取ってよ」

「取りますわよ。全ては私のせいなんだから……」

 今にも泣き出してしまいそうなネネさん。重苦しい空気だけが流れ続ける中、ボクっ娘が私達の元にやって来た。

「決まりましたか?」

「うん……決まったよ」

 決意を固めたように、こちらを真剣な目で見るボクっ娘。私は黙って静かにボクっ娘の言葉を待つ。

「本当は裏切りたくない。けど、ヒスイにはイエヤス様を助けてもらった借りもある。だから今回だけは……手伝うよ」

「ありがとうボクっ娘さん。手助けしてくれることを感謝します」

 本当はその選択をするのに、かなりの葛藤がと思う。それでも彼女は、その選択をしてくれた。それだけでも私は嬉しかったし、これでヒスイ様の救出に動き出せることに一安心した。

「そうと決まれば、時間も残されていませんし早速向かいますよ、ヒスイ様を助けに!」

 こうして私達のヒスイ様救出作戦は、仲間を二人加えて動き始めるのだった。

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 長らく暗闇の中にいると、目が闇に慣れていき、少しずつではあるが祭壇の中がどうなっているのか、理解し始めた。

(かなり狭いと思ったけど、ちょっと違うな)

 どうやら俺が閉じ込められてから、知らない内に幅が大きくなっていたらしく、少しは身体を動かすことができるくらいの広さになっていた。鎖に繋がれていてうまくは動けないが、俺はある事に気がつく。

「床に何かある」

 床から微かに光が灯っていること気づいた俺は、足を使って動かしてみる。するとなんと床が動き出した。

「何だこれ」

 動いた先で俺が見たのは、多くの人の死骸の山。もしかしてこれが生贄の目にあった人達なのか?

(いや、ちょっと待て)

 ここから下の床までの高さを考えたら、落ちたらひとたまりもない。奇跡に生きていたとしても、こんな場所じゃ長くは持たない。

(まさか……)

 名目上は生贄と言われているが、これはもしかしたら人為的に行われた生贄というなの立派な殺人。それを百年祭という名で隠して……。

(だとしたら、奴らは)

 ただの人殺しじゃないか。



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