シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます
ロリコン予備軍
今の状況を説明しよう。
迷宮突入→迷宮探索→ボス部屋発見
→ボス討伐→幼女発見
──いやいや、可笑しいよ!?最後最後!
誰か突っ込んでよ!
はっ!まさか遂に幼女趣味を拗らせて幻覚が…
俺がボス部屋と幼女というミスマッチな光景に頭を悩ませて、更には自分の思考回路すら心配してしまう(雫も幼女な事は頭にない)
「お兄ちゃん?」
俺が頭を抱えているのを不思議に思ったのか、雫が心配そうに俺の顔を見上げて訊いてくる。
「い、いや大丈夫だ」
雫の声で我に戻った俺は、内心慌てて冷静な表情で雫に返答する。
ふー、危ない危ない…危うく自分が幼女趣味だと認めてしまうところだった。
取り敢えず、あの少女が何者かを聞き出さないことには始まらないな。
そう決めた俺は幼女の近くへと歩み寄る。
ダンジョン内は暗くて遠目にはよく分からなかったが、少女は赤を基調とした軍服とマントを羽織っている。髪は薄暗いダンジョンの中でも目立つような透き通る綺麗な翡翠色をしており、その美しく長い髪を後ろで一つに纏めていた。瞳はその神秘の髪を引き立たせる様な黄金色の瞳をしており、その小さな目が今現在、俺達兄妹の姿を捉えていた。
…正直、コスプレをしている子供にしか見えん。
「えっと、君は誰かな?お母さんはどうしたの?」
俺は少女を警戒させないよう膝を折って、少女と目線の高さを同じにし、優しい声色で話し掛ける。
ふっ、どうだ。これが俺の身に付けた処世術その一、上手い子供の扱い方!
えっ、処世術を身に付けている奴がぼっちな訳がない?それはほら、機会に恵まれなかったと言いますか…。
すると段々、少女の頬が紅みを帯びていき、体をプルプルと震え出す。
「だ、誰が…幼女だーーーっ!」
幼女は声を荒くしてそう大声で叫び出す。
分かってる分かってるって。
この子のような年頃の女の子は子供扱いされるのが嫌なんだよな。
「大丈夫、お兄ちゃんがお母さんの元に無事帰してやるからな」
「だ、だから子供扱いするな!私は500歳だぞ!お前達より年上なんだからな!」
俺の慰めが気に食わなかったのか、少女は再び声を荒くしてそんな事を叫ぶ。
は?500歳だって?いやいや、嘘付くにしても500歳はないよ、お嬢ちゃん。
少女の言葉に心の中で突っ込むが、これ以上何かを言っても少女を刺激してしまうので心の中で留める。
「全く…子供扱いするなと言っているのに…」
少女は下を向きブツブツと文句を呟いていると、突然顔を上げてボス部屋に居るべき存在が見当たらない事に気付き出す。
「ん?そういえば、S級魔物の姿が見付からないが…何処だ?」
幼女は辺りを見渡しながらそんな事を呟く。
そういえば、さっきもそんな事を言っていたな。
「お前達、S級の魔物を見掛けなかったか?」
少女は首をコテッと傾げながら訊いてくるが、見なかったよな?
S級の魔物と言えば、上から3番目に強い魔物だろ?俺が戦ったので一番強かったのが先程のミノタウロスだが、S級があんなに弱いとは思わないし…
少女の言うS級の魔物に該当する敵と戦った覚えがない俺は頭を悩ませる。
「いや、この部屋に居たのは大きいミノタウロスだけだったよ」
「そうか、ミノタウロスか。じゃあ違う…ん?」
俺の返答を聞いて納得したように頭を上下に振っていた少女だったが、突然言葉の途中で動きを止める。
どうしたんだろ?
俺が少女の行動に訝しんでいると、徐々に少女の体が震え始めだす。
「い、今何て?」
少女はその小さな唇から絞り出すように言葉を呟く。
「いや、だからミノタウロスなら倒したって」
「ミ、ミノタウロスを倒したって…?」
「あぁ」
俺は少女の疑問に短く返答するが、何をそんなに震えているのだろうか?
