劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです
15 再戦を望む者
「久しぶりですね、暁さん」
渚はどこか面倒臭そうな笑みを浮かべて暁にそう言葉を返す。
一方の暁も笑ってはいるものの、目がどこか笑っていない。おそらく赤坂に向いていた好戦的な視線以上の何かが渚に対して向けられている。
そして暁は渚に向けて言う。
「……魔戦、出るそうじゃないか」
「ええ。美月の数合わせですけど」
「数合わせで……か。まあとにかく例を言うよ」
そして少しだけ複雑な表情を浮かべて暁は言う。
「これでキミを打ち倒せれば、俺はようやく胸を張れる」
「……」
「キミがいなかったからじゃない。俺が強くなったから勝てたんだって胸を張って言える」
……なんとなくそれだけで、暁という人間が渚に向けている感情を理解できた。
多分暁は自分へ向けられる評価に不満を持っているのだろう。
実際、去年の暁の評価は不当と言ってもいい。
本来絶対的な王者である筈の篠宮渚の欠場。それは国内の頂点に上り詰められた人間を篠宮渚が居なかったから優勝できたという評価を下す人間を多く生む。彼の実力では無く運に恵まれたのだと評価する者も多くいた。
……実際その試合の中継を赤坂は見ていたのだが、確かにそれはその通りだったのかもしれないとも思うけれど、だけどそれでも国内で最上位の中学生魔術師だったのは間違いなくて。篠宮渚という規格外のイレギュラーを省けば過去十年を振り返っても最優秀と呼べるほどの実力者で。
……だから本当に渚と比較され続けて不評な評価をされ続けてきたのだ。
リベンジの機会を。その評価を覆す為の場も設けられずに。
だが結果的に今年の魔戦に数合わせという形ではあるものの、篠宮渚は参戦する。
だからこそ、彼は礼を言ったのだろう。
自分が勝利して世間の評価を塗り返る機会を与えてもらった事に。
(……まあ与えられたのは機会だけだけどな)
……確かに暁隼人という魔術師は全国大会で優勝できる程の実力者である事は間違いない。昨年世界中から参加した多くの15歳以下の魔術師の中で4番目に強い魔術師である事に間違いない。
4位だったのも10回戦って5回負ける様な同程度の実力の相手と戦い偶々その一回を引いてしまっただけに過ぎない。何か少しでも変化があれば世界大会で優勝したのは彼だったのかもしれない。
だけど渚は。篠宮渚という千年に一人の魔術師は一年生で世界の強豪を上回り、二年生で圧倒した。
そう、圧倒したのだ。
その渚が暁に負ける光景など思いつかない。思いつく訳がない。
……だからこそ、与えられたのは機会だけなのだ。
「別に校内予選でなくても、今此処で一対一の対戦やってもいいんですよ?」
一応今の暁の評価に渚も思う所があるのか、少し気を使うように暁に言う。
そしてその言葉に赤坂は心中で称賛の言葉を送った。
(……まあ、その方がいいわな)
結果的に去年篠宮渚と対戦する事が無かったから。篠宮渚という絶対的な壁にぶつかる事無く勝ち進んでしまったから今の彼は心に靄を残している。だったら今改めて渚と戦えばどんな形であれそれは晴れるのじゃないかと思う。
暁が勝利すれば彼は満足するだろうし、負ければ負けたでも彼の中で何かしらの答えはでるだろう。
渚が出場する団体戦のルール上、一対一の勝負にならない可能性が大いにある事を考えれば、今ここで戦っておくのがベストな選択だ。
赤坂はそう思ったのだが……暁はそれを否定する。
「いや、やめとくよ」
「どうしてですか? 多分暁さん的には決着を付けたいんじゃないんですか?」
「付けたいさ。付けた上で自分の実力を証明する……だけど所詮こんな所で戦ってもそれは模擬戦でしかない。勝ったとしても負けたとしても色々と思う所が残ってしまう。全力を出されなかったんじゃないかって。もしくは……出せなかったんじゃないかって」
「私はそんな事思いませんよ。来るなら全力で叩き潰しますが」
