歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第155歩目 vs.兄貴竜!正統勇者の実力③


前回までのあらすじ

まさか諦めていた回復薬に出会うことができようとは!

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2/14 世界観の世界編!に一部追記をしました。
    追記箇所は、『世界の倫理観』の⑬となります。

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□□□□ ~回復薬無双の問題点~ □□□□

 俺が回復薬無双を開始して数十分後。

『GA、AAAA.....』

 ようやく最後の水竜が断末魔を上げて倒れた。
 そして、この長かった不毛な戦いも、残すは赤き海竜のみとなる。

 となるのだが.....。

「お見事と言いたいところだが、随分と疲れた顔をしているね?」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....だ、大丈夫です」

 キャベツさんの指摘通り、俺はかなり疲弊している。
 体全体が重いというか、だるいというか、吐き気や寒気がする。

「恐らくは魔力欠損による影響だろうが.....。
 回復薬は遠慮せずどんどん使ってくれ。君にあげたものだからさ」

「あ、ありがとうございます.....」

───キュポ。
───ごくごくっ。

 キャベツさんを心配させない為にも魔力回復薬を一気に飲み干す。
 体全体に魔力が染み渡る心地好い感触だ。

【魔力回復薬 残り48個】

 魔力を補充したことで、俺の表情には生気が甦ったことだろう。

「うん。大丈夫みたいだね。少し余裕を持って使うといい」
「.....気を付けます」

 キャベツさんの言葉からもそれは容易に判断できる。
 しかし、俺が感じる気怠さみたいなものは一向に晴れない。

「さて、残りは1匹となった訳だが、作戦はこれまでと一緒だ。僕が守って、君が攻撃する。いいね?」
「.....わかりました」
「手早く片付けてしまおう。セシーネが待っているからね。はっははははは!」
「.....」

 意気揚がるキャベツさんに対して、俺はどうにも体が重くて意気が揚がらない。
 やる気はあるのだが.....。

 そんな対照的な俺達に赤き海竜が攻撃を仕掛けてくる。

───ブゥゥウウウン!

 太く硬そうな尻尾によるなぎ払い攻撃。

 ブレスや爪の攻撃がキャベツさんには効かないと判断した上での選択だろう。
 我を忘れていても、このあたりは冷静に?判断できるようだ。

───ガキィィイイイン!

【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】

 それを見事に完璧にいなすキャベツさん。
 どうやら海竜の攻撃のコツを掴んだのは本当のようだ。頼りになる。

「さぁ、チャンスだ!頼んだよ!」
「.....はい」

 すかさず、攻撃によって生じた硬直状態を利用して海竜の懐にまで忍び寄る。
 そして、これまで水竜達にしてきたことと同じように顎から口を貫くべく、剣を突き刺した。

 すると.....。

───ポヨンッ!

 剣は突き刺さるどころか押し返されてしまった。
 まるでドームタイプのエア遊具で遊んでいるかのように、ポヨンッと剣どころか俺の体まで合わせて一緒に.....。

「.....は?」
「え!?」

 予想外の出来事に混乱する俺とキャベツさん。

 しかし、海竜からしたらなんてことはないのだろう。痛がっている様子は見受けられない。まぁ刺さっていないし、当然か.....。
 更には硬直が回復したのか、そのまま攻撃を繰り出してきた。

───ブゥゥウウウン!

 空気を切り裂く凄まじい音を立てながら迫り来る爪による切り裂き攻撃。
 こんなものを普通に喰らってしまったのでは、俺の命など一巻の終わりだろう。

 だが、今まではこの攻撃すらも恐怖の対象にならなかったぐらいだ。
 そこにはいつもキャベツさんがいたから。キャベツさんの鉄壁な守りによって、俺の安全は確保されていたから。

 しかし、今は状況が違う。

(マ、マズい!)

