シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます
魔法理論
ゴブリンと討伐のついでに拐われていた女性達を救った俺達兄妹は、依頼報告に向かうために女性達を連れてギルドに向かっていた。
だが、俺の精神ライフは歩いている最中もゴリゴリと削られていた。
──き、気まずい…
王都に向かうまでの最中、人とすれ違う際に何度か注目されている。
無理もない。1人の男が数十人もの女性を引き連れて歩いているのだ、端から見れば侍らせている様にも見える。
別に悪い事をやっているわけでもないのに罪悪感が込み上げてくるのは仕方がない。
王都に着く前からこんな状態なら、王都の中ではどれだけ注目されるのか…
「あれ?昨日の二人じゃねぇか」
重い足取りで入国門の前に着くと見覚えのある人に出会う。
確か初めて王都に来たときに門番をやっていた騎士だっただろうか?
「昨日ぶりですね」
「おう。あの後、無事登録できたか?」
「えぇ、お陰様で」
「そうか、それはよかった。一週間以内に身分証明書を持ってない状態で、見回り兵に見つかると罰金があるからな」
男は笑いながら言うが、正直もう少し早く言って欲しかった情報だな…
「ああ、名乗るのが遅れたな。俺の名前はドラン・アルタリオスだ。気軽にドランで構わない」
「分かりました、ドランさん。俺は太陽。で、こっちが妹の雫です。」
見たところドランさんは40台前半程だろうから、敬語は使っておいた方が良いだろう。
それに歴戦の戦士のような雰囲気を肌に感じた。
下手に出た方が、今後のためだ。
マルク?そんな人知りませんね。
「おっ、礼儀が分かってる奴は嫌いじゃないぜ。オーケー、太陽に雫だな。よろしくな!」
自己紹介の後、握手を交わす。何か俺、この世界に来てからオッサンと握手ばっかしてね?
「依頼の帰りか?」
「はい。無事、初依頼を終えまして」
「そうかそうか、それはよかった…ん?」
笑いながら背中を叩いていたドランさんの動きが止まる。
明らかに俺の後ろに付いてきている女性達に視線が向いていた。
「なんだ、王都に着いて早速女連れてるのか?やるじゃねぇか!」
ドランさんはニヤニヤしながら肘で俺の脇腹を突いてくる。
「違いますよ。彼女達はクエストの最中に助けましてね。今からギルドに報告に行こうと思ってたんですよ」
「何、それは本当か!?分かった。俺は今から本部にに捜索願いが出てないか確認に行くから、彼女達は付いてきてくれないか?」
ドランさんは俺の話を聞いた途端、ニヤついていた表情を引き締めると周りの騎士達に指示を出して、先に門の近くの建物の中に入っていく。
恐らく彼処が駐屯所なのだろう。
近くにいた騎士が女性達を案内するために話し掛けるが、彼女達の反応は鈍い。
帰りたくないんだろうか?
