お姉ちゃんが欲しいと思っていたら、俺がお姉ちゃんになったので理想の姉を目指す。
43話 運動会のご飯ってすっごい楽しみになっちゃうやつ。
前半戦も何事もなく?終わり、待ちに待ったお昼タイムとなりまーす。みーちゃんが最後やりやがったけれど、それ以外は無事に終えることができました!そんな現在の赤と白の点数はぁ――
赤:190
白:180
……負けてるね。負けちゃってるよ。漂白してやると思ってたら、思いのほか赤ペンキが濃すぎて全然落ちない洗濯物みたいになってるよ。意味わからないね。私も意味わからない。
ま、まぁーあ?午後にはリレーもありますしぃ、そこで勝ち取ってしまえば逆転はできますよねぇ!そうそう!逆転よ逆転!ストレートに勝つのもいいでしょうけれど、やっぱり逆転した方が熱い展開ではないかしらん!
「くっ……こいつはもうだめだ」そんな言葉が漏れてしまいそうな時、颯爽とチームに勝利を運ぶ女神……これは神お姉ちゃんですわ!こんなんブラザーズポッですわ!なデポならぬ勝ちポですわ!うん意味わかんない!
いやぁ、それにしてもお腹ペコペコですよ。運動会って思ったほどは動かないけれど、それでも周りの熱気と言うか雰囲気というか、そーゆーやつにあてられてやたらお腹すくんだよね。変なこと考えちゃうくらいにはお腹すいてます。
そんな私はみーちゃんを引きずっています。なんでってそりゃさっきの悪戯ですよ。やっとこさ逃げ回るみーちゃんを捕まえたのでこうして連行している次第です。
「ね、ねぇー琴ちゃーん。なんで私引きずられてるのかな……かな?」
「それはねぇ?自身のお胸に手を当ててお考えなさいな?」
そんなどっかの凄惨な村の女子高生みたく語尾を繰り返してもダメだぞ。というか妙に様になってて少し怖いです。……いきなり鉈振り回したりしないよね?私くびりころがされちゃったりしないよね?
そんな私の不安を余所に当のみーちゃんは言葉通り自身の胸に両手を当てている。ちょいちょい両手がわきわきと動いているのだけれど……何故自身のお胸様を揉むよみーちゃん。そして何かに納得したのか、きめ顔を私に向けてきた。
「……ん~、私はまだAカップブラかな」
「そんなこと聞いてません!ていうか乙女なんだから往来でそんなこと言っちゃメッ!!」
「今は琴ちゃんしかいないから大丈夫だよ~」
「どこで不埒なオスが聞き耳立てているかわからないのだからダメです!」
「はぁい。ところで何の話だっけ?」
「……なんだっけ?」
「取りあえず引きずるのやめてー」
「ん?あ、そうだね」
掴んでいたみーちゃんの手首を離し並んで家族のいるブルーシートまで向かう。きっと手首を掴んでいたのにはそれなりの理由があったのだと思うのだけれど……それ以上にみーちゃんの貞操観念が心配で忘れました。お願いだから悪い男に捕まらないでね。こりゃ私がしっかりと見張ってあげないと。
「おかえりぃ!琴頑張ったじゃなーい!美鈴もカッコよかったわよ!」
さてマイファイミリーはどこかなぁなんて探していると、うちのお母さまが私たちを先に見つけてくれた。いつも通りの元気で明るい声である。というよりいつもより数段元気な気がするのはきっと気のせいではないだろう。
「まぁねっ!けーちゃんとよーちゃんが来てるのにかっこ悪いところなんて見せられないもん!」
「貴音さんありがとー!」
私とみーちゃんは口ぐちに返し、お母さんの後をついていく。その間もあれがこうだーあそこがどうだのーと色々と感想を言われた。どれもこれもべた褒めだったのだけれど、みーちゃんが隣で聞いていると思うと少し恥ずかしかった。嬉しいんだけどね。
