魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第105陣隠されていた真実

 天守閣へ向かう間燃え広がっていた火を何とか消火し、とりあえず惨事は免れる事に成功。そして敵がいなさすぎる事もあってか、天守閣には時間もかからずに到着した。

「随分と早い到着ですね、お二人とも」

 天守閣に着くと、外でも眺めているのかマルガーテが背を向けたまま話す。

「敵があそこだけしかいなかったからな。俺にはお前が何を考えているのかサッパリ分からない」

「理解してもらうつもりなんて、最初からありませんよ」

 そう会話している間に、ノブナガさんがマルガーテへと近づいていく。何を油断しているのか先程からマルガーテが動かない。一つのチャンスを掴むとしたら、今しかない。

「別に私は無防備に背中をさらすつもりはないんですけど。むしろあなたの方が危ないですよ魔法使い」

 だがノブナガさんが接近したところで、マルガーテの姿が消える。その代わりに俺の背後に彼女が姿を現した。

「そんなのお前なんかに言われなくても、予測済みだっての!」

 一歩前に出てすぐに身体を半回転。その勢いを利用して回転切りをかますが、既にそこにマルガーテの姿はなかった。

「そのご様子ですと、魔法を使う気はないみたいですね。やはり自分の命が大切ですか?」

 次に彼女が姿を現したのは、俺とノブナガさんの丁度真ん中の位置。俺とノブナガさんは太刀を構えて、いつでも掛かれるような状態を維持している。

「別に命が大切とかそんなんじゃない。使う機会があれば一度でも使う」

「あなたのその魔法を教えてくれた師匠は、己が命を賭してまでも戦ったというのに、彼女が見たら泣くでしょうね」

「お前に師匠の何が分かるんだ。確かにこれは一種の逃げでもあるし、師匠がくれた大切なものかもしれない。でも俺は魔法以上に大切なものを見つけたんだ」

 それは命でも魔法でもない。ノブナガさんやヒデヨシ、リアラや桜、俺には大切な仲間がいる。それはどんなものよりも、価値があるもの。

「綺麗事を言っているみたいですが、あなたは自分が犯してしまっている罪をお忘れですか?」

「犯した罪、だと」

 サクラの事以外で思い当たる事はなかった。だがこいつは、それ以上の何かを知っている顔をしている。

「あなたの師であるノアルあら話を聞いているはずでは? 世界を何度も行き来する事の意味を」

「っ! そ、それは」

「ヒスイ様?」

 マルガーテの一言で、忘れていたものが蘇る。というよりかは誰も知らない話であるので、このまま誰にも気付かれないでほしかった。

「そこのノブナガもよく覚えておくへまきですも。ここまでの騒動の原因の全ては、彼にあるという事を」

「え? それはどういう」

「知りたければ本人に聞いてください。まあ、その時間もありませんけど」

 動揺を隠せない俺を、まるで狙ったかのように上から何かが降ってくる。

「逃げてください!」

 ノブナガさんの声でハッとした俺は、上からのものに気づき、すぐさま回避する。何だこのでかい玉は……。

「この鉄球重さ百キロ近くあります。それを私はそれならはこ高さから落としました。さて、そうすると何が起きますか?」

「まさか」

 鉄球らしきものの重さに耐えきれない床は、あっという間に貫通。避けるだけの距離しか取っていなかった俺の床も、それに巻き込まれて、

「ヒスイ様、今そちらに」

「行かせませんよ」

 先ほどの事で反応が遅れてしまった俺は、崩れる床を避けるとができずにそのまま天守閣から落下していく。

(あ、これ俺やばいかも)

 鉄球は勢い止まらず落ちていくため、天守閣から地下まで貫くので、それに巻き込まれた俺も当然その高さを落ちる。たとえあの力を使ってもどうにかなるすら怪しい。

(くそ、こんな時に)

 何も出来ないのか俺は。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「どうやらあなたの好きなお方は、もう戻ってこれなさそうですね」

 マルガーテに邪魔され、ヒスイ様を助けに向かえなかった私は、立ちふさがるマルガーテの目の前で、ただ絶望していた。

「ヒスイ……さま」

 天守閣からの高さはかなりある。いくら特別な力を使えても、この高さたまと生身の体じゃ……。

「ショックを受けているみたいですが、先ほど言いました通り彼にはこの世界にも関わる重大な罪を犯しています。だからこれは、正義の鉄槌なんですよ」

「何が……正義ですか!あなたは沢山の人を傷つけてきた。それなのにどの口が正義を語れるんですか」

「私がこれまでやってきた事に、全て意味があります。それをあなた達が邪魔してきたから、相応の対応をしただけです」

「人を殺す事が相応の対応だというのなら、私はあなたは間違っています絶対に」

 たとえヒスイ様がどんな罪を背負っていようと、そんなの関係ない。それは私だけではなく皆がそうだ。だから決して彼女の考えは認めたりしない。

 たとえどんな理由があろうとも。

「そこまで言うのなら、教えてあげますよ。彼の事を。それを受け入れるのかは、あなた次第ですが」


「いいですかヒスイ、今からあなたが私達の世界へやって来るという事はですね……」

 魔力が切れて師匠と共にもう一度あの世界に戻って魔力を回復させる話を聞いた時は、もうこれで問題は解決だと思った。だけど俺はその代わりに代償を背負う事になった。

「この世界に、私達の世界を侵食している魔物達を送り込む事になる事と同じ意味なんですよ」

「ノブナガさん達の世界に、あれと同じ事が起きるって事なんですか」

「はい」

 ノブナガさん達の世界を危険な目に晒す代わりに、自分の魔力を取り戻す。その事の大きさは、俺よりも何も知らないノブナガさん達の方が計り知れないのも分かっていた。

 それでも俺は、その道を選ぶ事になってしまった。

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