事故死したので異世界行ってきます
第38話 ベアルの正体②
今回はリベリアル視点でお送りします。
1話で終わらせたかったので非常に長い回になってしまい申し訳ありませんm(__)m
読み辛いかと思いますが、お付き合い頂けると幸いです(T ^ T)
私の名前は、リベリアル・ヴァン・ヴィルヴォルブ。物心がついた頃には既に天才だの勇者だのと言われていた。
これまで『私は勇者なんかじゃない』と否定してきたが、自分自身の剣の才能や魔法の才能の高さに勇者であることを自覚し、魔王を討伐するべく冒険者となりその傍、魔法や剣の訓練に勤しんだ。
その結果、人類では辿りつく事が出来ないだろうと言われてきた全ステータスMAXという偉業を成し遂げた。
そして私は信頼できる三人の仲間達と魔王討伐に向けて魔王城へと向かった。
「これが魔王城か」
私の目の前に広がって居たのは禍々しい魔力を常に放ち続けている魔の要塞だった。
「そんなジッと見ててもラチあかねーよ、とっとと突っ込んじまおうぜ」
なんとも無謀な発言したのは、信頼できる仲間の1人。SSSランクの冒険者であり、格闘家・ヴェナンドだ。
「なんと愚かな……ここは私の魔法で遠距離攻撃を打ち込み様子を見るのが賢明だと思われる」
ヴェナンドとは打って変わってとてもまともな戦略を伝えた黒いローブをまとい、黒い魔導杖を持つ彼もまた、信頼できる仲間の1人であり、23歳という若さにして初代魔導王に任命されたディオンである。
「確かに、ディオンの魔法で様子を見るのがいいと思うわ、私は皆んなに加護の魔法をかけておくね」
ディオンの肩を持った彼女もまた信頼できる仲間の1人で、優れた補助魔法と治癒魔法を使いこなす者のみがなれると言われている職業の大神官をやっているマリネッタだ、因みに彼女もヴェナンドと同じSSSランクの冒険者である。
何より彼女はとても美人であり、女としてもSSSクラスだろう。そう、胸のあたりもとても大…ゴホン。
気を取り直して、作戦実行へと移る。
「それで行こう、ヴェナンド、敵が来たら殲滅してくれ」
「しゃーねーな!」
ヴェナンドは頼られるとテンションが上がる子供の様なヤツだ。しかし、その腕は確かで1人で敵国を半壊にまでした鬼才だ、それも武器を持たずしてだ。
更につけ加えて言うのであれば、この話は彼がまだ15歳の時の話である。そして今の彼の年齢は22歳だ、当時より強くなっていることは容易に想像できるだろう。
「じゃあ、ディオン魔法を頼む」
ディオンはコクリと頷き詠唱を始めた。
「光を司りし天空の覇者
眩い両翼は万物を照らし
光輝なる体は悪を打ち消す
我ここに、汝を呼び覚ます者なり
【光輝龍・ブリリアントドラグネス】」
完全詠唱により生み出された龍は眩い光線を放ち魔王城を攻撃した、その瞬間魔王城からは無数の魔物が飛び出して来た。
「漸く俺の出番だな!」
ヴェナンドは敵が多ければ多いほど、そして強ければ強いほどイキイキし出すとんでもない狂戦士である。
「よろしく頼んだ」
「おうよ!」
ヴェナンドは僅か1人で数千は優にいたであろう魔物を蹴散らした。
「アイツの底なしの体力と馬鹿力は一体どこから出てきているんでしょう……」
ディオンはボソッとそう呟いた。
「おーい!全部終わったぞ!」
ヴェナンドは魔物の血で染まった手を高々と上げ手招きをしながらそう言った。
「はぁ……全く何故あんな野蛮なヤツとパーティを組んでいるんだ……」
「まぁまぁ、そう言わずに」
すかさず、ディオンを落ち着かせる。こうでもしないと……
「どうだディオン!!みたか?お前にはあんな事出来ねぇだろ?」
あ、これヤバい流れだわ。
「何だ愚民、魔物の血で染まった拳とはお前らしいではないか、よくあんなモノを素手で触れるな」
「なんだとっ!?喧嘩売ってんのか!?」
「猿が人である私に勝てるとでも本気で思ってるのですか?」
「んだとコラァッ!!!」
「ちょっと!やめなさいよ!今から魔王と戦おうとしてるのよ?仲間同士で戦ってる場合じゃないでしょ!?」
「「すいません」」
助かった……いつもならここのまま喧嘩、いや戦闘になってたんだが、今回ばかりはマリネッタが仲裁に入ってくれた。
「さ、さぁ先を急ごう。国のみんなも俺たちの帰りが遅いと心配するだろう」
「そうだな!」
「ですね」
なんとか、話を丸く収めて私たち一行は魔王の元へと向かった。
