歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第97歩目 はじめてのおままごと!女神ヘカテー①


前回までのあらすじ

生き返れるみたいだけど、ヘカテー様にお願いがあると言われた

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□□□□ ~ヘカテーのお願い~ □□□□

突然のことで驚いたが、ヘカテー様はどうやら両親に捨てられた捨て神らしい。
それを、ここ冥界の統治者であるハーデス様に拾われて育てられたのだとか。
そういう事情だからか、ヘカテー様には両親の記憶は全くないらしい。

「だから一緒に遊んでほしいんだよねー。
 みんな仕事ばっかりで少しもかまってくれないんだー.....」

ヘカテー様はここ冥界では唯一の子供らしく、みんなから可愛がられているのは間違いないらしい。
しかし周りは大人ばかりな上、仕事で忙しく、構っては貰えないのだとか。

それ故、いつも一人ぼっちで過ごしていることが多かったらしい。

その寂しさを埋めていたのが同年代のアテナであり、二人は良く一緒に遊んでいたんだとか。
しかし、そんなアテナが有給休暇を取得して旅行に出掛けてしまったので、結果ヘカテー様はまた一人ぼっちになってしまったみたいだ。

(な、なんだろう.....。このまるで子供の少なさを嘆いている現代日本のような縮図は.....)

話を聞いて、ヘカテー様をとても不憫に思ってしまった。
不憫に思ってしまったのだが、俺は一切悪くはない。
むしろ俺もいきなり召喚されてしまったので被害者側だ。

そう被害者側なのだが.....

どうしてもヘカテー様からアテナを奪ってしまったような気がしてならず、罪悪感が拭えない。

だから、

「俺で良ければ一緒に遊びましょう」
「ほんとー!?やったー!人間君ありがとー☆」

ヘカテー様と一緒に遊ぶことにした。
お願いを聞かなくとも生き返ることはできたのだろう。
それでも、ヘカテー様がこんなにも喜んでいるところを見ると、お願いを聞いてあげて正解だったと思えた。

それに.....

(まるで娘のようなヘカテー様のお願いじゃ、断れる訳ないよなぁ~)

これが一番の理由だったりもする。


□□□□ ~ヘカテー様と遊ぼうpart.1~ □□□□

さて、ヘカテー様と一緒に遊ぶことになったのはいいが、何をすればいいのだろうか。
ヘカテー様と同年代という括りをすると、俺には甥と姪がいるが、こいつらはいつもゲームばかりしている。
面倒を見るということに関しては、手間が掛からないので助かるのだが.....。

(そもそも神様ってのは何をして遊んでいるんだ?)

なんてことを思っていたら、

「じゃー、さっそく遊ぼっかー!」
「何をするんですか?」
「お馬さんがいいー!」

なんともかわいらしい遊びを提案された。
この純真さを、俺の甥と姪にも分けて欲しい。

(ヘカテー様の爪の垢でも飲んで、少しはヘカテー様を見習えや!くそガキどもが!
 な~にが「おじさんって出世しなさそうだよね~」「おじさんって彼女とかいなさそう~」だよ!)

甥と姪のかわいくなさに苛立ち、ヘカテー様の純真さにほっこりした俺はご希望通り馬役になろうとした。
なろうとしたのだが.....

「人間君ー!はやくー!のって、のってー!」
「ふぁ!?」

馬役はまさかのヘカテー様だった。
既に四つん這いになり、いつでも俺を乗せられる体勢になっている。
ぷりっと突き出されたかわいいお尻は、少しもエロさを感じさせず、童貞の俺ですら躊躇いもなく撫で回せそうな気がする。.....しませんけどね!

ただいくら許可が下りたとはいえ、「はい、そうですか」と気軽に乗る訳にはいかないだろう。

「いやいやいや!俺が馬をやりますよ!どうぞ乗ってください!」
「えー?それじゃー、私が遊べないよねー?いいからのってよー」

確かに馬のほうが大変なのは間違いないが、それが遊びになるのかは不明だ。
どうにもヘカテー様の遊びの基準がわからない。

(男が女の上に跨がる.....。これが本当の意味での馬乗りというやつか!?.....やかましいわ!)

