劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです
10 向ける姿勢
時刻は少しだけ遡る。
魔術科1-Bの教室にて篠宮美月はぐっと体を伸ばした。
ようやく昼休みである。待ちに待ったお昼休みである。
篠宮美月が自分でプロフィールを書いたとして、好きな事の欄には色々な事が入るだろうが、間違いなく入るのが食べる事だ。
だから昼休みは至福の時間な訳である。
そしてそんな美月に話し掛けてきた女子が二人いた。
「……渚。お昼いこう?」
「いこーぜいこーぜ! お昼が私達を待っている!」
「あ、うん。そうだね」
そう言って美月は弁当箱を手に立ち上がる。
昨日今日の二日間でクラスメイトとはそれなりに打ち解けたとは思うが、その中でも特に仲良くなれたと思うのが、今は話しかけてきた二人だ。
なんだか常に無表情な感じのロングヘアーの秋山遥と、昨日の報道部とまではいかないものの妙にテンションの高いポニーテイルの春野千里。感情の起伏を足して割ったら丁度よさそうな二人組である。
「そういえば決めてないけどどこで食べる? 教室?」
「お昼の弁当と言えば屋上で食べるのが相場って決まってる!」
「あ、ここ昼休み屋上空いてるんだ」
美月の言葉に遥が頷く。
漫画などではよく見る光景ではあるものの、案外屋上というものは生徒に解放されていない事が多い。少なくとも通っていた中学校では授業で使う時以外は基本的に立ち入り禁止になっていた。
「……じゃあ行こう」
「うん、そうだね。いこっか」
美月がそう答えた時だった。
(……)
クラスメイトが各々他の生徒と行動を始めている中で里羽栄一郎が一人で教室を出て行った。
今、1-Bの教室での里羽の立場はお世辞にも良いとはいえない。
今朝渚から聞いた話で里羽の家が魔術師家系の中で嫌われているとの情報があった。だけど今の自分がそうであるように、基本的に一般生徒はそれを気にしないだろう。
だけど結果的に里羽栄一郎は孤立している。
原因は今男女問わず何人もの生徒に囲まれている男子生徒、暁隼人にあると言ってもいい。
魔術師家系の事を良く知らない美月でも暁の名は知っている。
篠宮と同じく今だ魔術師家系としての権威を保っている名家で、国内の魔術に関する案件での発言力もある。
今の日本の魔術界隈を牽引しているといってもいい。
そして暁隼人個人の事も知っている。
なにせ渚がいなくなった去年の15歳以下の魔戦の全国大会優勝者で日本代表だ。
世界大会の成績は4位入賞。二年連続世界大会を制覇している渚と比べれば格落ちと評価する者もいるらしいがそれはとても少数派だ。冷静に考えて世界大会4位入賞は素晴らしい成績であり、早速今年の魔戦の有力株として注目もされている。
……あり得ない話ではあるのだけれどもし普通科に暁がいて、その暁を数合わせとして魔戦の校内予選にエントリーさせようとしたら、昨日の渚と同じく中之条が突っかかってきたのではないかと思う。
それだけ注目を浴びるような人物で……とても影響力のあるクラスの中心人物。
……その彼が露骨に里羽を嫌っているのだから、皆里羽に接しにくいのだ。
何人か話しかけた生徒もいたが、聞こえてきた会話は友人と会話するというよりも里羽が大企業の御曹司という所に目を付けてやれ飲み物奢れだのやれ飯を奢れなど、そういう会話ばかり聞こえてきた訳で。
だから一人なのだろう。
だから何だか悪い気がした。
「……良かったの?」
「なにがだよ」
「……いや、里羽君一人にしても良かったのかなーって思って」
遥と千春は見た所里羽と仲が良さそうだった。休み時間に聞いた話によると同じ中学出身らしい。
だからまあきっと友達なわけで、なんとなく里羽を放置させて自分と一緒にいても良かったのかなと思ったのだ。
「……いい」
遥がボソリと言って、それに続くように千春も言う。
「無理して僕に学校で関わるな、だってさ。別に無理なんかしてねーのに」
そう言って千里は苦笑を浮かべ、それに遥も頷く。
そんな二人に美月は尋ねた。
「えーっと、なんか複雑な関係そうだけど……二人は里羽君の友達……でいいのかな?」
そう尋ねると千里は言う。
