歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第169歩目 はじめての提供割合!①


前回までのあらすじ

ラズリさんと別れてから3年近くが経った!

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長くなったので分割します。

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□□□□ ~アテナ震撼!~ □□□□

『奴隷の村』レムーナで奴隷問題を解決してから、あっという間に1年以上が経った。

 俺達が現在居るのは、第一の目的地である『旧都トランジュ』。
 この地にて、旅に必要となる魔動駆輪の購入や、最大の目的である神様ガチャを行う予定だ。
 なので、王都フランジュ以来の長期滞在を予定している。

───プーン

「.....(ぱちっ!).....えー。そんなに長くいるのーr(・ω・`;)」
「安心しろ。居ても2~3ヶ月ぐらいだから」

 正直な事を言えば、俺もあまり長滞在したくはない都市なので、用事を済ませたらさっさと旅に出たい。
 それこそ、やりたい事だけなら半月もあればいいのだが、やらなければいけない事にかかる日数の目安がさっぱり分からない。
 ゆえに、2~3ヶ月と言っているに他ならない。

「よかったー(´;ω;`)ねー?モーちゃーん?」
「.....な、なのだ」

 ふ~ん。
 さすがのアテナも嫌なのか。

「情けない姉と妹なのじゃ。こんなもの、なんともないであろう」
「逆に、ドールは逞しすぎるだろ.....」

「こんなもの、村ではよくあることなのじゃ。
 それに、奴隷だったら当たり前のようにあることなのじゃぞ?もう慣れたのじゃ」

 生活水準の違いってやつだなぁ.....。

 どっちかと言うと、俺もアテナやモリオン寄りなので、正直きつい。
 ドールとは、何事においても人生経験の厚さが比較にならない事を思い知らされた瞬間だった。

 では、アテナやモリオンが何に怯えているのか.....。


 それを説明するのは後にして、この1年の間に何があったのかを先に説明していきたい。
 そこには、俺がやらなければいけない事の内容も含まれているので、しばしお付き合い願おう。


□□□□ ~1年間の軌跡part.1~ □□□□

『廃村シェルリカ』

 俺達がレムーナの次に訪れた村で、元々、地図上には『シェルリカ』としか表記されていなかった。
 通常、どの都市や町でも、キャッチコピー的なもの(レムーナならば『奴隷の村』)はあるのだが、シェルリカにはそれがなかった。

 多少、不思議に思いつつも、行けば分かるだろうと安易に考えていたので、敢えてテシーネさんに尋ねることもしなかった。そして、失敗した.....。
 やはり、情報というものは大切なのだと再三に渡って痛感することになった。

 では、何を失敗したのかと言うと、シェルリカには何も無かったのだ。

 冒険者ギルドはおろか、ダンジョンも無い。
 それに、領主が居ないどころか、村の活気.....いや、村民自体がほとんど居ない。所謂、『廃村』一歩手前状態になっていた。

 当然、こんな村には用が無いので早々に立ち去ろうとしたら、ここで問題が起こる。

「.....え?移住に協力して欲しい?」
「.....はい。このままでは残った者全てが死にゆくだけでございます」

 そう語るのは、一応、このシェルリカの村長と名乗る男だ。
 とは言え、村自体にはおおよそ100人程度しか人口は居ないそうなので、村長というよりかは団体のリーダーと見たほうが正しいだろう。

「冒険者の方がこの村を訪れたのはまさに奇跡でございます」
「.....奇跡?どういうことですか?」

 元々、シェルリカは開拓村の一つだったらしい。
 レムーナとは別の領主が治めていたらしいのだが、レムーナ同様、土地問題や水問題のせいで村が徐々に衰退。
 しまいには、ダンジョンマスターや冒険者ギルドも村から逃げ出し、最終的には領主も姿をくらませたのだとか。

 つまり、領主に見捨てられた村というのが、ここシェルリカなのだ。

 そこで、村全体で話し合った結果、村民大移住を計画したらしいのだが、更に問題が起こる。
 それは、村を無責任にも放棄した領主より、一つの指令書が届いたのだ。

「『村民の移住は禁止する。その地にて、引き続き開拓に努めるように』と」
「.....」

 結果、過労や土地、水問題が重なっていき、死者や村から逃げ出す者が多数続出。
 そして、元々2000人以上居た人口も、今では100人前後となってしまったようだ。

「.....貴族は罪に問われたりしないんですか?大問題ですよね?」
「まぁ、責任から回避できる手段はたくさんございますので.....」

 金かよ.....。

 この世界は命よりも金品のほうに重きを置く傾向がある。
 ゆえに、2000人の命よりも袖の下の金額のほうが重要視されるのだろう。ほんま、貴族どもはっ!

