歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

特別編 はじめての初詣!①


新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

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新年ver.特別編は長くなりましたので、2つに分けることにしました。

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□□□□ ~新年最初の課題~ □□□□

聞き込みに散々苦労したサプライズクリスマスも、ただ単にトナカイにソリを引かせるサンタさんごっこをしたかっただけという、まさかの結末で終わることとなった悪夢のような昨年。
結局、最初から最後までアテナに振り回されただけの一年だった。

とは言っても、アテナ達に出会えた良年でもあったのだが.....。


(意外と楽しかったし、別にいいんだけどさ?トナカイの衣装もクオリティー高かったしな!)


・・・。


2xxx年1月1日。

悪夢のような昨年も今となってはいい思い出だ。
新年を迎えた以上、心新たに今年も頑張っていこうと思う。

さて、心機一転したところで、俺にはやらなければならないことがある。
その最初に挑む課題なのだが、

───こんこん

「.....」

返事がない。
どうやら寝ているようだ。

───キィ

なるべく音をたてないように、そっと部屋のドアを開ける。
開いたわずかの間に体を滑り込ませ、中の住人に気付かれることなく無事侵入することに成功した。

部屋の中は薄暗く、シーンと静まり返っている。
当然のことながら、聞こえてくるのは中の住人の寝息のみ。

「うぅ。さ、寒いな.....」

襲いかかってくる凍てつく冷気。
もう若くない体が、体の節々が、悲鳴を上げ始めた。

冬という時期なのだから仕方がないが、やはり厳しいものがある。
早くこたつにダイビングしたいものだ。

───つつつ

中の住人に気付かれないように、暗殺者の如く静かに、だが確実にベッドに忍び寄る。

凍てつく冷気は確かに体に厳しいものだが、それがかえって興奮、いや、逸る気持ちを抑えてくれている。
今の俺は、1km先の住人の会話でさえ聞こえてきそうなほど神経が研ぎ澄まされている.....はず!

事実、耳を澄ませてみると愛しい人達の話し声が聞こえてくる。

「さ、昨夜はすごかったですね.....。まさかニケ様もあんなになられるとは驚きました」
「ちょっ!?わ、忘れなさい!.....それにしても、ラズリの言う通りあんな情熱的な歩様は久しぶりでした」
「ですよね~。いつもの優しいアユムさんもいいですが、昨夜のアユムさんも素敵でした」
「ふふっ。ニューイヤーベイビーというのも悪くはないですよね」

なんの話をしてんだよっ!?
新年!新年!

恥ずかしいので幻聴ということにしておく。
とりあえず、俺は今年最初の日課もとい課題を果たそうと思う。

ベッドを覗き込むと4つの影。

一つは、妹に抱き着いて至高のもふもふを堪能しつつ、だらしなくよだれを垂らしながら寝ている影。
一つは、姉に抱かれ鬱陶しそうにしているものの、実は尻尾を姉の腕に巻きつけ喜んで寝ている影。
一つは、妹の大きな尻尾に包まれつつ、どこかホッと安心したような表情でやすらかに寝ている影。
一つは、器用に自身の大きな尻尾にかじりつき、ビクッと体を震わすも幸せそうな表情で寝ている影。

それぞれ色々とツッコミたい部分は多々あるも、その寝顔はまさに天使の如し。
ずっと見ていても飽きない。.....にやにやが止まらんっ!

というよりか、ここはやはりカメラに残しておくべきだろう。
お題はこうだ。『新年に舞い降りた天使達』

(うん、いいね。すごくいい!)

興奮した俺は.....いや、違う。
親心満載な俺は早速スマホを取りだし、

───カシャ
───カシャ
───カシャ

激写!激写!激写!