「まあいつまでも此処で立ち話もなんだし、とりあえず屋上行こうぜ。その間でよければ教えてやるよ」
「う、うん。分かった」
そんなやり取りを躱した後、三人は教室を出た。
そしてそのまま屋上に向かいながら、千里はよく分からない事を言いだす。
「まあアレだ。ウチと遥の家は昔から里羽の家に使えてて、ウチら二人は栄一郎の従者って所だ」
「従者……従者? 従者ってこう……仕えてる、みたいな感じ?」
「……そんな感じ。まあ時代が時代だから殆ど形だけのものだけど」
「まあ実質栄一郎とは普通の幼馴染って所かな」
そう千里が言って遥も頷く。
……幼馴染。
それなら仲が良さそうなのも納得がいくと、美月は思う。
でもそれなら尚更あの状態の里羽を助けてあげた方がいいんじゃないかと美月は思うが、それを察してか偶然か千里は言う。
「まあとにかく栄一郎があんまり関わるなっていうならウチらは遠くで見守るつもり。アイツにもプライドってのがあるだろうし、多分色々と考えてるだろうし」
「……まあいざとなったら暁ぶっ飛ばすけど」
遥が表情を変えずに淡々と物騒な事をいい、それに千里も強く頷く。
(……大事に思ってるんだな、里羽君の事)
あの教室内の雰囲気の中で里羽本人に止められるまでは普通に接していて、今も何かあったら暁という実力者に喧嘩を売ろうとしている二人を見ているとそう思う。
そんな二人の姿勢は、昨日中之条に怒ってくれた赤坂と同じ様に思えた。
(……同じ、か)
実際の所それはどうなのかは分からない。
思えただけでそれは自惚れなのかもしれない。
赤坂は辛い時はいつも隣りにいてくれて、昨日のような事があればちゃんと怒ってくれて。
そうしてくれるのは少し位は自分の事を大切に思ってくれているからなのだと思いたいけれど、もしかするとそれは、幼馴染の腐れ縁の様なものなのがあるからという可能性もあるわけで。
……だからもしかすると、そんな風に思うのは自惚れなのかもしれない。
ただの願望なのかもしれない。
だけど……だけどせめてこの二人が里羽を大切に思っている位には、自分の事を大切に思ってくれていてほしいなと、美月は切に思った。
魔術科1-Bの教室にて篠宮美月はぐっと体を伸ばした。
ようやく昼休みである。待ちに待ったお昼休みである。
篠宮美月が自分でプロフィールを書いたとして、好きな事の欄には色々な事が入るだろうが、間違いなく入るのが食べる事だ。
だから昼休みは至福の時間な訳である。
そしてそんな美月に話し掛けてきた女子が二人いた。
「……渚。お昼いこう?」
「いこーぜいこーぜ! お昼が私達を待っている!」
「あ、うん。そうだね」
そう言って美月は弁当箱を手に立ち上がる。
昨日今日の二日間でクラスメイトとはそれなりに打ち解けたとは思うが、その中でも特に仲良くなれたと思うのが、今は話しかけてきた二人だ。
なんだか常に無表情な感じのロングヘアーの秋山遥と、昨日の報道部とまではいかないものの妙にテンションの高いポニーテイルの春野千里。感情の起伏を足して割ったら丁度よさそうな二人組である。
「そういえば決めてないけどどこで食べる? 教室?」
「お昼の弁当と言えば屋上で食べるのが相場って決まってる!」
「あ、ここ昼休み屋上空いてるんだ」
美月の言葉に遥が頷く。
漫画などではよく見る光景ではあるものの、案外屋上というものは生徒に解放されていない事が多い。少なくとも通っていた中学校では授業で使う時以外は基本的に立ち入り禁止になっていた。
「……じゃあ行こう」
「うん、そうだね。いこっか」
美月がそう答えた時だった。
(……)
クラスメイトが各々他の生徒と行動を始めている中で里羽栄一郎が一人で教室を出て行った。
今、1-Bの教室での里羽の立場はお世辞にも良いとはいえない。
今朝渚から聞いた話で里羽の家が魔術師家系の中で嫌われているとの情報があった。だけど今の自分がそうであるように、基本的に一般生徒はそれを気にしないだろう。
だけど結果的に里羽栄一郎は孤立している。
原因は今男女問わず何人もの生徒に囲まれている男子生徒、暁隼人にあると言ってもいい。
魔術師家系の事を良く知らない美月でも暁の名は知っている。
