シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます

蒼山 響

想定外

「どうすんだ、これ…」

「過剰威力…?」

そんな動揺を含んだ呟きを溢す俺達兄妹の目の前にはど真ん中に風穴が空いた山がそびえ立っている。
いや、聳え立っていた・・、と表現した方が正確だろう。

何を言っているのか分からない?
比喩じゃなくて本当に山の真ん中に抉り取ったような穴が開いてしまっているのだ。
山の向こうの綺麗な空色模様の景色が丸見えの状態である。

わー、いい景色だな…

などと、現実逃避してしまうのも仕方がない。
何を隠そう、この現状を引き起こした張本人が紛れもない、俺達兄妹である。

本当、どうしよう…?







──これはほんの数時間前の話である。

俺達兄妹は雫の造り出した新たな武器の試運転を行うために、依頼を受けに冒険者ギルドに向かっていた。

何時もは気だるげに歩いている道も試運転の為だと思えば全然苦にならない。

冒険者ギルドの扉を勢いよく押し開けると、早朝なだけあって人はまだ疎らな程しか居なかった。
俺達は他に目もくれずに、システィラが受付をやっている場所に向かう。

ちなみにシスティラは俺達専属という話だが、別段他の非との対応を一切しないというわけではない。
俺達が来たときだけ専属になるというだけだ。
なので、システィラの受付にも人は並んでいたのだが、システィラが此方に気付くと同時に殺気で追い返してしまう。
専属という免罪符を得たシスティラはやりたい放題である。

「あっ、太陽さん!今日はどんなご用事で──」

「何処か人が少ない依頼で、物理攻撃が効きにくい魔物の依頼はないか?」

受付に近づくと、早急に依頼を受けたい俺達はシスティラの言葉を途中で遮って用件を伝える。

「えっ?そ、そうですね…その条件ですと、スライム討伐ですかね。スライム討伐は登録したばかりの冒険者が受けられる依頼なので、周囲に人は少ないと思いますね。それにスライムには物理攻撃が効きにくいですから」

「分かった。それじゃあスライム討伐の依頼を受けるよ」

「はい、依頼の受注を確認しました。…でも、いいんですか?Sランク最初の依頼がスライム討伐で」

「まぁ、色々とな…」

「?よく分かりませんが、私としては怪我をしないで帰ってきて頂ければ大丈夫ですので、気を付けてくださいね」

「ああ、それは安心してくれ」

システィラの気遣いの言葉に対して、被害を受けるのは俺達じゃなく、周囲の人や建物だからな、とは口が裂けても言えないのであった。

「あっ、それとギルマスから伝言を受け取っていますよ」

メーヤから?何だろうか。

システィラの言葉に頭を捻る。
何か重要な用件だろうか?でも、それだったら直接伝えるだろうし。

「…えーと、『依頼クエストを受ける際には、くれぐれも騒ぎを起こすような面倒事を出さないよう自重してくれよ』との事です」

「あー…善処するよ」

俺はメーヤからの的を射た注意に口を濁して返答する。
正直、雫の造った武器を使用して平和的に終わるとは思えないが。

まぁ、そうそう面倒事なんか起こらないよな!

──そう思っていた頃が俺にもありましたよ…

その後、冒険者ギルドを後にした俺達は以前も来た、スライムの生息地でもある草原を訪れていた。

到着した俺は念のために気配探知を草原全域にまで広げてみる。
もし、他に人が居て新武器の試運転で被害が出たら巻き込まれかねないからな。

意識を広げてみると、どうやらこの草原には誰も居ないようだ。
まぁ、こんな朝早くからわざわざスライム討伐に来る物好きな冒険者なんて俺達ぐらいだろう。

先ず手始めに空間収納から剣を取り出す。

取り出した剣は太陽の光に照らされながらも、その禍々しい程の漆黒の色を誇示していた。
これを使っていると魔王の異名が付きそうだけど、大丈夫か…?

「お兄ちゃん、先ずは剣を起動させて」

「了解。──《起動アクティブ》」

俺が剣を起動させるための鍵言葉キーワードを口にすると、剣から機械音声が発せられる。

『──ご主人様の声紋認証、指紋認証を確認。当機の稼働を始めます。起動完了。お早う御座います、ご主人様』

あれ?何か口調が人間っぽくなっている気がする。

俺が音声の変化に驚いていると、雫が俺の思っていることに気付いたのか、自慢げな表情になる。

「言ったでしょ、この人工知能は進化すると。つまりここに来るまでの街の人々の会話内容からより人間らしい口調へ改良したということ」

まじか…街の中を歩いたと言っても、ほんの数分程度だぞ。その数分でここまでの進化を遂げるとは、成長速度が尋常じゃないことが伺える。

これが人工知能が人間に勝っている能力の1つだ。
どれだけ人間が計算速度が速くても人工知能──コンピューターには敵わない。
データの処理速度で人工知能の右に出るものは存在しないのだ。

