魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第94陣信じて待つその先に 前編

「はっ!」

 私が意識を取り戻したのはそれからかなり経った後だった。外はすっかり真っ暗なっていて、私は慌て出す。

「翡翠は? 百年祭りが今日なら何か動きが……」

 とりあえず部屋を出ようと、身体を動かすけど身体に力が入らず、座り込んでしまう。何でこんな時に限って私の身体は……。

「ヒナッチ、身体動かしたら危ないよ」

 そこにヒデヨシが入ってくる。

「でも翡翠が……」

「ヒッシーならきっと大丈夫だよ。ノブナガ様が助けて、今頃帰ってきてるって」

「どうしてそう断言できるの? 翡翠にもしもの事があったら……」

「じゃあどうしてヒナッチは、ヒッシーやノブナガ様を信じようとしないの? 無事に帰ってくるって」

「それは……」

 ヒデヨシの言葉に私は黙ってしまう。彼女の言う通り、信じて待つだけでいい話なのに、これだとまるで無事な事を信じていないみたいにみえる。

「ヒナッチ、ヒッシーがいなくなってからずっと様子が変だよ。何かヒッシーがいなくなるのが怖いみたいな感じだよ」

「怖いのかも……しれない私。翡翠もいなくなってしまいそうで」

 身体が震えだす。寒さとかそういう震えではなくて、これは恐怖が蘇ったのが原因。かつての私の中に眠るトラウマ。今私が怖がっている理由は、まさにそこにあった。

「大丈夫だよヒナッチ、私がいるから」

「え?」

「怖いのは皆一緒。でも、私達は信じて待つしかないの」

「ヒデヨシは、信じれるの?」

「うん。だって、ノブナガ様だから」

「信頼しているんだ」

「当たり前じゃん。ヒナッチもいずれ分かる時が来るよ」

「そうかな」

 思わず笑みがこぼれる。彼女の言葉のおかげで、少しだけ気が楽になった気がする。

「ありがとう、少し落ち着いた」

「よかった。さあ、部屋に戻って皆が帰ってくるのを待とう」

「うん」

 こうして私は一度落ち着きを取り戻すことができたのだけれど、その日の内に皆が帰ってくることはなかった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「どうした若き者。最初の威勢はどこへ行った」

 婆と対峙してから五分、早くも俺は劣勢に立たされていた。例の力を使おうとしていたのだが、どうにもうまく使えず、無駄な行動ばかりしてしまっている。

(何でさっきまでは使えていたのに)

 もしかしたら体力にも関係しているのだろうか? ここ数日、まともに休めていないこの体では、やはり無理があるのかもしれない。

「だったら……」

 久しぶりに太刀に魔法を宿したものを作る。天力が使えないなら、ここは自分の本来の力を使うべきだ。

「焔の太刀、これで倒してやる」

「それが一年前に噂となった魔法とやらか。じゃが、それを使ったところで」

 婆の言葉を聞く前に、俺は横に一閃太刀を振り、炎を飛ばす。それは簡単に避けられてしまうが、それも計算の内。俺の狙いはこの屋敷自体だ。
 火が屋敷に燃え移り、辺りが一面炎に包まれる。

「貴様、この屋敷を燃やすつもりか」

「ああ、そのつもりだ。そしてその中にあんたも一緒にいてもらう」

「ヒスイ様、それだとあなたまでが……」

「ノブナガさんは先に逃げていてください。決着がついたら俺も後を追います」

「でもこの火の勢いだと長くはもちませんよ」

「分かってます。でも大丈夫ですから」

 ノブナガさんの言う通り、燃え広がる早さはかなり早かった。だから長くはもたないかもしれない。でもこのくらいのピンチなら、いくらでもくぐり抜けてきた。だからノブナガさんには信じてほしい。

「……それでも私、ヒスイ様は置いていけません。一緒に戦います」

「え? でも……」

「どちらにしても今逃げたら危なそうですから」

 そう言いながら、俺の隣で太刀を構えるノブナガさん。どうやら本気らしい。

(どのみち今からだと、逃げるのは厳しそうだし仕方ないか)

 俺は諦めて婆と対峙する。

「敵が二人になろうが、私には勝てぬ。かかってくるがよい」

「もし本当に危なかったら、逃げてもらいますからね」

「それは私のセリフですよヒスイ様」

 炎に包まれる中で、俺とノブナガさんの初めての協力戦は幕を開けた。
 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 一方その頃、三手に分かれて翡翠を探していたネネは、一度ボクっ娘と合流していた。

「祭壇見つかりました?」

「ううん。そっちは?」

「私もです」

 長い事里の中をくまなく探しても祭壇を見つけられなかった二人は、とりあえずノブナガとの合流を試みるがそれすらも見当たらない。

「ノブナガ様、どこへ行ったんですかね」

「分からない。もし彼女がどこかを探しているなら心当たりが一つあるけど」

「私達が探していない場所って、もしかして」

「あの立ち入り禁止とされている屋敷だよ」

「確かに言われてみれば……」

 二人で急いでその屋敷へと向かう。もう的に見つかろうが何しようが関係ないと踏んだ二人は、里の中を大胆に移動。そしてようやく目的地 と辿り着いたのだが、そこは既に焼け野原となっていた。

「あれ? 確かここじゃありませんでした?」

「間違いないはずだよ。でもどこにもない」

 火事でも起きたのだろうか、里の忍び達が残った秘話の消火にあたっている。その中に私達の知る婆様の姿があった。どうやら火事の被害にあったらしく、火傷を所々おっている。

「ここで一体何が……」

 騒然とした景色に、二人は言葉を失った。


「魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く