あっ、もしかしてトイレかな?迷宮でするのは抵抗があるだろうしな。
「お花なら摘みに行っていいぞ」
「トイレじゃないわ!」
俺が善意で提案するが少女に一喝されてしまう。
うむむ、解せぬ。
それと隣の雫の「お兄ちゃん…デリカシー無さすぎ」みたいな冷たい視線が突き刺さるが、何が悪いか全く分からない俺は首を捻るしかない。
「本当にミノタウロスを倒したのか?」
俺が先程の台詞の改善点を考えていると、少女が此方の顔を見上げて問いただしてくる。
「そうだけど。証拠ならあるぞ」
俺はそう言いながら、空間収納の中に手を入れ、収納内から先程の討伐品の中から、拳一つ分程の大きさの魔石の欠片を取り出す。
「なっ!く、空間収納所持者…いや、それにこの魔石、まさか本当に…」
空間収納を発動させたことに驚きながらも、俺の取り出した魔石を有り得ないような物を見るように凝視する少女。
「お前達、ランクはFだよな?」
「あ、あぁ。そうだけど…」
なぜそんな事を訊いてくるのだろうか?
そんな俺の疑問を他所に、少女は話を続ける。
「お前達には今から私の部屋に来て貰う」
は?今何て?この少女の部屋に行く?
少女の要領を得ない言葉に首を捻っていると、一つの答えに辿り着く。
「色仕掛けならもうちょっと大きくなってからの方が、いいんじゃないか?」
「違うわ!そういう、やましい理由で来て欲しい訳じゃなくてだな…説明が面倒臭いから、取り敢えず行くぞ!」
少女はそう言いながら強引に俺の腕を掴んで引っ張っていこうとする。
うおっ!ていうか、少女意外と力があるぞ!
だがそれは平均的に見てなので、人外をも越える力を持つ太陽には誤差の範中にしか収まらない。
その為、結果的に
「うおっ!な、何で引っ張れないんだ!?お、お前…何て力をしてやがる!」
少女の手は俺の腕からすり抜けて、少女は前のめりに倒れそうになってしまう。
「うわっ!」
「おっと、危ない」
流石に他人が転ぶのを見て楽しむ趣味は無いので、俺は少女の腕を掴んで、その華奢な体を胸に抱き寄せて転倒を防ぐ。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…へ、平気だ」
少女と俺の顔との距離は10㎝にも満たないほどの至近距離まで近づく。
するとその事実に気付いた少女は急速に顔を赤らめる。
おぉ…ここまで人間は顔を赤く出来るものなのか。
というか近くで見るとマジで髪サラサラだな。
それに子供のくせに鼻腔をくすぐるような匂いが…これが女性ホルモンというモノなのか?
俺が少女の予想外の魅力に引き寄せられていると
──ゲシッ
「痛っ!」
俺の後ろに居る雫に膝を的確に足蹴りされてしまった。
いくら愛する妹の行動とはいえ、妹に蹴られて興奮するような性癖は持ち合わしていないので文句を言う。
「急にどうしたんだよ?」
「別にっ!」
──ゲシッゲシッ
雫は言葉とは裏腹に的確に俺の膝を狙ってくる。
痛い痛いって!
いくら俺のステータスが高くても、流石に膝を何十回も蹴られ続けたら痛いのだ。
だが幸いというか何というか、雫の介入により少女の妙な魅力から解けた俺は、抱いていた少女を自分の足で立たせて手を離す。
「あっ…」
「どうかしたか?」
「な、何でもない…」
手を離す瞬間、少女が名残惜しそうだったのは気のせいだろう。
少女を離したら雫の攻撃も止まってくれたので良かったが、未だに何故攻撃されたのかは謎だ。
◇
その後、この雰囲気から逃げ出したかった俺は素直に幼女の命令通りに、後を付いて行く事にした。
いや、だって雫がめっちゃ少女の事を睨んでるんですもん…正直空気が重い。
そんな殺伐とした空気の元凶である幼女に連れられて、俺達は再び王都に戻ってきていた。
入国する際に門番の騎士達が少女に敬礼をしていたが、この国の騎士は幼女趣味なのだろうか?
そんな疑問を抱きながら歩いていると、視界に見慣れた建物が飛び込んできた。
…って、ここギルド会館じゃん。
彼女の部屋に行くんじゃなかったのだろうか?
そんな俺の疑問を他所に少女はギルド会館の中に、まるで自分の家に上がり込んでいくように入って行く。
俺達も少女に遅れないようにギルド内に入っていくと、出発した時と変わらない光景が広がって…ん?
