英雄様の非日常《エクストラオーディナリー》 旧)異世界から帰ってきた英雄

大橋 祐

第36話 道は示された

 辺り一面真っ白な空間。
 ただただ何も無い。
 いや、その空間に異物が二つ。
 
「………………なんだよ………」

「いや、家出なんて可愛い神様もいたもんだね」

 蒼月の後ろでからかう神がいた。

「そういうあんたも大概だけどな。こんなやつに構うなんて」

 自虐気味に蒼月は吐いた。
 そして『知の神』は笑った。

「あはは、私が可愛いか………。君はやっぱり人から上り詰めた神だ。言う事が違う」

「可愛いって意味で言ったんじゃ無いんだが………」

「………………」

「おい?」

「いや、なんでもないよ。では、私は行くね。迎えが来たみたいだ」

「?」

 そうして面白そうに笑い、姿を消した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 立ち去った神は早足で神界を歩く。
 自室。
 あらゆる叡智が詰まった自らの部屋に向かう。

「おい待て」

 途中、すれ違い様に呼び止められた。

「どうしたんだい?」

 『知の神』はピタリと足を止めたが後ろにいる神に振り返りなどしない。
 背を向けている。

「今、この世界で何が起きている?」

 呼び止めた『戦の神』はそう尋ねた。

「解らない」

 『知の神』はそうはっきりと言った。
 そして付け加える。

「だからこそ、何か面白い」

 そして、その足がまた動く。

「そうか………」

 誰にも聞こえないような声で『戦の神』は呟いた。

イムテーナー=コアトル『知の神』よ。その叡智でもって成すがいい。
 これが同族からの祝福だ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 時は少しばかり遡り、とある山の中。

「なんか光ってるんだけど」

 愛月は山の光っている空間に興味を示した。

「愛月様」

 突然呼ばれ、振り向くとそこにはイムがいた。

「イムさん? 貴女もやっぱりアレを見たの?」

「ええ、それよりもコレは一体?」

(呼ばれなくてもやってくる! 本気と書いてマジと読む! 完璧最強天才美少女! 横文字嫌いのツクヨミちゃんとはウチのことやでぇ ︎)

 光の中から騒がしい声で現れたのは愛月の脳内隣人だった。

(なあに固まっちゃってんの? あ、インパクトなさすぎてご不満な感じですか?)

「違うよ! インパクトありすぎたんだよ」

 愛月がツッコむ。

(失敬失敬。あの後輩野郎の居場所が分かったんだけど。下界とどう繋げるか分からなくて、いい感じのを見つけたから繋げてやったぜ☆)

「つまり?」

(この穴は繋がってるよ)


(さあて、お嬢さん方? 迷える仔羊ちゃんを正しき道にしばいてあげて。びっくり箱は開けなきゃただの箱なんだよ)


 道は開いた。
 ならあとは簡単だ。

 もう二度と失わないと決めた一人の少女は挑戦する。

 一番近くて、一番遠くにいた人間に。
 憧れのヒーローに。
 たった一人の兄に。

コメント

  • 伊予二名

     「一番近くて、一番遠くにいた人間に。
     憧れのヒーローに。
     たった一人の兄に。」


    太陽くん「ふぁっ!?」

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