 俺は空中で身動きが取れないし、肝心要のキャベツさんは意表を突かれてしまったせいか、『Ridicule嘲笑』の準備が整っていないようだ。

 つまり、キャベツさんの鉄壁な守りには頼れない。
 自分自身で、この危機をなんとかしないといけないということになる。

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『兄貴竜』 レベル:4000(SS) 危険度:特大

 状態:暴走(※全ステータス1.5倍)

 体力:63000(通常時:42000)
 魔力:67500(通常時:45000)
 筋力:69000(通常時:46000)
 耐久:61500(通常時:41000)
 敏捷:57000(通常時:38000)

【一言】.....にへへ.....コーンチャーン.....(^-ω-^)
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 改めて言うが、敵である海竜のステータスは俺のステータスの約6倍以上である。
 スキル構成は俺の鑑定のレベルが低いので確認できなかったが、恐らくはレベル2または3であると予想される。.....いや、ステータスからしてレベル3だろう。

 結論、このままだと本当にシャレにならずに一巻の終わりとなる可能性が高い。

 キャベツさんの『Ridicule嘲笑』が間に合わない以上、ダメージを抑える為にも防御は当然しなければならない。
 しかしここで問題となるのが、いくら俺が物理耐性レベル3を有していても、相手の攻撃に触れるだけで瀕死または大ダメージを負う可能性が否めないということだ。

 これは以前にも説明したが、この世界はステータスよりもスキルのレベルが優先される。
 そして、スキルレベルが同等の場合はステータスが影響してくることになる。

 もし俺とこの海竜がどちらもレベル3所持者だとしたら、ステータスが6倍差もある海竜に軍配が上がるのは誰でも容易に想像がつくだろう。
 仮に俺がレベル3、海竜がレベル2所持者だったとしても、やはりステータス差が6倍以上もあるので、互角または海竜に軍配が上がる可能性が高くなる。(※世界編!【スキルレベル】参照)

 ゆえに、相手に触れられずに、この危機を脱する手段が必要となる。


「竜殺し君!」

 キャベツさんの申し訳なさそうな、心配するような声が俺の耳に届く。

───ブゥゥウウウン!

 そして、迫り来る凶刃。

「.....(ごくっ)」

 緊張と恐怖の中、俺は覚悟を決める。

 チャンスはたったの一度きりだ。
 失敗してしまったら、俺の体がどうなるかなど分かったことではない。

 ・・・。

 そして、海竜の爪が今まさに俺を切り裂こうとしたその瞬間。

「ウィンドストーム!」

───バァァアアアン!

 俺の魔法と海竜の爪による攻撃が激しくぶつかり合う。
 すると、凄まじい轟音が鳴り響き、衝撃による圧力が俺と海竜を同時に襲う。

「へぶっ!?」
『GAAAAAAAAAAAAAAA!』

 結果、両者ともに衝撃による圧力で吹き飛ばされ、俺と海竜の間には大きな距離が生まれることになった。
 ただ、ここまで盛大な演出だったのにも関わらず、ともに無傷とまではいかないが、それでも大きなダメージを負うことはなかった。く、くそっ!

「ナイス判断だ。お見事。しかし.....」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....え、えぇ。い、今ので相手のスキルレベルも分かりましたね」

 息を整えつつ、、極めて冷静に努める。

【魔力回復薬 残り47個】

 俺はレベル3魔法をぶつけて、海竜はただの切り裂き攻撃。これでほぼ互角。
 更には海竜のダメージが軽微ともなると、海竜の保有するスキルレベルは確実に3だろう。

 予想の範疇ではあるが、ショックなのはショックだ。
 レベル2だったのなら、今後もレベル3でごり押しできる可能性があっただけに.....。

 ただ、唯一の救いは互角であった為、レベル4では確実にないということ。
 仮に海竜のスキルレベルが4だったとしたら、確実に倒せないことが決定していたので、そこは一安心。

 しかし、現状が厳しいのはなんら変わってはいない。

「これは困ったね。なにか打開策は.....。本当に大丈夫かい?顔色が優れないようだが.....」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。HAHAHA。な、なんのこれしき」

 いやぁ.....。きついっす。

 心配するキャベツさんにそう言える訳もないので、努めて元気なように振る舞って笑顔で返事を返す。
 だが、俺の様子を窺うキャベツさんの疑惑は晴れない。

「う~ん。回復薬はしっかり取っているようだが.....。もしかして、効いていないとかはないよね?」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。
 お、俺のステータスを見てもらえれば、か、回復薬が効いていないかどうかは分かりますよね?」

「それもそうなのだが.....」

 『百聞は一見に如かず』という言葉があるにも関わらず、いまだに訝しむキャベツさん。
 当然、俺の魔力は完全に回復していると、キャベツさんにはそう見えていることだろう。