「んだよ、全然敵出てこねぇじゃん」
「確かに。不自然すぎるほど出て来ませんね」
魔王城に入ってからもう10分は経とうしているにもかかわらず魔物が数匹出て来ただけ、それも下級のザコばかりだった。
「まぁ、敵は少ないに越したことはないし先を進もう」
若干の心残りはあるが、先を急ぐことにした。
「ココか…?」
目の前には如何にも魔王の部屋に繋がっているであろう人骨や魔物の骨の装飾が施された禍々しく巨大な扉があった。
「結局、あれから1匹も魔物でできて来なかったな」
「そうね、もしかしたら怖気付いて逃げたんじゃない?」
マリネッタが珍しく冗談を口にする
「それは無い、この扉の向こうから膨大な魔力を感じます」
ディオンの性格上冗談は通じないようで、マリネッタの間違った発言をすぐさま指摘した。
「そ、そぅ……」
少しマリネッタはへこんでしまったが、今はそんな事を気にしている暇はない。
「皆んな気を引き締めてくれ、マリネッタは私たちに補助系の魔法をかけてくれ」
「わかったわ!」
私たち三人はマリネッタの魔法により、一時的なステータスの上昇と、ダメージ軽減、それから少量ではあるものの自動回復を付与してもらった。
「さぁ……行こうか」
私は禍々しい扉を剣で斬り派手に登場した。
「ようこそ、魔王城の最上層へ。余は魔族を統べる者、魔王・ゴライアスである」
内装は実に華々しいく王国の『玉座の間』に近い作りで、ゴライアスは漆黒というのが相応しいほど黒い椅子に腰掛けてそういった。
「アレが魔王・ゴライアス、デカイな…… 右に2人、左にも2人か……」
座っていてもなお人間であるリベリアル達よりも大きい魔王の両隣には人間サイズの魔人が2人ずつ立っていた。
「行け、四天魔よ」
両隣にいた4人は魔王の言葉と同時に勢いよくこちらへ襲いかかって来た。
「構えろっ!ヴェナンドとディオンは左を頼む!私は右を殺る、マリネッタは状況に応じて回復魔法をかけてくれ!」
「おうよ!」
「承知しました」
「援護と回復は任せて!」
ヴェナンドとディオンは左の二体の前に移動し、私はマリネッタをいつでも守ることが出来るようにマリネッタから離れすぎず右の二体の相手をできるように立ち回る。
「貴方が勇者様かしら?」
二体の魔人のうち、ムチを持った女性と思われる方が俺に問いかけて来た。
何故女性だとわかったかって?それは大層なモノをお持ちになられていたからだ。
「あぁ、そうだが」
「ハハッ!!こいつが勇者だってよっ!お手並み拝見といこうかッ!」
俺の返答に対してそう返して来たのは、女性の魔人ではなく長く鋭い爪が特徴的な男性の魔人だった。
「喰らいなっ!【マリシャス・エッジ】」
男の魔人は長く鋭い爪に魔力を込め斬りかかって来た。
俺はそれを難なく捌き、腹部を斬り裂いた。
「カァッ!!」
魔人は断末魔のような声を上げその場に崩れるように倒れた。
「ふーん、結構やるじゃない。ザーシャルが一撃でやられるとはねぇ……」
「四天魔とやらは雑魚ばかりなのか?」
「良い気になるなよ、人間風情がッ!【逃れられぬ鞭】」
女の魔人の持っていた鞭はまるで意思を持ったかの様に私に向かって来た。
それを間一髪躱し、魔人に近づき斬りつけようと剣を振った、その瞬間右脇腹に鈍痛が走りそのまま倒れ込んだ。
「ぐっ……確かに私は躱したはずだ……」
「ふふ、私のムチからは誰も逃れられないの。さぁ、楽しみましょう?」
「面倒なヤツと当たったもんだ……」
ゆっくりと立ち上がり剣を構える、脇腹の鈍痛はすでに完治していた、どうやらマリネッタが治癒魔法をかけてくれたようだ。
ヴェナンド視点
「死ねっ!!」
「うおっ!」
ふぅ…アブねぇアブねぇ。ガキ見てぇな外見からは予想できないほど俊敏な動きをしやがる…それに使っている武器の全てが暗殺用の武器ばかりだ……
ったく、俺が1番苦手とするタイプじゃねぇかよ……
「お兄さん、なかなか良い動きするね!」
「ガキに褒められても嬉しかねぇーよ」
「ガキじゃないし!メデルだし!補助魔法【スピードブースト】」
「なっ!テメェ近接戦闘特化じゃねぇのかよっ!」
「一言もそんなこと言ってないし!勝手に勘違いしてたお兄さんが悪いし!【黒爪魔刺】」
メデルは低い体勢から一気にトップスピードまで加速し、ナイフ型の暗殺器に魔力を纏わせ、リーチを長くして飛びかかる。
速いッ!!