「今までは処罰が恐ろしくて領主様の命に従っておりましたが、それももう限界でございます。
 このままでは、本当に残った者全てが死にゆくだけでございます」
「.....」

 これは後に知ったことだが、実はここシェルリカは領主だけではなく、国からも見捨てられた村だった。
 ゆえに、国としては既に存在していないものとなっている。

 事実、市販されている地図にはシェルリカは記載されていないのだとか。
 俺が所持している地図はキャベツさんから貰ったものだからこそ記載されていた訳なのだが、そこは国が認可していない村。だから、村の記載はあっても、キャッチコピー的なものは外されていたのだろう。

 これだけでも十分胸糞悪い話なのだが、国はせっかく手に入れた領地を手放すのは惜しいと考えたらしい。
 そこで、村民はそこに留まらせ、領主には引き続き開拓の命を出し続けることになったという訳だ。

 開拓が上手くいけばラッキー。
 村民が全滅したら、はい、そうですか。

 これぐらいの気持ちらしい。

 これらの全ては、ラズリさんから教わったものだ。
 正統勇者を目指すと伝えてからは、秘中の秘である情報すらも教えてくれるようになった。とは言え、当時は知らなかった訳で.....。

「お支払いできるものは何もございませんが.....。
 何卒、何卒、恩情を持ってお願いできないでしょうか?」
「.....」

 村長と名乗る男が土下座をして懇願してきた。
 いや、これは懇願というよりも、命をかけた願い。命願に近いものなのかもしれない。

 勇者と言えども、国の政治に関わることには口出しできない。
 それは十分に分かっている。

 しかし、だからと言って.....。

「.....アテナ。どうしたらいい?」
「んー?歩はどうしたいのー(。´・ω・)?」
「俺は.....」

 村長がひたすら土下座して命願するその姿があまりにも憐れだ。
 それに、いつの間にか、他の村民達も村長同様に土下座をして命願してきている。

 こんな光景を見て、「知らねーよ、バーカw」なんて言える程、俺は鬼畜でもなければ、強靭なハートを持ち合わせてもいない。だから.....。

「俺は助けようと思う」

 ただ、一つだけ勘違いしないでもらいたいのは、これは慈悲でもなければ正義感でも何でもない。
 ただただ、この状況にノーを突き付けられる程の勇気がないだけだ。もちろん、多少の正義感はあるけどね?

 ぶっちゃけた話、絶対に面倒な事になるのが分かっているので、本当はお断りしたいぐらいだ。

 どうやらこの地では、俺が『竜殺し』であることすらも知られてはいないらしい。
 と言うことは、ここで村民を見捨てたとしても、勇者としての知名度に傷が付くことは恐らくないだろう。

 だったら、面倒事は回避したいよね!

 こう考えるのは人として当然のことだ。
 俺は正義マンぶるつもりは微塵もないし、そういうことは本物の勇者がやればいい。単なる付き人でしかない俺がやる義理はないし、責務も一切ない。

「でも、助けるのじゃな」
「こんな状況を見せられて断れる程、俺の胆は座ってないしな!」
「胸を張るところではないのぅ」

 うるせえな!
 小市民のガラスのハートを舐めんなっ!