それに不安もある。
俺はこう見えてそれなりに体格はいいほうだ。身長も178はある。
一方、ヘカテー様は見るからに子供のそれだ。どう考えても無理がある。

「し、しかしですね?.....大丈夫なんですか?」
「だいじょぶだよー!私は女神なんだから不可能はないよー!だからのってー!」
「・・・」

更に不安が増した。
かつてアテナも同じセリフを吐いていた気がする。(※第14歩目を参照)

しかしヘカテー様が早くしろと急かすので、仕方なく乗ることにした。
その小さくもかわいらしい背中に手をかけ、跨ぎ、そして全身を預けるようにして乗ると.....

───ばたんっ

「.....むぎゅ」
「ちょっ!?ヘカテー様!大丈夫ですか!?」

案の定、潰れてしまった。
端から見たら、俺がヘカテー様を犯しているように見えなくもない状態だ。
ハーデス様に見られたらきっと殺されるに違いない。.....今はまだ死んでいますけどね!

そしてアテナ同様「女神に不可能はない」との言葉はあてにはならなかった。

「やっぱり俺が馬をやりますよ。ヘカテー様は乗ってください」
「ぶー。だいじょぶだよー!ちょっとまっててー!」

ヘカテー様はそう言うと、何やら呪文を唱え出した。
意地でもヘカテー様が馬をやるつもりらしい。女神とは見栄と意地を張る生き物なのだろうか。

しばらくすると.....

「準備かんりょー!人間君いいよー!」
「はぁ.....」

乗ってよいと言われたので、再度乗ってみると、今度は潰れずに乗ることができた。
先程の呪文は身体を強化するものだったらしい。.....俺も使いたい!

「ねー?だいじょぶだったでしょー?」
「はい。.....重くはないですか?」
「よゆーよゆー!じゃー、いっくよー!」
「.....え?行くってどこにっ.....おわあああああああああああああああ!?」

合図とともに、ヘカテー様が突如走り出した。
真っ黒な空間なのでよくわからないが、それでも体感的には尋常ではない速さだ。
それに本当に重くはないようで、その走りたるや、まさに競争馬。マキ○オーもびっくり!

普通、田舎で乗馬と言ったらポニーが定番なので、俺もそれぐらいしか経験がなかった。
そして異世界にきても、本当の馬に乗る機会はなかったし、乗る必要もなかった。

つまり.....

「ぐふっ!?」

と言ったらザクばりに、その身を投げ出されてしまった。
そもそも掴む場所がないのだから、投げ出されるのは当たり前のことなのだが.....。

「だ、だいじょぶー!?けがしてないー?」
「.....大丈夫です。思った以上に速くて、落とされてしまいました」
「そっかー。人間君にははやすぎるのかー。私はゆっくり走ったつもりなんだけどなー」
「・・・」

唖然とした。
いや、初めから分かっていたことだった。
アルテミス様がそうであったように、ヘカテー様もまた常人には考えられない力をもっているはずだと.....。

しかし、そうなると困った問題が出てきた。

「うーん。なんか掴むものないとー、またおちちゃうよねー?」
「お、お恥ずかしながら.....」

ヘカテー様の言う通り、お馬さんをまだ続けるつもりなら、このままだとまた投げ出されてしまうのがオチだ。

・・・。

ヘカテー様がしばし考える。
そして出された答えは予想外のものだった。

その答えとは.....

