歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第150歩目 モリオンの挑戦!モリオン⑦

前回までのあらすじ

モリオンも海水浴を楽しむことができた!

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□□□□ ~落ち込むモリオン~ □□□□

 みんなで海水浴を楽しんでから数日が過ぎた。
 俺達は相変わらず1日1日転々としながら、観光とグルメを楽しんでいる訳なのだが.....。

「「「.....」」」
「(´・ω・`)」

 空気が重い。

 とても観光とグルメを満喫しているグループだとは思われないだろう。
 とある夢の国のスタッフでも、思わず目を背けたくなるほどどんよりとした空気が漂っている。

「主は気にしすぎなのじゃ。放っておけば良い」
「そうは言ってもなぁ.....」

 ドールは冷たく突き放してはいるが、俺にはそれがどうにも耐えられない。
 みんなそれぞれ良いところがあるからかわいいのに、今はそれが損なわれてしまっているからだ。

 では、何が損なわれているかというと.....。

「モリオン。いい加減に元気出せ、な?」
「.....」

 うちのPTの元気印であるモリオンがすっかりしょげてしまっているのだ。

 原因は当然、海水浴の日に起きたあの大事件だ。
 幸いにも、城壁を破壊したのが俺達だとバレはしなかったが、それでも大騒ぎになったのは確かだ。

 俺も詳しくは知らないのだが、このベルジュのギルド職員であるセシーネさんにそれとなくその後の顛末を聞いてみたところ、破壊された城壁の側になにやら巨大な生物がいたとかなんとかで、その生物の仕業だろうと噂されているんだとか。.....ふぅ。助かった。

 しかし、モリオンが壊したという事実を俺達は知っている訳で.....。

「このバカトカゲ!いい加減にせんか!足手まといは姉さまだけで十分なのじゃ!」
「ごめんなさいなのだ.....」
「お、おい、言い方。かわいそうだろ.....」
「にへへー(*´∀`*)歩、ありがとー!そーだよねー!私は足手まといじゃないよねー!」
「お前のことじゃない。かわいそうなのはモリオンだ」
「えええええΣ(・ω・*ノ)ノ」

 ビーチから一目散に逃げ帰ったあの後、モリオンはドールにこってりと絞られた結果、現在に至るという訳だ。

 恐らくだが、これ以上悪い子にならないように自分をできるだけ抑えているのだろう。
 そのせいか、いつものモリオンらしさが損なわれてしまっている。とは言え、相変わらずよく食べはするが.....。

(モリオンは元気いっぱいだからモリオンなのに.....)

 だから俺は、モリオンに元気になってもらえるよう『ある一つの提案』をしてみた。
 きっとそれは、モリオンがモリオンらしく、笑顔で楽しめるものだと思う。


 その提案というのが───。


□□□□ ~姉妹~ □□□□

 俺達一行は港のあるグルメ区島へとやってきた。
 本来の観光順的にはこの浮き島ではないのだが、今はとある目的の為に訪れている。

 そして、今そのとある目的が熱を帯びてきたところだ。

【ターイムアッープ!そこまで!】

 司会者の女性がそう声高らかに宣言する。
 なぜか右手で握り拳を作り、高らかに掲げているあたり司会者もノリノリだ。

「「「「パチパチパチパチパチ」」」」
「「「「パチパチパチパチパチ」」」」
「「「「パチパチパチパチパチ」」」」

 すると、司会者の宣言に呼応するかのように怒濤の拍手が沸き起こる会場。
 当然、俺もその一人で一緒に拍手をしている。

 その割れんばかりの拍手の先にいるのは───。

【勝者は奴隷の女の子!
 またしても、この小さな挑戦者が並み居る猛者達を退けて見事勝利を納めました!】

「のだああああああああああ!」

 司会者の勝利宣言とともに、のだー!と万歳して勝ち名乗りを上げるモリオン。かわいい。
 予選を後一つクリアすれば、決勝戦へと駒を進めることができるので頑張ってもらいたい。


 モリオンはいま、所謂『大食い大会』的なものに出場している最中だ。

 当然、こういう大会は見た目からして奴隷だと思われがちなモリオンが出場できる訳がない。
 奴隷はどこまでいっても所詮奴隷でしかないからだ。.....まぁ、モリオンは奴隷ではないけど。