 もう一度言うが、これは慈悲でもなければ正義感でも何でもない。
 ただただ、この状況にノーを突き付けられる程の勇気がないだけだ。まぁ、流されやすいとも言う。

 ・・・。

 さて、いざ助けると決まったら、色々と厄介な問題が出てくる。
 その最たる例が、シンフォニアですら侵犯しないよう気を遣っている『他国への内政不干渉』問題だ。

 今回の村民移住の件は、思いっきりフランジュの内政に干渉してしまっているので、後々問題となることは必至だろう。

「アテナ、大丈夫かな?」
「んー?だいじょーぶでしょー( ´∀` )」

 軽っ!?

 いや、アテナに相談したこと自体がそもそもの間違いだった。
 きっと、将来起こりうるであろうことなんて、これっぽっちも考えてはいないのだろう。

 それに、アテナに頼るとなったら、それは問題が現実に直面した時ぐらいだ。
 それまでは、単なるかわいいマスコットに他ならない。

「ドールはどう思う?」
「知らぬ。起きてもおらぬことなど考えるだけ無駄なのじゃ。起きてから考えれば良い」

 起きてからだと後手に回るだろっ!

 そうだった。ドールはアテナ寄りの考え方だった。
 問題が起これば頼りになる存在だが、それまでは割と我関せずを貫くタイプだ。

 やはり、アテナ同様、問題が現実に直面した時には頼らせてもらうとしよう。
 それまでは、単なるかわいいマスコットに他ならない。.....マスコット多いな!?

「モリオンは.....俺と一緒に頑張ろうな?」
「おー!我は頑張るのだ!」

 かわいい。

 モリオンは言うに及ばず。
 モリオンに相談するぐらいなら、最初から悩みを放棄すればいいレベルだ。

 問題が現実に直面した時には、モリオンにはモリオンのできる範囲で協力してもらおう。
 それまでは、単なるかわいいマスコットに他ならない。.....マスコットばっかりじゃねえか!?

 ・・・。

 結局、誰にもまとな相談ができないまま、村民の『農産物の町ミューロリア』への移住を手伝うことになった。
 そして、これにて、『シェルリカ』は名実ともに『廃村』となることが決定した。


(はぁ.....。今後について、まともに相談できる相手が欲しいなぁ。
 そういう意味でも、ラズリさんは頼りになったんだけどなぁ。マジでラズリさんが恋しいよ.....)


□□□□ ~1年間の軌跡part.2~ □□□□

『農産物の町ミューロリア』

 アテナとモリオンが行くのを嫌がった、その名の通り、農産物が名産の町だ。
 ここは旅程からしても、王都フランジュへの通り道となるので、コルリカ同様名産品を作る予定である。

 と、その前に、俺にはやらなければいけないことがある。

───ざわざわざわ
───ざわざわざわ

「な、なんですか、これは.....」

 村民100人を前にして、唖然といった表情で固まるトシーネさん。
 トシーネさんはあの五十音姉妹の一人で、レムーナのテシーネさんとは母親が異なる異母姉妹だ。

 ちなみに、村民の移動手段は馬車だった。
 当然、馬なんてものは村には居なかったので、大森林から伐採してきた木材を馬車風に造形して(巨大な箱だと思ってもらいたい)、それをモリオンに引かせた。

 さすがは筋力20000超え(アテナ談)、全く苦もなく引くもんだから、村民がたまげていたことは言うまでもないだろう。
 ちなみに、モリオンは嬉々として巨大な馬車ならぬ箱を引いていた。理由は馬車に乗らずに済んだからだ。

 閑話休題。


 当然、トシーネさんに、この状況の説明を求められたので、今までの経緯を詳しく説明した。
 すると、烈火の如く怒られた。ある程度は覚悟していたが、それでも予想以上に怒られたので、正直びっくり。

「分かっているんですか!?竜殺し様!
 これは国際問題に発展する由々しき事態なんですよ!?」
「うっ.....。わ、分かってはいるんですが.....」

「分かっておられるならやらないでくださいよ!」

 トシーネさんからの突き刺さるような視線が痛い。.....で、でも、仕方がないよね?

