強奪の勇者~奪って奪って最強です~

雪桜 尚

ドワーフから強奪!!③

チュンチュン

ナロンの静かな朝に小鳥のさえずりが響く。
しかし俺はそれよりもかなり早く起きていた。否、前夜から寝ていなかった。

「やべぇ、興奮して眠れなかった」

俺はポツリとゴチる。
まさか興奮して眠れないとは思っても見なかった。
確かに異世界で迷宮ダンジョンとくれば男なら皆興奮するだろう。

「にゅぅ」

エイミーが可愛らしい声とともにベッドから抜け出してくる。

「おはようございます、ご主人様」
「ああ、おはよう。エイミー」

エイミーはまだ寝惚けているのか焦点の定まらない目で何かを見つめている。

「エイミー、早く準備しろ。今日は迷宮ダンジョンに行くんだからな」
「ああ、そうでしたね。少々お待ちください」

エイミーはのそのそとした動きで部屋を後にすると程なくしていつものエイミーに戻って帰っきた。

「ご主人様、準備完了です。何か忘れ物などはありませんか?」
「大丈夫だ。なんせもう100回近く荷物の確認をしたからな」

エイミーは呆れたような視線を俺に送っている。

「な、なんだよ。悪いか?興奮して眠れなかったんだよ」
「そういうことでしたか……それなら仕方ありません。私も初めて迷宮ダンジョンに潜る前夜はそうでしたから」
「へぇー、エイミーも興奮して眠れないとかあるんだな」
「ご主人様は私をなんだと思ってるんですか?」
「可愛くて頼りになる女の子」

おれが真顔で答えるとエイミーはまさかこんな回答が帰ってくるとは思っていなかったのかぽかーんとしていたが、意味を理解するとボンっと音が立ちそうなほど急激に顔を赤く染めた。

「まぁいいや、行くぞエイミー!」
「はい!」

俺は勢いよく、エイミーはお淑やかに宿を後にした。
そしてしばらく歩くとこの街で最も目立つ建物、冒険者ギルドが見えてきた。

「ついにだな」

俺はポツリと呟いた。

「どうしました、ご主人様?」
「いや、ついに迷宮ダンジョンに入れるなと思ってな」
「そうですね。まあここは90階層を越えるまではそう危なくないですけど」

エイミーとそんなことを話しながら冒険者ギルドに足を入れるとそこには見知った顔があった。

「あ!アルさん!!」
「あぁん」

フラグとキュテリアである。
キュテリアはトコトコと俺に駆け寄ってくると俺の後ろにその姿を隠した。

「すいません、アルさん。あの人なんか絡んできて。連れがいるってことにしてたんです」
「そういうことか、わかった。話合わせればいいんだな」
「はい」

俺はエイミーと小さく会話を交わすとフラグの方に向き直った。

「おい、俺の連れにてだしたのはお前か?フラグ」
「お、お前……」

フラグはボコられたのを思い出したのか若干震えている。

「用がないんならさっさと行け」

俺がそういうとフラグは覚えてろよ!とにも三下なセリフを吐いて何処かに行ってしまった。

「はぁ……」

キュテリアは溜息をこぼすと床にへたり込んでしまった。

「お、おい大丈夫か?」
「はい、少し怖かっただけで」

そういうキュテリアの方は少し震えていた。

「ご主人様、迷宮入場許可証です」

エイミーが俺に迷宮入場許可証を三枚渡してくる。

「ん?エイミー、一枚多いぞ?」
「ご主人様、まさか置いて行くつもりですか?」

エイミーはさも連れていうのが当たり前とでもいうかのように俺に行ってくる。
俺が戸惑っているとエイミーは早く誘ってきてくださいと俺をキュテリアの元に押し出した。

「えっと、そのなんだ?キュテリア、俺についてきてくれるか?」

俺は照れを誤魔化すようにそっぽを向きながらキュテリアに迷宮入場許可証を差し出した。

「ええ?いいんですか」
「ああ、というよりこっちがお願いしてんだけどな」

そういうとキュテリアは頬を綻ばせて俺にいう。

「お供させていただきます」

キュテリアを連れてエイミーの方に戻ると、背後から

「おい、あいつの周り見てみろよ。美人が2人も」
「ほんとだな。見せびらかしてんのか?爆発すりゃあいいのに」

といった声と殺気が浴びせられた気がしたが気のせいだろう。
俺たちはたわいもない会話をしながら迷宮ダンジョンに向かっていた。

「なるほど。キュテリア様はご主人様に命を助けられたと」
「うん、そうだよ」

俺はそのたわいもない会話に混ざれていないが。

「あ!着いたよ」

キュテリアが嬉しそうな声を上げる。
迷宮ダンジョンはどこにでもありそうな洞窟となんら変わらない見た目をしているが、その中に漂っている空気は町とはだいぶ違うように感じた。