みーちゃんもみーちゃんでニコニコしながら聞いているし。なんだろ。今のみーちゃんからは隣に住んでいるお姉さん臭がする。お姉ちゃんオーラを出せるみーちゃんが羨ましい。やはり本場のお姉ちゃんは素でそういう風にできてしまうのだろう。私もそこを目指して頑張っていきたい。
「おう、琴音頑張ったな!」
マイファミリー+みーちゃんズファミリーのいるところまで着くとまたもや声をかけられる。その人物は普段あまり見ないやつだ。
「……どなた?」
「おいおい、父さんの顔を忘れたのか?ちょっと傷つくぞ」
「あなたが……私のお父さん……?」
「……え?本当に忘れたの?いや待って、本当に待って」
その人物とはお父さんだ。
普段は単身赴任ということで青森市で働いている。中々の激務ということで家に帰ってくるのは2週に一度くらいだ。それだと言うのに帰ってきても寝てるだけという父親の風上にもおけない薄情者である。
前世ではそれから色々あって今努めている会社が……まぁ結構グレーゾーンな仕事をしていることもあり倒産。今度は東京に単身赴任をし、そこで更に色々やらかして家族間は冷え冷えになってしまうのだが……この時のお父さんはまだまともだった時だ。
なんだかんだで家族の行事には出てくれる。どこかに遊びに行くとなれば一応協力してくれるし楽しもうとしてくれる。ある意味一番家族として幸せな時期だ。
それも私が卒業する頃には崩壊したので、今生ではそうならないように何とか軌道修正したいところである。
とは言え、前世では大分煮え湯を飲まされたこともあり私の中でこやつの評価も信愛度も低い。今のお父さんはまだそうではないけれど、それでも少しくらい辛く当たってしまうのも仕方がないと思う。それだけ私にとっては前世のこいつは糞野郎だったというのを理解して欲しい。……もう少し大人にならないとダメだなぁ。
「なぁ貴音。なんか琴音怒ってるっぽいんだけど……」
「さぁ?普段の行いのせいでないの?」
「貴音も冷たいなぁ……」
「そう思うんだば少し考えた方いいんでないのー?」
「う、善処します……」
基本的に尻に敷かれる系男子のお父さんはお母さんに助けを求めるも呆気なく見捨てられしょぼん。少し可哀そうになってきた。
「嘘だよ。お父さんも今日は来てくれてありがとう!」
「琴音っ……!」
お父さんは感極まったのか私に抱き着いて来ようとしたので華麗にかわす。今の私は対父親時にみかわし率95%UPがついているからね。そう簡単にはハグなんてさせてあげないから。この私が100歩……いや、1000歩譲って感謝してあげたんだから……感謝しなさいよねっ!
「姉ちゃんかっこよかった!どうやったらあんなにはやく走れるの?」
続いて私の愛おしいブラザー2号ことよーちゃんが声をかけてくれた。両手を握りしめ目はキラッキラと輝き酷く興奮した様子だ。どうやら私のかっこいいところを見せて信頼度を上げよう作戦は成功したようである。
「くっふっふっふ!そうでしょうそうでしょう!速く走るコツ、それはねぇ……愛、かなっ☆」
「……いやそれはないでしょ」
「なじぇ?!」
さっきまでのキラッキラ輝いていた目は何処へやら。反転して可哀そうなものを見るような目で私を見つめるよーちゃん。折角上がった流石お姉ちゃんパラメータ、略してさすおねパラメータが下がって±0になっている気がするょ?
なんでどうして。私が速く走れたのは本当に愛の力だというのに……。私の原動力の全ては貴方達への愛なのよっ!これが伝わらないっ!そしてその目はやめてっ!
「だから姉ちゃんのそーゆーとこが残念だって言ってんだよ残姉」
「それまだ言いますか!?」
今度はけーちゃんが話しかけてくる。やれやれと両手を上げて首を振る動作もワンセットだ。お前はラノベ系主人公かっ!そんなんするやつきょうび見ないよっ!でもなんか可愛いから許す!