避けきれねぇ……
「防御魔法【オクティマス】」
ヴェナンドの前には半透明の板のような物が突如として出現した。
メデルの攻撃はその魔法に阻まれる。
「この魔法は……」
「何苦戦しているんだこの猿め」
その半透明な板はディオンの魔法により出現したものだった。
「テメェっー!!また俺の邪魔しやがって!お前の小細工なんか邪魔なだけだ!」
「せっかく人が助けてあげたと言うのに……」
「ふんっ! それよりお前もう1人いたヤツは?」
「それなら、そこで転がってますが?」
ディオンが指した先には、巨漢の魔人が胸に風穴を開けドロドロと血で石造りの床を汚して横たわっていた。
そしてそのことに気づいたメデルは目の色を変えてディオンに飛びかかった。
「おまえっ!!!ゼファーをよくもっ!!!」
「全く……何故私はこうも猿に喧嘩を売られるのでしょうか 光魔法【光刺】」
メデルはディオンの放った鋭利な光の塊を、ナイフ型の凶器を投げ相殺し、そのまま次のナイフをどこからとも無く出してディオンに投げつけた。
「少しはやるようですね、しかしまぁ……」
「俺を無視するとは良い度胸じゃねぇか…」
ヴェナンドはボソッと呟いた。
ディオンが新たな魔法を繰り出そうとした瞬間、ヴェナンドは異常なまでに高い身体能力を生かし地面を蹴り上げてメデルと同じ高さまで跳ぶと、投げられたナイフのグリップを片手でガッチリ掴み、メデルの首元に突き刺し、そのまま地面に叩きつけた。
因みに、ここまでの動きに1秒もかかっていない。このことから彼の身体能力のレベルの高さがわかるだろう。
流石にコレを間近で見たディオンは驚きを隠せずにいた。
「ぜ、ふぁー、のかた……き…」
メデルは最後まで復讐心に囚われて息を引き取った。
「なんとか片付いたな」
「私は余裕でしたけどね」
「俺も余裕だったわッ!」
「えぇ、確かに今の動きは凄まじかった……」
「んだよ!気持ち悪りぃな、いつも見たいに嫌味ったらしく言えよ!」
「はぁ…賞賛すればそれはそれで怒るのですね……沸点が低いというかなんというか……」
「んだ……」
「おっと、勇者様の方も片付いたようですよ」
「おぉ!リベリアルも終わったか!」
リベリアル視点
「はぁ…はぁ…」
「……流石は勇者ね…でも貴方のHPは相当削ったはず……」
マリネッタの支援魔法と回復魔法のおかげで何とか倒すことができたが、そのせいでマリネッタのMPはもうほとんど無くなってしまった……
「おぉ!リベリアルも終わったか!」
左からヴェナンドの元気な声が聞こえて来た。
「あぁ…なんとかな。 残るは魔王お前だけだ!」
4人は魔王の方を睨みつけた。
「流石は人類最強の部隊と呼ばれいるだけあるな、余の部下たちをいとも容易く屠ったか。特に余の部下の中でも群を抜いて強かった魔鞭使いのレヴィを負かした剣を構えている、そこの男よ名は何という?」
「リベリアル・ヴァン・ヴィルヴォ……」
名前を名乗り終えようとした瞬間、ディオンは慌てて私の口を手で塞いだ。
その行動をみた魔王は笑みを浮かべてこう言った。
「ホゥ……余の魔法を見破ったとは、そなたが魔導王と呼ばれている者か」
ディオンの手が口元からゆっくりと離れてく。
「フン、魔王という名のくせに、随分と卑劣な真似をする……いや、魔族とはもとより卑劣なものだったか」
「どういうことだ?」
私がディオンに問いかけると、ディオンは魔王の方を向きながら答えた。