 事実、俺の魔力は完全に回復している。
 誰が見ても、仮に神様が見ても、俺の魔力は全快状態に見えるはずだ。

 しかし、俺はとても疲弊している。
 これもまた隠しようのない事実だ。

「僕は浄化魔法しか使えないから分からないが、
 攻撃魔法というものはそこまで精神をすり減らすものなのかい?」

 あぁ、なるほど。
 そういう解釈もあるのか.....。

 正確には全然違うのだが、そういうことにしておく。
 俺が勇者ではないとバレると、後々やっかいなことになりかねない。

 ・・・。

 そう、俺がここまで疲弊しているのは勇者ではないからだ。
 俺は回復薬無双を甘く見ていた.....。

 何度も説明しているが、俺には魔法の使用時に重大な欠陥が伴ってくる。
 本来、魔法使用時における魔力は固定消費型なのだが、俺の場合は『疲労』が伴ってくるので変動消費型となっている。

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 ex.レベル3魔法使用時

 (使用回数)      (勇者)      (俺)
 ウィンドストーム1回目   魔力1000     魔力1000
 ウィンドストーム2回目   魔力1000     魔力1100【疲労効果+100】   
 ウィンドストーム3回目   魔力1000     魔力1200【疲労効果+200】
 ウィンドストーム4回目   魔力1000     魔力1400【疲労効果+400】
 ウィンドストーム5回目   魔力1000     魔力1800【疲労効果+800】
 ウィンドストーム6回目   魔力1000     魔力2600【疲労効果+1600】

(※参考例です。実際はもっとエグいものです)
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 あくまでも一例なのでここまで単純ではないが、おおよそこうなっている。
 しかも、レベルの高い魔法であればあるほど、伴う『疲労』感の量も増大傾向にある。

 なので、魔力回復薬ですぐに尽きてしまう魔力を補充しまくる戦法(回復薬無双)で戦ってきたのだが、ここで1つの重大な事実に気付くことになる。

 それは.....。














 『回復薬で魔力は回復できても、疲労までは回復できないことだ』


 正直、愕然とした。
 これではいくら回復薬で補充しまくろうとも、いずれは限界が見えてくる。

 ゆえに魔法を1発撃つごとに、どんどんどんどん気力がすり減っていっているのがよく分かる。
 まぁ、唯一の救いとしては、魔力が底をついても死なないということだろう。思いっきり気分悪くはなるが.....。

 だから、これはキャベツさんに知られる訳にはいかない。
 この事実を隠し通しながら、目の前の海竜を倒さなければならないという訳だ。

「君が大丈夫だと言うのなら信じよう。僕は僕の務めを果たすまでだ」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....だ、大丈夫です。お、俺も俺の務めを果たします」
「そうか。分かった。ならば任せた。.....それで、この状況を打開できる策はあるのかい?」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....ひ、1つだけあります。
 た、ただ.....。そ、その為にはキャベツさんにも手伝ってもらう必要があります」

 スキルレベルは同等、ステータスは6倍差の圧倒的不利なこの状況。
 これを打開する為にはあの方法しかない。

 しかし、俺がいまこの有り様でそれを行うとどうなることか.....。

「僕に出来ることならなんでもしよう。正統勇者の名にかけてね」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....た、助かります」


 いまここに海竜との最後の戦いに向け、俺とキャベツさんとの間で一種の賭けが行われようとしていた。


 □□□□ ~勇者流泥仕合~ □□□□

 風。

 この世の中で一体どれ程の人が風を感じることができるだろうか。
 いや、感じることができても、風になれる人は、風と一体になれた人はそうそう多くはないだろう。

(あははははは。俺は風。吹けば飛ばされそよそよと、行き着く先は風のみぞ知る)

 いま俺は風になっている。
 風と一体となり、風と同化して、流れていくその先を風任せにしている。

 そんな雄大な風の一部となった俺に一つの便りが届く。

「竜殺し君!竜殺し君!しっかりしたまえ!」
「.....はっ!.....す、すいません」

 キャベツさんの腕の中で固く、熱く抱擁されつつ俺は意識を現実に戻した。
 キャベツさんが呼び掛けてくれなかったら、俺は今頃風として生きていたことだろう。

「回復薬だ。飲みたまえ」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....た、助かります」

 もはや動くのさえ億劫になりつつある俺に献身的に尽くしてくれるキャベツさん。
 このちょっと危ない光景は既に何度も繰り広げられているものだ。

【魔力回復薬 残り22個】

「なんとかなりそうかい?」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....え、えぇ。あ、相手も嫌がっているようですし、も、問題ないかと」
「そうか。ならばここが正念場だな。よろしく頼む」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ご、ご迷惑をかけます。ヒ、ヒール!」
「ありがとう。助かるよ」

