突然不死身という最強の能力に目覚めちゃいました

カナブン

学園トーナメント2日目5

保健室での治療を終えると時計の針は1の数字に達しようとしていた。

「あと5分くらいか、食いもんだけ買ってさっさと行くか」

保健室から購買まではさほど遠くはない、購買経由で中庭に向かう事を決めるとまずは購買に向け足を急がせた。

12時直後に行くと混み合っている購買だが流石にこの時間になると人は定員のおばちゃんくらいしか居ない。
時間も無いのでパッと目に付いたキリのいい値段のパンを幾つか取り会計を済ませゲートに向かった。
中庭に着くと段々と小さくなって行くゲートが目に入った。それに向かい全速力で走るゲートが消える瞬間伸ばした右手がゲートに触れたその瞬間辺りの風景がガラッと変わった午前中に見た覚えのある室内、どうやらギリギリ間に合った様だ。

「あっぶねー、マジギリギリじゃん間に合ってよかった〜」

こうして無事トーナメント2日目後半を迎えることが出来た。しかし午前中にあんな化け物と戦ったせいで午後のヤル気が全く起きなかった。

「ふぁ〜ぁ、別に無理して戦う必要も無いしな午後はゆっくりしてるか」

思わずあくびが出てしまう、ヤル気も起きないし午後はゆっくり休む事にした。
とりあえずその場に座り込みさっき買ったパンを広げ昼にする事にした。

んー、寝るのは流石にまずいしな、適当に城内でも歩いてようかな・・・・。

「あんたってホント舐めてるよね、みんなが必死で戦ってる時に時間の潰し方考えてるなんて」

「なんだ白石先輩の妹か、勝手に人の心読むなよ」

突然かけられた声だが聞き覚えのある声だったため対して驚かなかった。

「聴いたよ、あのゴーレム倒したんだってね、いったいどんな能力使ったの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」

白石妹は興味津々に訪ねて来た。

「能力なんて使ってないよ」
 
「え!?なんでみんなボロボロになるくらいのギリギリの戦いじゃなかったの」

誰から聴いたのか白石妹はゴーレムとの戦いについて詳しく知っている様だ。

「は?お前なにいってんの、俺はトーナメントに無能力者として参加してんの、能力なんか使うかよ、そんなんただの反則行為だろ」

その真っ当な言葉に白石妹はバツの悪い表情になった。

「なんかごめんね」

そして何故かいきなり頭を下げて来た。瞬時にはその言葉の意味がイマイチよくわからなかったが会話の内容を振り返るとその意味が分かった。
よく考えると白石妹も無能力者として入学しているのだ、そうなると当然このトーナメントにも無能力者として参加しているわけだ、そして彼女はここに来た直後テレパシーの能力を使いコッチの思考を読んだのだ、すなわちこのトーナメントで白石妹は少なくとも1回はその能力を使った事になる。
つまり白石妹は自分が不正行為をした事に今気付いてしまったのだ、そしてさっき放った言葉は白石妹を責めているとも受け取れる。

「別に謝んなくてもいいよ、そもそもお前を責めるつもりで言ったわけじゃないし、それにお前の能力は規格内だしなさっきの話はあくまで俺のこと言っただけだからそんな気にすんなよ」

気を落としている白石妹に咄嗟にフォローを入れた。
しかしその必要は無かったみたいだ白石妹は既に自分の中で何かを決めたみたいだ真っ直ぐこっちに向き直った。

「神谷が気にしなくても関係ないよ、結局私がしたことは紛れもないただの反則行為だもん、次からは正々堂々無能力者として戦うから」

そう告げると白石妹はクルッと周り元来た方向へと向かい歩き出した。

「なぁ白石さん、あんたはなんでリタイアしないんだ、どう転んでも白石さんが優勝出来る可能性は無いのになんで」

無能力者や非戦闘向きの能力者のほとんどはトーナメント予選の開始直後にリタイアしている、それなのになぜ彼女がこんな真剣に取り組んでいるのか理解が出来なかった。

「能力で劣る分私は努力するしかないの、あの人に少しでも近づける様に」

そう答える白石妹の瞳はどこか遠くを見ていた。
その瞳が見つめる先がなんだか分かる様な気がした、多分姉だ生徒会副会長ということは白石先輩も相当な能力者のはずだ。身内にそういった人間がいると周りの人間はつい比較してしまう、歳が近いと尚更だ。
小さい頃似たような境遇にいたためその気持は良く分かった。