ギルド内を見渡すために顔を180度回していた、俺の視界が固定される。
ギルド内の冒険者達は出発した時と変わらず朝から飲んでいる奴や、掲示板前でクエストを選んでいる人がいたが、明らかに一人違う人が居た。
──システィラだ
いやいや、変わったってレベルじゃないだろ!?
まず、顔に生気が無い。
生きているか不安になるレベルだ。
そのせいで気味悪がって誰もシスティラの受付の列に並ぼうとしていない。
次にシスティラの髪が白く脱色していた。
いや…一体どんなショックを受けたらあんな劇的に変わるんだか…
その為、俺達がギルドに入ってきたことも気付いていないようだった。
ショック療法試してみるか…
心配になった俺は影縫いでシスティラの背後に音もなく回り、肩を叩いて振り返ったシスティラの柔らかそうな頬っぺたを人差し指で突く。
「ただいま、システィラ」
「な、なにしゅるんでしゅか…ほぇ?」
力なく振り返ったシスティラは、頬っぺたを突かれながらも返答するが、言葉の最後の方で目を点にし始める。
「え…太陽さん?」
「他の誰に見えるんだよ…」
俺が厳ついオッサンに見えるとかなら、眼科に行くのをお勧めするところだ。
もっとも、この世界に眼科が在るかは定かではないが。
そんな下らないボケを考えていると、徐々にシスティラの瞼に涙が溜まり始める。
「だ、だいようざん…わだじ…わだじ」
システィラは顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら俺の胸に飛び込んでくるが、泣いている理由が分からない俺は取り敢えず、システィラが泣き止むまで背中をさすってやる事にする。
何時もなら文句の一つを入れる雫も今回は、目の前の光景に理解が追い付いていないようで困惑している様子だった。
数分後、目を赤くしながらも泣き止んだシスティラが顔を上げて俺を見上げる。
ちなみに髪色も元通りの綺麗な紅碧色に戻っている。
流石、異世界。
「よ、良かったです。太陽さんがS級魔物の居る迷宮に行ったって知ったときは、もう…」
システィラは心底安心したように言葉を紡ぐが、話の内容を聞いても理解が出来ていない。
「S級魔物って何の事だ?」
「えっ?太陽さん達、迷宮に行ったんですよね?」
「あぁ」
予想外の返答だったのか驚くシスティラだが、肝心の俺は全く身に覚えがない。
そういえば、先程の幼女も同じ事を言っていたような気が───
俺がそこまで考えたところで、突然横槍が入る。
「その話は私の部屋でしよう。丁度良い。システィラ、お前も一緒に来い」
「は、はい!」
幼女はそうシスティラに命令すると、付いて来いと言わんばかりに階段を上っていく。
ギルド職員に命令出来るとか、あの幼女何者?
驚きつつも俺と雫は階段を上っていく。
雫が「つ、疲れた…」とか言っているが、たった数十段の階段だぞ…?
雫の健康状態を心配しながらも2階に着いた俺達は階段を上がって、直ぐ隣にある部屋に案内される。
幼女が扉に備え付けられている魔石に魔力を注ぐと、ガチャ、と音を立てて扉の鍵が外れる。
こんな所にも魔法が使用されているのか…
「さぁ、中に入ってくれ」
幼女の促す通りに入室すると、そこには10畳程の広さの部屋だった。
室内には奥の壁際に仕事机が一つ置かれており、その手前にソファーが二つ並べられているだけの最低限のインテリアしか置かれていなかった。
ただ、机の上には数え切れない程の書類で溢れ返っており、一目でここが誰かの仕事場な事が分かる。
もしかしなくても此処って…
俺がそんな最悪の予感を感じながらも冷や汗を流しているのを横目に、幼女は部屋の奥にある仕事机に向かって行く。
あー…これはあれですか。
ラノベを読んでて、異世界に行っていきなり王族と仲良くなったり、無敵能力を駆使して突然ギルド長と対面とか、あり得ないと思っていた時期が俺にもありましたよ…
そんな俺の感情を尻目に幼女は明らかに身の丈に合っていない大きさの椅子にちょこん、と座る。
「ようこそ、二人共。私がこの国のギルドマスターをやっている、メーヤ・グリビアだ。宜しく」
幼女改め、メーヤは椅子に座りながら自慢気な顔でそう告げるが、今の俺の頭の中にはこの言葉しか浮かばなかった。
──これが噂のお約束か…
迷宮突入→迷宮探索→ボス部屋発見
→ボス討伐→幼女発見
──いやいや、可笑しいよ!?最後最後!