「じゃー、私の髪をつかんでよー!ほらー。つかみやすいでしょー?」
「ふぁ!?」

ヘカテー様のツインテールを「手綱代わりにしろ」との、まさかとも言えるものだった。
確かに掴むには、ツインテール程便利なものはないだろう。

.....しかし、考えてみて欲しい。

幼女とも言える少女に跨がるというだけでも既にやばいのに、そこに必要だからとは言え、その少女の髪を掴み、あまつさえ競争馬の如く走らせるとか.....。

既に一種のプレイとも言えるその状況に、

罪悪感並びに興奮度は最高潮♪
そして俺は有頂天♪

と、リズミカルにラップの如きリズムを刻みながら、俺はヘカテー様に跨がり、ツインテールを掴んだ。

そして.....

「ヘカテー様!いきますよ!」
「のりきだねー!人間君!」

いま.....

「はいよー!ヘカテー様!」

───ぺちっ!

「ひゃん!?」

俺の熱きソウルを、我がヘカテー号に託して、漆黒に染まりし空間の中を走り始めたのだった。


(親父.....。お袋.....。俺はいま、異世界でナポ○オンになったよ.....)


□□□□ ~無垢~ □□□□

ナポ○オンはやりすぎだった.....。
あの時の俺はどうにかしていた。

いくら興奮していたからって、武○ばりのジョッキーになる必要はなかった。
しかもまるで追い込み時のように、何度かヘカテー様のお尻を軽くではあるが叩いてしまった。

俺は後悔と畏怖の念に苛まれていたのだが.....

「いいねー!人間君!すごーくたのしかったよー!」
「・・・」

当のヘカテー様からは称賛の嵐だ。
いや、これはもしかして.....。

「.....お、お尻は大丈夫ですか?なんか叩いちゃってすいません」
「痛くなかったからだいじょぶだよー!
 それに叩かれるともっとはやくしていいんだー!ってやる気になったよー!」
「・・・」

そう言って、ヘカテー様は満面のにぱー☆を向けてきた。かわいい。

やはりそうだ。
どうやら俺はヘカテー様に懐かれてしまったらしい。
ヘカテー様との距離が物理的な意味でも、精神的な意味でも異常に近くなっている。

いや、もはやべたべたされていると言ってもいいぐらいだ。
ヘカテー様は俺の膝の上で、しなだれかかるようにして体全体を預けてきている。


俺は暴走気味だったことを後悔したが、まるで子供のように全力でヘカテー様と一緒にはしゃいだことが、反ってヘカテー様はお気に召したようで、それが気に入られた要因でもあるようだ。


(どこまでも子供のような純真さか.....)

アテナもそうだが、この二人はその純真さあってこそだと改めて思った。


□□□□ ~ヘカテー様と遊ぼうpart.2~ □□□□

「ねーねー!次はおままごとしたいなー!」

ヘカテー様との遊びは続く。
次はもはや定番とも言える遊びだった。.....女の子なら定番だよね?

「私は奥さんやるからー、人間君は旦那さんねー!」

そして設定もありきたりだった。
犬とかではなくて本当に良かった。

(今まで主役級の役を任されたこととかないもんなぁ.....)

俺は初めての主役級の役に少し緊張していたのだが、その緊張を吹き飛ばす事態が起る。

「人間君~。後ろ結んでー」
「後ろ?」

なんのこっ茶と思い振り返ると、そこには.....

「お願ーい」
「・・・」

鼻血こそ出なかったものの、エプロンの背中の紐を結ぼうと悪戦苦闘しているほぼ全裸状態のヘカテー様がいた。
俺はドールで耐性がついていた為か、幼女の全裸では鼻血が出ないところまでレベルアップしていたようだ。

「.....えっと。何をしているんですか?」
「エプロン着てるんだよー。奥さんの正装なんでしょー?」
「正装って.....。いや、それはいいとして、どうして裸なんですか?」
「だから正装なんでしょー?」

ヘカテー様はいろいろ間違っている。
肌エプロンが奥さんの正装とか、完全にエロゲーの世界の話だ。

(誰がこんなしょうもない知識を俺の娘に教えたんだ?またエロースとかいう神か?)