 キャベツさんにヒールを施して、再び回復薬を口にする。
 この作戦、少しでも魔力が減ろうものなら回復薬を口にしないと成り立たない程、魔力が重要なものとなってくる。

【魔力回復薬 残り21個】

『GAAAAAAAAAA!』

 粉塵舞う中、海竜の咆哮がこだまする。

 その咆哮は俺から幾度もの攻撃を受けた影響か、いささか弱々しいものとなっていた。
 確かにキャベツさんの言う通り、ここが正念場のようだ。

「そろそろ攻撃がくる。準備を頼む」
「.....ゼェ。.....ハァ。ま、任せてください」

 俺に声を掛けたキャベツさんがその場で盾を構える。
 いつでも海竜の攻撃を迎撃できる体勢に入ったようだ。

 それを確認した後、俺も海竜目掛けて走り出す。

『GAAAAAAAAAA!』

───ブゥゥウウウン!

 そんな俺に、咆哮とともに尻尾によるなぎ払い攻撃を仕掛けてくる海竜。
 明らかに動きが散漫で、俺にしか意識が向いていない。それぐらい本能的に俺を嫌がっているのだろう。

 しかし当然ながら、その海竜の攻撃もキャベツさんの『Ridicule嘲笑』によって不自然な動きをした後、キャベツさんの元へと吸い寄せられていく。

───ガキィィイイイン!

【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】

 そして、キャベツさんはもはや当たり前のように完封してしまう。
 そう、ここまでは今まで同じだ。

「今だ!再び一撃を与えてやれ!後は僕が面倒を見よう!」

 その言葉とともに、海竜目掛けて猛然と走り出すキャベツさん。
 俺はその動きを確認した後、硬直状態になっている海竜の顎に向かって剣を突き刺す。

───ポヨンッ!

 またゴムのような鱗に弾き返される剣。

(くっ!まだかっ!.....ならば!!)

 しかし、剣と顎がインパクトした瞬間にそれは行った。
 剣の切っ先から繰り出される濃縮なハリケーン。

「.....ヴィントハリケーン!!」

───ガリガリガリガリ!

 俺の詠唱が終わるや否や、海竜のゴムのように反発して鉄のように固い顎の鱗を、小さなハリケーンがまるでドリルでガリガリと削っているかのように蹂躙していく。
 その小さなハリケーンが通った後は、おびただしい量の血溜まりと無数の鱗が散見して見える。

『GA!?GAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 これにはステータス差が6倍以上もある海竜であっても堪らず、苦しそうな咆哮を上げた。
 そして、その痛みが硬直状態を無視できるほどの怒りへと繋がり、当然それが俺への憎しみへと変化して反撃に移ることになる。

───ゴォォオオオ!

 怒り狂っている海竜からの白く輝くブレスが俺を襲う。


 一方、竜墜の剣装備時にのみ発動できる大魔法『ヴィントハリケーン』というレベル4魔法を放った俺はというと.....。

「.....」

 完全に気を失っていた。
 先程はあまりの疲労で意識が風と同化していたが、今回は意識すら保てなかったようだ。

 魔法を放った際に、魔力どころか存在自体が抜けていくような不思議な感覚。
 自分自身が生きているのか、そもそも生物であったのかさえ忘れてしまいそうになるほどの虚脱感を、意識を失う前に感じた.....と思う。

 そんな意識を失った俺は、海竜の顎と同じ高さ(地上からおよそ10m)から真っ逆さまに落ちていく。
 俺に襲い来るブレスはキャベツさんが防いでくれるだろうが、このままでは意識を失ったまま地上に激突してしまう恐れがある。一応、物理耐性である程度ダメージの緩和は行えるが、打ち所が悪いと.....。

 ・・・。

 そして、今まさに地面と衝突しかけた俺を救う1つの影。

───ガシッ!

「ふぅ。なんとか間に合ったようだね。だが.....」

 そう、俺を救い出してくれたのはキャベツさんだ。
 いまだ意識を失っている俺は、キャベツさんのたくましく頼りになる腕の中で、まるで王子様に助け出されたお姫様のように静かに横たわっている。

───ゴォォオオオ!