「ああ、着いたな。それじゃ行くか!!」

俺は気合いを入れ直すと、迷宮ダンジョンに足を踏み入れた。

「うっ」

迷宮ダンジョンに入った途端、俺は顔をしかめてしまった。
中は外よりも気温が幾分下がり、ピリピリとした空気が漂っている。
そして何より所々にボロボロの服や骨が転がっている。

「ここが迷宮ダンジョンか……」
「はい。ご主人様もキュテリア様も油断はしないでくださいね」
「うん」
「大丈夫だ、わかってる」

俺たちが少し奥に進むと迷宮ダンジョン始めてのモンスターがその姿を現した。

GUGYAAAAAAA

ゴブリンである。
ゴブリンは十匹ほどの群れをなしている。
「まずはみんなの戦い方を知った方がいいな。まず1人ずつ狩るか」

俺はそう言い終えると全身を龍化させる。
そして血を強く蹴り、一瞬でゴブリンのもとに移動。
その速度を拳に乗せゴブリンの眉間を打ち抜く。
ゴブリンは脳漿を辺りにぶちまけて崩れ落ちた。
さらに、振り返る要領で勢いをつけ、ゴブリンに蹴りを打ち込む。
ゴブリンは後ろにいた2匹を巻き添えにして仲良く絶命した。

「とまあ俺の戦い方はこんな感じだな」
「「は、はやい(ですね)」」

ゴブリンは仲間がやられたことに気がつくや否や俺たちの元に走ってくる。

「次はエイミーだな」
「わかりました」

エイミーが瞳を閉じて集中力を高める。
カッと目を見開いたかと思うと神器の名前を口にした。

「きて、星弓・サジタリアス」

エイミーの手元がカッと輝いたかと思うと次の瞬間には美しい装飾の施された剛弓が握られていた。
エイミーは無駄のない動作でサジタリアスの弦を引く。
しかしその手には矢がない。

「お、おいエイミー矢が……」

俺が言い終わるよりも早くゴブリンの眉間が撃ち抜かれ真っ赤な華を咲かせた。
さらにエイミーは矢のない弓を3回ほど引き、三つの血の華を咲かせた

「「は?」」

俺とキュテリアはポカーンと口を開ける。

「なにを惚けているんですか?キュテリア様の番ですよ?」
「あ、ああわかりました!行きますよー」

キュテリアは両手を前に突き出すと瞳を閉じた。

「集え風精 舞えよ花弁 汝は全てを引き裂く刃也 斬風ウィンドスラッシュ

ヒュッと風が吹き抜け、残っていたゴブリンがすべて肉塊に変えられる。

「なっ」
「ああ、ごめんなさい!!全部やっっちゃいましたぁ」

キュテリアがペコペコと俺に頭を下げる。

「構わないよ」

俺はなんでもないように取り繕っていたが内心は酷く驚いていた。
まさかあんなに魔法が強力とは……俺も覚えるかな。
俺、アルティオム・ルーカスが魔法を覚える決意をした瞬間である。

「それじゃ先に進むか!」

俺は少し大きな声を出すと、先に進む。
そして何か起きなものとぶつかった。

「いってぇな!」

俺が前を向くとそこには

「なっ!オークかよ!!」

俺は拳を振り抜くがその巨体に似合わない速度でヒラリと俺の拳を躱した。
そして、世にも恐ろしい言葉を口にした。

「ヤラナイカ?」

そう、このオークはメスだったのだ。
オークのメスはとても希少でオスよりも高い戦闘能力を誇ると聞いたことがある。

「ぎゃああああああああああ!!」

俺は情けない悲鳴をあげて、後ろに飛びのく。
それに合わせてシュンっと風を切る音がして、オーク(メス)の肌を切り裂いた。

「ご主人様、どうやら大進行が起きているようです」
「大進行?」
「はい、大進行とは深い階層のモンスターが浅い階層に出てくることです」
「へぇー。それでこのオークは何階層位のモンスターなんだ?」
「9階層です」
「話してないで手伝ってよ!!エイミーもアルくんも!!」
「悪りぃ!!」

俺はドンっと強く地面を蹴ってオークの懐に飛び込み、拳を振るう。
それはオークに風穴をあけるには十分すぎる威力だった。

「はぁ」
「ごめんな、キュテリア」
「ほんとだよ!!」

そこまで言って普段と口調が違うことに気がついたのか頬を赤く染める。

「ごめんなさい!!普段の口調が出ちゃいました」
「ああ、直さないでいいよ。そっちの方がいい」

そういうとキュテリアは恐る恐る俺に聞いてくる。

「ほん、と?」

上目遣いで。

「ああ、ほんとだ」

そういうとキュテリアは頬を綻ばせた。

「ご主人様、いまは大進行が起きているんですよ?忘れないでくださいね。そういうのは街に帰ってからにしてください」
「ああ、わかった」

エイミーに冷たい視線を浴びせられて、俺は気を引き締め迷宮ダンジョンの深層へと進んで行った。
その視線に何か鉾のものが混ざっていたような気がするが気にしないでおこう。

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