誰か突っ込んでよ!
はっ!まさか遂に幼女趣味を拗らせて幻覚が…
俺がボス部屋と幼女というミスマッチな光景に頭を悩ませて、更には自分の思考回路すら心配してしまう(雫も幼女な事は頭にない)
「お兄ちゃん?」
俺が頭を抱えているのを不思議に思ったのか、雫が心配そうに俺の顔を見上げて訊いてくる。
「い、いや大丈夫だ」
雫の声で我に戻った俺は、内心慌てて冷静な表情で雫に返答する。
ふー、危ない危ない…危うく自分が幼女趣味だと認めてしまうところだった。
取り敢えず、あの少女が何者かを聞き出さないことには始まらないな。
そう決めた俺は幼女の近くへと歩み寄る。
ダンジョン内は暗くて遠目にはよく分からなかったが、少女は赤を基調とした軍服とマントを羽織っている。髪は薄暗いダンジョンの中でも目立つような透き通る綺麗な翡翠色をしており、その美しく長い髪を後ろで一つに纏めていた。瞳はその神秘の髪を引き立たせる様な黄金色の瞳をしており、その小さな目が今現在、俺達兄妹の姿を捉えていた。
…正直、コスプレをしている子供にしか見えん。
「えっと、君は誰かな?お母さんはどうしたの?」
俺は少女を警戒させないよう膝を折って、少女と目線の高さを同じにし、優しい声色で話し掛ける。
ふっ、どうだ。これが俺の身に付けた処世術その一、上手い子供の扱い方!
えっ、処世術を身に付けている奴がぼっちな訳がない?それはほら、機会に恵まれなかったと言いますか…。
すると段々、少女の頬が紅みを帯びていき、体をプルプルと震え出す。
「だ、誰が…幼女だーーーっ!」
幼女は声を荒くしてそう大声で叫び出す。
分かってる分かってるって。
この子のような年頃の女の子は子供扱いされるのが嫌なんだよな。
「大丈夫、お兄ちゃんがお母さんの元に無事帰してやるからな」
「だ、だから子供扱いするな!私は500歳だぞ!お前達より年上なんだからな!」
俺の慰めが気に食わなかったのか、少女は再び声を荒くしてそんな事を叫ぶ。
は?500歳だって?いやいや、嘘付くにしても500歳はないよ、お嬢ちゃん。
少女の言葉に心の中で突っ込むが、これ以上何かを言っても少女を刺激してしまうので心の中で留める。
「全く…子供扱いするなと言っているのに…」
少女は下を向きブツブツと文句を呟いていると、突然顔を上げてボス部屋に居るべき存在が見当たらない事に気付き出す。
「ん?そういえば、S級魔物の姿が見付からないが…何処だ?」
幼女は辺りを見渡しながらそんな事を呟く。
そういえば、さっきもそんな事を言っていたな。
「お前達、S級の魔物を見掛けなかったか?」
少女は首をコテッと傾げながら訊いてくるが、見なかったよな?
S級の魔物と言えば、上から3番目に強い魔物だろ?俺が戦ったので一番強かったのが先程のミノタウロスだが、S級があんなに弱いとは思わないし…
少女の言うS級の魔物に該当する敵と戦った覚えがない俺は頭を悩ませる。
「いや、この部屋に居たのは大きいミノタウロスだけだったよ」
「そうか、ミノタウロスか。じゃあ違う…ん?」
俺の返答を聞いて納得したように頭を上下に振っていた少女だったが、突然言葉の途中で動きを止める。
どうしたんだろ?
俺が少女の行動に訝しんでいると、徐々に少女の体が震え始めだす。
「い、今何て?」
少女はその小さな唇から絞り出すように言葉を呟く。
「いや、だからミノタウロスなら倒したって」
「ミ、ミノタウロスを倒したって…?」
「あぁ」
俺は少女の疑問に短く返答するが、何をそんなに震えているのだろうか?