「魔王は勇者様に名前を聞く寸前。自ら、名前を宣言した相手を殺す闇魔法【黒閻死】を使っていたのですよ」
あと2文字言葉にしていたら今頃死んでいたと思うと背筋が凍った。
「フハハ!魔法名まで的中させるとはなかなかやるではないか、ではこんな魔法は知っているかな?【禁魔空間】」
魔王が放った魔法はドーム状に広がり、部屋を覆った。
その魔法を目視するなりディオンは恐怖と驚愕を隠せない顔をしたまま膝をついた。
「こ、この魔法は……」
「人がどれほど鍛錬を積んでも決して使うことのできぬ魔法だ」
魔王は嘲笑うかの様にディオンにそう告げた。
ディオンは元より、私と、マリネッタもどういう状況なのかは容易に把握できた。
ただ1人、把握できていない人もいたが…
「なんだ?特になんも変化無いけど」
「嘘でしょ?魔力の流れが止まってるのよ!?どうして何も感じないの?」
マリネッタが取り乱してそういった。
魔力の流れが止まっていると言うこと、それは即ち魔法を使うことが出来ないということ。
それはつまりマリネッタは回復、補助ができない上に魔法攻撃に特化したディオンは完全に無力化されたことを意味する。
「なんだそれ?」
だが、ヴェナンドには一切の魔力が無いためその変化に気づくことができなかった。
そさて、この空間で唯一魔王に対抗できるのはヴェナンドだけである事は誰も予想だにしていなかった。
「フハハ!その男魔力が無いのか!笑えるなっ!」
「あぁ?バカにしてんのか?」
「バカにせずして何をしろと言うのだ?自らの隊が危機に瀕していることすら理解できて居ないとは滑稽だな」
この時私は不覚にも魔王の言葉に同意してしまった、それはおそらく私だけではなく、ディオンとマリネッタも同じだろう。
だがそれは間違いであることを気づかされる。
「ぶっ飛ばす……スキル発動【狂戦士】」
瞬間、ヴェナンドの目は紅色に染まり、身体にはまとわりつく様に赤いオーラが滲み出た。
「なんだそれは……」
魔王は驚愕と恐怖が混ざった声を口ずさんだ。
ヴェナンドはそれに応えること無く、魔王の顔付近まで一瞬で移動し、右足を、右から左へと振り顔面に蹴りをお見舞いした。
その一撃で正面を向いていた魔王の顔は左へ向いた。
この瞬間、リベリアル、ディオン、マリネッタの立てた敗北という仮説は頭の中でチリになる様に消え去った。
「この力……貴様一体…」
魔王は、圧倒的な武力を持つ人間が目の前にいる事を認めざるを得なかった。
魔王が作り出し、部屋を埋め尽くした魔法が使えない空間では発動者である魔王自体も魔法を使えない。
だが、ステータスをカンストしているリベリアルでさえも単純な力だけでは魔王よりも劣る、その為魔王は勝ち誇っていたのだ、先程までは。
「こんなもんかよ、魔王ってのは……」
少し退屈そうにヴェナンドは呟いた。
「なめるなっ!」
魔王は立ち上がり、拳を握りヴェナンドに向けて振り下ろした。
立ち上がった魔王は5〜6メートルはあろうかと言う巨体だった、そんな巨体から繰り出される一撃にヴェナンドは一切の守りの構えを取る事なく、重力に従って地面へと降りていくだけだった。
魔王の拳はヴェナンドの頭に直撃したその瞬間、ゆっくりと自由落下していたヴェナンドは急加速し、地面に叩きつけられた。
魔王の一撃により、石造りの地面には亀裂が入り、凄まじい衝撃波により部屋が揺れた。
「「「ヴェナンド!!!」」」
私たちは、無力にもヴェナンドの無事を願うことしかできなかった。
