劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです

山外大河

3 夢の次の次の次の次位に願う願望

「なんか朝から疲れきった表情浮かべてますねぇ。まーた無理な筋トレでもしてたんですか?」

「……ああ、まあうん。色々あってな」

「頑張るのはいいけど、あんまり無理すると体壊すよ?」

「……せやな。心配ありがと」

 シャワーを浴びて朝食を済ませた後家を出た赤坂は、通学路で偶然合流した渚と美月とそんな会話を交わす。
 どうやら相当顔に出る位疲れた表情をしているようだ。

(……まあマジで限界まで走ったからな)

 おそらく里羽も同じような状態だろうなと考えた所で、渚が意地の悪い笑みを浮かべながら赤坂に言う。

「ちなみに成長期にあまり筋トレしすぎると背、あんまり伸びなくなるそうですよ?」

「……ッ」

 知っていたけど。それでもザクリと胸に突き刺さる。
 そして苦笑いを浮かべながら赤坂は言葉を返す。

「ハハハ大丈夫。毎日牛乳飲んでるから。165センチで止まるとかマジあり得ねえから。あと10センチは伸ばすから」

「10センチですか。高望みですねぇ。身長ってそもそも何もしなくたってそう簡単に伸びないものなんですよ」

「お前が言うと説得力あるな」

「それどういう意味ですか?」

 どういう意味も何もそういう意味である。
 篠宮渚はとても小柄だ。そりゃもう余裕で先頭で両手を腰にやる人である。聞いたら殺されそうなのであえて聞いていないが、赤坂の目測では145センチ位しかないと思われる。
 だから赤坂的には控えめに言ってすげえちっちぇえ! って思うわけだ。

「アレですか? 私がチビだって言いたいんですか?」

 だからもうそれはど真ん中ストレートである。
 そんな直球ど真ん中を投げてきた渚の方に手を起きグーサインをして言ってやる。

「大丈夫、お前も伸びる、牛乳飲もう」

「それもうストレートにチビって言ってるじゃないですか!」

 その通りである。
 親しき仲にも礼儀ありという言葉があるが、親しき仲だからこそ下らない嘘を付くのはどうかとも思う。
 というか小さくないと言った所でもはや渚相手の場合煽りにしか聞こえないと思うのもある。
 そして色々とフォローを入れようと思ったのか、美月が渚に向けて言う。

「まあまあ身長なんて人それぞれだし。あんまり気にしなくてもいいんじゃないかな?」

 多分全く悪気なく美月はそう言うが、多分美月だけはそれを言っちゃいけないんじゃないかと思う。
 それは流石の赤坂でもそう思う。

「何も苦労してない美月には言われたく無いです! なんかすくすく色々成長するし! の割に何をどれだけ食べても太らないし!」

 昔から渚は結構食べる。だけど本人曰く体質的に太らないらしい。
 代わりに身長は160センチ程は間違いなくあるし、色々と目のやり場が困る感じに育った。
 だからまあ渚とは対極で、もはや慰めは煽りにしか聞こえない。
 まあそこに悪気が全くないのは渚も知っている訳で。
 そういう事もあってか渚は切り替えが早い。

「ま、まあいいですよ。私はまだまだ伸びますし色々と成長しますから! 止まっちゃってる赤坂さんと違ってまだまだこれからなんで私は怒りませんよ」

「いや勝手に止めんなよ!」

「止めて見せます!」

「なんかお前なら普通にできそうだからやめてくれる!?」

「できませんよ! できたら私身長無茶苦茶伸ばしますもん!」

「ですよね! よかった!」

 とまあそんなやり取りをして盛り上がったが、大体こういう話は一過性のものだ。しばらくすれば割りと落ち着いた雰囲気に戻る。三人の中では大体いつもの感じだ。
 そして落ち着いた雰囲気に戻った所で赤坂は渚に問いかける。