 そこに無慈悲にも襲いくる白く輝く息。

 当然、意識を失っている俺は何もできない。
 そして、今しがた俺を落下から救出したばかりのキャベツさんも防御体勢は完了していない。

 そうなると当然.....。

───ガキィィイイイン!

【『bad!』キャベツさんが防御に失敗しました。ダメージを10%軽減します】

「.....くはっ!?」

 海竜の攻撃を防ぐことなどできずに、そのまま被弾してしまうことになる。
 防御に失敗してもダメージを10%軽減しているのは、キャベツさんの加護である『Ironclad鉄壁』の権能効果である。

「.....竜殺し君。竜殺し君。起きたまえ」
「.....はっ!す、すいません」

 そして、何事もなかったかのように爽やかな笑顔とともに眠り姫を起こすキャベツさん。
 当然、キャベツさんのステータスを見れば体力が駄々下がりになっているので、俺もある程度は察することができる。

「魔力回復薬だ。飲みたまえ」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....た、助かります」

 キャベツさんより、口許へと運ばれた回復薬を一気に飲み干す。
 オレンジのような飲欲をそそる匂いで、喉越しスッキリのリンゴ味というのも案外悪くはないものだ。意外と計算されて製造されているのかも.....。

【魔力回復薬 残り20個】

「そろそろいけそうかい?」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。
 .....も、もうちょいって感じですかね。あ、顎の下はボロボロでした」

「そうか。ならばひたすら繰り返すのみ」
「.....ゼェ。.....ハァ。そ、その通りです。ヒ、ヒール!」
「ありがとう。助かるよ」

 俺の救助の為、体力をごっそりと減らしたキャベツさんにヒールを施して、俺は再び回復薬を口にする。

【魔力回復薬 残り19個】

 レベル4魔法をたかだか1発撃つだけでも、ヒール分の魔力が今は惜しい。
 それでも、例え余剰分が無駄になると分かっていても、ここを乗り切る為には飲み干さないといけないという訳だ。おかげで俺の腹は水分の取りすぎでタプタプになっている。


『GAAAAA』

 そうこうしている間にも、再び海竜が攻撃を再開してきた。

 しかし、その咆哮には力強さが失われている。
 確実に弱ってきているのは誰の目から見ても明白だろう。

「もう少しだ。大変だろうが頑張ろう」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....え、えぇ。が、頑張ります」
「では、いくよ!」
「.....ゼェ。.....ハァ。は、はい」

 そして、俺とキャベツさんは再び、俺のレベル4魔法とキャベツさんの異常な体力と耐久があって初めて成り立つカミカゼアタック戦法をひたすら繰り返していくのだった。


□□□□ ~決着!兄貴竜!~ □□□□

───パァン!

 戦場にこだまする勝利のハイタッチ。

───ドサッ!

「.....ハァ。.....ハァ。や、やったね。僕達の勝利だ」
「.....ゼェ。.....ハァ。そ、そうですね.....」

 そしてそのまま、その場で崩れ去るように倒れ込む俺とキャベツさん。
 まさに死闘ともいっていい戦いが、いま終わったばかりだ。

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「俺達の勝利だぁ!本当にドラゴンに勝っちまったぞぉ!!」」」」
「「「「竜殺し様万歳!十傑様万歳!竜殺し様万歳!十傑様万歳!」」」」

 勝利に沸き上がる冒険者達の狂喜に満ちた大喚声がどこか心地好い。
 そして、本当に勝ったという実感が、ようやく終わったという安堵感が、俺の意識を徐々に奪っていく。

「こんなところで気を失ってどうするんだい?」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ」
「体を動かすのも大変だろうが、君にはまだやることが残っている」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。.....?」

 この上、俺に何をさせようというのか.....。
 正直、今すぐにでも気を失って楽になりたい。

「勝利の勝鬨かちどきを上げないでどうするんだい?
 勝者には勝者のやるべきことがある。一種のけじめみたいなものさ」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。で、では、キャベツさんがどうぞ.....」

「それは違う。今回の主役は君だ。
 君がいなければ勝利は有り得なかった。だから君が音頭を取るのが筋だ」

 それはその通りなのだろうが.....。

 だが、キャベツさん居なくして勝利は有り得なかったのも事実だ。
 言うなれば、俺とキャベツさんの勝利ということになる。

 もっと言うのなら、みんなの勝利だ。
 いや、これはあまりにもクサ過ぎるので、俺とキャベツさんの勝利にしておこう。

「それはそうだが.....」
「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。で、では、こうしましょう」