あっ、もしかしてトイレかな?迷宮でするのは抵抗があるだろうしな。
「お花なら摘みに行っていいぞ」
「トイレじゃないわ!」
俺が善意で提案するが少女に一喝されてしまう。
うむむ、解せぬ。
それと隣の雫の「お兄ちゃん…デリカシー無さすぎ」みたいな冷たい視線が突き刺さるが、何が悪いか全く分からない俺は首を捻るしかない。
「本当にミノタウロスを倒したのか?」
俺が先程の台詞の改善点を考えていると、少女が此方の顔を見上げて問いただしてくる。
「そうだけど。証拠ならあるぞ」
俺はそう言いながら、空間収納の中に手を入れ、収納内から先程の討伐品の中から、拳一つ分程の大きさの魔石の欠片を取り出す。
「なっ!く、空間収納所持者…いや、それにこの魔石、まさか本当に…」
空間収納を発動させたことに驚きながらも、俺の取り出した魔石を有り得ないような物を見るように凝視する少女。
「お前達、ランクはFだよな?」
「あ、あぁ。そうだけど…」
なぜそんな事を訊いてくるのだろうか?
そんな俺の疑問を他所に、少女は話を続ける。
「お前達には今から私の部屋に来て貰う」
は?今何て?この少女の部屋に行く?
少女の要領を得ない言葉に首を捻っていると、一つの答えに辿り着く。
「色仕掛けならもうちょっと大きくなってからの方が、いいんじゃないか?」
「違うわ!そういう、やましい理由で来て欲しい訳じゃなくてだな…説明が面倒臭いから、取り敢えず行くぞ!」
少女はそう言いながら強引に俺の腕を掴んで引っ張っていこうとする。
うおっ!ていうか、少女意外と力があるぞ!
だがそれは平均的に見てなので、人外をも越える力を持つ太陽には誤差の範中にしか収まらない。
その為、結果的に
「うおっ!な、何で引っ張れないんだ!?お、お前…何て力をしてやがる!」
少女の手は俺の腕からすり抜けて、少女は前のめりに倒れそうになってしまう。
「うわっ!」
「おっと、危ない」
流石に他人が転ぶのを見て楽しむ趣味は無いので、俺は少女の腕を掴んで、その華奢な体を胸に抱き寄せて転倒を防ぐ。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…へ、平気だ」
少女と俺の顔との距離は10㎝にも満たないほどの至近距離まで近づく。
するとその事実に気付いた少女は急速に顔を赤らめる。
おぉ…ここまで人間は顔を赤く出来るものなのか。
というか近くで見るとマジで髪サラサラだな。
それに子供のくせに鼻腔をくすぐるような匂いが…これが女性ホルモンというモノなのか?
俺が少女の予想外の魅力に引き寄せられていると
──ゲシッ
「痛っ!」
俺の後ろに居る雫に膝を的確に足蹴りされてしまった。
いくら愛する妹の行動とはいえ、妹に蹴られて興奮するような性癖は持ち合わしていないので文句を言う。
「急にどうしたんだよ?」
「別にっ!」
──ゲシッゲシッ
雫は言葉とは裏腹に的確に俺の膝を狙ってくる。
痛い痛いって!
いくら俺のステータスが高くても、流石に膝を何十回も蹴られ続けたら痛いのだ。
だが幸いというか何というか、雫の介入により少女の妙な魅力から解けた俺は、抱いていた少女を自分の足で立たせて手を離す。
「あっ…」
「どうかしたか?」
「な、何でもない…」
手を離す瞬間、少女が名残惜しそうだったのは気のせいだろう。
少女を離したら雫の攻撃も止まってくれたので良かったが、未だに何故攻撃されたのかは謎だ。
◇
その後、この雰囲気から逃げ出したかった俺は素直に幼女の命令通りに、後を付いて行く事にした。
いや、だって雫がめっちゃ少女の事を睨んでるんですもん…正直空気が重い。
そんな殺伐とした空気の元凶である幼女に連れられて、俺達は再び王都に戻ってきていた。
入国する際に門番の騎士達が少女に敬礼をしていたが、この国の騎士は幼女趣味なのだろうか?
そんな疑問を抱きながら歩いていると、視界に見慣れた建物が飛び込んできた。
…って、ここギルド会館じゃん。
彼女の部屋に行くんじゃなかったのだろうか?
そんな俺の疑問を他所に少女はギルド会館の中に、まるで自分の家に上がり込んでいくように入って行く。
俺達も少女に遅れないようにギルド内に入っていくと、出発した時と変わらない光景が広がって…ん?