この爽快感。いつもよりもどこか心が満たされる。
新たな1年を迎えるにあたり、最高の出だしだと言ってもいいだろう。

興奮を抑えきれない俺は再びスマホで天使達の寝顔を撮り始める。

───カシャ

「いいね、いいね~。
 やっぱりヘリオはカメラ映えするよ。最高にかわいいぞ」

俺のその言葉に、被写体であるヘリオの耳がピクピクと動く。
姉の腕に巻き付けていた尻尾も今は嬉しそうに優雅に振られている。

明らかに起きていることは明白だが、それでも一向に起きてはこない。
これもいつものことだが、ヘリオなりのサービス心ということだろう。.....かわいいやつだ。

恐らくだが、俺が部屋に侵入した時点で既に目を覚ましていたのだろう。
ヘリオの生い立ちから、物音や気配にとても敏感な性分なので、もともと気付かれずに侵入することなど不可能なのだ。

・・・。

ヘリオの好意に甘えて存分に撮ったところで被写体を変更する。
尻尾が悲しそうにシュンとなるヘリオに思わず吹き出しそうになるが、俺にも時間的猶予がないので仕方がない。

───カシャ

「その安心したような顔はたまらないな~。
 こう保護欲を掻き立てられるというか.....。すごくいい!」

俺の視線の先にいるのはヘカテー様だ。
妹の大きな尻尾に包まれ、まるで「私は一人じゃない」とでも言いたげなとても安心しきった表情をしている。

ヘカテー様もヘリオ同様、物音や気配にはとても敏感な性分だが起きている様子はない。
いつもはお利口さんでしっかり者なヘカテー様も、寝ている時は.....いや、妹の大きな尻尾に包まれている時は甘えん坊さんになってしまうようだ。

女神であるヘカテー様の生い立ちは特殊なもので、それが原因で常に寂しがり屋だった。
しかし、なんやかんやあって全て解決したものの、それ以降もどこか不安になるのか睡眠時はこうして無意識に温もりを求めるようになっている、どこまでも健気な女神様だ。

・・・。

ヘカテー様の健気さにすっかり保護欲を掻き立てられたところで更に被写体を変更する。
俺がヘカテー様に夢中になったのがよほど気に喰わないのか、尻尾をバシバシと打ち付けて不満を主張するヘリオ。
気持ちはわかるが、時間的猶予がないので我慢してもらいたい。

───カシャ

「モリオンは本当に幸せそうな表情をするよな。
 無垢という言葉はまさにモリオンの為にある言葉だ」

俺の言葉に反応しているのか、していないのか、自身の大きな尻尾をハムハムとかじりついている。
そして、どんな夢を見ているのかはっきりとわかるその幸せそうな表情は癒しそのものだ。

モリオンはその強さも相まってか、物音や気配にはとても鈍感な性分なので当然起きていることはない。
むしろ痛いのかなんなのかわからないが、大きな尻尾をかじっている最中にたまにビクッと体を震わすその光景も俺の口角を緩めている一因だ。

さて、気になるモリオンの生い立ちはまさに俺の教育の賜物というべきだろう。
多少暴食.....いや、かなりの暴食ではあるが、とても素直ないい子に育った。
別の言い方をするならば、俺色に完全に染まった将来が楽しみな子になっている。.....俺よりも年上だけど。

・・・。

ここまで3人の天使を激写してきたが、残った天使はあと1人のみとなった。
当然、残っているのはみんなご存知、駄女神ことアテナだ。

アテナの様子を窺うと、いまだに起きる様子はない。
相変わらず、よだれを垂らしてだらしなく気持ち良さそうに寝ている。
と言うよりも、起こさなかったらこのまま寝続けていそうな雰囲気さえある。

「.....」
「.....ぐへへ。.....(^-ω-^)Zzz」

そして、非常に気持ち悪い。

寝顔は天使のようにかわいいのに、どうしてもシャッターを押す指が動かない。
こんな汚物もとい駄女神は、俺のコレクションに追加したくないのだと本能が訴えかけてきているに違いない。