「俺が思うんだよ。例え俺が勝っても負けても。多分俺が納得できる戦いにならない」
「全く面倒な人ですね」
「知ってる。でも実際そういう面倒な人間なんだから仕方がないだろ。だからとにかく、俺は本戦でキミを叩き潰す」
そう言った暁に渚は先程赤坂が考えていたような問題点と同じ物を指摘する。
「でも結局私が出るのは団体戦ですよ? 三対三……って違うか。確か同時に三組以上戦うのでもっと大人数が同時に戦うんです。あなたが納得できる様な戦いができる可能性は低いと思うのですが」
「できるさ」
当然の様に暁は言う。
「キミは多分誰にも負けない。俺だって負けるつもりはないさ。だとすれば邪魔者は自然と排除されて最終的に俺達の一対一の構図は出来上がる」
「いやいやちょっと待てよ」
暁の無茶苦茶な発言に思わず赤坂はツッコミを入れる。
「なんか言ってる事無茶苦茶だろ。最後に残って一対一とかそうあるかよ。多分どこかで渚を含めた複数人と同時に戦う様な展開にだってなるだろ」
本当に言っている事は無茶苦茶である。
団体戦のルールは決められた広大なフィールドで複数チームによって行われるバトルロワイアルだ。各魔術師はバラバラな地点に転送され試合が始まる。
だがどこでどのような状況で渚と暁が会敵するかは分からない。渚の隣りに赤坂や美月がいる可能性も十分にあり得て、その逆もまたしかり。
第三者からの妨害もあるかもしれない。
というかそれが団体戦の醍醐味である。
……だから基本的にどれだけ強かろうとそんな事にはそうならないのだ。
それを指摘された暁は納得した様に小さく頷く。
「……確かにそうか。でも関係ないだろ」
暁は言う。
「周りが妨害しようがサポートをしようが、多少のイレギュラーに過ぎない。妨害を受けるという条件は俺もキミも同じだし……それにサポートに関しては問題ないと思うよ」
そして一拍あけてから言う。
「そんなもの本当に些細なイレギュラーだろうからね」
赤坂へと視線を向けて。
渚はどこか面倒臭そうな笑みを浮かべて暁にそう言葉を返す。
一方の暁も笑ってはいるものの、目がどこか笑っていない。おそらく赤坂に向いていた好戦的な視線以上の何かが渚に対して向けられている。
そして暁は渚に向けて言う。
「……魔戦、出るそうじゃないか」
「ええ。美月の数合わせですけど」
「数合わせで……か。まあとにかく例を言うよ」
そして少しだけ複雑な表情を浮かべて暁は言う。
「これでキミを打ち倒せれば、俺はようやく胸を張れる」
「……」
「キミがいなかったからじゃない。俺が強くなったから勝てたんだって胸を張って言える」
……なんとなくそれだけで、暁という人間が渚に向けている感情を理解できた。
多分暁は自分へ向けられる評価に不満を持っているのだろう。
実際、去年の暁の評価は不当と言ってもいい。
本来絶対的な王者である筈の篠宮渚の欠場。それは国内の頂点に上り詰められた人間を篠宮渚が居なかったから優勝できたという評価を下す人間を多く生む。彼の実力では無く運に恵まれたのだと評価する者も多くいた。
……実際その試合の中継を赤坂は見ていたのだが、確かにそれはその通りだったのかもしれないとも思うけれど、だけどそれでも国内で最上位の中学生魔術師だったのは間違いなくて。篠宮渚という規格外のイレギュラーを省けば過去十年を振り返っても最優秀と呼べるほどの実力者で。
……だから本当に渚と比較され続けて不評な評価をされ続けてきたのだ。
リベンジの機会を。その評価を覆す為の場も設けられずに。
だが結果的に今年の魔戦に数合わせという形ではあるものの、篠宮渚は参戦する。
だからこそ、彼は礼を言ったのだろう。
自分が勝利して世間の評価を塗り返る機会を与えてもらった事に。
(……まあ与えられたのは機会だけだけどな)
……確かに暁隼人という魔術師は全国大会で優勝できる程の実力者である事は間違いない。昨年世界中から参加した多くの15歳以下の魔術師の中で4番目に強い魔術師である事に間違いない。
