歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第111歩目 ラズリさんの手紙③!再フルール編


前回までのあらすじ

アテナはちゃんとお留守番ができる子だった。

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今話は単身赴任中の主人公視点です。

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□□□□ ~寂しいからこそ~ □□□□

王都を出発して2ヶ月、無事フルールに到着することができた。
道中これといって何もなかったが、いつも騒がしいアテナとドールが側にいないというだけでも結構寂しかったりする。

(知らず知らずの内に、あの二人がいる生活が当たり前になっているとでもいうのか?
 だとしたら、俺は相当毒されてんなぁ.....)

実家を出て4年間、彼女などいた試しのない俺はずっと一人暮らしだった。
当たり前のように毎日が一人で、当たり前のように毎日が静かだった。

しかし、そんな一人に慣れた、静かな生活に慣れ親しんだ矢先に突如として訪れた騒がしい日々。

今までの生活とは一変して、全く真逆の生活体系となってしまった。
当たり前のように毎日誰か側にいて、当たり前のように毎日が騒がしい。

いきなりで戸惑うことも多いが、それでも悪い気はしなかった。

二人に振り回されることも多いが.....、非常に多いが.....、いや、毎日振り回されているが.....。
それでも俺は、どうやら今の生活がとても気に入っているみたいだ。たまに平穏で、静かな生活が恋しくなる時もあるけど.....。

それ故か、二人がいないこの状況はとても寂しい。

心の中がすっぽりと空いてしまったような.....。
俺自身がどこか欠けてしまっているような.....。

そんな喪失感が全身を包む。
こんな心境ではダンジョン攻略など到底無理だ。

だから.....




(二人がいなくて欠けてしまった喪失感を穴埋めする必要があるよな!
 久々の一人だぜ!二人を忘れられるぐらいおもいっきり羽を伸ばすぞ~!!ひゃっほ~い!)




こうして、俺はまるでスキップするかの如く軽快な足取りで夜の酒場へと駆け込んだ。


□□□□ ~拡がる異名 (拡がっているのは異名だけ)~ □□□□

昨夜は大いに羽を伸ばすことができた。

酒場で意気投合したドワーフ達を片っ端から呑み比べで圧倒したり、更には酒で気が大きくなっていたせいか、同じく意気投合したエルフ達と一緒に夜の町へと繰り出す始末。
きれいな獣人のお姉さん達と楽しく酌み交わす酒は最高だったの一言に尽きる。

ちなみにその後も誘われたのだが、その先はR15ではちょっとアウトな内容だったので遠慮しておいた。


さて、目一杯楽しんだからにはダンジョン攻略も頑張らないといけない。
と言うよりも、そもそもの目的はダンジョン攻略なのであって、邪魔な子達と別れて羽を伸ばしにきたのではない。

早速、情報収集も兼ねて冒険者ギルドに立ち寄った。

「こんにちは、エシーネさん。お久しぶりです」
「(うとうと).....うあ?あぁ.....冒険者さんですか。お久し.....ぐ~.....」

「寝るな」

───ビシッ!

「へぶっ!?」

どうやらエシーネさんは相変わらず寝坊助さんらしい。

とりあえず軽くチョップをかまして、オシーネさんに取り次いでもらう。
懐かしいやり取りだが、全然笑えないし、めんどくさい。

「お姉ちゃんがすいません.....」
「いえいえ、いつものことですから」

「本当にすいません、すいません」
「・・・」

どうやらオシーネさんも相変わらず謝ってばかりのようだ。

ダメな姉を持つと妹は苦労するのだろう。
あれ?どこかで似たような姉妹を知っている気が.....。いや、気のせいかな。

「お久しぶりです。オシーネさん」
「冒険者さんも.....、いえ、今は竜殺し様でしたね。お久しぶりです」

おふ.....。
竜殺し様って.....。

「.....な、なんで知っているんですか?」
「いまや竜殺し様の御名はとても有名ですから。知っていてすいません」

「で、でも、昨夜酒場に立ち寄った時はこれといって何も.....」
「そうなんですか?.....だとすると、まだまだ顔と異名が一致しないのかもしれないですね。宣伝不足で本当にすいません」

いちいち何に対して謝っているのかがよくわからないので、非常に気になる。
これさえなければ、とても優秀なギルド職員なのにもったいない。

それはそうと、気になるのが.....

顔と異名が一致しない

これだ。

別に目立ちたくもないので、一致しないのならそれはそれでありがたい。
そう、ありがたいのだが.....、どうにも釈然としない。

(.....え?なに?俺ってそんなに影が薄い?
 凡人だからある程度は仕方がないけど、そんなに俺は影が薄いのか?)

