歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

閑話 再びの責任放棄!


前回の閑話までのあらすじ

その場しのぎの口から出任せで事態の終息をはかった。

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閑話 再びの神の気まぐれ!の続きとなります。
時期的には、アルテミスが二度目の降臨を果たす頃合いです。

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□□□□ ~種火~ □□□□

side -デメテル-

なんて愚かな妹なんだろう。
そう思わざるを得ない。

アルテミスが神界に戻ってきてすぐ、予想した通りの展開が起こってしまった。
私はあらかじめ関わらないことをニケさんに伝えていた為、何かをするつもりは一切ない。
と言うよりも、私の力では何もできないし、したらしたで何か累が及びそうで怖い。

そして、結果も予想した通りのものだった。

根が単純なニケさんは、アルテミスの口から出任せにやはり言いくるめられてしまった。
この二人、水と油だけに相性が悪い。女神仲が、ではなく性格的なものが。力はともかく、口ではニケさんはアルテミスには敵わないだろう。

そこまではいい、そこまではいいのだけれども.....。

「安心しておくれ。あたしはニケちゃんの味方さ。だから、今後は絶対にしないと約束するよ」
「アルテミス様!.....感謝します!!.....感謝します!!!
 この命尽きるまで、アテナ様とアルテミス様はどんな脅威からもこのニケが必ずお守り致します!」

「.....」

アルテミスは気安く約束してしまったようだが、これはさすがにマズいと思う。

そんなアルテミスはしてやったりの表情。
もしかしたら、あわよくばニケさんの力を利用しようとも考えているかもしれない。

なんて愚かな妹なんだろう。
そう思わざるを得ない。

きっとアルテミスは知らないのだろう。
ニケさんにとって約束とはどういうものなのかを.....。


以前、私はアテナさんにこんなことを訊ねてみたことがある。

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「.....仕事順調?」
「やっほー!デメテルお姉ちゃーん( ´∀` ) 
 仕事はニケが全部やってくれてるからだいじょぶだよー!」
「.....二人は仲良いの?」
「んー(。´・ω・)?」

「.....?.....良くないの?」
「よくわかんなーい。でもー、私はニケのこと好きだよー!」
「.....好きなら仲が良いんじゃないの?」
「んー。持ちつ持たれつってやつー(。´・ω・)?」

「.....持ちつ持たれつ?」
「うんー。ニケに足りないところを私が補う約束をしてるんだー。
 そのかわりにー、私の仕事はぜーんぶニケにやってもらう約束なんだよー(・ω・´*)」
「.....つまりお互いに約束を守っているだけ?」
「そだねー。でもー、私はニケのこと好きだよー!」
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アテナさんとニケさんがお互いをどう思っているのかは知らないけれど、良きビジネスパートナーとしての信頼関係は築けている。
つまりそこには間違いなく、お互いを信じる『信頼』と約束を守る『誠実』さが存在している。


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ちなみに、ニケさんに足りないところとは所謂『知』の部分になる。

ニケさんは良い意味でも悪い意味でもマニュアル女神。マニュアルに沿った行動が基本の女神になる。
だから管理の仕事とかのようなマニュアルにあるものならば、それこそ機械のように寸分違わず完璧な仕事を行ってくれる。

一方、ニケさんの別の仕事となる神に仇なす勢力の一掃などは、相手次第では苦戦もありえる。
いや、力に於いてニケさんに敵う外敵はいないけれども、それでも翻弄されてしまうことはしばしばある。(神界速報談)
相性の問題と言えばいいのか、『剛』のニケさんに対して『柔』の相手の場合はその傾向が強い。

そこで出番となるのが智慧の女神でもあり、戦争もとい戦略の女神でもあるアテナさん。
普段はほけっ~としている末の妹だけれども、そっち関連の知識は確からしい。(憎き父談)