 いまだ渋るキャベツさんに1つの提案をする。

「.....ゼェ。.....ハァ。.....ゼェ。.....ハァ。
 と、ともに、勝鬨を上げましょう。そ、それならいいですよね?」
「分かった。君がそれでいいと言うのならそうしよう」

 そして、いまだ足がふらつく中、キャベツさんに肩を借りてともに勝鬨を上げる。

「僕達の、人間の勝利だ!」
「.....ゼェ。.....ハァ。お、俺達の勝利だ!」

「「(せーの).....勝鬨を上げろ!!」」

 俺は剣を、キャベツさんは盾を天へと掲げ、勇ましく叫んだ。
 もう既に体は限界を迎えていたのに、最後だけは調子良く叫べたことに思わず苦笑してしまった。

「「「「えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!」」」」
「「「「えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!」」」」
「「「「えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!えいえいおー!」」」」

 そんな俺の気持ちとは裏腹に勝鬨を上げる冒険者達。
 その勝鬨は喜びや嬉しさ、未来に向けての期待が入り交じったとても熱いものだった。

(はぁ~。疲れた~。もう寝たい.....)


 こうして、ドラゴンとの長い長い戦いは終わりを迎えた。
 そして、ここにいま、俺は名実ともに竜殺しとしての栄誉を得ることになった。

【魔力回復薬 残り3個】

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後書き

次回、外伝『主人公が戦っている間のアテナ達』!

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今日のひとこま

~兄貴竜討伐その後~ side -セシーネ-

ここはドラゴン戦の結果を今か今かと待つ冒険者ギルド

「報告!報告!竜殺し様と十傑様が見事ドラゴンを征伐されました!」
「キャベツ様.....。私は信じておりました。愛は必ず勝つと」
「「「「良かったなぁ、嬢ちゃん。このまま結婚式といくか?」」」」
「「「「そりゃあ、いいな!戦勝会も兼ねてパァッといくか!」」」」

愛するキャベツ様が無事だと知り、涙ぐみ安堵する私を茶化してくる冒険者の方々。
悪気がないのは分かりますが、このまま結婚式をするとか何を考えているんでしょうか。

「皆さん、ありがとうございます。ですが、結婚式は旦那とも相談しないと.....」
「「「「うぇぇえええ!?じょ、嬢ちゃん、既婚者だったのかよ!?」」」」
「「「「こんないい嬢ちゃんを囲えるたぁ、十傑様が羨ましいぜ!!」」」」
「「「「なんだったら俺のところにも嫁いでこねぇか?優しくするぜ」」」」

「それはお断りします。私の心は既にキャベツ様の元にありますので」
「「「「旦那はどうした!?さっき旦那と相談とか言ってなかったか!?」」」」
「「「「ぎゃははははは!フラれてやんの!身の程を知れ!鏡を見て来い」」」」
「「「「んだとぉ!?お前も俺と大差ないだろ!告白した分俺のがマシだ」」」」

戦いに勝利したということで、ギルド内が、冒険者一同の誰もが浮かれ上がっていました。
少し騒々しいので、本来なら注意するところですが、今日ぐらいは大目に見ましょう。

───ウィィイイイン。

そんな時にやってきた訪問者一行。
一行が現れた場所は緊急時にしか使用を許されていない(国にも秘密にしている)転移陣でした。

「カシーネ・キシーネ姉さんどうしたの?」
「.....(ぶるぶるぶる)」
「それに他の職員の方も.....。フラッペで何かありましたか?」
「.....(ぶるぶるぶる)」

姿を現したのは、フラッペで仕事をしているギルド職員の方々で総勢10名ほど。
しかし、誰も彼もが一様に青白い顔をして、まるで恐怖に怯えているようでした。

「.....セ、セシーネ。お、落ち着いて聞いて頂戴」
「はい」
「.....フ、フラッペが.....」
「?」

カシーネ姉さんの様子がおかしいです。
いつもはハキハキと物事を語る姉さんだけに余計にそう感じました。

そして、この後カシーネ姉さんから語られた内容は耳を疑うものでした。

「.....う、そ、ですよね?」
「.....」
「.....え?な、なんで!?」
「.....真実よ。明日にでも、このことが世界中に知れ渡るでしょうね」

なんで!?どうして!?
私はただただ混乱するばかりでした。


この日、海上要塞フラッペは地図上からその姿を消しました。

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