ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

周りもいい雰囲気ですぞ(雰)


 普通の学生ならば、高校三年間の中で一、二を争うほど待ちに待った行事。その名も文化祭。
 それがもう目前に迫って来た今日は、放課後だと言うのに大半の生徒が居残り、文化祭の出し物についてせっせと作業をしていた。

「ったく、ボクはなんでこんなにみんながやる気なのか見当もつかないね」

 がしかし、そんなことに全く興味のないボクはというと、周りがほとんど帰らないのでやむなく教室に残り、隅で壁紙を作る桐島に愚痴をこぼしている。

「ま、こういう和気藹々とした雰囲気が苦手なハルからしてみれば、苦痛なことこの上ないだろうな」

 こっちに顔も向けずに、目の前の作業をしながら適当にあしらう。

「だいたいさ、文化祭当日に休憩時間が二時間しかないっていうのもおかしくないか!?」

「それは出し物決めの時に、一人だけグースカ爆睡をこいてたハルも悪いと思うがな」

「グッ……」

 なんとも的を射た答えが返って来て、思わず言葉が詰まってしまう。

「そんなにグチグチ言うんだったら、今日はやることないんだし気晴らしに校舎の中でも回って来たらいいじゃないか?」

「……そうするよ」

 言外に邪魔だから出ていけと言われ、しぶしぶ教室を出る。



 外に出たからといって何もやることのないボクは、これといってあてもなく廊下をウロウロとする。
 すると、そこによく見知った背中を見つけて、声をかけようと近づいていく。

「あっ、瑞希さ……んん!?」

 近づいてみると、瑞希さんの隣には見慣れない高身長の男が並んで歩いていた。
 しかもよく見ると、瑞希さんとその男はどちらも古い時代のドレスを身に纏っており、一目見て思った感想は王子と王女のような雰囲気である。

「あっ、ハルくん。どうしたのこんなところで?」

「い、いえ。特に用事はないのですが……。こちらの方は?」

 笑顔で話しかけてくれる瑞希さんに対し、男は怪訝な表情でボクを睨む。

「あ、この人はね、私のクラスの出し物でやる演劇でロミオ役をやる予定の野村 賢太くんなの」

「……よろしく」

 野村先輩はボクを怪しむなりを潜めて手を出し、握手を求めてくる。

「え、あ、はい。えっと、ボクは二年の九重 晴人です」

「失礼だけど、瑞希とはどういったご関係なのかな?」

「(すでに名前呼び捨てかよ!?)」

 含みのある笑顔で聞かれた質問に戸惑っていると、瑞希さんが代わりに答えてくれる。

「あ、ハルくんはね、私の師匠なの」

「ふーん、師匠ね。見た感じ、瑞希に指導できるような飛び抜けた才能なんてあるように見えないけどな」

 裏の刺々しい黒い顔が見え隠れして、思わず同調してしまう。

「ははは。そ、そうですよねー」

「そんなことないよ。ハルくんはすごいんだから!」

「へー、それはどういったことに関してなんだい?」

「大人な知識の豊富さとか……」

「なるほど、それはなんとも興味深いね。どれ、少し僕にもご享受願えるかな」

 何やら間違った風に理解しているみたいだが、野村先輩は余裕の構えでボクの態度を窺う。

「いや、ここでは……。ちょっと」

「なら、どこでだったら良いんだい?」

「その、なんて言ったら良いのやら。ボクが瑞希さんに教えてるのは真面目な大人の話ではなくてですね……」

 詰め寄ってくる野村先輩に押されるばかりのボクは、しりすぼみになりながらボソボソと述べる。

「ハッ。そんなこと言って僕に知識量で負けるのが怖いのだろう? そんな素直になれない男はモテないよ」

「別に、そういったわけではないけどですね」

 見え透いた挑発に思わずカチンと来たボクは、顔をしかめて言い返す。
 険悪な雰囲気をなだめようと、瑞希さんが仲を取り持とうとしていると、

「おっと、おもろいことになってるようやね、ご両人さん」

 どこから湧いて来たのか、神咲さんが心底面白そうに割り込んでする。

「ここはご両人とも休戦して、また再戦は文化祭のイベントブースにて。と言う形で手打ちにせーへんかな?」

「えぇっ!?」

「ま、僕としては構わないけどね」

「んな、けってーい! 勝利した賞金とかは後日発表するのでお楽しみに。ほなさいなら」

「…………」

 自分の伝えたいことだけ言い終えると、さっさとどこかに消えていく神咲さん。その後ろ姿を唖然と見ていると、

「瑞希。もし、僕が勝ったならば賞金とは別に僕のお願いを一つ聞いてはもらえないだろうか?」

 野村先輩がその場に跪き、頭を下げて懇願しだす。

「……エッチなのはダメだよ」

「あぁ、もちろんだとも。そんな節度のないお願いをする愚行はしまいさ」

「なら、いいかな」

 目の前で起こっているいかにもなラブコメ感に口を出せず、ただ呆然としているボクに野村先輩はすれ違いざまにつぶやく。

「僕は、君から必ず瑞希を奪ってみせるよ」

 その言葉は真剣味を帯びており、ボクは無言のまま視線を送ることしかできなかった。

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