「近く為に努力するか・・・・追い越すつもりはないんだ?」

その言葉は無意識のうちつい出てしまった。

「もちろん追い越せるんなら追い越したいよ、でも私もそこまで無謀じゃないからさ・・・・」

そう言い白石妹はどこか諦めたような弱々しい笑顔を向けて来た。

「そうでもないさ、超能力なんて所詮人類の長い歴史の中、たかが数十年前に現れたいわば付け焼き刃みたいなもんだろ、そんなもん無くても長い間知恵とその身体だけで人類は生きて来たんだ、付け焼き刃の差くらい覆せない方がおかしいと俺は思うけどね」

玲の放ったその言葉には確かな説得力があった。
事実玲は能力を使わず何人もの能力者を倒している、そこらの人間が言ってもなんの説得力も無い言葉だが玲の放つその言葉はむしろ説得力しか無かった。
白石妹は自分の手の平を暫く眺めた後両手を握り顔を上げた。

「私頑張ってみるよ、お姉ちゃんに近づく為じゃ無く追い越せるように!」

「おう、頑張れ」

白石妹の決意に適当に返事を返し購買で買ってきたパンの袋を開けた。

「じゃあ私行くね」

白石妹はそう言うと歩いて行ってしまった。

「これでゆっくり飯が食える」

残された玲は一人飯を食い始めた。


*     *     *     *


その頃元の世界では中央区総合高校理事長室に教職員達が集められていた。

これから何が話されるのかと室内は静まり返っていた、そんな中、理事長東堂 伊楽とうどう いらくが口を開いた。

「忙しい中集まっていただきありがとうございます、もう知っている人もいるかもしれませんが先程の予選で「門の番人」が倒され奥にある結晶が奪われました」

「・・・・・・」

流石先生達だけあって少しもざわつきは無いだがその空気からは事の重大さが確かに伝わってくる。
理事長は一枚の資料を教職員達にくばる。そこには一人の生徒の顔写真と細かなデータ記されていた。

「今配った資料を見てください、彼が今回の「事」の中心「門の番人」を倒した生徒そしておそらく現在結晶を所有している生徒です」

理事長の話を聞き疑問を持った教師が手を挙げた。

「理事長、この資料を見る限りこれはどう考えてもデマなのではないでしょうか、理事長もご存知の通り門の番人あれは無能力者が勝てる様な相手じゃ無いでしょう」

「そうですね私も初めはただの噂だと思っていたんですけどね、どうやら今回は違うみたいなんですよ、天月先生お願いします」

理事長の指示に隣に座っていた天月先生が立ち上がり話し出した。

「先程の昼休みに約20名程の生徒が保健室に訪ねてきました。それらの生徒が皆口々に「一年がドラゴンを倒した」と言ったんです。ゴーレムでは無くドラゴンと、デマであれば今まで通りの呼び名の「ゴーレム」の方を使うはずですしかし生徒達は」ドラゴン」と言ったんです。
しかも詳しく聴くと「ドラゴンに岩の鎧を付けたのがゴーレムだった」とデマなら知りえないはずの情報も知っていました。
更に本人に直接聴いたところ確かに倒したとそう言いました」

天月先生の話により教職員達に今回の話を信じさせたところで理事長はようやく本題に入った。

「天月先生ありがとうございます。
この話を聴いても信じられないと言う人もいるでしょう、今モニター機を現場に向かわせているのでその方々にも理解していただけると思います。
ですが時間が勿体無いので先に進みます。
改めて忙しい中お集まりいただきありがとうございます。今回集まって貰った理由は他でも無い、門の番人を倒した生徒 神谷 玲からどう結晶を取り返すかその事についてじっくりと話し合いましょう」






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