ギルド内を見渡すために顔を180度回していた、俺の視界が固定される。
ギルド内の冒険者達は出発した時と変わらず朝から飲んでいる奴や、掲示板前でクエストを選んでいる人がいたが、明らかに一人違う人が居た。
──システィラだ
いやいや、変わったってレベルじゃないだろ!?
まず、顔に生気が無い。
生きているか不安になるレベルだ。
そのせいで気味悪がって誰もシスティラの受付の列に並ぼうとしていない。
次にシスティラの髪が白く脱色していた。
いや…一体どんなショックを受けたらあんな劇的に変わるんだか…
その為、俺達がギルドに入ってきたことも気付いていないようだった。
ショック療法試してみるか…
心配になった俺は影縫いでシスティラの背後に音もなく回り、肩を叩いて振り返ったシスティラの柔らかそうな頬っぺたを人差し指で突く。
「ただいま、システィラ」
「な、なにしゅるんでしゅか…ほぇ?」
力なく振り返ったシスティラは、頬っぺたを突かれながらも返答するが、言葉の最後の方で目を点にし始める。
「え…太陽さん?」
「他の誰に見えるんだよ…」
俺が厳ついオッサンに見えるとかなら、眼科に行くのをお勧めするところだ。
もっとも、この世界に眼科が在るかは定かではないが。
そんな下らないボケを考えていると、徐々にシスティラの瞼に涙が溜まり始める。
「だ、だいようざん…わだじ…わだじ」
システィラは顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら俺の胸に飛び込んでくるが、泣いている理由が分からない俺は取り敢えず、システィラが泣き止むまで背中をさすってやる事にする。
何時もなら文句の一つを入れる雫も今回は、目の前の光景に理解が追い付いていないようで困惑している様子だった。
数分後、目を赤くしながらも泣き止んだシスティラが顔を上げて俺を見上げる。
ちなみに髪色も元通りの綺麗な紅碧色に戻っている。
流石、異世界。
「よ、良かったです。太陽さんがS級魔物の居る迷宮に行ったって知ったときは、もう…」
システィラは心底安心したように言葉を紡ぐが、話の内容を聞いても理解が出来ていない。
「S級魔物って何の事だ?」
「えっ?太陽さん達、迷宮に行ったんですよね?」
「あぁ」
予想外の返答だったのか驚くシスティラだが、肝心の俺は全く身に覚えがない。
そういえば、先程の幼女も同じ事を言っていたような気が───
俺がそこまで考えたところで、突然横槍が入る。
「その話は私の部屋でしよう。丁度良い。システィラ、お前も一緒に来い」
「は、はい!」
幼女はそうシスティラに命令すると、付いて来いと言わんばかりに階段を上っていく。
ギルド職員に命令出来るとか、あの幼女何者?
驚きつつも俺と雫は階段を上っていく。
雫が「つ、疲れた…」とか言っているが、たった数十段の階段だぞ…?
雫の健康状態を心配しながらも2階に着いた俺達は階段を上がって、直ぐ隣にある部屋に案内される。
幼女が扉に備え付けられている魔石に魔力を注ぐと、ガチャ、と音を立てて扉の鍵が外れる。
こんな所にも魔法が使用されているのか…
「さぁ、中に入ってくれ」
幼女の促す通りに入室すると、そこには10畳程の広さの部屋だった。
室内には奥の壁際に仕事机が一つ置かれており、その手前にソファーが二つ並べられているだけの最低限のインテリアしか置かれていなかった。
ただ、机の上には数え切れない程の書類で溢れ返っており、一目でここが誰かの仕事場な事が分かる。
もしかしなくても此処って…
俺がそんな最悪の予感を感じながらも冷や汗を流しているのを横目に、幼女は部屋の奥にある仕事机に向かって行く。
あー…これはあれですか。
ラノベを読んでて、異世界に行っていきなり王族と仲良くなったり、無敵能力を駆使して突然ギルド長と対面とか、あり得ないと思っていた時期が俺にもありましたよ…
そんな俺の感情を尻目に幼女は明らかに身の丈に合っていない大きさの椅子にちょこん、と座る。
「ようこそ、二人共。私がこの国のギルドマスターをやっている、メーヤ・グリビアだ。宜しく」
幼女改め、メーヤは椅子に座りながら自慢気な顔でそう告げるが、今の俺の頭の中にはこの言葉しか浮かばなかった。
──これが噂のお約束か…
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