 しかし、そこは俺の竜殺しとしてのコネを使ったというか、この大会を教えてくれたセシーネさんに協力してもらったというか、とりあえずモリオンを出場させてもらえることになった。

 と言うよりも、そもそもこの大会はギルドが主催している大会らしい。
 それに箔を付ける為に竜殺しである俺が招待された訳なのだが、「そういうことならば.....」と俺の代わりにモリオンに出場してもらったというのが真実だ。

 だから.....。

【さて、皆さん。ご存じでしょうか?
 他者を寄せ付けずに圧倒的な実力で勝ち進むこの奴隷の女の子。
 実は、実はー!かの有名な竜殺し様の奴隷ちゃんだったのですー!】

「のだああああああああああ!」

 このなんとも言えないマイクパフォーマンスをしている司会者の女性は、実はセシーネさんだったりする。
 改めて説明するまでもないと思うが、セシーネさんはあの色々と問題のある五十音姉妹の一人だ。

 とりあえずセシーネさんは一旦置いておくとして、改めてモリオンが俺の奴隷だと紹介されると.....。

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「おいおいおい。竜殺し様って噂のか!?そんな方が今ベルジュに来ているのか!?」」」」
「「「「さすが竜殺し様の奴隷だな!所有している奴隷も一味違うぜ!こりゃ楽しみだな!」」」」

 再び会場が割れんばかりの喚声で包まれ始めた。
 そして、あちらこちらで竜殺しについての武勇伝が語られ始めるなど、大いに盛り上がりの様相を見せている。は、恥ずかしい。

 セシーネさんの目論見通り、大会に箔を付けるという目的は間違いなく大成功だろう。

(良かったですね!セシーネさん!!俺としてはあまり大事にして欲しくはなかったけど.....)


 そんなセシーネさんの過剰な演出に困っている俺の元へ、勝者であるモリオンが嬉々として駆け寄ってくる。

「アユム!アユム!また我の勝ちなのだ!」

 その口元はあんこまみれだ。
 先程の試合で出された大福のものだろう。

「われぇぐわうしょうすぃたわいいおあのだ?」
「そうだな。優勝したらモリオンは一番えらい子になるな」

 モリオンの口元を拭きつつ、明確な目標を教えてあげる。

 落ち込んでいるモリオンに元気になってもらうには、胸を張って自慢できる何かを与えてあげればいい。
 そういう意味では、この大食い大会はまさにモリオンがモリオンらしく輝けるうってうけのものだと言えるだろう。

「我は頑張るのだ!我が頑張ったら.....、お、お姉ちゃんは許してくれるのだ?」
「主の代わりに出ておるのじゃ。当然、優勝以外は有り得ぬ。優勝することで誠意を見せよ」
「おー!我は絶対優勝するのだー!」

 ドールから出された恩赦の条件に燃えるモリオン
 妹の目にはやる気という名の炎がメラメラと確かに灯っている。これならば優勝間違いなしだろう。

「それにしても、ドールは本当に厳しいよな」
「何を言うておる。主の代わりに出ておるのじゃ。当然のことであろう?
 それに妾の妹ならばそれぐらいできてもらわねば困る。姉として妹を焚き付けるのは当然のことなのじゃ」

 厳しい中にも愛がある。
 これがドール流の妹への接し方なのだろう。

 アテナのように全力で妹を愛する奴もいれば、ドールのように姉として厳しく接する奴もいる。

 姉妹の在り方は千差万別。
 それでも、ドールとモリオンの間には確かな姉妹としての絆があるのは間違いないだろう。


 ドールとモリオンの姉妹道はまだまだ始まったばかりだ。


「ドール。お前、実はモリオンのことが好きだろ」
「知らぬ」

 そう言うドールの2本の尻尾は、今も嬉しそうにぶんぶんと激しく振られている。


(全く.....。姉も姉だな。本当に素直じゃない)


 □□□□ ~モリオンのピンチ!~ □□□□

【Winner!奴隷ちゃん!】
「のだああああああああああ!」

 再び、かわいく勝ち名乗りを上げるモリオン。
 これでモリオンの決勝戦進出は確定した。

 ちなみに、この世界に英語なんてものは存在しない。
 俺の耳にはそう聞こえるだけで、他の人には【勝者!奴隷ちゃん!】と聞こえていることだろう。所謂、ご都合主義的な自動翻訳というやつだ。