普通に考えればあんな一撃を食らった人間が無事な訳無いのだが……
「フハハハ!フハハ……な、なんだこの違和感は……」
魔王は自分の拳に違和感を感じ拳を引っ込め叩き潰した場所を確認した。
そこには、腕を組み仁王立ちしているヴェナンドがポツンと立っていた。
「き、貴様何故生きている!?」
「スキル発動【阿修羅】」
ヴェナンドの体からは再び赤いオーラが滲み出て、そのオーラは徐々に人間の上半身に似た姿へと変化していった。
「な、なんだその姿は……」
魔王がそうなるのも仕方がない、仲間である私たちでさえ、その姿を見たときは絶句してしまった。
そこにあったヴェナンドの姿はまさに阿修羅だった、ヴェナンドの骨盤付近から左右に一体ずつオーラの塊でできたヴェナンドが生えていた。
私たちはこの時思った、果たしてコレは人間なのだろうか、そして魔王はどちらなのだろうか…と。
そして次の瞬間、ヴェナンドが視界から消え、気づいた時にはもう魔王の胸部辺りにいた。
その直後、この部屋にいる全ての聴覚を持つ者の耳に肉が押し潰される鈍い音が無数に響いた。
あの光景は今でも脳裏に焼き付いている、阿修羅が魔王を殴打し圧倒していたのだ。
「なめるナァッ!魔法解除ッ!
魔王魔法【熄咫牙羅濟】」
魔王が作り出した魔法陣からはメラメラと燃え盛る黒い炎が現れ大量の烏のような姿へと変化していきそれらは全てヴェナンドに体当たりするかの様に捨て身の攻撃を始めた。
ヴェナンドに大量の烏が当たって行くのが遠目でも見て分かる。
烏に当たった箇所のオーラは溶けるように剥がれ落ちていっている、オーラの塊で出来たヴェナンドのうち一体は完全になくなっており、もう一体も急速に溶け落ちて行くのが見て取れた。
「防御魔法【オクティマス】」
ディオンは魔法が使えるようになった事に気づき、すかさず烏の体当たりからヴェナンドを守るように半透明のシールドを生み出した、しかしディオンの作り出したシールドもヴェナンドがまとっているオーラのように烏が当たった箇所には穴が空いた。
ディオンの作り出したシールドは時間にして僅か3秒も経たぬうちに壁として機能しないほど穴だらけになってしまった。
「無駄だ!【熄咫牙羅濟】は魔法とスキルを無効化するッ!貴様ら人間がどう足掻こうと余には届かぬと言う事だ」
そして放たれた烏たちの姿が見えなくなる頃にはヴェナンドの体からオーラは消えており、全身火傷の状態で横たわっていた。
「大丈夫かっ!?」
慌てて駆けつける、それにつられるようにディオン、マリネッタも駆けつける。
「マリネッタ治癒魔法を!」
「わかってるわよっ!治癒魔法【負傷治療】」
ヴェナンドは光に包まれ、火傷は徐々に治っていく。
「余がその魔法を許すとでも思っているのか?
【禁魔空……」
魔王が再び魔法使用不可の空間を作り出そうとした瞬間、ディオンは魔導杖を掲げて魔法を放った。
「王族魔法【消去】」
それと共に魔王の魔法は打ち消された、その間に治療は完了しヴェナンドはムクッと起きあがった。
「ディオン今の魔法って……」
王族魔法、聞いたことがある。代々王家の者にのみ継承されてきた非常に強力な魔法だったはず。
私は本当に王族魔法を使ったのかを確かめるべくディオンを問いただした。
「実は魔導王になった際に国王様より、伝承して頂いたのです。この事は秘密にしておいてくださいね」
ディオンはそう言って別の王族魔法を唱え始めた。
「王族魔法【再使時短】」
「余の魔法を邪魔するとは……許さんッ!!