「いいですか?
 竜殺し様の軽率な行いが、私達ギルド職員だけではなく、
 他の勇者様ひいては冒険者の方々にも迷惑が及ぶんですよ?」
「冒険者にも!?」

 驚いたが、考えてみれば当たり前だった。

 冒険者ギルドは国の機関ではなく、全勇者特別機構の機関だ。
 つまり、シンフォニアとフランジュの国と国との信頼の上で設置されているものに他ならない。所謂、フランジュから間借りしたものに近いと言える。

 そこに、信頼を裏切る行為が発覚した場合、下手したら『国内中の冒険者ギルドを一斉退去させよ』なんていう命令が、フランジュより下される可能性がある。
 とは言え、実際は、フランジュ側も冒険者ギルドがあるおかげで得られるメリットは莫大なものだろうから、冒険者ギルドの退去なんて現実離れした命令は下さないだろうが.....。

 しかし、そういう可能性が0ではない以上、気を付けるに越したことはない。
 もし仮に、そんな状態になったりでもしたら、ギルド職員であるラズリさんやトシーネさんに多大な迷惑がかかるばかりか、ギルドを利用している多くの冒険者が路頭に迷うことになるだろう。

「.....(ごくっ)」
「どうやら、理解できたようですね?」

 急速に、喉がカラカラになっていくのが分かる。

 思っていた以上にヤバい案件だった。
 俺の勇者巡業うんぬんどころの話ではない。周りに与える影響の大きさが個人レベルを遥かに超えている。

 しかし、だとしたら.....。
 あの時、俺はどうすれば良かったのだろうか。

「勝手に判断されずに、最寄りの冒険者ギルドに相談すべきでしょう。
 そうすれば、冒険者ギルドからシンフォニアに打診がいったと思います」
「じょ、冗談ですよね!?それだと.....」

 最寄りとなれば、レムーナだろうか。それでも2ヶ月はかかる。
 そこからシンフォニアにお伺いを立てて、恐らくだが、協議にかけるのだろう。
 それがどれぐらいかかるのかは知らないが、仮に是としても、シェルリカに、村民にその救いが届くには時間がかかるはずだ。

 う、う~ん.....。
 それを待っている間に、助けられたかもしれない命が幾つ失われるというのか.....。

「残酷なようですが、それが一番最良なのは間違いありません」
「.....つまり、仮に救いが届く前に村が全滅してしまってもやむなしだと?」
「.....」

 俺の問いに押し黙るトシーネさん。

 いや、別にトシーネさんを責めている訳ではない。
 恐らくだが、周りへの影響を考慮した場合、トシーネさんの言うやり方が最良なのも間違いないだろう。

 ただ、俺としては気に食わない。
 このお役所的な流れにはどうしても納得できない。とは言え、従う他はないのだが.....。

「.....なんとかなりませんかね?」
「正直、困ります。私の、冒険者ギルドの範疇を超えています」
「.....そこをなんとか!トシーネさんのお願いを何でも1つだけ聞きますので!」

 さすがに無理めかな?と思いつつもダメ元で頼んでみた。
 最悪、トシーネさんがダメなら、キャベツさんに泣いてすがるという手も.....。(キャベツさんとはプライベートキーを交換済み)

 そんなゲスなことを考えていたら.....。

「う、う~ん。こ、困ります」

 おや?

 トシーネさんの表情は明らかに困っている。それは間違いない。
 しかし、なんだろう?この違和感は.....。お願いにでも釣られたか?

「お願いします!俺ができることなら何でもしますので!」
「あ、いえ、お願いは別にいいのですが.....」

 え?お願いじゃないの?
 あれ!?もしかしたら.....そういうこと!?

 ある一つの考えが閃いた俺はここぞとばかりに攻め立てる。

「どうしてもお願いします!トシーネさんしか頼れる人が居ないんです!!」
「うぅ.....。た、確か、竜殺し様はキャベツ様とお知り合い.....」
「その通りですが、俺はトシーネさんの力を借りたいんです!どうか力を貸してください!!」
「で、ですが.....」