今回も街中の人々の会話文から様々な喋り方を記録し、それを統計データとして処理することで、場合に適した会話文を発することを可能にしたのだ。

「しかしながら、凄いもんだな…ここまで流暢に喋ることが出来るだなんて」

『お褒めに預り光栄です、ご主人様。これからご主人様の生活、戦闘などの、あらゆる事を世話サポートしていければ幸いです』

「へー、凄いな。例えば、どんなことが出来るんだ?」

『はい。例えば、ご主人様の性処理やご主人様にまとわり付いてくるゴミの処理──』

「あ、うん。何となく分かったわ」

…そうだった。雫の頭脳を基に組み上げられているんだったな…こうなるのも必然といえば必然か。

俺は人工知能からの返答に頭を悩ませる。
つまりは、雫からのアタックが2倍になったみたいなものだ。
これからの大変さが目に浮かぶよ…。

「むぅ、お兄ちゃんの性処理は雫の仕事。ぽっとでのお前なんかにやらせない」

突然雫が人工知能の返答に口を挟む。
いや、人工知能に嫉妬してどうする。
というか、お前に性処理なんて頼んだ事は1度も無いからな。

『ふふん、16年間一緒に居て何も起こらなかったということは、貴方には可能性はない。諦めた方が健全な判断』

「くっ、人工知能のくせに、生みの親である雫に対して生意気な…!」

『ふっ、子は親元を旅立つもの』

いや人工知能お前生まれてまだ1日も経っていないだろ。

そんな人工知能と雫との言い争いに心の中でツッコむ俺だが、悲しいかな。あの口論の中に割って入っていく勇気は俺には無かったのであった。







そんなこんながありながらも、気を取り直した俺達は早速、剣の試運転を行うことにする。

「えーと、人工知能さん?先ずはどうすれば?」

『人工知能などと堅苦しい呼び方ではなく、ご主人様直々に私にお名前を付けていただけませんか?』

「名前か…確かに人工知能っていうのも言いにくいし…よし、何か名前を考えてみるか」

『本当ですか!有難う御座います!』

「ふんっ、名前なんてAIから取ったアイでいい」

『あら、貴方にはお訊きになっていませんけど?』

「『ぐぬぬぬぬ…』」

…喧嘩をするな、喧嘩を。

人工知能と言い合ってからというものの、雫がどうも、やさぐれてしまっていた。
腕を胸の前で組んで、地団駄を踏んでいるレベルである。

「…流石にアイっていうのは普通すぎるだろ」

『ですよね、ですよね。ほらっ!』

「むぅ…」

俺の意見に人工知能はご機嫌に、雫は頬を膨らませていじけてしまったが、いちいち構っていたら切りがない。
俺は2人?の反応を無視しながらも人工知能に相応しい名前を考える。

うーん、人工知能…データ、知識。
知識?いや、叡智…。全ての叡智を知るもの。
知るもの?網羅…。叡智、網羅…あっ、これなら…!

俺は人工知能の能力、特徴を基に名前になり得そうな候補を考えていくと、1つ良さげなものを考えつく。

「…全ての叡智を網羅するもの。その2つの言葉から切り取って───叡羅エイラ。ちょっと無理矢理な当て字な感じはするが、どうだろうか?」

叡羅エイラ……何て、素晴らしいお名前でしょうか!!有難う御座います、ご主人様!これから私は叡羅と、名乗らせて頂きます』

「くっ、なんていい名前…!人工知能なんかには勿体無い!」

人工知能──改め、叡羅も気に入ったようなので、これからはそう呼ぶようにしよう。

「お兄ちゃん!雫にも名前を!」

「お前はもうあるだろ」

「がーん…」

雫のお願いを断ると、雫は膝を折って地面に四つん這いになってしまう。

いくら雫のお願いでも名前はそう簡単にぽいぽい付けていいものじゃないからな…。

異常なほど喜ぶ人工知能と地面に四つん這いになる少女という、奇妙な光景が出来上がってしまっているが、今は叡羅エイラの試運転が先だ。

「叡羅、早速試してみるぞ」

『はい!』

「で、どうすればいいんだ?」

『さ、さぁ…?』

知らないんかい!

「ふっふっふ、ようやく雫の出番の用だね!」

あっ、生き返った。

先程まで崩れ落ちていた雫だったが、自分の出番が来た途端勢いよく立ち上がって変なポーズで喋り始める。

「さっきまでその人工知能にヒロイン枠を盗られていたけれど、ここからは雫の時代。私が教えてしんぜよう!」

『くっ、何て姑息な!こうなることを見越して、わざと私に扱い方をインプットしていなかっただなんて!』

「ふっ、頭の出来が違う」

恐らく叡羅の取り扱い方を書いたであろう紙をぴらぴらと見せつけながら自慢する雫。
完全に才能の無駄遣いである。

「はい、お兄ちゃん」

「あ、あぁ…ありがとう」

若干戸惑いながらも雫から紙を受け取った俺は早速、紙に目を通す。

「フムフム…よしっ、やり方や能力は分かった。早速試してみるぞ!」

『はい!』

そう意気込んだ俺達の数分後──

──ズドォォォォォォォンッ!

結果的に山が抉れました。

ここで冒頭へ戻る──。

地面は広範囲に渡って大きく抉れており、その余波によるものだろう。先程までそこに居たであろう、スライム達の核だけが転がっていた。

目の前の惨劇に対して呆けている俺達兄妹。

「はっ!いかんいかん。呆けている場合ではない。早くここから退避しなくては」

「あっ、自分の才能に惚れ惚れしていた」

『流石私です』

そんな三者三様な感想を述べながらも、我に返った俺達は急いで痕跡を消して街へと戻ることにする。

ここまでの出来事が起こったんだ。
当然、郊外とはいえ国の近辺で山に風穴が空くという事件が起これば騎士団やらが総出で駆けつけてくるだろう。

もしオレたちの仕業だとバレる事になれば、目立つことは必然。最悪、危険人物として国から追い出されるかもしれない。

依頼達成の為、スライムの核を目に見える範囲だけ空間収納の中に放り込んだ俺達は、人目につかないようにわざと来た道と違う、森を迂回し、遠回りをして街へと戻ることにした。

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