篠宮と同じく今だ魔術師家系としての権威を保っている名家で、国内の魔術に関する案件での発言力もある。
今の日本の魔術界隈を牽引しているといってもいい。
そして暁隼人個人の事も知っている。
なにせ渚がいなくなった去年の15歳以下の魔戦の全国大会優勝者で日本代表だ。
世界大会の成績は4位入賞。二年連続世界大会を制覇している渚と比べれば格落ちと評価する者もいるらしいがそれはとても少数派だ。冷静に考えて世界大会4位入賞は素晴らしい成績であり、早速今年の魔戦の有力株として注目もされている。
……あり得ない話ではあるのだけれどもし普通科に暁がいて、その暁を数合わせとして魔戦の校内予選にエントリーさせようとしたら、昨日の渚と同じく中之条が突っかかってきたのではないかと思う。
それだけ注目を浴びるような人物で……とても影響力のあるクラスの中心人物。
……その彼が露骨に里羽を嫌っているのだから、皆里羽に接しにくいのだ。
何人か話しかけた生徒もいたが、聞こえてきた会話は友人と会話するというよりも里羽が大企業の御曹司という所に目を付けてやれ飲み物奢れだのやれ飯を奢れなど、そういう会話ばかり聞こえてきた訳で。
だから一人なのだろう。
だから何だか悪い気がした。
「……良かったの?」
「なにがだよ」
「……いや、里羽君一人にしても良かったのかなーって思って」
遥と千春は見た所里羽と仲が良さそうだった。休み時間に聞いた話によると同じ中学出身らしい。
だからまあきっと友達なわけで、なんとなく里羽を放置させて自分と一緒にいても良かったのかなと思ったのだ。
「……いい」
遥がボソリと言って、それに続くように千春も言う。
「無理して僕に学校で関わるな、だってさ。別に無理なんかしてねーのに」
そう言って千里は苦笑を浮かべ、それに遥も頷く。
そんな二人に美月は尋ねた。
「えーっと、なんか複雑な関係そうだけど……二人は里羽君の友達……でいいのかな?」
そう尋ねると千里は言う。
「まあいつまでも此処で立ち話もなんだし、とりあえず屋上行こうぜ。その間でよければ教えてやるよ」
「う、うん。分かった」
そんなやり取りを躱した後、三人は教室を出た。
そしてそのまま屋上に向かいながら、千里はよく分からない事を言いだす。
「まあアレだ。ウチと遥の家は昔から里羽の家に使えてて、ウチら二人は栄一郎の従者って所だ」
「従者……従者? 従者ってこう……仕えてる、みたいな感じ?」
「……そんな感じ。まあ時代が時代だから殆ど形だけのものだけど」
「まあ実質栄一郎とは普通の幼馴染って所かな」
そう千里が言って遥も頷く。
……幼馴染。
それなら仲が良さそうなのも納得がいくと、美月は思う。
でもそれなら尚更あの状態の里羽を助けてあげた方がいいんじゃないかと美月は思うが、それを察してか偶然か千里は言う。
「まあとにかく栄一郎があんまり関わるなっていうならウチらは遠くで見守るつもり。アイツにもプライドってのがあるだろうし、多分色々と考えてるだろうし」
「……まあいざとなったら暁ぶっ飛ばすけど」
遥が表情を変えずに淡々と物騒な事をいい、それに千里も強く頷く。
(……大事に思ってるんだな、里羽君の事)
あの教室内の雰囲気の中で里羽本人に止められるまでは普通に接していて、今も何かあったら暁という実力者に喧嘩を売ろうとしている二人を見ているとそう思う。
そんな二人の姿勢は、昨日中之条に怒ってくれた赤坂と同じ様に思えた。
(……同じ、か)
実際の所それはどうなのかは分からない。
思えただけでそれは自惚れなのかもしれない。
赤坂は辛い時はいつも隣りにいてくれて、昨日のような事があればちゃんと怒ってくれて。
そうしてくれるのは少し位は自分の事を大切に思ってくれているからなのだと思いたいけれど、もしかするとそれは、幼馴染の腐れ縁の様なものなのがあるからという可能性もあるわけで。
……だからもしかすると、そんな風に思うのは自惚れなのかもしれない。
ただの願望なのかもしれない。
だけど……だけどせめてこの二人が里羽を大切に思っている位には、自分の事を大切に思ってくれていてほしいなと、美月は切に思った。
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