 やはり、思った通りだ。
 五十音姉妹の一人であるトシーネさんも、例に漏れずに何かしらの問題を抱えているのは間違いないと思っていたが、まさかこれとは.....。

 既に、トシーネさんの態度から確信めいたものを感じ取った俺は、究極の手段に打って出ることにした。
 最終手段にして、最終奥義であるあれだ。

「お願いします!」
「!!」

 トシーネさんの目の前で繰り広げられる見事なDO・GE・ZA。

『謝罪と頼み事の最終奥義』であるDO・GE・ZAは日本の心。
 ここパルテールでDO・GE・ZAが通用するかは不明だが、地球に限らず別の世界でも通用していたので、恐らくは問題ないだろう。

「りゅ、竜殺し様!こ、困ります!」
「お願いします!」
「は、早く立ってください!わ、私が変な目で見られますから!」
「お願いします!」

 もはや、最終奥義を繰り出している以上、トシーネさんが承諾してくれるまでは顔を上げるつもりは一切ない。
 プライド?真のプライドとは捨てるべき時に捨てるものだと心得たり。困るなら、早く承諾してくださいね?

「い、いくら私でも、こればかりは.....」
「お願いします!」
「あ、あのですね.....」
「お願いします!」

 今更、トシーネさんの言い分を聞く必要は全くない。
『頼まれたら断れない人』には、ひたすら頼み込むのが一番有効的だ。

「う、うぅ.....」
「お願いします!」
「.....」
「お願いします!」

 トシーネさんの言葉を遮るように、それからもひたすら頼み込んだ。
 ちなみに、アテナ達は俺のDO・GE・ZAを見て、ケラケラと笑っている。.....ひどくね?

 ・・・。

 その後も、俺とトシーネさんの間で、長い長い冷戦状態がしばらく続いた。
 しかし、ようやく、その均衡が崩れる時が訪れる。

「分かりましたよぅ.....。何かあったらぁ.....、ちゃんと責任を取ってくださいねぇ.....?」
「ありがとうございます!恩にきます!!」

 顔を上げると、そこには涙目になっているトシーネさんが.....。

 罪悪感は半端ないが、非常事態ゆえに許して欲しい。
 俺もラズリさんやキャベツさんに助成を請うつもりでいるが、味方は一人でも多くいて欲しい。そういう意味では、ラズリさん同様、ギルド職員であるトシーネさんの協力は大きな力になると思う。

 こうして、トシーネさんの協力のもと、村民の受け入れ態勢などスムーズに行われていった。


 ちなみに、ここ『農産物の町ミューロリア』では2つのダンジョンを攻略し、これで攻略の証は全部で7つとなった。
 町なので、当然?、ダンジョン攻略の権利を金で購入したりはしていない。

 また名産品は、トシーネさんおすすめの、一口かじるとまるで苺のような味がする不思議な人参に決定した。
 その人参はアテナやモリオンにも大好評で、二人に野菜を食べさせるという俺の目的も同時に果たすことができた。


(トシーネさん優秀すぎ!本当にありがとうございます!!)


□□□□ ~1年間の軌跡part.3~ □□□□

『使役の村キュルルナ』

 何を使役しているかというと、奴隷だ。但し、レムーナとは奴隷の質が異なる。
 レムーナでは主に獣人が奴隷となっていたが、ここキュルルナでは人間族が奴隷の大半を占めている。しかも、そのほとんどが犯罪者だと言う。

 つまり、犯罪者を奴隷として使役しているのがキュルルナという村になる。

 だから、人相の悪い連中がそこらかしこにわんさかといる。
 一応、奴隷なので騒ぎを起こすようなことは仕出かさないが、それでも、あまり気分のいい村ではない。

 こんな村からは早々に立ち去りたいので、足早に冒険者ギルドへと向かう。
 目的はダンジョンについて尋ねることだ。

「2つですか?さすがにそれは困りますね.....」
「村はどこもそんな感じなんですね」
「ここに限らず、どこもそうだと思いますよ?」

 そう語るのはタシーネさん。
 当然、五十音姉妹の一人で、ミューロリアに居たトシーネさんとは異母姉妹にあたる。

 ここでも断られるのは想定済みだったので、コルリカ同様交渉に移る。

「はぁ.....?名産品、ですか.....」
「.....」

 しかし、タシーネさんからの反応は微妙だった。
 言うなれば、必要ない、そんな印象を受ける程に.....。

 ただ、タシーネさんが難色を示す理由も分からなくはない。
 ここキュルルナは、レムーナとは事情が違いすぎる。

 まず、奴隷が犯罪者ということもあるので、レムーナのように命令を上書きすることはできない。
 第一、下手な命令を上書きしたら、治安そのものが脅かされる危険性があるので、俺もそれは許容できない。