なんてことを思っていたら、

「ちがうよー。ペルおばさんがいつもこうしてるんだよー」

当然のように心を読まれてしまった。
ただヘカテー様を娘扱いにしたことはスルーされてしまったが.....。

それよりも、

「ペルおばさんって誰ですか?」
「あー、ごめんねー。ハーデスおじさんの奥さんだよー。ペルセポネーおばさんのことー」

ちなみにハーデス様が養父だと言うことは、ヘカテー様は既に知っているらしい。
ヘカテー様は見た目はあれとしても、実際は1万歳を越えているので話したのだろう。
そしてヘカテー様が10万歳になった時に、『どうしてヘカテー様が両親から捨てられてしまうことになったのか』、その真相を話してくれることになっているらしい。

ここから推測できることは、アテナとヘカテー様は10万歳未満。
そしてアルテミス様は3~11万歳のいずれかに該当するということだ。

それはいい。それはいいのだが.....

「.....つまり養母であるペルセポネー様が、いつもそのような姿をしているんですか?」
「いつもじゃないねー。ハーデスおじさんが帰宅する時だけかなー?」
「・・・」
「おじさんとおばさんは仲がいいからねー。いつもらぶらぶしてるよー」

この際、どうしてハーデス様の帰宅するタイミングがわかるのかは置いとくとしよう。
そして、ハーデス様とペルセポネー様がおしどり夫婦だというのもよくわかった。

しかし.....

(ハーデス様!ペルセポネー様!
 そういう行為は、子供の見ていないところでやりましょうよ!)

これだけは声高々に言いたかった。
エロース様といい、ハーデス様達といい、少し性にオープンすぎる気がする。

・・・。

【Take.1】

結局、ヘカテー様の中の奥さん像とは肌エプロンらしいので、そのままおままごとを始めることにした。
当たり前の話だが、俺はちゃんと服を着ている。

───ガチャッ

「ただいま~」

ちなみに、今のガチャッ音はちゃんとドアノブを捻っている。
ヘカテー様の『創造』の力で、一戸建てハウスが出来上がっているからだ。.....本格的すぎる!

「はーい。おかえりなさーい、あなたー」

おままごとと言っても、『あなた』とか言われると照れる。

「ただいま。ヘカテー様」
「ぶー。やりなおしー!」
「やりなおし!?なんで!?」
「私は奥さんなんだよー?『様』があったらおかしいよー!」

そういうことか.....。ヘカテー様は意外と細かかった。


【Take.2】

「ただいま~」

───ぱたぱたぱた

かわいらしい足音が聞こえてくる。

「はーい。おかえりなさーい、あなたー」
「ただいま。ヘ、ヘカテー」
「やりなおしー!」
「なんで!?」
「奥さんの名前をかむとかありえないよー!」

そういうことか.....。ヘカテー様は意外と厳しかった。


【Take.9】

「ただいま。ヘカテー」

その後も何度か指摘されて、ようやくここまでこれた。

「お仕事おつかれさまー」

ヘカテー様はそう言うと、今度は目を閉じて何かを待っている。

(.....え?いや.....まさかな?冗談だろ!?)

恋愛経験値0の俺でも、これが何を指すかぐらいは分かっている。
つまりは.....。

「やりなおしー!ただいまのちゅーは基本だよー!」

(やっぱりか.....。しかし、さすがにこれは.....)

「それはできません、すいません」
「なんでー?私はいいよー?」

出た。俺の意思など鼻から考慮されていないこの考え方。
いくらお利口さんのヘカテー様でも、この傲慢とも言える『神思想』は無いという訳ではないようだ。

「.....ヘカテー様が良くても、俺が良くないんです」
「.....うぅ。私のこと.....きらいなのー?」
「ちょっ!?それはずるいですって、ヘカテー様!」

もはやアテナの嘘泣きには慣れた俺でも、ヘカテー様の泣き姿には無耐性だ。おろおろしてしまう。

「きらいじゃないならちゅーしてよー!奥さんなんだよー!」
「とは言いましても.....」

「.....私のこときらいなのー?」
「嫌いじゃないですよ。むしろ好きなほうです」

「じゃー、ちゅーしてー」
「・・・」

これは困った。非常に困った。
ヘカテー様は純粋なだけに説明が難しい。

ここで「本当に好きな人にしかキスはしません」などと言っても、「やっぱり私のこと好きじゃないんだー」とか反論されるのが目に見えている。
純粋過ぎるが故に、『好き』の意味合いの違いを分からせることが非常に難しい。俺には難問だ。