そういう訳で、ニケさんのお仕事をアテナさんが手伝うことも結構ある。
この二人は個々として見てもすごいけれど、組んだ時が一番真価が発揮されるタイプだと思う。

閑話休題。

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話が脱線してしまったが、つまりニケさんにとっての『約束』とは、『信頼』と『誠実』の象徴になる。
それを踏まえた上で、妹のアルテミスを見てみると.....。

『信頼』の欠片はなく、ましてや『誠実』とは真逆の女神になる。

(.....きっと約束もその場しのぎ。.....少し経つと忘れているに決まっている)

これがわかっているからこそ、私はアルテミスが気安く約束している件をマズいと思った。
『約束』などというアルテミスには似合わない行為をした時点で、後々必ずトラブルになることは間違いないのだから.....。

「ニケちゃんは純粋だねぇwアユムッチとお似合いな訳だ」
「あ、歩様とお似合いだなんて.....。ほ、本当のことでも照れてしまいます///」
「.....」
「ひぃぃぃぃぃwは、腹が痛いぃぃぃぃぃwあひゃひゃひゃひゃひゃw」

アルテミスの笑いが、嘲笑が部屋にこだまする。

(.....はぁ。.....この妹はどうしてこうも毎回厄介事を運んでくるのか・・・)


私はアルテミスがゲラゲラ笑っているのを横目に、この後に必ず起こるであろう問題事も責任を放棄しようと固く決意した。


□□□□ ~価値観~ □□□□

疑いを晴らしたアルテミスを交えて、再びアテナさんの異世界旅行を鑑賞し始めた。

一度降臨したことのあるアルテミスは如何に下界が素晴らしいのかをとても饒舌に話すので、それを聞いている私とニケさんはとても羨ましく思っていたのは言うまでない。
ニケさんは恐らく彼氏との逢瀬を想像し、私はイアシオンとの明るい逃亡生活を想像して.....。

そんな感じで妄想に浸っていたら、

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「今なら何でもできそうだ!」
「やや!?そ、その絶技は!!」

「力だ!もっと力が欲しい!!もっと.....、もっと.....、もっと力を寄越せ!!!」
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時の水晶の向こう側ではただならぬことが起きていた。

アルテミスが用意した神の試練に、ニケさんの彼氏が苦戦しているのは見ていて知っていた。
しかしアルテミスが言うには、ニケさんの彼氏が連れている獣人の力を借りれば対等に戦えるとのこと。

なので、いつそれに気付けるかがこの試練の重要なポイントみたいだけど.....。

「.....やばくない?」

非戦闘系の神である私でも明らかに異様であることがわかるぐらいに、ニケさんの彼氏の様子がおかしい。
まるで気が触れたかのように人が変わってしまっている。目の焦点も合っていないし、正直ちょっと怖い。

「あちゃ~。確かにやばいね。アユムッチは完全に力に溺れているよ」
「歩様.....」

どうやら私が感じた違和感は正しかったみたいだ。

時の水晶を見つめるアルテミスとニケさんも不安な表情を見せている。
いや、アルテミスはなにかを期待しているようにも見える.....。この妹は全く.....。

そして、

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「危険です!危険ですぞ!その絶技だけは絶対に使ってはいけません!それを使ってしまうと.....!」
「これが俺の力だああああああああああ!サンドストーーーーーーーーーーム!」
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ニケさんの彼氏が叫んだと同時に顔色が一気に青白くなり、体全体から生気が抜けていくのが見えた。
その後は出来の悪い操り人形の如く、まるで糸が切れてしまったかのようにゆっくりと倒れていく姿が.....。

「.....」
「.....」
「.....」

事の顛末に押し黙る私達。
時の水晶の向こう側のアテナさんや獣人、ペットも同様な状況になっている。

・・・。

静寂がこの場を支配するも、その状況が長く続くことはなかった。
悪戯好きのアルテミスにとって、こんな面白いシーンを見逃すはずがないのだから.....。

「うん。これは死んだね、間違いなく。アユムッチは確実に死んだ。
 いや~、人間ってのは本当に呆気ないもんだね~。あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「い、いやあああああああああああああああ!歩様あああああああああああああああ!」