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「忘年会の幹事なんだけど、誰だっけ?」
「ほら~、あの人だよ。『幹事の.....なんとかさん』」
「そうそう、『幹事の.....なんとかさん』だった。じゃあ、期待できるな」
「『幹事の.....なんとかさん』は特にこれと言って何もないけど、幹事だけは優秀なんだよね」
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.....くっ。嫌なことを思い出してしまった。

これは去る年の瀬が迫ったある日の社員食堂での何気ない会話内容だ。
その『幹事の.....なんとかさん』である俺のすぐ側で、ゲラゲラと笑いながら会話をする後輩達。
そもそも『幹事の.....なんとかさん』で話が通じているのが腹立たしい。

(最近はパワハラが取り沙汰されて久しいが、
 これもパワハラになるんじゃないのか?後輩からだし逆ハラか!?)

俺への逆ハラ疑惑は一旦置いておいて、どうやら異名だけがどんどん先行してしまって、『俺』という存在はそこまで知られてはいないようだ。


嬉しいような、悲しいような、ちょっと複雑な気分。


□□□□ ~ようやく今話のタイトル回収~ □□□□

異名だけが拡がっているという事実に複雑な気持ちを抱きながらも、せっかくギルドに立ち寄ったのだから、ラズリさんの手紙を確認しようと思う。

早速オシーネさんからプライベートボードを借りて、キーを差す

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【ラピスラズリさんより預かりものがあります】

①手紙60通

【以上を受け取りますか? はい いいえ】
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(さすがにお金はもうないか。前回返信した時にきつく注意したしな)

ラズリさんも相変わらず毎日手紙を送り続けてきているようだ。
その姿勢が本当に一途過ぎて、頭が下がる思いだ。


これは内容からして、王都を出る前に送った手紙の返信だろうか.....

『あががががが.....
 あっ、すいません。
アユムさんと別れてから10ヶ月以上も経ってしまったので、禁断症状がでてしまったようです.....。
今はまだ食事も喉を通る日々ですが、このままでは寂しさのあまりにストレスで過食気味になりそうで怖いです。
仮に太ってしまっても、変わらず私を好きでいてくれますか?

 お手紙拝見しました。
何でもアユムさんと同じ世界からいらした勇者様とお知り合いになられたとか。良かったですね。
それにしても『勇者トキオ』ですか.....。どこかで聞いたことがある名前なんですよね。ちょっと調べてみます。

 それとご質問頂いた件ですが、ダンジョンマスターがマスター戦を行うのは非常に特殊です。
通常ダンジョンマスターは職業として認められていますので、殺害してしまうと殺人罪が適用されます。
 しかし、マスター戦においてのみはそれが適用されず、殺害してしまっても罪には問われません。
マスターも旗色が悪くなれば降参してくる時も稀にありますが、それを受け入れるかどうかは挑戦者側に委ねられます。と言っても、大抵は殺されてしまいますが.....。
 挑戦者側がマスターを殺害するメリットとしては、マスターになる権限を優先的に得られることです。
ダンジョンマスターは人気の高い職業ですし、ダンジョンじたいは数が大体決まっています。
ですので、最も手っ取り早くダンジョンマスターになりたいのなら、マスターを殺害してしまうのが一番の近道となります。

 P.S.私が知っているのはこんなところでしょうか。少しはお役に立てましたか?

                       いつでもあなたの背後に這いよりたいラピス♡』

「・・・」

もはや誰宛の手紙かすらも書かれていなかった。
一応、中を読み進めていけば、俺宛だというのはわかるのだが.....。

そもそも、

(禁断症状ってなんだよ!?どんな症状が出ちゃってんの!?)

詳しく知りたいような.....。
でも知ってしまうと、きっと後悔しそうで知りたくもないような.....。そんな複雑な気分だ。

とりあえずラズリさんの禁断症状は一先ず置いておいて、手紙の内容は演説時に気になったマスター戦について書かれていたものだった。

なぜダンジョンマスターがマスター戦を行うと発表しただけで、あんなに大盛り上がりになったのかずっと不思議に思っていた。
そして、ラズリさんの手紙を読んでその理由がようやく分かった。

それは.....

ダンジョンマスターになれるかもしれないという期待感。

(つまり、トキオさん自身が客寄せの最大の目玉となった訳か.....。すごい自信だな。
 いや、トキオさんの加護を考えれば、それすらも全く問題にはならないということか.....)
 