魔王魔法【尊厳竜・オブリビオン】」
魔王が作り出した巨大な魔法陣からはその魔法陣と同じ横幅で長さは20メートル程はあろうかという竜が姿を現した。
「屠れ!オブリビオンっ!」
魔王の宣言とともにディオンに襲いかかる巨大な竜。
「王族魔法【消去】」
再び魔王の魔法は打ち消される。それと同時にディオンはまた王族魔法を唱える。
「王族魔法【再使時短】」
その魔法を唱え終わると同時にディオンは吐血し倒れ込んだ。
「おい!ディオン!! マリネッタ、ディオンにも治癒魔法を頼むッ!」
「……」
「どうしたんだよ!?」
「MPが無いの…」
マリネッタのその声はとても悲しみに満ちた声だった。
「すまん…俺がやられたばっかりに……」
ヴェナンドは自分がダメージを受けなければマリネッタはMPを温存してディオンに治癒魔法を使うことが出来たと思い、私に向かって謝罪をしていた。
「貴様のせいではない、この猿め……余計なことを考えよって…。これは王族魔法の代償なのだ治癒魔法で回復できるダメージではない……リベリアル殿、ヤツの魔法を打ち消すことができるのは後1度だけだ……」
ディオンは今にも消えそうな声でヴェナンドに皮肉を言い、私に王族魔法が使える回数を伝えた。
「打ち消したらお前はどうなるんだよ……」
ヴェナンドは半泣きでそう訊いた。
「死ぬだろうな…… だが、使わなくとも国へ帰る前に死ぬのは確実だ……だから、私を救うために王族魔法を使わさせないなどとは考えるな」
その言葉を聞き、ヴェナンドはそれ以上言葉を発する事はなかった、私の目を見てアイコンタクトを取り、ヴェナンドは阿修羅へと変化し、私は聖剣に魔力を込めた。
「フン……阿修羅と勇者か。面白いかかってこい」
阿修羅は一瞬にして魔王の前に移動し先制攻撃を仕掛け怯ませる、その隙に勇者は聖剣で魔王の身体を切り刻んで行く。
刻まれた魔王の身体は紫色の血を噴出した。
「くっ……流石だな…だが勇者の方はそこまで脅威ではないっ!」
魔王はリベリアルを右手でガッチリと掴んだ。
その腕に向かって渾身の殴打を阿修羅が繰り出す。
「余の右腕をくれてやろう!貴様は余に命をよこせっ!魔王魔法【熄咫牙羅……」
「さ…せん……王族…魔法【消去】……」
魔王の作り出した魔法陣は風に流される砂金のようにキラキラと消え去った。
しかし、それはディオンの死を意味する事でもある。
阿修羅と勇者の目からは大粒の涙が溢れ出していた。
「また、あやつかッ!余の邪魔を……うぐッ!」
阿修羅の6つの拳が魔王の右腕にめり込みそのまま、魔王の右腕は曲がってはいけない方向へ大きく反れた。
たまらず呻き声をあげる魔王、それと同時に解放された勇者、阿修羅は休みを与える事なく魔王の顎に3本の右手でアッパーを食らわした。
「ぐッ……まず…い、い…しき…がっ…」
魔王の顎は砕け視界は歪み殴打の衝撃で後ろへ仰け反る。
「武技【魔王殺斬】ッ!!!」
勇者は大きく剣を振り上げ魔王の胸に突き刺した。
その瞬間、魔王の身体からは大量の血と魔力が溢れ出し、しばらくした後魔王の肉体は生命活動を辞めた。
もっとも、阿修羅の一撃により気絶していたため、殆ど痛みは無かったとは思うが。
魔王の討伐が終わり、国へ帰ると私は救世主と呼ばれるようになり、一緒に討伐をしていたヴェナンドは阿修羅と呼ばれマリネッタは大修道女と呼ばた。
そして、命を使い果たし俺たちを勝利へと導いたディオンは気高き魔導士と呼ばれるようになった。
魔王討伐をきっかけに…いや本当のところは多分ディオンの死がきっかけだと思うが俺、ヴェナンド、マリネッタが会う機会は無くなり、それぞれの生活をしていた。
ヴェナンドは修羅道という名前で道場を開き、マリネッタは教会の聖母として務め、そして私は終わりなき旅に出た。
そして、ディオンが死んでから10年が経ったある日、あの惨事は起こる。
魔王を討伐し、国へ帰って旅へ出ようと思った時にお供が欲しいと思った私は、2つの装備を用意した。
