努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す

九九 零

ふむ。入学試験か…遅れそうだな。

予め、母から教えてもらっていた事だが、入学にあたっての試験は三つあるらしい。

一次試験は模擬戦。
このオルタルーブ学院では、一番重要とまで言われる試験だと言われた。
教師と一対一で模擬戦を行い、どれだけ優れた戦闘方法を見せるかによって配点が決まる。

強ければ良いと言うわけではないらしい。

二次試験は魔法。
十メートル離れた場所に不規則に設置された10の的を、10発の魔法によって破壊すれば良いだけの簡単な試験。
母は模擬戦よりもこちらの方が得意だったと自慢げに語っていた。

正確に全てを撃ち壊せば満点らしい。

三次試験は勉学。
書面に記された問題を解き、書き記す試験。
問題内容は、主に基本である魔法学から、過去の有名な出来事や偉人に関しての事などに関してだ。

これが一番難しいと母から忠告を受けた。

それらが入学する際に行う試験内容だ。
全てを総合した点数が一定を超えていれば晴れて入学出来る。
その反対に、一定を超えていなければ入学はできずランディスに引き返す事になるだろう。

「では、次!ランディス出身、サリア!前に出ろ!」

「はーいっ!」

中央にある時計塔の東側にあるコロシアムのような形をした野外闘技場。そこが、一次試験の試験会場だ。
観客席に座るのは、試験を終えた者。もしくは、親や学院の生徒達。

試験がまだの者達は闘技場の舞台の端に立たされて自分の番を待っている。

今は丁度サリアが呼ばれ、試験官の前に立った所のようだ。
タイミングが良いのか、悪いのか…。いや、悪いのか。

オレはそれらを空から見ているのだ。
前に使った鳥にオレの魔力の残留が残っていたので、それを目印にする事で再度その鳥の目を借りている現状だ。

まぁ、この光景を空から眺めていると言う現状からして、オレはその場に居ないと言う事に他ならないがな。

もしもの事を考えて、オレが不在の時の場合はサリアに受付しといてもらうように頼んでおいたが、これでは意味がない。

なにせ、オレは未だに迷宮に居るのだからな。

少々不測の事態が起きてしまい、戻るのが遅れてしまったのだ。現在は猛ダッシュで迷宮を駆け上がっているが、模擬戦の試験には間に合わないだろう。

そして、この試験に間に合わなければ、オレは自然と不合格にされてしまうだろう。
時間厳守とまでは言われてなかったが、第一試験までに試験場に集まるのが当たり前だと父達に教わったのでな。

「両者、準備は良いですか?」

審判が試験官とサリアの二人に声を掛けながら顔を見やる。
試験官は即座に頷いて準備完了を示すが、サリアは「うーん」と唸って首を傾げている。

「どうした?体調不良か?なんならリタイアしても良いんだぞ?まぁ、そうなればこの試験は失格だがな」

サリアの行動に冷たく突き放すような言葉を掛ける試験官。
だが、それも仕方ないだろう。

もし、この場が戦闘中である仮定するとして、体調不良などで戦えなくなってしまえば敗北は間逃れない。
試験官は何も間違った事は言っていない。

だが、サリアが悩んでいる点は他の事だったようだ。

「イっくん、まだ?」

オレが来てない事を心配してくれていたのだ。
これには流石に感動を覚えた。『もっと急がなければならぬな』と強く思える程にな。

「イっくん?…あぁ、次の奴か。確か、お前と同じランディス出身のイクスだったな」

「うんっ!イっくん!」

「その言い方だと、まだ来てないのか?」

「うん…」

サリアの表情、コロコロ変わるな。
それだけオレの事を心配してくれているのか?だとすれば、とても嬉しく思えるぞ。

ふむ。顔は見せれぬが声だけは掛けておくとするか。

オレは鳥を操って空から急速に滑空し、サリアの頭上に着地させる。

「ん?カラス?お前の使い魔か?」

「んー、ちがうっ!」

ふむ。この鳥はカラスと言うのだな。覚えておくとしよう。
それはそうと、サリアよ。否定するのは良いが、首を振るな。酔う。

『…ふむ』

「あっ!イっくん!」

オレが声を発した途端、サリアに掴まれて眼前に移動させられた。
…まぁ、良いか。

「イっくん!どこー?」

『ふむ。まだ外だ。残念だが間に合いそうにない』

む…。そんな悲しそうな表情をするな。
オレとて学院に入れなければ友が出来ぬと言う事であり、それを想像するだけで過去の自分と類義して虚しくなるのだ。

これでも、急いでいるのだが、それでも到着は昼前になるだろう。

「もしかして、お前がイクスか?」

『ふむ。そうだ』

サリアが鳥を頭の上に戻してくれたみたいで、オレの視界に僅かに驚きを見せる試験官が映った。
これで少しは話しやすくなったな。

「…あー、この試験に間に合わないんなら、次の試験には間に合うか?」

む?どう言う意味だ?

