魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第108陣止められない刃

 あの時確かに私は死んだと思っていた。ヒスイの門出を見届けて、私の魔力は尽きて命も尽きるはずだった。だけどあれからしばらく経って、何故か私の目は覚めた。

(あれ、私どうして……)

 手足を動かす事もできるし声も出せる。周りの人は私が目を覚ました事にかなり驚いていたし、私自身もその謎の奇跡に驚かされた。

「奇跡ってあるんですね……」

 不思議な事にまだ身体の中には魔力が溢れている。しかもそれは、あの魔法を使った事で失った魔法の分。つまりもう一度生き返ったみたいなものなのだろうか。

(よし、これなら……)

 目を覚まして数日。元勇者のパーティの一人リアラが私の言った通りにヒスイを助けに向かった事を知り、私もそれを追う事にする。
 方法はヒスイが行った同じ方法。私は今一度入口へと立ち、あの世界への門を開く。

(ヒスイ、今から私も助けに向かいます)

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「何故あなたが生きているんですかノア! あなたは確か死んだはず」

「こういうのを奇跡と呼ぶんでしょうか。これで今度こそあなたと決着をつけられる!」

 絶望の淵に現れたヒーロー。予期せぬ人物の登場に、俺やリアラはおろか、マリアーナも驚きを隠せないでいた。

「こんな奇跡なんて、普通起きるか?」

「私は確かにこの目でノアさんの死を確認しました。一体私がいなくなった後に何があったんでしょうか」

「それは後で師匠に聞けばいい。それより傷は治りそうか?」

「辛うじて急所は避けられているので大丈夫ですが、それでもしばらく戦う事は」

「だからって師匠一人が戦っているのを見ているだけなんてできないだろ」

 リアラに一旦治療を止めてもらい、俺は痛みを堪えながら身体を起こす。

「ちょっとヒスイ、今の身体のままでは」

「大丈夫だ心配ない。それよりノブナガさんの身体を頼む」

「あ、ちょっとヒスイ!」

 そして俺は師匠の援護に向かう為に、マルガーテの元へと向かう。途中で師匠とアイコンタクトをするが、何か文句言いたげな顔をしている。

(後で怒られるかもな)

 とりあえず今は気にせず、ある程度距離を詰めたところで太刀を抜き、斬りかかる。

「おっと、まだ動ける身体がありましたか」

 俺が来るのを予想していたのか避けられてしまう。だが、別にそれで構わない。あくまで俺は囮なのだからる

「いきなりこちらに走ってくるから、合わせるの大変ですよヒスイ」

「すいません、師匠だけが戦っているのなんてら無視できませんから」

 師匠の声がしたのは頭上。このコンマ一秒で考えた作戦を、言葉も聞かずに合わせてくれる師匠は、流石と俺は思ってしまった。

「なっ、頭上」

「ようやく隙ができましたよマルガーテ!」

 師匠独自に編み出した光の刃が、マルガーテの頭上から降ってくる。だがその刃はマルガーテにたどり着く前に消える。

「あなた何をして……」

「がら空きだ、マルガーテ!」

「今です! ヒスイ」

「今度こそ倒すぞマルガーテ!」

 囮の二連続のおかげで、近距離まで詰められたので俺はここまでに溜まった魔力を解放して、マルガーテに向けて一閃。それは確実に彼女を捉えた。

「きゃぁぁ!」

 マルガーテの悲鳴が城に響き渡る。

「はぁ……はぁ……」

(やったのか……?)

 まだ傷が癒えきれていないのか、意識が朦朧とする。まだ倒したのか分からないのに、ここで倒れるわけには……。

「ヒスイ!」

「え?」

 師匠が俺を呼ぶ声がする。ハッとした俺は、マルガーテを見る。彼女は傷を押さえながらも、俺に最後の一撃を与えようとする。
 この近距離で避けることは難しいかもしれない。

「ヒスイ様!」

 ノブナガさんが俺を呼ぶ。

(ノブナガ……さん!)

 俺はほんの一瞬であの力を使って、時間を数秒だけ止め、その攻撃の範囲外へ出て、再度マルガーテに接近。これで今度こそマルガーテにトドメを。

「私は……まだ……」

「お前はここで終わりだ!」

「終わってない」

 突然マルガーテの姿が目の前から消える。そしてその目の前に現れたのは……。

「なっ」

「え? 翡翠?」

 桜だった。まさか位置を変える魔法を使ったのか? いや、今はそんな事はどうでもいい。マルガーテに逃げられた事よりも、今のこの状況……。

「桜避け……」

 止められない。もう振り下ろしてしまった刃を止められない。

「もう、最後まで油断したら駄目だと何度も教えたじゃないですか」

 だが次の瞬間、桜が目の前から消えて師匠が目の前に現れる。

「師匠?」

 そして無惨にも俺の刃は、師匠の体を捉えてしまった。捉えた先は師匠の右腕。

「きゃー!」

「う……そ」

 そして師匠の腕は、俺の太刀によって切断されてしまったのであった。

「うわぁぁぁ!」

 あまりの衝撃な事に、俺はパニックに陥ってしまう。俺が……俺が師匠を……。

「ノアさん、しっかりしてください」

 腕を斬られてうずくまる師匠に、慌ててリアラが駆け寄って、急いで治療をする。死には至らないかもしれないけど、俺は何て事を……。

「う……ぁ……」

「ヒスイもしっかりしてください! あなたのせいではないんですよ」

「そう……ですよ、ヒスイ……。腕一本くらいあなたの大切なものを……守る為なら……」

「俺は……俺は……」

 頭が混乱する。俺はこんな事をする為に、刃を取ったわけではない。俺は誰も傷つけない為に……。

(何でこんな事に……)


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