道理で俺と友好を築くのに必死だった訳だ。
だって自分自身の命もさることながら、下手したら職をも失いかねない状況だったのだから。

それにしても.....、

いくら人気があるとは言え、殺害してまでダンジョンマスターになろうとは思わない。
この辺りの考え方が、俺とこの世界の人々では大きく異なるのでどうにも受け入れがたい。


□□□□ ~魔勇者トキオ?~ □□□□

ちょっと胸糞悪くなりつつも、手紙をどんどん読み進めていく。

ほとんどはラズリさんの近況や世間話にも似た内容で、たまにスカイさんのことが書かれていたりもする。
どうやらスカイさんの交際じたいは順調なようだが、ラズリさんは複雑みたいだ。反対はしていないようだが。

追って近況は知らせてくれるらしい。

(.....なんの近況だ?まさか再婚するとかじゃないだろうな?
 スカイさんもまだまだ若いんだから、いつそういう話になっても全然おかしくはないけど.....)

そう、おかしくはないのだが.....

あのわがままボディーに、大概はどんなことでも優しく包み込んでしまいそうな大きな母性愛。

それが他人の手に渡ると想像すると、俺にはニケさんがいるとは言え、少し複雑な気分になる。
いや、タイプだったからこそ余計にそう思ってしまうのかもしれない。.....こんなことラズリさんには絶対言えないけど。


勝手にスカイさん再婚説に気落ちしつつ、残りの手紙も読み進めていく。

『竜殺しのアユムさんへ
 称号獲得おめでとうございます!
こんなに誇らしいことなのに、どうして教えてくれないんですか?
パレスは最東端の町なので情報が届くのに時間がかかるんですよ?
私が誰よりも早く、いの一番に「おめでとうございます!」を言いたかったのに.....。アユムさんのバカ!
現地で寂しく待つ未来の妻の心情も少しは察してください!.....今後はお願いしますよ?約束です♡

 それはそうと、『勇者トキオ』についていろいろとわかりました。
この勇者様は結構有名な方でして、巷では絶対に怒らせてはいけない勇者様だと言われています。
非常に愛妻家で、特に奥さんの悪口を言われると見境をなくして暴れ回るとか.....。こ、怖いです。
ですが、妻側としては嬉しいような気もします。そこまで想ってもらえるなら妻冥利に尽きると言うものです。

 それを証明するかのような『勇者トキオ』についての逸話もあるぐらいです。
一番有名な話が、なんでも奥さんを迫害した『とある一族』をしらみ潰しに探し出して、絶滅に追いやったとか.....。
神様から頂いた加護を使って、徹底的に探し出したらしいです。そんなことが本当に可能なんでしょうか?
それ故に『勇者トキオ』を怒らせたら、「世界中のどこに逃げても意味がない」とか言われているぐらいです。
さすがに、一種族を絶滅にまで追いやってしまうとなると.....ちょっと引いてしまうかも?
アユムさんも『勇者トキオ』を怒らせないように気をつけてくださいね。

 P.S.アユムさんが私の為に、『勇者トキオ』みたいに怒ってくれたらすごく嬉しいです!

                       愛は時に生態系をも変える説に賛成のラピス♡』

いろいろとツッコミ所が満載すぎて、どこからツッコんでいいやら.....。

とりあえず、ラズリさんにも『竜殺し』の異名が伝わってしまったようだ。
そして、最東端の町にも伝わったということは、最早全土に知れ渡ったと考えていいだろう。

(俺の平凡且つ静かな日々はもうなくなってしまったんや.....)

こうなってしまった以上は手紙にもある通り、今後は何かあったらちゃんと教えてあげようと思う。
俺としては改めて自慢するようなことでもないのだが、それでも誉められて悪い気はしない。特にラズリさんのような美人さんになら尚更だ。


それにしても、ラズリさんは情報通で本当に助かる。
まさかトキオさんについて、ここまで詳しく調べるとは思ってもみなかった。

別にトキオさんの過去を調べてどうこうしたいとかは全く考えていない。
ただ、『勇者トキオ』としての生き様というか、勇者としての軌跡に興味があった。
当事者であるトキオさんに訊ねてみても、上手くはぐらかされてしまって聞くに聞けなかったのだ。

しかし、はぐらかされてしまっていた理由が判明した。
いや、はぐらかしていたのではなく、話したくなかったのだろう。

だって.....