「別に、試験全てを絶対に受けなきゃならないって訳じゃないんだ。自信があるなら、受ける試験は一つだけでも良いんだぜ?」

何やら含みのある笑みを浮かべているが、オレにとっては朗報だ。
なにせ、一つでも試験を受けなければ失格だと思っていたのでな。

『ふむ。そうだったのか』

とは言え、オレにそんな自信がある訳でもないので、出来れば全ての試験を受けたかったのだ。
まぁ、今更言っても仕方ない事だがな。

『次の試験は何時からだ?』

「昼過ぎに、ここの東にある運動場だ」

『ふむ。間に合わせよう』

そう言ってカラスの身体をオレの支配から解放すると、カラスは空をへと飛び上がり、再度、闘技場周辺を旋回し始めた。

先程までは切羽詰まっていたが、僅かな余裕が生まれたので大助かりだ。

「イっくん、大丈夫?」

「それはアイツの知恵と実力次第だな」

「それなら大丈夫っ!だって、イっくんは凄いんだもんっ!」

ふむ。随分とオレはサリアに信頼されているのだな。これ程までのプレッシャーを背負わされるのは初めての経験だ。

「さて、そんじゃ、初めても良いか?」

「うんっ!」

試験官が審判に視線を送ると、今の今まで成り行きを見守っていた審判が片手を上げて二人を交互に見やってから声を発する。

「では、始めっ!」

模擬戦の開始合図を出すと同時に、審判は手を勢い良く振り下す。

だが、二人は動かなかった。

試験官は刃を潰した剣を抜刀してサリアが動くのを待っているようだが、サリアが動かないので何も始まらないみたいだ。

「どうした?試験は始まったっているぞ?来ないなら俺が行くけど、それでも良いか?」

余程力に自身があるのか、試験官はニヤリと笑った。

まぁ、それも当然の話だろうな。
相手は子供。それも、幼い少女だ。剣を腰に掛けてはいるが、手に持っていない時点で意味がない。見た目からして非力な小娘だ。

そんなの相手に敗北すると思うのがおかしな話だろうな。

だが、サリアを甘く見すぎている。

「リバイア流、奥義…」

サリアは開始と同時に攻撃体制に入っているのだからな。

その場で深く腰を落とし、弓を引くかのように右拳を引き、左手を地面スレスレに近付け、試験官を見据える。

暫く、その体勢でサリアは固まっているが、試験官は何をしようとしているのか分かっていないようで小さく首を傾げている。

だが、その状態は数秒だけだ。

サリアの試験官を見据える目が細められた、刹那。

「ただのパンチっ!」

「ーーッ!」

試験官に視認できぬ速度で移動を果たしたサリアは、躊躇なく拳を放った。

まさか、ここまで実力があるなど予想だにしなかったのか、油断していた試験官は激しく動揺しながらも咄嗟に剣を盾にしてサリアの拳を受けた。

しかし、そんな鈍剣でサリアの拳を受け止められるはずもなく、剣という障壁は紙を破るかのように中端からポッキリと折られ、試験官の腹部の鎧に拳が叩き込まれた。

ズドンッ。と、衝撃が試験官の鎧を貫通して背中から突き抜ける。

これこそが、本当のパンチだ。

攻撃を放ち終えたサリアは、オレの教えに従って即座にその場を飛び退く。
そして、『ただのパンチ』を喰らった試験官はーー泡を吹いて膝から崩れ落ちた。

たった一発で試験官を倒した事で、観客席や周囲の者達からどよめきが起こる。

だが、その一発は、ただの一発ではない。
サリアにとっては渾身の一発である。

構えを取った際に、全身の気力と闘気を体内で練り上げて拳に集結させる。スキルに頼らない技と力を兼ね合わせた奥義とも言える一発。

サリアにはまだ難しいのか、気力と闘気を練り上げる際の集中に時間が掛かるが、それでも、初見で避けるのは難しいサリアが持つ唯一の意表を突く攻撃だ。

ちなみに、”無能”であるオレが使うと丸1日腕が上がらなくなる。それだけオレ自身の成長が遅く、身体に掛かる負荷も強いのだ。

もし、サリアと戦う事があれば、オレは本気で挑まなくてはならないだろう。

やはり努力では才能の差は埋められぬようで、力量はとうの昔に追い越されてしまったからな…。

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