アルテミスのあまりにも無神経な一言で、ニケさんがその場で泣き崩れてしまった。
確かにアルテミスの言う通り、間違いなく死んでいるとは思う。でも、ものには言いようが.....。

「歩様あああああああああああああああ!歩様あああああああああああああああ!」

私は泣き崩れているニケさんに寄り添い慰める。

愛しい人を、仮に私の場合イアシオンが死んでしまったらと考えると、ニケさんの気持ちは凄くわかる。
凄くわかるからこそ、ニケさんを見てにやにやしているアルテミスには憤りを感じるどころか呆れてしまう。

私には薄々とだけどわかる。
これがアルテミスの仕組んだ悪戯の一環であるということが.....。

正直なところ、ニケさんの彼氏であろうと人間の生き死にになど関心はない。
これは私だけではなく、ほとんどの神がそうだと思う。
ニケさんも彼氏だから悲しいのであって、そうでなければ気にもしないだろう。

人間の例で例えるなら、そこらの毛虫が死んだところで気にもしないのと一緒だ。
つまり私達神にとって、人間とはその程度の価値でしかない。

だから、大体の神が人間になど関心を持たないのが普通なのだが、このアルテミスは違う。
面白いのであれば人間の生死すらもおもちゃにしてしまうのが、このアルテミスという妹なのだ。

だから私は、

「.....ニケさん、大丈夫」
「デ、デメテル様?」
「.....ニケさんの彼氏はなんとかなるはず」
「ほ、本当ですか!?」

確信を持ってニケさんを慰めることにした。

これには自信がある。
アルテミスは非常に悪戯好き故に、おもちゃの対象となった彼氏をみすみす死なせる訳がない。
そもそも死なせてしまったのでは悪戯が成立しないから。アルテミス自身が面白くなれないから。

きっと、こういう筋書きなのだろう。

彼氏死す!

ニケさん悲しむ。

実は死ななかった。

ニケさんビックリ!

なんとも単純で悪趣味な悪戯だが、人の、神の感情の変化を目の当たりにできる絶好のチャンスにもなる。
アルテミスにしてみればニケさんも彼氏も第三者扱いなのだろうから、端から見る分には面白いのだろう。

「はぁ.....。デメテルやめておくれよ。ネタばらしなんてされたら面白くなくなるじゃないか」
「.....悪趣味」

「だったらあたしを楽しませておくれよ。つまらない日々が悪いんだからさ」
「.....神だから仕方ない」

「そうかい。なんであたしは神なんかに生まれちまったんだろうね~。
 これなら人間のほうがよっぽど面白そうだよ」
「.....知らない」

アルテミスが退屈かどうかに興味はない。
ただ、私に迷惑をかけないでくれたらそれでいい。

「.....あっ!もしかして、そういうことなのですか!?」
「気付くの遅いよ~、ニケちゃんは。あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「.....ん」

そんな私とアルテミスのやり取りを見ていたニケさんは、ここにきてようやくアルテミスの悪戯だと気付いたらしい。
怒るかと思いきや、彼氏が無事だとわかったことが嬉しくてホッと一安心しているようだ。.....一応、怒ったほうがいいと思う。


結局、アルテミスのちょっとした悪戯ならぬ、仕返しでニケさんがあたふたするだけのことだった。


□□□□ ~まさかの展開~ □□□□

アルテミスの悪戯騒動からしばらくして、再びアルテミスが降臨していった。

「アルテミス様が羨ましいです。私も早く歩様のお側に行きたいです」
「.....次会える」

時の水晶を見つめ、ポツリッと心情を吐露したニケさんの想いは切実だ。
今まさに乙女の顔になっている。気軽に会えないことが余計想いを募らせているようだ。

さて、アルテミスはと言うと、こちらはこちらで前回とは違っておもてなしは完璧なようだ。
まさに至れり尽くせり。アルテミスの好きなことをふんだんに用意したことがよくわかる内容になっている。