 それはさておき、この3回戦もモリオンは圧倒的だった。

 お題は『ホットドッグ』。
 歴代最高記録を叩き出す素晴らしい試合だった。

 そう、確かに素晴らしい試合だったのだが、その試合内容には問題が残った。
 それと言うのも、後半以降モリオンのペースがガクッと落ちたのだ。

 これには会場にいる大半の人が、さすがに限界か?、と思ったことだろう。
 そもそもモリオンは見た目が小さい少女にしか見えないので、むしろここまで来れたことが奇跡に近いと思われてもなんら不思議ではないからだ。

 しかし、本当の原因はというと.....。

「大丈夫か?」
「ヒリヒリするのだー」

 単なる猫舌さんだ。

 あらかじめ大量に作り置きしてあったホットドッグは、既に冷めていたので問題なく食べることができたようだが.....。
 あまりにもモリオンが食べまくるので、作り置きでは量が足らず、運営側も新たにホットドッグを作らざるを得なくなった。その結果、モリオンは温かいホットドッグに舌をやられたという訳だ。

 歴代最高記録もほぼ前半に達成したようなもので、後半だけ見ると、モリオンはむしろ最下位に近い。
 しかも決勝戦はこの後すぐに開催されるらしいので、モリオンは猫舌さんが治らないままの出場となる。

「決勝戦のお題はなんだっけ?」
「『ミートアップルパイ』じゃな」
「うわぁ.....」

 まさかのあつあつ料理が連続とは.....。

「しかも見よ。トカゲが歴代最高記録なんぞを連発するものだから、料理人が躍起になっておる」
「.....」

 ドールの指差す方向を見ると、そこに繰り広げられているのはまさに地獄。
 料理人も料理人で意地があるのか、今度こそは完食させまいと躍起になって『ミートアップルパイ』を作りまくっている。

「新しく作られたものの余熱で既に作られたものも温められておるから、
 既に作られたものもホクホクときておる。これは最初から厳しい戦いになるかもしれぬの」
「おおぅ.....」

 正直なところ、お菓子系だったら.....。
 いや、せめて熱くない食べ物がお題だったのなら、モリオンの優勝は堅かっただろう。

 しかし、こうなってしまうと.....。

「我は頑張るのだ!お姉ちゃんと約束したのだ!」
「モリオン.....」

 それでも、モリオンの意志は固い。
 コップの水に赤くなった舌をちょこんと付けつつ闘志をみなぎらせている。

「トカゲに一つ問う。.....勝ちたいか?」
「勝ちたいのだ!」
「どんな手を使ってでも勝つ気概はあるのじゃな?」
「勝ちたいのだ!」

 おいおい。どんな手でもって.....。
 頼むから違反行為はやめてくれよ?

「よく言うた!それでこそ妾の妹なのじゃ!」
「おー!我は負けないのだー!」

 ドールとモリオンの間で、バトル漫画みたいな熱い展開が繰り広げられている。
 一方、俺はハラハラしっぱなしだ。ドールの言う『手』とやらが気になって仕方がない。

「そんなトカゲに、妾から必勝の策を授けるのじゃ。これで勝利をもぎ取ってくるのじゃ!!」
「お姉ちゃん、ありがとなのだ!」

 こうして、ドールから必勝の策とやらを伝授されたモリオンは最終決戦となる決勝戦へと向かっていった。


 バトル漫画ものなら、この後決まって謎のパワーが発揮されたりするものなのだが果たして.....。
 そして、モリオンに授けたドールのいう必勝の策とは一体.....。


 猫舌さんという最大のピンチに陥ったモリオンの決勝戦がまもなく始まろうとしていた。


□□□□ ~出揃った強者達~ □□□□

 色々な意味で暗雲立ち込める中、遂に決勝戦が始まった。
 まずはセシーネさんによる出場者の紹介からスタート。

【会場の皆さん。お待たせしました。
 この大食い大会も残すは決勝戦のみ!まずは予選を勝ち進みし強者達をご紹介させて頂きます!!】

「「「「パチパチパチパチパチ」」」」
「「「「パチパチパチパチパチ」」」」
「「「「パチパチパチパチパチ」」」」

 さすが決勝戦ともなると会場を包む空気が熱い。
 ただそこに居るだけでも、熱気にあてられて汗ばんでしまう。

【まずは皆さんもご存知のこの人!
 この大会を現在4連覇中の現チャンピオンでーす!
 果たして史上初となる5連覇を達成することができるのか!?】

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「小娘どもなんかに負けたりしたら、お前の給料はカットだからな!」」」」
「「「「ははははは!こりゃあ、絶対に負けられないな?チャンピオン!!」」」」

 会場が割れんばかりの喚声と笑い声で満たされる。
 どうやらこのチャンピオンは相当人気者らしい。4連覇もしていればファンがつくのも当然か。

「どう思う?」
「まぁ、普通の人間同士の戦いならば、あやつも勝てたであろうが.....。相手が悪いの」
「だよなぁ.....」

 ごめんなさい!チャンピオンさん!
 給料カットの件、お気の毒様です!!