「.....アテナはいいや」
「.....くすっ」

俺の反応に、寝ているはずのヘリオが思わず吹き出してしまったようだ。

さすがに笑ってしまった以上、もう起きてもいいのでは?と思うが、頑なに寝たふりを継続するみたいだ。
俺に起こしてもらうまでは意地でも寝ているつもりなのだろう。


何はともあれ、これが俺の日課であり、今年最初にやらなければならない大事な課題だ。
子供逹の成長の記録とでも言うべきか、欠かすことのできない大切な習慣の一つである。


ちなみに、スマホの待ち受け画面は強制的にニケさんとラピスさんにさせられている。


□□□□ ~初詣part.1~ □□□□

朝食後、みんなで初詣をすべく、とある有名な厄除け大師へとやってきた。
別にどこでもいいのだが、昔から初詣はここに来ているので、今年もここでいいや、という訳だ。

早速お参りすべく境内を歩いていると、周囲の視線をもれなく集めていることに気付く。
言うまでもないと思うが、視線を集めているのは俺ではない。.....いや、別の意味で集めているかもしれないが。

当然注目の的となっているのは、俺と連れ添って歩いている女性陣だ。
普段、私服でも飛び抜けた容姿を持つ女性陣が、今は初詣のために振り袖を羽織っているのだ。これで注目されないはずがない。

例えるなら、有名なタレントが変装もせず堂々と参拝にきたようなものか。

「なんか私達.....注目されています?」
「.....」

周囲の視線に多少困惑気味のラピスさん。
一方、ニケさんは明らかに不快な表情を浮かべている。

「まぁ、ラピスさんもニケさんも飛び抜けて美しいですからね。
 興味の対象となっても仕方がないでしょう」

ラピスさんの美貌は言わずもがな、ニケさんの容姿もそのへんの有象無象を遥かに凌ぐものだ。
現代日本の一線級アイドルぐらいだと言えばわかりやすいだろう。.....ラピスさんはそれ以上だけど。

「そ、そうですか.....。このまとわりつくような気持ち悪い視線はあまり好きではないですね」
「.....私はハッキリ言って不快です。この姿は歩様だけが見てもいいものです」

それぞれ反応は違うものの、困っていることは確かだ。

だから、さりげなく二人と手を繋ぐ。
ラピスさんの心配を和らげる為に。
ニケさんが暴走しださないようにする為に。

「ありがとうございます、アユムさん。この手、絶対に離さないでくださいね?」
「ありがとうございます、歩様。.....ですが、出来れば恋人繋ぎをお願いします」

俺の積極的かつ自発的な行動に素直に微笑むラピスさん。
赤面しつつ、かつての約束を律儀に守っているニケさん。
またもやそれぞれ反応が違うものの、概ね良好なことは確かだろう。

さて、大人組はこれでいいとして、問題の子供組を見てみると.....。

「なんかいい匂いがするのだ」
「ねー!おいしそうなものがいーっぱい( ´∀` )」

屋台に興味津々な『視線よりも団子組』モリオンとアテナと、

「モーちゃん!屋台はお参りが終わってからって言われたでしょー!」
「姉さま、いい加減にするのじゃ。一番上の姉としての自覚を持たんか」

妹と姉の世話に大忙しな『視線よりも面倒見組』ヘカテー様とヘリオにすっかりと分かれていた。

子供組は、大人組と違って周囲の視線には興味ないようなので、このままでも大丈夫だろう。
仮に子供組に手を出す不届き者がいたとしても、ニケさんによって存在自体が消滅してしまうだろうから問題ない。

・・・。

早速、各自に賽銭用500円玉を渡してお参りを始める。

今年は誰も厄年はいないので厄除けはスルーだ。
と言うか、女神様にはそもそも必要ないような気もするが.....。

───チャリン
───ぱんぱん

「アルテミス様お願いします。
 どうかアユムさんの赤ちゃんを授かりますように.....」

最初にお願いをしたのはラピスさんだ。
内容は、まぁ、うん。頑張ります。

(.....と言うか、声に出すなって!恥ずかしいから!!)