「.....ニケさんの彼氏頑張ってる」
「はい。私に会うためにあんなにも頑張って頂けるなんて.....。とても嬉しいです」
「.....頑張りに応えてあげて」
「そ、それなのですが.....」

ニケさんの様子がおかしい。

もじもじしていると言うか、何かこう言いづらそうにしている。
普段、ビシッとしている姿からは想像もできない態度だ。

「.....どうしたの?」
「実際に私は、歩様に何をしてあげたらいいのでしょうか?
 何分そういう知識が全くないので、ほとほと困っております」

なるほど。
仕事に、戦いに明け暮れていたニケさんならさもありなん。

「.....側にいてあげるだけでも彼氏は満足」
「はぁ.....?そういうものなのでしょうか?」
「.....私とイアシオンはそれでも十分に愛し合ってる」
「なるほど。とても参考になります。
 しかし、アルテミス様が仰られていましたよね?キス以上のことを歩様は期待されていると.....」

ここにきてアルテミスの口から出任せが立ちはだかってきた。

このままでは.....。

「最低でもキスはしてあげないといけませんよね?
 それとも、この貧相な体を差し出せば喜んで頂けるのでしょうか?」

やはり、こういう展開になってしまった。

当然ニケさんの彼氏は喜ぶだろうけど、もしかしたら幻滅してしまう恐れもある。
もし仮にそうなったら、今度こそニケさんは取り返しのつかないことを仕出かすに違いない。

(.....アルテミスのバカ)

結局、アルテミスの尻拭いを私がする羽目となった。
いつものこととは言え、正直うんざり。

「.....だめ。軽い女は嫌われる」
「どういうことでしょうか?以前は「重い女は嫌われる」と仰られていたと思いますが.....」

「.....重い女も軽い女もどっちもだめ」
「では、どうすればいいのでしょうか?」

「.....ニケさんがしっかりと手綱をとってあげる」
「歩様がそれを望むのであればそうしてあげたいのですが.....。その知識がないから困っております」

手強い。

ニケさんが求めているのはあやふやな知識ではなく具体的な手法。つまり5W1H。
そういう意味では、アルテミスの口から出任せはまさに単純明快でニケさんにしてもわかりやすいものだった。

そしてこれに対抗する為には.....。

アルテミスと同じように単純明快な答えを用意するか、はたまた5W1Hが明快になっている何かを用意する必要がある。
当然、後の報復が怖いので、アルテミス同様口から出任せは言えない。

そうなると.....。

「.....下界の雑誌を読んでみたら?」
「雑誌.....ですか?」
「.....人間は大した生き物じゃないけど、娯楽に関しては目を見張るものがある」
「なるほど。確かにスイーツも様々な種類がありましたものね」

知識で補えないならば、マニュアルを用意してしまえばいい。
それも人間のものならば、仮にこれで失敗してしまったとしても『所詮人間が考えたもの』ということで責任を回避できる。

「.....そう。だから男女の交際もきっとなにかある」
「人間が考えたもの、というのが不安ではありますが.....。
 そこは歩様も人間ですし、意外としっくりくるかもしれませんね!
 さすがはデメテル様です!ありがとうございます!!」

アルテミスの時と同様に都合よく解釈してくれたみたい。
とは言っても、私は口から出任せではなく考えた末での結論なので問題はない。.....はず。


・・・。


そうこうしてるうちに、アルテミスの降臨劇もそろそろ幕を閉じる頃合いになってきた。
今回は何事もなく終われそうでホッと一安心。

そう思っていたら、ニケさんの彼氏の腕の中で気持ち良さそうに抱かれているアルテミスの表情がとても穏やかになっていることに気付いた。
アルテミスのあんな表情は初めて見る。.....どうしたの?