「あははっ!琴ちゃんのところ相変わらず賑やかだね!」
みーちゃんは私たちのやり取りを見て楽しそうに笑った。みーちゃんのその笑顔もエンジェウスマイルだぜぇ。
「みーちゃんのとこも負けず劣らずだと思うけどね」
みーちゃんのところは6人家族で結構な大家族だ。そしてみーちゃんと同じくユーモラスで賑やかな家族である。流石血は争えないと言うべきか、中々電波なところがたまにあるのがポイントだ。
今も下から2番目の翔くんが「ぴーひょろろろろろ」とか言って何かを呼んでいる。
耳を傾けてみれば……。
「翔なにやってんの?」
「かもしか呼んでる」
「カモシカかぁ……ここにも出るのかな?」
「かもしれないから呼んでる。ぴーひょろろろろろ」
「そっかぁ。出るといいねカモシカ」
うん。平常運転だね!カモシカがこんな街中にいるわけないだろっ!とは思うがそれでもやっている辺り流石だよ。ほんと癒しやね。
「さっ!お腹も空いたべし、ご飯ご飯!」
お母さんがパンと手を合わせお弁当を広げ始める。それと同時にお弁当独特のいい匂いが漂ってきて私の胃袋を刺激する。
「あたしんとこでも作ってるからこっちも食べてね」
みーちゃんのお母さんもそれに合わせお弁当を広げる。人数も人数だしちょっとしたオードブルだ。どれに手を付けようか迷ってしまう。
「こっちも作ってきたはんでいっぱい食べなさい」
そう言えばおばあちゃんもいましたねぇ!更にお弁当が増える増える……。こんなに食べられるかしら?まぁ男衆もいるし大丈夫やろ。余って晩御飯兼次の日の朝ごはんになるのは目に見えてるけど、食べ物に困らないのって最高の贅沢だよね!
前世の仕事してた時期なんて薄給すぎてたまにモヤシモヤシパスタ納豆卵パスタパスタパスタだったもんなぁ……あれ?前世のことを思い出したら目から汗が……。
それからというもの私はもう、もっしゃもっしゃと食べまくりましたよ。ちょっと食べる前の自分を小一時間説教したくなるくらいには食べまくりましたよ。おかげでちょっと今苦しいんですよ。あればあるだけ食えばいい精神はやめろって、私イワナ書かなかったけ?
「食べ過ぎちゃったねぇ……ケプッ」
「そだね……激しく同意だよ」
私とみーちゃんは軽くグロッキーになりながらブルーシートに座り込んでいた。少し体を動かした方が楽になりそうなものだけれど、そもそも動く気力すらないので座っている。
よーちゃんとけーちゃんはおばあちゃんがアイス買ってあげると言っていたので、それに飛びついて行ってしまった。ついでにみーちゃんの妹たちと弟も便乗して行ってしまった。こうーゆーとこを見るとまだまだ子供なんだなぁとしみじみ思う。実際彼らはまだ小学生なのだから子供なのだけれど、私の記憶……特に前世の記憶の方ではそんな彼らも大人になってしまっていて、それなりに落ち着いている。どうしても今の私にとってはそちらの方が印象が大きいのだ。
ふと、前世の私はどうなってしまったのだろうと考える。
記憶が途切れているのは23の頃。いつものように重い体を引きずって仕事をし、疲れ切って泥のように眠る。そんな日々。決して優雅で華々しい大人とは無縁な社会人生活。その日もいつも通りの日々を過ごしていたのだろうが――。
「っ……」
ダメだ。
やっぱり霞が掛かったように思い出せない。
パッタリと、くっきりとある日を境に何も思い出せなくなる。そこから先を見ようとするとズキリと頭が痛む。まるでここから先は見るなとでも言っているかのように拒絶される。まるでそこから先は思い出すなとでも言うように。
思えばいくつか記憶に欠落がある。
過去のこともそう。それはとても大事なもののはずなのに、忘れちゃいけないもののような気がするのに覚えていないのだ。なんとも気持ちの悪いことこの上ない。
「琴ちゃん?」
みーちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。私は「ううん、何でもないよ」と言って誤魔化す。流石にみーちゃんと言えど前世がどうのこうのとは相談などできやしない。というかこんなこと誰にであろうと相談できるわけがない。
「午後……動けるかなぁ」
「あははは……怪しいね」
そこで私は少し強引に話題を変えることにした。みーちゃんも私の探らないでくれという心情を知ってか話に乗ってくれた。正直思い出せない以上、今は気にしないのが吉だと思うのだ。いつかは向き合わなければいけないと思うのだけれど……とてもヨクナイ気がする……何がとは言えないけれど。
だからこそ、今は目の前のことに集中する。
今やらなきゃいけないことは何か?
そりゃけーちゃんとよーちゃんにお姉ちゃんたるものをみせつけることである!ここらで一発華々しく散って……散らんわ!じゃなくて、かっこいいところを見せて、魅せてあげるんだから!