そんな予想をしていると、女性達が俺に話し掛けてくる。
「あのっ、私達まだ何も恩返しを出来ていないんですけど…」
あー、そんな事か。別に気にしなくて良いのに。
だが彼女達は目をキラキラ輝かせて、こちらの返答を待っている。
こういう場合はいらないって言っても引かないからな…仕方がないから、打開策として1つ提案を出してみるか。
「分かった。じゃあ、今度何か料理を作って下さい。それで手を打ちましょう」
俺と雫はご想像の通り料理が壊滅的に出来ないので、料理の手間が省けるわけだ。
我ながら良い案だと思う。
「そ、それって毎日俺の味噌汁を作ってくれという告白…!」
俺が自分自身の完璧な答えに納得していると、女性達が何故か色めき合っている。
そして何故か雫は口を真一文字に結び、機嫌を悪くしていた。
な、何故だ…完璧な答えだと思ったのに。
その後、女性達は納得したようで騎士に連れられて、王都の中に入っていった。
ふー、これで街の中で注目されることは無いだろう。
その後は何事もなくギルドに着き、約束通りシスティラの待っている受付に向かった。
「あっ、太陽さんお帰りなさい!依頼はどうでしたか?」
「難なく終わったよ」
俺は“空間収納”からゴブリンの牙を取り出して、テーブルの上に置く。
「はい、確認できました。こちらが報酬の銀貨3枚になります」
銀貨を手渡しする際にシスティラが俺の手を握ってきたのだが、そんなに強く握らなくても落とさないから安心して欲しい。
宿一部屋の一泊が銀貨2枚で地球の平均的なホテルの相場が一万円前後なので、大体一万五千円程の収入か。
平均的なバイトより貰えるな。
「それと太陽さんが助け出した女性達ですが、全員が家族のもとに戻ることができました。本人達からもお礼の言葉を貰っています。『住所を教えて下さい』『私は料理には自信があるんです』『私の王子様』etc…ですね。これは感謝の言葉なのでしょうか?」
正直俺にもわからない…返事をしないといけないのだろうか。
その後、別れを悲しむシスティラを宥めてギルドを後にした俺達は夕食を屋台で済ませることにした。
店で食べる選択肢もあったのだが、人が多く集まる酒場等は人見知りの俺達にはキツいのだ。
夕飯を宿で頼まなかったのも同様の理由だ。
朝食は屋台が開店してない時間帯なので宿で食べるが。
屋台を見歩いていると、一組の老夫婦から話し掛けられた。どうやら昼に助けた女性の一人の親御さんらしい。お礼に夕飯のお裾分けを貰った。一緒にお金も渡されたが、そちらは断っておいた。別にお金には困ってないからな。
その後も様々な人に話し掛けられた。
全員が昼間に助けた女性の身内の人達だった。
お礼を言われるのは嬉しいのだが、コミュ症の俺達が何十人から話し掛けられるのは流石に疲れた。
なので、その日はブラックベアという魔物の肉を使用した串焼きを買って、宿に戻った。
初めて食べる魔物の肉だったが、肉汁が多くて食べごたえのある食感だった。
味は地球と比べると若干薄かったが、調味料があまり発展してないのだろうか。
ちなみに魔物の中にも食べられる魔物と食べられない魔物に分類があるようだ。
俺達の討伐したゴブリンとオークは食べることに問題はないが、肉が固くて人間の顎の力では噛み切れないらしい。
その為、買い取り金額は皆無に等しいので、俺達も持ち帰らなかった訳だが。
風呂についてだが、浴槽と呼べるものは貴族ぐらいしか持っていなく、この宿では井戸で汲んだ水と布で身体の汚れを拭き取るのみだったので、日本人の俺達には物足りなく感じる。というか、冷水なので冷たくて仕方がない。
元の世界ではガスや電気が使えていたが、此方の世界ではそうはいかない。早いところ魔法を会得したいものだ。
それと雫よ。俺の目の前で堂々と身体を拭くのは止めていただきたい。せめて前を隠せ!
雫が俺の裸を写真に収めようとしていたので俺がそれを躱すという謎の攻防を繰り広げた後は初依頼という事もあり、心の何処かで精神的疲れを感じていた俺達は直ぐにベットに潜り込んで深い眠りについた。
◇
次の日の朝、昨日と同様の時間に起きた俺と雫は朝食を食べてギルドに向かった。
ちなみに今日の朝食はパンとサラダ、それと卵料理が出てきた。
パンは黒パンで地球のパンよりは硬く、この世界の食の発展の遅れを感じた。
ギルドでは昨日と違い、システィラもちゃんと仕事をしていて安心した。ただ、圧倒的に俺達に掛ける時間が長くて、後方に長蛇の列ができていたのは許して欲しい。
今回受けた依頼はスライム討伐だ。
これには2つの理由があり、1つ目はただ単にスライムを見てみたいというものだ。
2つ目はスライムの性質にある。スライムは打撃や斬撃等の物理攻撃が効きにくく、魔法で倒すのがセオリーらしい。
なので他のスライム討伐の冒険者に遭遇した場合に魔法を目にすることが出来るのでは、というものだ。
スライムの生息地は平坦な緑地に多いとの事なので、昨日のゴブリン討伐の森の奥にある草原に来ている。
たどり着いてみると他にも冒険者が2組ほどおり、中には杖を持った者もいた。
──これは魔法が見れるのでは?