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「今回は凄く満足したよ。ありがとう、アユムッチ」
「どうしたんですか?お礼なんてアルテミス様らしくないですよ?」

「相変わらず言うねぇ。まぁそれぐらい満足したってことさ」
「そうですか。なら頑張った甲斐があります」

「それはニケちゃんの為にかい?」
「それも大きいですが.....」

「が、なんだい?」
「前回アルテミス様に粗相を働きましたからね。それもずっと気になっていました」

「つまり、あたしの為に、ってことかい?」
「ええ、そうです。あっ!お詫びという意味ではないですよ?」

「おや?違うのかい?」
「全くない訳ではないですが、それよりも純粋に楽しんでもらいたいと思っていました。
 だからこそ、こうしてアルテミス様に俺の頑張りが伝わったんだと思います」
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なるほど。
アテナさんやニケさんが気に入る理由がよくわかった。

飾ることなく素直で正直、それにとても優しい。
それに、あのアルテミスに対しても気遣いできる人間なんてそうそういない。

だからだろうか。
アルテミスの様子がおかしい。

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「じゃ、じゃあ、なにかい?アユムッチは純粋にあたしの為に頑張ってくれたのかい!?」
「全部が全部とは言いませんけどね?それでもアルテミス様の為に頑張ったことは確かです」

「そ、そうかい.....」
「.....?」

「そ、その.....ありがとう」
「本当にどうしたんですか?実は酔ってたりします?」

「酔う.....。いや、そうかもしれないね。あたしは酔っているかも」
「凄い量を飲んでましたもんね。体は大丈夫ですか?」

「問題ないよ。酒に酔っているんじゃない。アユムッチに酔っているんだからさ」
「.....は?」
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「「.....は?」」

ニケさんの彼氏が呆けた言葉を出したのと同じくして、私とニケさんも同じ言葉を吐いていた。

アルテミスは何を言っているのだろう。

私はまるで時間が停止でもしまったかのように思考が停止してしまった。
ニケさんもニケさんの彼氏も同様らしい。口をぽか~んと開けて固まっている。

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「どうだい?あたしの男になってみる気はないかい?」
「.....え?どういう.....ええええ!?ちょっ!?んんんん!?.....じょ、冗談ですよね?」

「冗談は好きだけど、今は割りと本気だよ」
「し、しかし俺にはニケさんが.....」

「安心しておくれよ。あたしはアユムッチを独占する気なんてさらさらないからさ。
 ニケちゃんと一緒にあたしももらっておくれ。なんだったら体だけの関係でもいい」
「いやいや!そういうのは良くないですって!だ、第一、なんで俺なんですか?」

「いい男だからに決まっているだろ?いい男を欲しくなるのは女神だってそうさ」
「お、俺がいい男!?」
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「.....」
「.....(こ、怖い)」

ニケさんからは再びどす黒い神力が溢れ出ている。
前回の比ではない。明確な殺気を孕んでいる辺りはガチギレに近い。

「.....デメテル様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「.....な、なに?(いや!訊かないで!)」
「.....今のアルテミス様の行いは前回の時と同じで、私の為のものなのでしょうか?」
「.....わ、私にはわからない」

絶対に違う。

明らかにアルテミスはニケさんの彼氏を口説いている。欲している。
表情が完全に、狩猟の女神たるにふさわしいハンターのそれとなっている。

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「あ~、とてもいい男だよ。
 あたしはね、生まれてこのかた誰かに何かを純粋な気持ちでしてもらったことなんて一度もないんだ。
 それどころか、他の神々ですらもあたしを厄介者扱いする始末。まったくあたしが何をしたって言うんだい。
 アユムッチも酷いと思わないかい?あたしはただ楽しんでいるだけなのにさ」
「え、えぇ.....」

「とりあえず、こんなあたしの為に頑張ってくれたその気持ちが嬉しいんだよ。
 それに目的の為には己を投げ出せる男気もある。あたしから見ればアユムッチはいい男さ」
「あ、ありがとうございます.....」

「まぁ、今すぐに返事はくれなくともいいよ。しっかりと考えておくれ」
「色好い返事が返せるとはお約束できませんが、それでも良ければ」

「構わないよ。.....あ~、そうそう!
 あたしの男になってくれたら好きなだけ匂いを嗅いでもいい。好きなんだろ?あたしの匂い」
「ほ、本当ですか!?マジで真剣に考えます!」

「こりゃあ、楽勝かね?wあひゃひゃひゃひゃひゃw」
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───ぶちッ!