俺が答えに窮して黙していたら、

「.....人間君はちゅー困っちゃうのー?」
「.....えぇ、すいません」
「.....そっかー。人間君が困っちゃうならしなくてもいいよー。ごめんねー」

しょんぼりした姿でヘカテー様は引いてくれた。
さすがはお利口さんなヘカテー様なことはある。

ただ、お利口さんではあるのだが.....。

そんなにしょんぼりされてしまうと、なんだか申し訳ない。

だから俺は.....

───ちゅ

「!?」
「ここでいいなら」

ヘカテー様のおでこにキスをした。
妥協案も妥協案だ。おでこならキスとしてカウントされないだろう。

そして俺が出した答えにヘカテー様は.....

「うれしー!ありがとー☆人間君!」

満面のにぱー☆で返事を返してきた。かわいい。
ただ、あまりの喜びように少しびっくりした。

詳しく聞くと、キスする場所はどこでも良かったらしい。
『キスをする』と言う行為じたいが重要だったみたいだ。
ヘカテー様はハーデス様達の行為をこっそり覗いて見ていたらしいから、実際どこにキスをしていたかまでは見えていなかったらしい。

そして、このキスをしたことで.....

「じゃー、私もちゅーするねー!」

更に懐かれてしまうのだった。

・・・。

俺とヘカテー様のおままごとはまだまだ続く。
もはやおままごとなのかどうかすら怪しいぐらいの好意をひしひしと感じながら.....

【Take.89】

「やりなおしー!もうー!真剣にやってよー!」
「.....す、すいません」

いま俺は苦境に立たされている。
もしこの場にハーデス様やペルセポネー様がいたら、死を覚悟してでもぶん殴ったことだろう。まぁ、今は死んでるんだけど.....。

どうして俺がこんなに苦心しているかと言うと、ただいまのキスを交わした後が大問題だった。

「ご飯にするー?お風呂にするー?それともー、わ・た・しー?」

これはありきたりと言えばありきたりな、もはや定番の謳い文句だ。
当然『わ・た・し』以外の選択肢はダメ出しをされる。

「じゃあ.....ヘカテーで」

多くの方がこれで問題ないと思われるだろう。しかし.....

「やりなおしー!」

こうなってしまう。
理由もちゃんとある。

「ダメだよー!ハーデスおじさんはそれこそペルセポネーおばさんを獣のように貪るんだよー!」
「け、獣のように.....」
「そーそー。もっと真剣にやってよー!」

ハーデス様とペルセポネー様は、玄関で何をやっているのだろうか。
神がいくら尊いと言っても、節度というものを少しは弁えてほしい。


【Take.90】

「ご飯にするー?お風呂にするー?それともー、わ・た・しー?」
「ヘカテーを食べちゃうぞ!」

ヘカテー様をその場に押し倒し、狼さんを演じてみた。

もはやTake.90だ。
いつまでも続けている訳にはいかないので、俺も頭のネジを緩めることにした。

「いー感じだよー!人間君!そのちょうしー!」

しかし、やり直しだった。

(これでダメって.....あんたらハーデス様達なにしてんだよ.....)


【Take.100】

その後もダメ出しの連発を食らい、ついには記念すべき100回目に到達した。
ここまできてしまうと、もはや俺は悟りを開きつつあった。もうどんなことも恐れない。

「ご飯にするー?お風呂にするー?それともー、わ・た・しー?」
「・・・」

俺は無言のまま静かに、しかし素早くヘカテー様に迫った。

「人間君?」
「・・・」

ヘカテー様が俺の異変に訝しむも、ただひたすら無言を貫き通した。

「お、怒っちゃたー?」
「・・・」

ヘカテー様が不安そうな表情をしている。
それでも無言を貫き通した。

そして.....