そんな期待を胸に、ガン見するのも悪いので、俺達二人は一旦草むらの中に隠れて冒険者らを観察する。
すると、冒険者達の前に青色のスライムが現れる。
スライムは某RPGゲームのように目や口は無く、まさに青いゼリーの塊のような見た目をしていた。
「焔よ、燃え盛る球となりて、其の敵を燃やせ。──《炎球》」
魔法師がそう唱えると杖の先端にバスケットボール程の大きさの紅く燃え盛る炎の玉が出現する。
魔法士が杖をスライムに向けると、炎の玉がスライムに向かって一直線上の軌道を描いて飛んでいく。
「ピギィーーッ!」
スライムは火の玉が直撃すると、断末魔をあげながら炎に包まれていく。
暫くすると火だるまになったスライムは徐々に勢いを弱めていき、遂にはゴルフボール程の大きさをした玉を残して消滅した。
「よし、依頼分の数を倒したしギルドに帰ろう」
パーティーの1人が玉を拾い腰に下げているたポーチに収納すると、仲間達と一緒に草原を後にした。
おそらくあの玉がスライムの討伐部位なのだろう。
それよりも俺達の興味を引いていたのは先程の魔法だ。
地球には存在しない力。
それだけで俺達の興味を引くには十分だった。
「雫、魔法の仕組みについては何か分かったのか?」
「うん、中々に興味深い…」
雫は小さく呟き始める。恐らく今視た光景について頭の中で整理でもしているのだろう。
一度こうなると暫くは長時間他の事に目が入らなくなるのが注意点だが。
魔法に対する期待も見えた俺達は、予定通りスライムを討伐数の10体分倒して依頼を完成させる。
「よし、帰りますか」
雫は未だ考察にふけっているので、仕方がなく俺の背中に乗せることにする。
このまま歩き始めたら躓いて転んだら目も当てられない。
今日は中々に良い日になったかな…。
地球では全ての知識を網羅した雫だった。その為、開発に明け暮れながらもその表情は実につまらなさそうなものになっていた。
その雫が今では未知の光景に当てられて目を爛々と輝かしているのだ。雫の楽しそうな表情を見ていると此方も嬉しくなってくる。妹の幸せを喜ばない兄などいるだろうか。いや、いない。雫の幸せこそ俺の幸せでもあるのだ。
そんな事を思いながらも俺達は帰路についたのだった。
ちなみにスライムは物理攻撃が効きにくいとの話だったが、刀で斬ってみたら何ら問題なく斬れた。…あれ?俺、魔法必要なくね?
だが、俺の精神ライフは歩いている最中もゴリゴリと削られていた。
──き、気まずい…
王都に向かうまでの最中、人とすれ違う際に何度か注目されている。
無理もない。1人の男が数十人もの女性を引き連れて歩いているのだ、端から見れば侍らせている様にも見える。
別に悪い事をやっているわけでもないのに罪悪感が込み上げてくるのは仕方がない。
王都に着く前からこんな状態なら、王都の中ではどれだけ注目されるのか…
「あれ?昨日の二人じゃねぇか」
重い足取りで入国門の前に着くと見覚えのある人に出会う。
確か初めて王都に来たときに門番をやっていた騎士だっただろうか?
「昨日ぶりですね」
「おう。あの後、無事登録できたか?」
「えぇ、お陰様で」
「そうか、それはよかった。一週間以内に身分証明書を持ってない状態で、見回り兵に見つかると罰金があるからな」
男は笑いながら言うが、正直もう少し早く言って欲しかった情報だな…
「ああ、名乗るのが遅れたな。俺の名前はドラン・アルタリオスだ。気軽にドランで構わない」
「分かりました、ドランさん。俺は太陽。で、こっちが妹の雫です。」
見たところドランさんは40台前半程だろうから、敬語は使っておいた方が良いだろう。
それに歴戦の戦士のような雰囲気を肌に感じた。
下手に出た方が、今後のためだ。
マルク?そんな人知りませんね。
「おっ、礼儀が分かってる奴は嫌いじゃないぜ。オーケー、太陽に雫だな。よろしくな!」
自己紹介の後、握手を交わす。何か俺、この世界に来てからオッサンと握手ばっかしてね?