そして、それらの装備に自らの力と魔王の力を使い意思を持たせる事にした、剣には女性の意思を、鎧には男性の意思をそれぞれ入れた、その瞬間、用意した変哲のない剣は禍々しさを感じさせる黒い大剣へと変化し、鉄で出来たただの鎧は、黒を基調とし所々に赤の彫刻が施された靭さを感じさせる鎧へと変化した。
初めは驚いたが、今では……
「エンドラ、ガンドラつぎは何処へ行こうか?」
街で買った地図を大草原の上に広げながら、私とエンドラとガンドラは仲良く3人で次の行き先を決めるほど仲良くなっていた。
因みに人化は初めから出来る様だった。
「うーん、そうだねぇ…ココとかどうかな?」
エンドラが指差した場所は竜の渓谷と呼ばれている、たくさんの竜が生息する危険地帯だった。
「エンドラよそこはまずいと思う、主人の負担が大きい」
そうガンドラがエンドラに指摘すると、エンドラは半泣きになりながら行きたいと主張し続けた。
「わかったわかった、行こうか竜の渓谷へ」
「うん!」
「はぁ…」
この頃のエンドラとガンドラは人化した状態だとおおよそ5児程度の年齢だ、そんな幼い子が駄々を捏ねるのだそれはもう、叶えてあげるしかない。
「それにしても、ガンドラは大人びてるよな」
「そうですか?別にそんな事ないと思いますけどね」
ガンドラは5歳児には似つかわしくない敬語を使う、それにエンドラのように駄々をこねたことも一度もない。
「ねぇねぇ、アレ何?」
エンドラが急に俺の裾を掴み指差した方向を見てみると、両腕両足に獣のような黒色の体毛を生やし、禍々しいオーラを放ち、根元から真ん中辺りまで黒く染めれた3対の大翼を広げた白髪の美男子がそこには悠然と立っていた。
「エンドラ、ガンドラ、形態を変えろ」
私のその言葉と同時にエンドラは大剣へ、ガンドラは私の体に纏わりつく様に鎧へと変形した。
「ほほぅ……なかなか面白いものを持っているじゃないか、勇者リベリアル」
「なぜ名を知っている」
私はいつでも戦闘を出来るよう剣を構える。
「何、そんなに身構えなくとも良い、我が名はルシファー 今日は君に提案があって来たのだよ」
「提案……?それにルシファーってあの、傲慢のルシファーか?」
「君が想像している存在で異論ない。それで本題なのだが……」
「ちょっと待ってほしい、私の立場上お前を見過ごすわけにはいかない」
「魔神復活の事を心配しているのだろう?アレはまだまだ先のことだ、本来なら我はココにいてはいけないのだが君にある提案をしたくてわざわざ来たのだよ」
どういうことだ……七つの大罪が姿を現わすのは魔神の復活が近づいている証拠だと……しかし、どうもこの男が嘘をついている様には見えない。
「そうか…それで提案とはなんなのだ?」
私はエンドラをそっと下げた。
「うむ、理解してくれた様で感謝する。そなたは確か魔王を討伐した時に、仲間を1人失っているな?」
「何故それを……」
「細かいことは良い。単刀直入に言う。その者を蘇らせてやろう」
「なんだとっ!?」
思わず問いただす。
そんなこと出来るはずが無いと、頭ではわかっているものの本心は、藁にもすがる様な気持ちでその言葉を聞き入れようとしていた。
「なんなら今から蘇生してやっても良い」
「……何が目的だ?」
「目的?そうだな、強いて言うなら魔王を倒した報酬といったところかな」
「一体どういう……」
魔王は魔神に仕える従者、人々の恐怖を煽り魔神復活の時には自らを生贄に捧げるほどの忠誠を持っており、魔王の生贄なしでは魔神は復活しないと言われている程の重役だ。
「実はあの魔王、命を捧げるのを拒んでいてな、本来であればあと7回ほど魔王の命が捧げられれば魔神復活にかなり近づくのだが。ゴライアスとか言ったか?アヤツは非協力的でな、まだ魔王の命があと12程いるのだ。だが魔王を殺害することは我々七つの大罪には不可能なのだ、それについては条件を呑むと約束した時に詳しく教えよう」
「それとなんのつながりがあるんだ?」