「アルテミス様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

アルテミスの勝ち誇ったような高笑いと同時にぶちギレたニケさん。
最早私なんかがどうこうできるレベルを遥かに越えている。.....こ、怖い。


・・・。


その後アルテミスは怒れるニケさんの前で、頬とはいえニケさんの彼氏にまたキスをする始末。
ニケさんとの約束を躊躇いもなく破っている辺りは完全に忘れているのだろう。

「.....またキスまで・・・。.....約束を破った。.....約束を破った。.....約束を破った。.....約束を破った」
「.....(ぷるぷる)」

そればかりかアルテミスは、ニケさんの彼氏にどうやら本気で惚れているようだ。
初恋という初めての体験に、感情に暴走気味な気もする。

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「アユムッチ~♡あたしはわがままだけど意外と尽くすタイプだよ。側に置いて損はないはず」
「でへへ~♡アルテミス様の匂い最高っす!」
「こら!主!アルテミス様にベタベタしすぎなのじゃ!離れんか!そ、そんなにベタベタしたいなら.....」
「おしくらまんじゅーおされてなくなー♪あーははははは!たのしいねー( ´∀` )」
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「.....裏切り者に神罰を!.....裏切り者に制裁を!.....裏切り者に鉄槌を!.....裏切り者に地獄を!」
「.....」

神界も、時の水晶の向こう側も、最早何がなんだかわからないことになっている。
事態の収拾は望めそうにない。

だから私は、

(.....私は関係ない)

再び責任を放棄することにした。


当たり前だけど、この後大問題が発生したことは言うまでもないはず。


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後書き

次回、俺流俺TUEEEEE!

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今日のひとこま

~仕返し~ side -アルテミス-

ニケちゃんに疑いを掛けられ、首を掴まれた時の衝撃は今でも覚えている。
あの時のことは許したけれども、それでも罪が消えた訳ではない。

(しっかりと仕返しは倍返しにさせてもらうよ?ニケちゃん。あひゃひゃひゃひゃひゃw)

・・・。

「お呼びでしょうか?アルテミス様」
「よく来たね、バット。頼みたいことがあるんだよ」
「なんなりとお命じください。吾輩のこの身、この命、アルテミス様に捧げておりますので」
「そうかい?なら神の試練を担当しておくれ」

「畏まりました。何か特別な措置は必要でございましょうか?」
「試練に赴く前にヘカテーのところに寄っておくれ」
「ヘカテー様の元へ?何故ですか?」
「もしかしたら死人が出るかもしれないからよろしく、と伝えてほしい」

「死人?不届き者が出ましたか?」
「そうじゃない。バット、あんたが試練で担当する人間のことだよ」
「なんと!?確か吾輩の知るところでは、その人間を気に入られていると伺ったのですが.....」
「だからヘカテーの出番なんだろ?」

「と、仰りますと?」
「バット。最悪、人間は殺してもいい。だけど決して死なせることがないようにしな。
 まぁアテナッチもいるから、その辺りは大丈夫だろうけどさ」
「なるほど、理解できました。それ故にヘカテー様なのですね。
 ですが、なぜこのような回りくどいことをなされるのですか?」
「決まってるだろ?あたしが楽しみたいからだよ」

「それはそうですな。全て承知しました。不肖バット、アルテミス様の仰せに従います」
「よろしく頼むよ~」
「全て事が片付きましたら、不要ではありましょうがご報告にあがります」
「好きにしな。あたしはまたアテナッチの部屋と行くからね」


そしてこれが、主人公死亡後のヘカテーとの出会いへと繋がるのであった。

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