お姉ちゃんはやればできる娘!そして貴方達の自慢のお姉ちゃんであるということを証明してあげるんだからっ!うぉー!そう再度思ったら燃えてきた!ふるぱわーだぜぇ!いぇー!
あと数分もすれば午後の競技が始まる。
私が担当するはリレー。そしてアンカーだ。全てがここにかかっていると言っても過言ではない。私はギュッと固くこぶしを握り締め残りの時間を過ごすのであった。
赤:190
白:180
……負けてるね。負けちゃってるよ。漂白してやると思ってたら、思いのほか赤ペンキが濃すぎて全然落ちない洗濯物みたいになってるよ。意味わからないね。私も意味わからない。
ま、まぁーあ?午後にはリレーもありますしぃ、そこで勝ち取ってしまえば逆転はできますよねぇ!そうそう!逆転よ逆転!ストレートに勝つのもいいでしょうけれど、やっぱり逆転した方が熱い展開ではないかしらん!
「くっ……こいつはもうだめだ」そんな言葉が漏れてしまいそうな時、颯爽とチームに勝利を運ぶ女神……これは神お姉ちゃんですわ!こんなんブラザーズポッですわ!なデポならぬ勝ちポですわ!うん意味わかんない!
いやぁ、それにしてもお腹ペコペコですよ。運動会って思ったほどは動かないけれど、それでも周りの熱気と言うか雰囲気というか、そーゆーやつにあてられてやたらお腹すくんだよね。変なこと考えちゃうくらいにはお腹すいてます。
そんな私はみーちゃんを引きずっています。なんでってそりゃさっきの悪戯ですよ。やっとこさ逃げ回るみーちゃんを捕まえたのでこうして連行している次第です。
「ね、ねぇー琴ちゃーん。なんで私引きずられてるのかな……かな?」
「それはねぇ?自身のお胸に手を当ててお考えなさいな?」
そんなどっかの凄惨な村の女子高生みたく語尾を繰り返してもダメだぞ。というか妙に様になってて少し怖いです。……いきなり鉈振り回したりしないよね?私くびりころがされちゃったりしないよね?
そんな私の不安を余所に当のみーちゃんは言葉通り自身の胸に両手を当てている。ちょいちょい両手がわきわきと動いているのだけれど……何故自身のお胸様を揉むよみーちゃん。そして何かに納得したのか、きめ顔を私に向けてきた。
「……ん~、私はまだAカップブラかな」
「そんなこと聞いてません!ていうか乙女なんだから往来でそんなこと言っちゃメッ!!」
「今は琴ちゃんしかいないから大丈夫だよ~」
「どこで不埒なオスが聞き耳立てているかわからないのだからダメです!」
「はぁい。ところで何の話だっけ?」
「……なんだっけ?」
「取りあえず引きずるのやめてー」
「ん?あ、そうだね」
掴んでいたみーちゃんの手首を離し並んで家族のいるブルーシートまで向かう。きっと手首を掴んでいたのにはそれなりの理由があったのだと思うのだけれど……それ以上にみーちゃんの貞操観念が心配で忘れました。お願いだから悪い男に捕まらないでね。こりゃ私がしっかりと見張ってあげないと。
「おかえりぃ!琴頑張ったじゃなーい!美鈴もカッコよかったわよ!」
さてマイファイミリーはどこかなぁなんて探していると、うちのお母さまが私たちを先に見つけてくれた。いつも通りの元気で明るい声である。というよりいつもより数段元気な気がするのはきっと気のせいではないだろう。
「まぁねっ!けーちゃんとよーちゃんが来てるのにかっこ悪いところなんて見せられないもん!」
「貴音さんありがとー!」
私とみーちゃんは口ぐちに返し、お母さんの後をついていく。その間もあれがこうだーあそこがどうだのーと色々と感想を言われた。どれもこれもべた褒めだったのだけれど、みーちゃんが隣で聞いていると思うと少し恥ずかしかった。嬉しいんだけどね。