「依頼の帰りか?」
「はい。無事、初依頼を終えまして」
「そうかそうか、それはよかった…ん?」
笑いながら背中を叩いていたドランさんの動きが止まる。
明らかに俺の後ろに付いてきている女性達に視線が向いていた。
「なんだ、王都に着いて早速女連れてるのか?やるじゃねぇか!」
ドランさんはニヤニヤしながら肘で俺の脇腹を突いてくる。
「違いますよ。彼女達はクエストの最中に助けましてね。今からギルドに報告に行こうと思ってたんですよ」
「何、それは本当か!?分かった。俺は今から本部にに捜索願いが出てないか確認に行くから、彼女達は付いてきてくれないか?」
ドランさんは俺の話を聞いた途端、ニヤついていた表情を引き締めると周りの騎士達に指示を出して、先に門の近くの建物の中に入っていく。
恐らく彼処が駐屯所なのだろう。
近くにいた騎士が女性達を案内するために話し掛けるが、彼女達の反応は鈍い。
帰りたくないんだろうか?
そんな予想をしていると、女性達が俺に話し掛けてくる。
「あのっ、私達まだ何も恩返しを出来ていないんですけど…」
あー、そんな事か。別に気にしなくて良いのに。
だが彼女達は目をキラキラ輝かせて、こちらの返答を待っている。
こういう場合はいらないって言っても引かないからな…仕方がないから、打開策として1つ提案を出してみるか。
「分かった。じゃあ、今度何か料理を作って下さい。それで手を打ちましょう」
俺と雫はご想像の通り料理が壊滅的に出来ないので、料理の手間が省けるわけだ。
我ながら良い案だと思う。
「そ、それって毎日俺の味噌汁を作ってくれという告白…!」
俺が自分自身の完璧な答えに納得していると、女性達が何故か色めき合っている。
そして何故か雫は口を真一文字に結び、機嫌を悪くしていた。
な、何故だ…完璧な答えだと思ったのに。
その後、女性達は納得したようで騎士に連れられて、王都の中に入っていった。
ふー、これで街の中で注目されることは無いだろう。
その後は何事もなくギルドに着き、約束通りシスティラの待っている受付に向かった。
「あっ、太陽さんお帰りなさい!依頼はどうでしたか?」
「難なく終わったよ」
俺は“空間収納”からゴブリンの牙を取り出して、テーブルの上に置く。
「はい、確認できました。こちらが報酬の銀貨3枚になります」
銀貨を手渡しする際にシスティラが俺の手を握ってきたのだが、そんなに強く握らなくても落とさないから安心して欲しい。
宿一部屋の一泊が銀貨2枚で地球の平均的なホテルの相場が一万円前後なので、大体一万五千円程の収入か。
平均的なバイトより貰えるな。
「それと太陽さんが助け出した女性達ですが、全員が家族のもとに戻ることができました。本人達からもお礼の言葉を貰っています。『住所を教えて下さい』『私は料理には自信があるんです』『私の王子様』etc…ですね。これは感謝の言葉なのでしょうか?」
正直俺にもわからない…返事をしないといけないのだろうか。
その後、別れを悲しむシスティラを宥めてギルドを後にした俺達は夕食を屋台で済ませることにした。
店で食べる選択肢もあったのだが、人が多く集まる酒場等は人見知りの俺達にはキツいのだ。
夕飯を宿で頼まなかったのも同様の理由だ。
朝食は屋台が開店してない時間帯なので宿で食べるが。
屋台を見歩いていると、一組の老夫婦から話し掛けられた。どうやら昼に助けた女性の一人の親御さんらしい。お礼に夕飯のお裾分けを貰った。一緒にお金も渡されたが、そちらは断っておいた。別にお金には困ってないからな。
その後も様々な人に話し掛けられた。
