お姉ちゃんが欲しいと思っていたら、俺がお姉ちゃんになったので理想の姉を目指す。

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1話 女の子になっちゃった?!

「ん……ん~」

 妙に眩しい。こっちはまだ惰眠を貪って現実逃避してたいってのに……。はぁ、まぁ仕方ない。こういう時の二度寝程恐ろしいもんはないからな。

 ほんとだぞ?あと30分くらい余裕だなと思って少し目をつむったら気付いたら遅刻まで残り10分とかあったからな。あれは本当に悪夢かと思って貴重な1分間フリーズしちゃったからな。ま、そんなこともあったもんだから基本目を覚ましたらそのまま起きてしまった方がいいというのが俺の持論だ。

 というわけで、このまま目を開ける。窓から差し込む日差しがきついからだろうか。少し目の前が霞む。とはいえ素の視力だとそんなもんだしさっさと眼鏡をつけねば……。

「ん、ん??」

 おかしい。

 何がおかしいって、俺の素の視力というのは0.1を切っている。つまりド近眼てやつだ。スマホを見るのだって15cmくらいまで近付けないと見えない程だ。そんなわけだから眼鏡なしで見る視界というのは基本ぼやけているものなのだが、何故か今の視界は眼鏡もなしにくっきりかっちりと見えるのだ。もしかしてコンタクトしたまま寝たかな~なんて考えたりもしたが、天井を見てすぐにそんなのは記憶のかなただ。

「知らない天井だ……いや知ってるし!実家の天井だし!!」

 俺は可愛らしい声で叫ぶ。そう、目の前に見える天井は俺の住んでいるアパートの無機質で白い天井ではなく、青森にある実家の木目調の天井だったのだ。俺実家に帰った記憶なんてないんだけど一体どういうことなんだ……ってまてよ!

「声もおかしいんだけど!!」

 俺の普段の声は自他共に認めるイケボだ。青年系のね。が、こうして出た声が明らかに俺の声とは違う。確かに俺は七色の声を出せるので女の子ボイスというのもできるのだが、それは素でできるまでには昇華されていない。そして今の俺は声を変えるべく喉に力を入れたりなどしていない。いたって素の状態だ。つまりこの可愛らしい声は俺の地声ということになるのだが……。

「どういうことだよ……ん、ちょっと待て」

 嫌な予感がする。声が変わっているというのも十分嫌な予感を増長させてるんだけど、あれを確かめればこの予感が確定する。だがそれをするにはちょっと、いやかなり勇気がいる。

「すーはーすーはー……よし」

 深呼吸をして覚悟を決めた俺は手を息子があった位置に持っていくと――。

「…………ぁぁ……なぃ……ぅそ……」

 20数年間片時も離れることのなかった相棒、もとい愛棒は綺麗さっぱりなくなっていた。どんなことがあっても俺と常にいてくれたあいつはもういなかったんだ……。俺は愛棒が消えたことによる喪失感に俯く。そして下に持っていた手を今度は胸に持っていく。

 むにゅむにゅ、もみもみ。

「ぅ……ぅぇ……柔らかいよぉ……」

 俺の胸筋は固くなどなく、寧ろ至福の触り心地と言っても良いほどに柔らかかった。これはもう、うん。あれだよね。確定だよね。信じたくはないけど。

「俺……女になってる」

 なんだよこれ!

 なんで俺女になってるの?!確かに一時の気の迷いで女がよかったなぁなんて思ったことはあるけれど本当になっちゃうってどういうことだよ!非科学的だよ!漫画の世界だよ!ラノベだよ!!

 いや……待てよ。実はこれ夢って落ちじゃね?確か性転換する夢は今後の大きな転換を意味していたはず。つまり転職が近づいているからこそ見てしまった夢というやつだ!感触はあほみたいにリアルだけど。しかし夢だってんなら好き放題できるよな。折角普段できないこととかできるわけだし。それならこの体で……ぐへへへh――。

「琴音ー!朝!今日入学式でしょ!!早くおきへっ!!」
「ふは、ひゃいっ!!」

 手が下半身に延びかけたその時大きな声がした。俺は思わずその声にビクゥ!と体を震わせ反射的に返事をした。

 うん?この独特の訛り……東京では聞くことのない津軽のもの、そしてこの声、実家でめっちゃ聞いたことある。てか今琴音って言ったか?

「準備いいんだか?早くしないと遅刻するべさ。ほらまずベッドから出へ」

 声の主がヌッと部屋の入口から顔を出した。そこにいたのは紛れもなく俺の母親だった。随分と若くはなっているが、どこからどう見ても俺の知っている母親で間違いがない。

「何ボーッとしてらのさ。早く起きへって」
「……」
「琴音?どうしたんだが?」
「琴、音……?」
「あんたのことでしょ……ちょっと大丈夫~?熱でもあるんだが~?」

 ヤバい。更に嫌な予感がしてきて冷や汗が流れる。

 琴音。

 その名前は俺の妹の名前だ。俺の本来の名は啓一だ。つまり俺のことを呼ぶのであれば啓一でなければおかしいのだけれど……ってまず俺男じゃねぇからそう呼ばれるのもおかしいか。だとしても琴音で呼ばれるのもていうか俺がいきなり実家にいるのも変なんだけど……。

「琴音?」

 俺は心配そうにしている母親を無視してベッドから飛び降りると洗面所へダッシュした。部屋から洗面所までは遠くない。歩いても数秒でついてしまう距離だ。俺はそこをダッシュしたものだから2秒でたどりついてしまった。そして引き戸を勢いよくパァン!と開き洗面台の鏡を見た。

「……は、は、あは、あははは、ははは」

 嫌な予感とは何故こうもよく当たるのか。

 そこに映っていたのは俺の妹である『琴音』の姿であった。

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