【続きましてー、こちらは先程ご紹介させて頂きました竜殺しさまの奴隷ちゃんでーす!
 なんと!なんとー!!ここまで全ての予選を歴代最高記録に塗り替えてきた超新生!
 このまま全ての記録を塗り替えて、新たな時代の幕開けとなることができるのか!?】

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「俺はこの嬢ちゃんに全財産を賭けたぜ!きっとやってくれるはずだ!」」」」
「「「「新たな伝説の証人となれるかもしれないんだよな!?わくわくする!」」」」

 会場がドーンと割れんばかりの喚声で満たされる。先程よりも異様な熱気だ。
 それほどモリオンに、夢を、期待を馳せている人が多いということだろう。なんだかちょっと嬉しい。

「何をにやついておるのじゃ?」
「なんだか嬉しくてさ。モリオンがみんなからここまで応援されているのを見ると」
「うむ。主の気持ち、わからぬでもないな。妾もトカゲの姉として誇らしいのじゃ」

 おぉ!意外と素直!!
 本当にモリオンのことを妹として好きなんだろうな。


【さてさてー、最後のご紹介となりまーす!こちらもなんと女の子でーす!
 ここまで一度も手を止めることもなく、ただひたすら食べ続けてきたダークホース!!
 果たして私のものになってくれるのか!?.....あ、違った。果たして大穴となれるのか!?】

「「「「てめぇ!ふざけてんじゃねぇぞ!司会者ぁぁ!その子は俺の嫁だ!!」」」」
「「「「ばっかやろうぉぉ!俺の嫁に決まってんだろぉ!?ぶっとばすぞ!!」」」」
「「「「お前らなんか豚とでも結婚してろやぁ!あの子は俺がもらうんだ!!」」」」

 会場が割れんばかりの下品な罵声で満たされる。
 モリオンの時とはまた違う別の意味で異様な熱気だ。最悪だ、最悪すぎる.....。

「「はぁ.....」」

 いや、確かに予選を勝ち抜いたのだから出る資格はあるだろうが.....。
 ここまで酷くなるようなら、敢えて出場停止も視野に入れるべきではないだろうか。


 観客同士の罵声が四方八方に飛び交う中、遂に強者達による戦いが始まった。


□□□□ ~勝利をもぎ取れ!モリオン!!~ □□□□

 セシーネさんの合図とともに始まった『ミートアップルパイ』勝負。
 やはりドールが指摘した通り、出されるミートアップルパイ一つ一つがモクモクと湯気を立てている。

 と言うか、あの異様な湯気.....。
 猫舌さんではなくとも苦労させられそうな熱さではないだろうか。

「そうであろうな。チャンピオンとやらも苦戦しておるようじゃ」
「うわぁ.....」

 確かにチャンピオンも苦戦しているようだ。
 まるで激辛料理を食べているような大粒の汗を滝のようにだらだらと流している。

 これには料理人もにっこり。
 むしろ、ほくそ笑んでいるようにも見える。悪い顔してるなぁ.....。


 一方、モリオンはというと───。

「あち.....あち.....あち.....なのだ」

 苦戦してはいるものの、チャンピオン程ではない。
 ミートアップルパイに苦労していると言うよりかは、先程のホットドッグの時にできた後遺症猫舌さんによるものだろう。

「うむ!妾の作戦通り!今のうちに差を広げるのじゃ!!」
「.....」

 己の作戦が当たり、意気込むドール。

 確かに作戦は見事なものだと言える。
 事実、モリオンはあつあつミートアップルパイをバクバクと事も無げに食べているのだから。

 ただ.....これはどうなんだろう?