「そういや渚」

「どうしました?」

「今朝魔術科の生徒で里羽って奴にあったんだけどさ」

「里羽っていうと……まさかとは思いますけどあの里羽グループの?」

 渚も赤坂と同じような反応を見せる。

「そのまさか」

「え? ウチの生徒なんですか!?」

 渚が驚いた様にそう言うが、それ以上に驚いていたのは美月の方だった。

「え、ちょっと待って!? じゃあウチのクラスの里羽君ってあの里羽!?」

「あ、ちょっと待て、美月お前同じクラス?」

 今度は赤坂がそれに驚く。つまりこの場全員が驚いている。

「うん。席名字順だから前の席。それで里羽君がどうかしたの?」

 美月に促されて改めて赤坂は答える。

「えーっとまあ色々あってアイツと少し話した時ちょっと引っかかったっていうかさ」

「引っかかった?」

「おう。まあ里羽っていえば里羽グループじゃん。でもなんかこう……アイツの話聞いた感じだと、実は魔術師家系とかでもあったりするんじゃねえかって思ってさ。全然表だってそういう話聞かねえからその辺どうなのか、まあ渚なら知ってるんじゃねえかと」

「おーい隆弘。私も一応魔術師家系の娘なんだけど」

 どうも頼られていない事に少し不満だったのか美月がそう言ってきたので、一応聞いてみる。

「ではお答えをどうぞ」

「……分かんないです」

「渚、答え合わせよろしく」

 とりあえず最初からこうなるんじゃないかって分かっていたのでサクっと渚に回答権をパスすると、渚はあっさりと答える。

「赤坂さんの読み通りです。里羽は元々魔術師家系ですよ。今はそれが完全に霞む程に表の授業が大成功しちゃってますが、魔術師家系の人間なら大半はすぐに魔術師家系としての里羽がピンと来る位には有名な家です」

「……だそうだ美月」

「ごめん。なんかこう……自分の魔術を覚えたり鍛えたりするので手一杯だったから」

「知ってる」

 知っているけど、多分美月がそれを知らない理由はそういう事じゃないと思う。
 そういう知識はきっと自分から得る物ではなく周囲の人間、最も近しい所では両親などから話を聞いて知る物なのではないかと赤坂は思う。
 そういう意味では美月は正直、親とまともなコミュニケーションが取れているとは思わない。そして渚の様な実力者でもない故に狭い世界に閉じこもっていた形になるわけだ。寧ろ渚が知っている方がおかしいのかもしれない。

「で、有名って事はアレか。実力が凄い連中がゴロゴロいるって感じになんの?」

「まあ私個人の見解を言わせてもらえばとても優秀な方々だとは思いますよ」

 ただ、と渚は複雑な表情で言う。

「有名の形も様々ですからね。それが必ずしも実力によるものとは限りません」

「……というと?」

「細かい話は長くなるんでまたの機会にさせてもらいますが……嫌われてるんですよ、里羽は」

「嫌われ……なんで?」

 流石に気になって問いかけると、軽いため息を付いてから渚は言う。

「まったく、赤坂さんはお馬鹿さんですか? 長くなるから細かい話は後でって言ったのに」

「いや、だってそんな意味深な言葉で切られたらかえって気になる。ほらみろ、渚もむっちゃ頷いてる」

「うん、正直私も気になるんだ」

 そう言って美月も複雑な表情を浮かべて答える。

「なんかこう……席後ろだから分ったんだけどね、なんか明らかに一部から攻撃的な視線が里羽君に向けられてたっていうか。それがなんでなのかって疑問の答えだと思うからさ、今の話」

「むぅ……そこまで言われたら仕方ないですね。じゃあ色々と短く纏めて学校着く前に教えてあげますか」

 そして渚は語りだす。

「あまり綺麗じゃない魔術師家系の話を」

 里羽の話を。
 義務教育で深く習わなかった魔術師家系の話を。

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