 シェルリカの村民の移住の件でも迷惑をかけているのに、これ以上やっかい事を増やしたら、それこそキャベツさんやトシーネさんに申し訳が立たなくなる。

 それに、ここは日本ではなく、異世界だ。
 だから、犯罪者が更生するなどという甘っちょろい感情は誰も抱いてはいない。

 そもそも、犯罪者は殺してしまえ!というのが、この世界では一般的な考えとなる。
 なので、命があるだけでも犯罪者は感謝すべき案件となる。許されたなどと考えるのは虫がいい話なのだ。

 次に、領主代理が赴任してきているので、俺が好き勝手に物事を行うことができない。
 考えてみれば当たり前のことだ。犯罪者奴隷が多くいる村なのだから、それを統治する人間がいないことのほうがおかしい。
 しかも、王都フランジュに地理的にも近いので、貴族側も放置しづらいという側面もあるのかもしれない。

 そして、最大の理由が.....。

「この村を旅行の行き先に選ぶ理由がありませんからね」
「で、ですよね.....」

 これはレムーナでもそうだったが、王都フランジュへの旅程を考えるのであれば、トランジュ→ミューロリア→コルリカのルートが一番安全かつ楽しい旅行となる。
 誰が好き好んで『使役の村』などという物騒なキャッチコピーのある村を辿るというのか.....。

「それに、この村には名産となるものはありませんよ?
 この村は奴隷を使役した物流が主な仕事となりますので」
「いえ、別に食べ物に限った話ではないですので」

「ですから、それ以外のものでも名産と成り得るものはございません。
 強いて言えば、奴隷ぐらいでしょうか?犯罪者でもよろしければ、という限定付きですが」
「.....」

 奴隷が名産品とか、冗談でも笑えない。
 それに、奴隷が欲しいのであれば、2ヶ月我慢して王都フランジュで購入したほうが遥かにマシだ。

「私ども冒険者ギルドとしましては、ダンジョンを2つとも攻略されるのは非常に困ります。
 それでも、どうしても攻略されたいと言うのであれば、権利の購入をおすすめします」
「それはやぶさかではないのですが.....」

「いえ、この際ハッキリと申し上げましょう。
 権利の購入以外は認められません。どうぞ、ご検討くださいませ」
「.....」

 タシーネさんはそう言い放つと、まるで『交渉はこれまで』という意味を込めたかのようなお辞儀を深々として、話を打ち切ってしまった。

 完全に詰んだ。
 取り付く島もないとはこのことだ。

 さすがのドールもお手上げみたいで、難しい表情をしている。でも、かわいいんだよなぁ。
 頼みの綱のアテナは、すやすやと気持ち良さそうに寝ているし.....。

 結局、その後も色々と説得を試みるも全て拒絶されてしまった。
 五十音姉妹は一部を除いて優秀なだけに、こういう時にはその優秀さが裏目に出てしまったようだ。

「購入ありがとうございました♪今後とも冒険者ギルドをよろしくお願いします♪」
「.....」

 振り返ると、そこにはルンルンと満面の笑みで俺達を見送るタシーネさんの姿が.....。
 きっと、臨時ボーナスに思いを馳せているのだろう。

「す、済まぬ。あの者は妾の言葉に少しも耳を貸そうとはせんかったので、説得できなかったのじゃ」
「そういうこともあるさ。気にするな」

 いるよねー。
 自分の考えが正しい、これが正しいと思い込むと、他人の言葉に全く耳を貸さなくなる人。

 我が強いというか、融通が利かないというか、タシーネさんはそういう感じの人だった。
 いや、むしろ、こういう犯罪者奴隷が多くいるような村では、タシーネさんのような人ではないとやっていけないのかもしれない。
 少なくとも、ミューロリアの受付嬢だった『頼まれたら断れない性格』のトシーネさんでは、キュルルナの受付嬢は務まらないのは確かだろう。