 これには料理人もあんぐり。
 むしろ怒っているようにも見える。す、すいません。うちの子達が本当に.....。

 料理人が怒る気持ちは十分に理解できる。
 仮に俺が料理人だったとしたら、激怒していることだろう。もしかしたら二度と作ってあげないまでもある。

 では、モリオンが何をしているかというと.....。

「おかわりなのだ!.....水も追加なのだ!」
「お、お待たせしました」

───バシャ!

 追加されたミートアップルパイに、これまた追加された水を豪快にぶち撒けるモリオン。
 豪快に水をかぶったミートアップルパイは既にびちゃびちゃだ。

【.....】

「「「「.....」」」」
「「「「.....」」」」
「「「「.....」」」」

「.....」

 これには俺だけではなく、会場にいる観客達もドン引きだ。
 ついでに言うのなら、司会者であるセシーネさんも言葉を失っている。

 まさに水を浴びせられた気分だ。水だけに。.....なんちって!


「あち.....あち.....あち.....おかわりなのだ!.....水もなのだ!」
「ほれ!トカゲ!頑張るのじゃ!もう少しの辛抱なのじゃ!!」

「.....」

 そんな周囲のドン引きをよそに、美しい姉妹愛がドールとモリオンの間で交わされる。
 勝つためには手段を選ばないドールらしい策と言えば策なのだが、これでは.....。

「お、おい!俺も水の追加だ!!」

 チャンピオンから水の追加が希望される。
 当たり前のことだが、モリオンの行動を見ての後追いである。

「ふん!それも想定済み!今さら遅いのじゃ!
 一度出来た差を容易に覆せるとは思わぬことじゃな!」
「あち.....あち.....あち.....さ、さすがお姉ちゃんなのだ!すごいのだ!」

「.....」

 どうやらこれも想定済みらしいです。
 ドールさんはどこまで見通しているのでしょうか。

【.....】

「「「「.....」」」」
「「「「.....」」」」
「「「「.....」」」」

 結局、司会者並びに観客がドン引きする中、チャンピオンもミートアップルパイに水をぶち撒けるという前代未聞となった決勝戦は、その後も泥沼ならぬ水沼の様相を呈していった。


───30分後。


【ターイムアッープ!そこまで!】

 セシーネさんの宣言により、このなにがなんだかわからない決勝戦もようやく終わりを迎えた。
 結局、最後の最後まで水沼の戦いだったことは今さら言うまでもないだろう。

 そしてそれは、結果として如実に表れている。

「「「「パチ.....パチ.....パチ」」」」

 選手の健闘を称える拍手が少ないばかりか、観客の数が明らかに減っている。
 チャンピオンも水をぶち撒けるという行為に、多くの人が呆れて帰ってしまったのだろう。

 結局、セシーネさんの目論見は大きく外れ、大会に箔を付けるどころか味噌を付けてしまう結果になってしまった。本当に申し訳ない。

 しかし、それはそれ。
 勝負をした以上は当然ながら勝敗が着くのは自然の流れ。

 セシーネさんより、勝者の宣言が待たれる。

「くふふ。チャンピオンも頑張ったみたいだがの。いかんせん、最初の差が大きかったのぅ」
「さいですか.....」

 ドールの言う通り、最初から水をぶち撒けていたモリオンのほうがチャンピオンよりもわずかながら食べた量が多い。
 猫舌さんの影響がなければ、本来ならモリオンが圧勝だったのだろうが、今回はドールの策に救われた形となった。

【皆さん、お待たせしました!
 今回の大食い大会の映えある優勝者は.....】

───ドロドロドロドロドロ

 どこにいた!?

 そう思わず、ツッコミたくなるような演奏隊の太鼓がけたたましく打ち鳴らされる。

「「「「.....」」」」
「「.....」」

 わずかに残った観客と俺とドールが、セシーネさんのコールを固唾を飲んで見守る。




・・・。





 そして、遂にセシーネさんの口から優勝者の名が告げられた。

【今回の映えある優勝者は.....『アテナ』ちゃんでーす!】
「どもどもー!まー、当然だよねー!あーははははは( ´∀` )」

 さも当たり前のように勝ち名乗りを上げるアテナ。
 ドヤッている顔は小憎たらしいが、かわいいから許してあげよう。

「「「「アテナちゃーん!愛してるー!おめでとー!」」」」

 そして、アテナの勝ち名乗りに呼応するかのように喚声を上げる観客一同。

 この時は全く知らなかったのだが、後にセシーネさんから聞いたところによると.....。
 この観客達は大食い大会を見に来た観客ではなく、アテナを見に来た観客だったらしい。つまりはアテナの追っかけということだ。