「わからぬか…まぁ少し難しかったやもしれん……平たく説明すると魔王が居なくなればその座は別の魔族が継ぐことになる。だが、魔王が死なない限り魔王の交代は起こり得ない。基本的に50年に1度魔王は交代しそれと同時に魔神復活の礎となる、これを20回繰り返せば大方の魔神復活の儀式の準備は完遂する」
「つまり、アノ魔王を倒したことによって魔神復活のカウントダウンが始まると言う事か?」
「まぁ、そう言う事になるな」
ココで、私は自らの過ちに漸く気付く。
「なんてことを……」
「まぁそんなに落ち込む事はない、どのみちあの魔王は後10年もすれば他の冒険者に殺されていたのだからな」
「何故そんなことが言い切れる?」
「我ら七つの大罪は直接魔王に死を下す事は出来ないがペナルティという名目で少しずつステータスを下げる事は出来るのだ、そして10年もすればお前たち冒険者のランクで言うSランク冒険者が10人程いれば容易な倒せるほどの強さになっていたのだ」
「つまりは時間の問題だったと言う事か?」
「そういう事だ、それでも10年程早めてくれたそなたには我らから褒美を用意させてもらった」
非常に受け入れがたい事だが、10年もすればSランク10人で討伐されたという事は1年経てばもしかしたら俺たち以外の人が魔王を討伐して居たのかもしれないと考えると気持ちが楽になった。
「わかった、ではその褒美甘んじて受け取ろう」
その一言を聞くとルシファーは口角をグッとあげてこう言った。
「偉大なる魔の神に忠誠を……」
「え?」
「復唱してくれ」
「わ、わかった」
「偉大なる魔の神に忠誠を……」
ルシファーは再び同じ言葉を言った。
「偉大なる魔の神に忠誠を」
その言葉を口にした瞬間、私の意識は途絶えた。
意識を失っている間、ガンドラを見にまといエンドラを振り、破壊の限りを尽くした。
その結果、いつしか覇王と呼ばれるようになったそうだ。
そしてある日ガンドラを脱ぎ捨てエンドラを手放し暗黒騎士・ベアルという名で黒王龍の装備一式を身につけて、魔神復活の為に罪なき人を力の限り斬り伏せていたのだ。
だがそんな悲劇も今終わりを迎えた、ユウスケという者との死闘の末、エリフィスに身体を突き抜かれた事により死ぬ間際、奇跡的に正気を取り戻したのである。
私は誓った、エンドラとガンドラに再び合わせてくれ、剰え魔に堕ちた私を救い出してくれたユウスケというこの男に仕えようと。
お疲れ様でした!この回はこれで終わりになります!
これだけの文字数を1話に書くのは初めてなので誤字脱字等多くあると思います、もし見つけてくださいましたらコメントの方で教えていただけると幸いです!
飛ばし読みでも最後まで読んでくださった方ありがとうございます!
初めから全て読んでくださった方、深く感謝いたしますm(_ _)m
次回からは主人公の視点に戻ります!
更新予定日2/25
魔剣と魔装の小話(^^)
魔剣エンドラと魔装ガンドラは主人であるリベリアルの元を離れ、周知の事となったのはある冒険者が洞窟で鉱石採取を行っていた時、幸か不幸かエンドラとガンドラを見つけてしまったのだ。
その時のエンドラの形は禍々しさは感じさせるもののシンプルな剣だった、そしてガンドラも凄まじい存在感と靭さを感じさせるフォルムだったが覇王と呼ばれたリベリアルが使っていた時よりもかなり、威圧感の無い形であった。
それらを見つけた冒険者はギルドへ報告し、すぐに調査隊がやってきて調査を始めた。
調査隊員のうちの1人が不幸にも、エンドラに触れてしまい命を絶たれてしまう。このことがきっかけとなり魔剣と呼ばれるようになった。
調査が行われてから約1ヶ月が経ったある日、魔物が突然現れ調査隊を襲ったのである。
魔物は不幸にもガンドラに当たってしまい赤黒い雷によって命尽きた。
このことから魔を根絶やしにする装備、魔装と言われるようになり、その事を国王に伝えた調査隊は『魔族に死をもたらす装備が発見されました』と言ったことが元となり
《黒き闘神は魔に破滅を齎す》
と言われるようになった。
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