───チャリン
───ぱんぱん

「アフロディーテ様お願いします。
 どうか歩様がもう一度私だけを見てくれますように.....」

次にお願いをしたのはニケさんだ。
内容は、まぁ、うん。わかってた。

(.....と言うか、まだ気にしてるの!?どないせいっちゅうねん!!)


ツッコミも一段落したところで、大人組に続いて子供組も続々とお参りを始める。

トップはアテナで、『お金持ちになりたい』という俗な願いだった。
しかもこの駄女神、ちゃっかりと賽銭用の500円玉をがめるというおまけ付きで。

次にお参りしたヘリオは、『主の子を孕みたい』というラピスさんとモロ被りな内容だった。
今年はヘリオにとっても重要な1年となるだけに、お祈りするその姿には鬼気迫るなにかを感じる。

そして一番大変だったのが、この後に続いたモリオンだ。

───チャリン
───ぱんぱん

「お腹いっぱい食べたいのだ!」
「だめ、だめ。ちゃんと神様を言わないと」
「そうだったのだ!ありがとうなのだー!」

のだー!と元気いっぱいなモリオンに再び500円玉を渡す。

───チャリン
───ぱんぱん

「神様お願いしますなのだ。我はお腹いっぱい食べたいのだ」
「待て。待て。神様じゃなくて、名前を言わないと.....」
「そうなのだ?.....でも、我は神様の名前を知らないのだ。どうすればいいのだ?」

なるほど。これは盲点だった。

そもそも食べ物関連の神様って誰だろう。
狩猟の女神であるアルテミス様だろうか。
家庭の女神であるヘスティア様だろうか。

仮にアルテミス様だとしたら負担が大きいのではないだろうか。
既にラピスさんとヘリオの願いを伝えてある訳だし。.....かと言って、ヘスティア様だと伝わるかどうか。

そんな感じで俺が悩んでいると、

「モーちゃん。私が一緒にお願いしてあげるー☆」
「え?いいんですか?」
「うんー!いいよー☆」
「お姉ちゃん、ありがとうなのだー!」

ヘカテー様が、まさに姉の鑑とも言える提案をしてきた。

(本当にええ子や!どこかの500円玉をがめるような自称姉とは大違いだ!)

そして、このように感じたのは俺だけではなかった。
周囲の人々も俺同様、ヘカテー様とモリオンのやりとりに美しい姉妹愛を感じたようだ。

「じゃー、私の後に続いてねー!」
「わかったのだー!」

───チャリン
───ぱんぱん

「ヘス姉お願ーい☆」
「ヘス姉お願いなのだー!」

「待て待て待て!.....え?いいの?それ?
 ヘカテー様はいいとして、モリオンがヘス姉はマズいんじゃ.....」

ヘカテー様は女神だから当然問題ないだろうが、女神ではないモリオンがヘス姉呼びはさすがに馴れ馴れしすぎる。
ヘスティア様自体がおっとりしている女神様ではあるが、それでも不敬もいいところだろう。

「大丈夫だよー。どうせヘス姉は寝てるだろうからー」
「お参りしても意味ないんじゃ!?」
「いいのー、いいのー。いくよー!モーちゃん!」
「なのだー!」

俺の懸念を無視して、再び二人のちびっこが元気よくお参りを始めた。

───チャリン
───ぱんぱん

「ヘス姉お願ーい☆」
「ヘス姉お願いなのだー!」
「お腹いっぱい食べられますようにー☆」
「お腹いっぱい食べられますようになのだー!」

むしろ元気が良すぎて声が大きい。
もしかしたら寝ているヘスティア様を起こしかねない元気良さだ。

そして、

───パチパチパチパチ
───パチパチパチパチ

周囲から沸き起こる歓声。
いつの間にか周りの人々も、ヘカテー様とモリオンを我が子、我が孫のように温かい目で見守っていたらしい。


愛され系キャラは、どんな国でも、どんな状況でも、誰からでも愛される。


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後書き

次回、新年ver.特別編②!

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