「お姉ちゃん、ごめんなさいなのだ.....」
「気にするでない。姉さまが相手では仕方がない。トカゲはよく頑張ったのじゃ」

 謝るモリオンに、よしよしと頭をなでて励ますドール。
 元から既にモリオンを許してはいたのだろう。

 ただ、モリオンがいくらアテナに負けると分かっていても、簡単に負けさせないあたりがいかにも負けず嫌いなドールらしい。
 そして、見事それに応えたモリオンもまたお姉ちゃん想いのいい妹だと言えよう。まぁ、本人は本当にアテナに勝つ気でいたのだろうが.....。

「やっぱり厳しかったようだな」
「姉さまが相手なら仕方あるまい。
 トカゲなら或いは姉さまに一矢報いれるかとも思うたのじゃがな」

 ドールの本当の狙いは優勝することではなかった。
 勝負事になると無敗を誇るアテナに一矢を報いることだった。

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「主の代わりに出ておるのじゃ。当然、優勝以外は有り得ぬ。優勝することで誠意を見せよ」

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 しかし、それが自分では難しいからこそ、可能性のあったモリオンにその想いを託そうと敢えて厳しい条件を課していた訳だ。

 とは言え、ドールの想いを託されたモリオンですらも(しかも得意な大食いで!)、アテナには敵わなかった訳なのだが.....。

「私に勝とうなんて10000年はーやいよー!あーははははは( ´∀` )」
「ぐ、ぐぬぬ!トカゲ!今度こそ姉さまを叩きのめすのじゃ!!」
「おー!我も頑張るのだ!今度こそ負けないのだ!」

 アテナのやっすい挑発に、闘志を燃やすドールとモリオン。
 この世の全てにおける最強の運を有するアテナに二人が勝てる日は来るのだろうか.....。

 何はともあれ、モリオンが元気になったことはいいことだ。
 これで再び、楽しい観光旅行に戻ることができる。


 そう思っていた矢先、俺の元に緊急事態が舞い込んでくることになった───。


(7日分の取得品)

①大食い大会の優勝賞品  (↑5,000,000ルクア)
②大食い大会の準優勝賞品 (↑3,000,000ルクア)
③7日分の観光旅費    (↓15,000,000ルクア)

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『アテナ』 レベル:3 危険度:極小

種族:女神
年齢:ーーー
性別:♀

職業:女神
称号:智慧の女神

体力:50
魔力:50
筋力:50
耐久:50
敏捷:50

装備:殺戮の斧

女神ポイント:356,540【↑8,400】(7日分)

【一言】実力や才能じゃないのー!運が全てなんだよー┐(´ー`)┌
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アユムの所持金:3,844,702,200ルクア【↓7,000,000】(7日分)
冒険者のランク:SS(クリア回数:14回)

このお話の歩数:約238,000歩(7日分)
ここまでの歩数:約49,263,200歩
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『アユム・マイニチ』 レベル:9925【↑24】

種族:人間
年齢:26
性別:♂

職業:凡人
称号:女神の付き人/竜殺しドラゴンスレイヤー
所有:ヘリオドール/ねこみ/ねここ

体力:9935(+9925)【↑24】
魔力:9901(+9925)【↑24】
筋力:9930(+9925)【↑24】
耐久:9930(+9925)【↑24】
敏捷:12385(+12325)【↑24】

装備:竜墜の剣ドラゴンキラー(敏捷+2400)

技能:言語理解/ステータス/詠唱省略

Lv.1:初級光魔法/初級闇魔法

Lv.2:浄化魔法

Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知/隠密
   偽造/捜索/吸収/治癒魔法/共有
   初級火魔法/初級水魔法/初級風魔法
   初級土魔法/ 物理耐性/魔法耐性
   状態異常耐性

Lv.4:初級風魔法 (※『竜墜の剣』装備時のみ)

共有:アイテムボックスLv.3
   パーティー編成Lv.3
   ダンジョンマップLv.3
   検査Lv.3
   造形魔法Lv.3
   奴隷契約Lv.3

加護:『ウォーキング』Lv.9925 5420/9926
   『NTR』   Lv.3538 2974/3539
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後書き

次回、本編『緊急事態』!

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