4位だったのも10回戦って5回負ける様な同程度の実力の相手と戦い偶々その一回を引いてしまっただけに過ぎない。何か少しでも変化があれば世界大会で優勝したのは彼だったのかもしれない。
だけど渚は。篠宮渚という千年に一人の魔術師は一年生で世界の強豪を上回り、二年生で圧倒した。
そう、圧倒したのだ。
その渚が暁に負ける光景など思いつかない。思いつく訳がない。
……だからこそ、与えられたのは機会だけなのだ。
「別に校内予選でなくても、今此処で一対一の対戦やってもいいんですよ?」
一応今の暁の評価に渚も思う所があるのか、少し気を使うように暁に言う。
そしてその言葉に赤坂は心中で称賛の言葉を送った。
(……まあ、その方がいいわな)
結果的に去年篠宮渚と対戦する事が無かったから。篠宮渚という絶対的な壁にぶつかる事無く勝ち進んでしまったから今の彼は心に靄を残している。だったら今改めて渚と戦えばどんな形であれそれは晴れるのじゃないかと思う。
暁が勝利すれば彼は満足するだろうし、負ければ負けたでも彼の中で何かしらの答えはでるだろう。
渚が出場する団体戦のルール上、一対一の勝負にならない可能性が大いにある事を考えれば、今ここで戦っておくのがベストな選択だ。
赤坂はそう思ったのだが……暁はそれを否定する。
「いや、やめとくよ」
「どうしてですか? 多分暁さん的には決着を付けたいんじゃないんですか?」
「付けたいさ。付けた上で自分の実力を証明する……だけど所詮こんな所で戦ってもそれは模擬戦でしかない。勝ったとしても負けたとしても色々と思う所が残ってしまう。全力を出されなかったんじゃないかって。もしくは……出せなかったんじゃないかって」
「私はそんな事思いませんよ。来るなら全力で叩き潰しますが」
「俺が思うんだよ。例え俺が勝っても負けても。多分俺が納得できる戦いにならない」
「全く面倒な人ですね」
「知ってる。でも実際そういう面倒な人間なんだから仕方がないだろ。だからとにかく、俺は本戦でキミを叩き潰す」
そう言った暁に渚は先程赤坂が考えていたような問題点と同じ物を指摘する。
「でも結局私が出るのは団体戦ですよ? 三対三……って違うか。確か同時に三組以上戦うのでもっと大人数が同時に戦うんです。あなたが納得できる様な戦いができる可能性は低いと思うのですが」
「できるさ」
当然の様に暁は言う。
「キミは多分誰にも負けない。俺だって負けるつもりはないさ。だとすれば邪魔者は自然と排除されて最終的に俺達の一対一の構図は出来上がる」
「いやいやちょっと待てよ」
暁の無茶苦茶な発言に思わず赤坂はツッコミを入れる。
「なんか言ってる事無茶苦茶だろ。最後に残って一対一とかそうあるかよ。多分どこかで渚を含めた複数人と同時に戦う様な展開にだってなるだろ」
本当に言っている事は無茶苦茶である。
団体戦のルールは決められた広大なフィールドで複数チームによって行われるバトルロワイアルだ。各魔術師はバラバラな地点に転送され試合が始まる。
だがどこでどのような状況で渚と暁が会敵するかは分からない。渚の隣りに赤坂や美月がいる可能性も十分にあり得て、その逆もまたしかり。
第三者からの妨害もあるかもしれない。
というかそれが団体戦の醍醐味である。
……だから基本的にどれだけ強かろうとそんな事にはそうならないのだ。
それを指摘された暁は納得した様に小さく頷く。
「……確かにそうか。でも関係ないだろ」
暁は言う。
「周りが妨害しようがサポートをしようが、多少のイレギュラーに過ぎない。妨害を受けるという条件は俺もキミも同じだし……それにサポートに関しては問題ないと思うよ」
そして一拍あけてから言う。
「そんなもの本当に些細なイレギュラーだろうからね」
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