みーちゃんもみーちゃんでニコニコしながら聞いているし。なんだろ。今のみーちゃんからは隣に住んでいるお姉さん臭がする。お姉ちゃんオーラを出せるみーちゃんが羨ましい。やはり本場のお姉ちゃんは素でそういう風にできてしまうのだろう。私もそこを目指して頑張っていきたい。
「おう、琴音頑張ったな!」
マイファミリー+みーちゃんズファミリーのいるところまで着くとまたもや声をかけられる。その人物は普段あまり見ないやつだ。
「……どなた?」
「おいおい、父さんの顔を忘れたのか?ちょっと傷つくぞ」
「あなたが……私のお父さん……?」
「……え?本当に忘れたの?いや待って、本当に待って」
その人物とはお父さんだ。
普段は単身赴任ということで青森市で働いている。中々の激務ということで家に帰ってくるのは2週に一度くらいだ。それだと言うのに帰ってきても寝てるだけという父親の風上にもおけない薄情者である。
前世ではそれから色々あって今努めている会社が……まぁ結構グレーゾーンな仕事をしていることもあり倒産。今度は東京に単身赴任をし、そこで更に色々やらかして家族間は冷え冷えになってしまうのだが……この時のお父さんはまだまともだった時だ。
なんだかんだで家族の行事には出てくれる。どこかに遊びに行くとなれば一応協力してくれるし楽しもうとしてくれる。ある意味一番家族として幸せな時期だ。
それも私が卒業する頃には崩壊したので、今生ではそうならないように何とか軌道修正したいところである。
とは言え、前世では大分煮え湯を飲まされたこともあり私の中でこやつの評価も信愛度も低い。今のお父さんはまだそうではないけれど、それでも少しくらい辛く当たってしまうのも仕方がないと思う。それだけ私にとっては前世のこいつは糞野郎だったというのを理解して欲しい。……もう少し大人にならないとダメだなぁ。
「なぁ貴音。なんか琴音怒ってるっぽいんだけど……」
「さぁ?普段の行いのせいでないの?」
「貴音も冷たいなぁ……」
「そう思うんだば少し考えた方いいんでないのー?」
「う、善処します……」
基本的に尻に敷かれる系男子のお父さんはお母さんに助けを求めるも呆気なく見捨てられしょぼん。少し可哀そうになってきた。
「嘘だよ。お父さんも今日は来てくれてありがとう!」
「琴音っ……!」
お父さんは感極まったのか私に抱き着いて来ようとしたので華麗にかわす。今の私は対父親時にみかわし率95%UPがついているからね。そう簡単にはハグなんてさせてあげないから。この私が100歩……いや、1000歩譲って感謝してあげたんだから……感謝しなさいよねっ!
「姉ちゃんかっこよかった!どうやったらあんなにはやく走れるの?」
続いて私の愛おしいブラザー2号ことよーちゃんが声をかけてくれた。両手を握りしめ目はキラッキラと輝き酷く興奮した様子だ。どうやら私のかっこいいところを見せて信頼度を上げよう作戦は成功したようである。
「くっふっふっふ!そうでしょうそうでしょう!速く走るコツ、それはねぇ……愛、かなっ☆」
「……いやそれはないでしょ」
「なじぇ?!」
さっきまでのキラッキラ輝いていた目は何処へやら。反転して可哀そうなものを見るような目で私を見つめるよーちゃん。折角上がった流石お姉ちゃんパラメータ、略してさすおねパラメータが下がって±0になっている気がするょ?
なんでどうして。私が速く走れたのは本当に愛の力だというのに……。私の原動力の全ては貴方達への愛なのよっ!これが伝わらないっ!そしてその目はやめてっ!
「だから姉ちゃんのそーゆーとこが残念だって言ってんだよ残姉」
「それまだ言いますか!?」
今度はけーちゃんが話しかけてくる。やれやれと両手を上げて首を振る動作もワンセットだ。お前はラノベ系主人公かっ!そんなんするやつきょうび見ないよっ!でもなんか可愛いから許す!