「元はと言えば、この計画を言い出したアテナが寝ているのが悪いんだしな」
「それはそうじゃが.....。ただ、姉さまが起きていたとしても、結果は変わらぬのではないか?」
「いや、それはどうだろ?無理なことをなんとかするのがアテナなんじゃないかな?」
「ぐ、ぐぬぬ。それはそれで悔しいのぅ。謎の信頼感というのが、これまた腹が立つのじゃ」

 諦めろ!
 才能や努力では絶対に敵わないのが『運』というものだ。

 俺は、地団太踏んで悔しがっているドールを宥め、背負っているアテナの柔らかいお尻をもみもみと揉みつつ、ダンジョンへと向かうのだった───。


 これが俺達が歩んできた1年の軌跡となる。
 ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

 この後は、現在進行形の話をしていこうと思う。

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後書き

次回、本編『はしめての提供割合②』!

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今日のひとこま

~責任の取り方~

「シンフォニアへの打診は終わりました。今後は各冒険者ギルドにて報告をお待ちください」
「ありがとうございます。トシーネさんにお願いして正解でした」
「勘弁してくださいよ.....。竜殺し様のお願いだから引き受けましたけど.....」
「本当に感謝していますってば。それに、ちゃんとトシーネさんのお願いも聞きますから」

「いえ、私にはこれと言って、何もありませんので」
「そうなんですか?俺にできることならば、多少融通は利かせますよ?」
「そ、その、迷惑かなって.....」
「先に迷惑をかけているのはこちらなんですけどね」

頼まれたら断れない人は、人に頼むことは苦手と聞くが、トシーネさんはまんまそんな感じみたいだ。
きっとこれまでも、理不尽な頼みごとをたくさん押し付けられてきたに違いない。.....難儀な性格をしているなぁ。

「で、でも、やっぱり、いいです!」
「そうですか?それならいいんですが」
「あぅ.....」
「.....。(め、めんどくせえぇぇえええ!何かあるなら言ってくれよ!)」

「あ、でもですね?何かあった時は責任だけは取ってくださいね?」
「責任?責任って何をすればいいんですか?(そう言えば、そんなことを言ってたな)」
「もちろん、私を養って頂きます」
「ぶふっ!?」

「当然ですよね?下手したら、私解雇されちゃうんですよ?」
「いや、でも、それだけの理由で結婚するというのも.....」
「いえいえ。結婚ではなく、養ってください」
「ど、どういうことですか?」

「結婚はなさらずとも結構です。
 私が一生暮らしていけるだけの資金を用意して頂ければいいですので」
「.....つ、つまり、俺の金が目当てだと?」
「勘違いされているようなので言っておきますが.....」
「?」
 
「勇者様と結婚できるのは私達ギルド職員にとっては最大の栄誉です。最高の幸せです。
 それ以上の幸福などは、この世に存在しません」
「ならば、なぜ俺に結婚を求めないんですか?(.....あ、あれか?タイプじゃないとか!?)」
「だって、寂しいじゃないですか.....」
「寂しい?なにがです?」

「竜殺し様もいずれは元の世界に帰られてしまうんですよね?
 愛した人が側から居なくなるなんて、私には堪えられません」
「なるほど。そういう意味でしたか.....。あれ?最近は残る勇者も多いと聞きましたが.....」
「そういう勇者様は、そのほとんどが貴族様のご令嬢や王族、皇族のお姫様を娶られますので」
「そ、そうですか.....」

「それに、ご令嬢やお姫様方は、その出自ゆえに独占欲の強い方が多いと聞きます。
 そうなると、庶民の私などは、いずれ離婚を迫られる訳で.....」
「.....」
「竜殺し様がどうなられるかはわかりませんが、その可能性がある以上、
 私としては結婚するよりも養って頂くほうが無難であり、賢い選択かと判断した次第です」
「ソ、ソウデスネ.....」

さすが五十音姉妹というべきか、将来のことも見据えてしっかりと考えていらっしゃる。

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