「え!?」

驚くヘカテー様を無視して乱暴に押し倒す。神様なのだから、乱暴にしても平気だろう。
そして、申し訳程度に素肌を隠しているたった1枚の布地エプロンを、押し倒した時同様に乱暴に引き裂いた。

つまり.....

今俺の目の前には、生まれた時の姿そのもののヘカテー様がいる。

「え?え?え?人間君!?」

当然ヘカテー様は驚いているが、俺はまだロールプレイ中だ。
ここで躊躇っていては元も子もない。今こそ雌雄を決する時だ。

「ど、どうしたのー?」

「黙れ」
「ひぅ!?」

「黙って、俺に喰われてろ」
「え!?」

「ヘカテーの全てを蹂躙してやる」
「え!?え!?え!?」

「ヘカテーの全てを俺のものにする。ヘカテーの全ては俺のものだ。ヘカテーは俺だけのものだ!」
「!!!」

「.....いいな?」
「.....は、い」

一応、迫真の演技と言えば低い声かな、と思ったので低い声で迫ってみた。

もはや俺自身も何をロールしているのかすら分からなかったが、なんとなく強い存在というものを意識してみた。
『強い存在である俺が、ヘカテー様を征服する』そんな感じで。

言い回しがショボいのは、恋愛経験値0が大きい要因だと思う。そうであってほしい.....

・・・。

さて俺に出来ることは全てやった。
これでダメ出しされるようなら、今すぐにでもハーデス様達の元へと行き、ヘカテー様の教育についてこんこんと説教するつもりだ。

早速判定してもらおうと、押し倒したままであるヘカテー様を窺ったのだが.....

「・・・」

なんだか少女らしからぬ表情をしている。
顔は蒸気し、瞳は堕ちている。
そして何よりも俺を直視しようとはしてこない。明らかに視線を逸らしている。

(.....これ、やばいんじゃね?)

ドールと出会う以前の俺だったら、「どうした?」と頭にたくさんの?マークを浮かべていたことだろう。
しかし俺はドールと出会ってしまった.....。そして、この表情を知ってしまった.....。

これは.....

(.....メスの表情だよな)

ドールが発情している時によく見せる、だらしがなくも妙にエロい、欲望に忠実な表情だ。
何がどうしてこうなったかはわからないが、俺の何かがヘカテー様の琴線に触れたらしい。

これは早急に解決しないと、後々やっかいなことになりかねない。
それ故に、夢を見ているヘカテー様には一番残酷な言葉を贈ることにした。

「.....とまぁ、こんな感じの『演技』でしたが、どうでしたか?」
「.....え、えんぎー?」
「そうです、『演技』です。今はおままごと中ですよね?」
「あー.....そ、そうだったねー。ごめんねー」

なんだかキスを拒んだ時以上にしょんぼりしてしまっているが、こればっかりは仕方がない。
変に誤解されるよりかはいいだろう。

「それでどうでしょう?合格ですか?」
「うんー!すごーくよかったー!おままごとだってのわすれてたよー!」
「ありがとうございます。楽しんで頂けて嬉しいです」
「すごーくたのしかったー!ありがとー☆」

俺の下敷きになっていることなど少しも歯牙には掛けず、かわいらしい満面のにぱー☆を繰り出された。かわいい。


「あーあー。アーちゃんがうらやましいなー。私も人間君といっしょにいたかったー.....」

こうして俺とヘカテー様の遊びは終わりを迎えた。


(いよいよ生き返れるのか。
 それにしても.....、ヘカテー様のあの瞳はなにかやばいものを感じるんだよなぁ......)


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後書き

次回、ヘカテー終話!

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