「あははっ!琴ちゃんのところ相変わらず賑やかだね!」
みーちゃんは私たちのやり取りを見て楽しそうに笑った。みーちゃんのその笑顔もエンジェウスマイルだぜぇ。
「みーちゃんのとこも負けず劣らずだと思うけどね」
みーちゃんのところは6人家族で結構な大家族だ。そしてみーちゃんと同じくユーモラスで賑やかな家族である。流石血は争えないと言うべきか、中々電波なところがたまにあるのがポイントだ。
今も下から2番目の翔くんが「ぴーひょろろろろろ」とか言って何かを呼んでいる。
耳を傾けてみれば……。
「翔なにやってんの?」
「かもしか呼んでる」
「カモシカかぁ……ここにも出るのかな?」
「かもしれないから呼んでる。ぴーひょろろろろろ」
「そっかぁ。出るといいねカモシカ」
うん。平常運転だね!カモシカがこんな街中にいるわけないだろっ!とは思うがそれでもやっている辺り流石だよ。ほんと癒しやね。
「さっ!お腹も空いたべし、ご飯ご飯!」
お母さんがパンと手を合わせお弁当を広げ始める。それと同時にお弁当独特のいい匂いが漂ってきて私の胃袋を刺激する。
「あたしんとこでも作ってるからこっちも食べてね」
みーちゃんのお母さんもそれに合わせお弁当を広げる。人数も人数だしちょっとしたオードブルだ。どれに手を付けようか迷ってしまう。
「こっちも作ってきたはんでいっぱい食べなさい」
そう言えばおばあちゃんもいましたねぇ!更にお弁当が増える増える……。こんなに食べられるかしら?まぁ男衆もいるし大丈夫やろ。余って晩御飯兼次の日の朝ごはんになるのは目に見えてるけど、食べ物に困らないのって最高の贅沢だよね!
前世の仕事してた時期なんて薄給すぎてたまにモヤシモヤシパスタ納豆卵パスタパスタパスタだったもんなぁ……あれ?前世のことを思い出したら目から汗が……。
それからというもの私はもう、もっしゃもっしゃと食べまくりましたよ。ちょっと食べる前の自分を小一時間説教したくなるくらいには食べまくりましたよ。おかげでちょっと今苦しいんですよ。あればあるだけ食えばいい精神はやめろって、私イワナ書かなかったけ?
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「そだね……激しく同意だよ」
私とみーちゃんは軽くグロッキーになりながらブルーシートに座り込んでいた。少し体を動かした方が楽になりそうなものだけれど、そもそも動く気力すらないので座っている。
よーちゃんとけーちゃんはおばあちゃんがアイス買ってあげると言っていたので、それに飛びついて行ってしまった。ついでにみーちゃんの妹たちと弟も便乗して行ってしまった。こうーゆーとこを見るとまだまだ子供なんだなぁとしみじみ思う。実際彼らはまだ小学生なのだから子供なのだけれど、私の記憶……特に前世の記憶の方ではそんな彼らも大人になってしまっていて、それなりに落ち着いている。どうしても今の私にとってはそちらの方が印象が大きいのだ。
ふと、前世の私はどうなってしまったのだろうと考える。
記憶が途切れているのは23の頃。いつものように重い体を引きずって仕事をし、疲れ切って泥のように眠る。そんな日々。決して優雅で華々しい大人とは無縁な社会人生活。その日もいつも通りの日々を過ごしていたのだろうが――。
「っ……」
ダメだ。
やっぱり霞が掛かったように思い出せない。
パッタリと、くっきりとある日を境に何も思い出せなくなる。そこから先を見ようとするとズキリと頭が痛む。まるでここから先は見るなとでも言っているかのように拒絶される。まるでそこから先は思い出すなとでも言うように。
思えばいくつか記憶に欠落がある。
過去のこともそう。それはとても大事なもののはずなのに、忘れちゃいけないもののような気がするのに覚えていないのだ。なんとも気持ちの悪いことこの上ない。
「琴ちゃん?」
みーちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。私は「ううん、何でもないよ」と言って誤魔化す。流石にみーちゃんと言えど前世がどうのこうのとは相談などできやしない。というかこんなこと誰にであろうと相談できるわけがない。
「午後……動けるかなぁ」
「あははは……怪しいね」
そこで私は少し強引に話題を変えることにした。みーちゃんも私の探らないでくれという心情を知ってか話に乗ってくれた。正直思い出せない以上、今は気にしないのが吉だと思うのだ。いつかは向き合わなければいけないと思うのだけれど……とてもヨクナイ気がする……何がとは言えないけれど。
だからこそ、今は目の前のことに集中する。
今やらなきゃいけないことは何か?
そりゃけーちゃんとよーちゃんにお姉ちゃんたるものをみせつけることである!ここらで一発華々しく散って……散らんわ!じゃなくて、かっこいいところを見せて、魅せてあげるんだから!
お姉ちゃんはやればできる娘!そして貴方達の自慢のお姉ちゃんであるということを証明してあげるんだからっ!うぉー!そう再度思ったら燃えてきた!ふるぱわーだぜぇ!いぇー!
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