とある一族を絶滅に追いやった。

こんなことを話してしまったら警戒されるどころか、せっかく築いた友好関係にひびを入れかねない、とでも考えたのだろう。

正直なところ、ラズリさんの手紙を読んでいる最中はあまりの恐怖に身震いしていたぐらいだ。
あくまで伝聞形式で書かれていたから、真実はともかく、そういう『噂』として伝わっているのだろう。

しかし、俺はトキオさんという人を知っている。
彼はそういう人なのである。

もし仮に、手紙に書かれているような加護を実際に手に入れているのだとしたら、これは間違いなく真実だと思う。
それぐらい彼はゼオライトさんを愛しているし、ゼオライトさんの為ならどんなことだってやり遂げる人なのだ。

そう思えば思うほど、俺はますます恐怖に駆られた。
側で控えているオシーネさんが、俺を心配そうな眼差しで見つめているところからも、態度だけではなく表情にもその恐怖が表れているのだと思う。

だって考えてみてほしい。

敢えて『とある一族』というのが、どんな種族なのかはわからないとしておこう。
ただ、そこには老若男女様々な年齢帯の人々がいたはずだ。
それこそ、お年寄りから小さな子供、もしかしたら赤子まで。
それらを含めて絶滅させてしまったという.....。

将来に禍根を残さないという意味では正しい判断だ。

そして、トキオさんにはそれができる力があるかもしれない。
だとしたら、「いつやるの?今でしょ!」なんてことになっても仕方がない。

そう、仕方がないのだが.....

ゼオライトさんを迫害した人々は、最悪因果応報ということで無理矢理納得はできる。
しかし、迫害していなかった人々もいた.....のかな?いなかったのかもしれないが、ほんの少しはいたかもしれない。
その人達までをも死に至らしめる必要はなかったのではないだろうか。そう思えてならない。

何度も言うが、将来に禍根を残さないという意味ではトキオさんの判断は正しい。
特にそれができる力があるのだとしたら、絶対にやるべきだ。

某マンガのように、生き残りが改心したりするなんてことは基本的には有り得ない。
恨みは恨みしか残さないものだ。力が支配する世界というものは特に.....。

こんな考え方ができるようになってきた辺り、俺も随分と『異世界』というものに馴染んできたということなのだろう。
と言っても、一年近くかかってしまったが.....。

それにしても.....

(『力』ってのは本当に怖いな。いくらゼオライトさんの為とは言え、さすがにやりすぎだと思う。
 実はトキオさんも、例の『魔勇者』とやらになっているんじゃないのか?.....本当に大丈夫かよ?勇者達)

どんなに強力な力を得たとしても、一般人は所詮一般人でしか有り得ない。
世の真理として、一般人が英雄になり得たりはしないのである。

英雄は英雄がなるものなのだから.....。

改めて、そう思わせてくれるいい機会だった。ラズリさん、本当にありがとう!

・・・。

さて、もしかしたら『魔勇者』なのかもしれないトキオさんの過去を知ってしまった俺はどうしたかと言うと.....





何も知らない。
何も聞いていない。
そもそもなんのことだが全くわからない。





こういうスタンスでいこうと思っている。

元から知らなければ、こういう疑心暗鬼に陥る必要はなかったのだ。
スマホを見なければ、浮気を知ることはなかったのと一緒なように。

変な疑いは、それまで友好だったものを崩壊させるキッカケにもなりえる。
ここは知らない振りをするのが賢い大人、いや、平々凡々な庶民には一番賢い選択だ。


(俺や俺の周囲に実害が出るようなら、その時に改めて考えよう。今はトキオさんとは親友であるべきだ!)


そう結論付けた俺はダンジョン攻略に勤しんだ後、当然のように酒場へと足を向けるのだった。


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後書き

次回、羽を伸ばしすぎた結果!

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次話も引き続き、単身赴任中の主人公視点をお送りします。

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さて今話ですが、『勇者大丈夫かよ?』というのを伝えたかった訳ではありません。
そもそも勇者が大丈夫なのかどうかは人それぞれなので、神ですらもわかりません。

では伝えたかったこととは.....

『主人公も勇者に劣らず、ご都合主義度がMAXに近いということです』

地上を破滅に至らしめる実力を持つサダルメリクをアルテミスに運良く退治してもらったり。
本当は死んでいたはずなのに、ヘカテーに気に入られて、運良く生還することができたり。
怒らせると危険人物に成り下がる時尾と知り合い、運良く親友になってその危険を回避したり。

危険な魔物、危険な状況、危険な人物をことごとく『運良く』回避することができています。
ただの凡人なのに勇者に劣らず、ご都合主義度がMAXに近いという証です。

では、なぜそんなにご都合主義度がMAXに近いのかと言うと.....。


これからも『歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~』をよろしくお願いします。

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