全員が昼間に助けた女性の身内の人達だった。
お礼を言われるのは嬉しいのだが、コミュ症の俺達が何十人から話し掛けられるのは流石に疲れた。
なので、その日はブラックベアという魔物の肉を使用した串焼きを買って、宿に戻った。
初めて食べる魔物の肉だったが、肉汁が多くて食べごたえのある食感だった。
味は地球と比べると若干薄かったが、調味料があまり発展してないのだろうか。
ちなみに魔物の中にも食べられる魔物と食べられない魔物に分類があるようだ。
俺達の討伐したゴブリンとオークは食べることに問題はないが、肉が固くて人間の顎の力では噛み切れないらしい。
その為、買い取り金額は皆無に等しいので、俺達も持ち帰らなかった訳だが。
風呂についてだが、浴槽と呼べるものは貴族ぐらいしか持っていなく、この宿では井戸で汲んだ水と布で身体の汚れを拭き取るのみだったので、日本人の俺達には物足りなく感じる。というか、冷水なので冷たくて仕方がない。
元の世界ではガスや電気が使えていたが、此方の世界ではそうはいかない。早いところ魔法を会得したいものだ。
それと雫よ。俺の目の前で堂々と身体を拭くのは止めていただきたい。せめて前を隠せ!
雫が俺の裸を写真に収めようとしていたので俺がそれを躱すという謎の攻防を繰り広げた後は初依頼という事もあり、心の何処かで精神的疲れを感じていた俺達は直ぐにベットに潜り込んで深い眠りについた。
◇
次の日の朝、昨日と同様の時間に起きた俺と雫は朝食を食べてギルドに向かった。
ちなみに今日の朝食はパンとサラダ、それと卵料理が出てきた。
パンは黒パンで地球のパンよりは硬く、この世界の食の発展の遅れを感じた。
ギルドでは昨日と違い、システィラもちゃんと仕事をしていて安心した。ただ、圧倒的に俺達に掛ける時間が長くて、後方に長蛇の列ができていたのは許して欲しい。
今回受けた依頼はスライム討伐だ。
これには2つの理由があり、1つ目はただ単にスライムを見てみたいというものだ。
2つ目はスライムの性質にある。スライムは打撃や斬撃等の物理攻撃が効きにくく、魔法で倒すのがセオリーらしい。
なので他のスライム討伐の冒険者に遭遇した場合に魔法を目にすることが出来るのでは、というものだ。
スライムの生息地は平坦な緑地に多いとの事なので、昨日のゴブリン討伐の森の奥にある草原に来ている。
たどり着いてみると他にも冒険者が2組ほどおり、中には杖を持った者もいた。
──これは魔法が見れるのでは?
そんな期待を胸に、ガン見するのも悪いので、俺達二人は一旦草むらの中に隠れて冒険者らを観察する。
すると、冒険者達の前に青色のスライムが現れる。
スライムは某RPGゲームのように目や口は無く、まさに青いゼリーの塊のような見た目をしていた。
「焔よ、燃え盛る球となりて、其の敵を燃やせ。──《炎球》」
魔法師がそう唱えると杖の先端にバスケットボール程の大きさの紅く燃え盛る炎の玉が出現する。
魔法士が杖をスライムに向けると、炎の玉がスライムに向かって一直線上の軌道を描いて飛んでいく。
「ピギィーーッ!」
スライムは火の玉が直撃すると、断末魔をあげながら炎に包まれていく。
暫くすると火だるまになったスライムは徐々に勢いを弱めていき、遂にはゴルフボール程の大きさをした玉を残して消滅した。
「よし、依頼分の数を倒したしギルドに帰ろう」
パーティーの1人が玉を拾い腰に下げているたポーチに収納すると、仲間達と一緒に草原を後にした。
おそらくあの玉がスライムの討伐部位なのだろう。
それよりも俺達の興味を引いていたのは先程の魔法だ。
地球には存在しない力。
それだけで俺達の興味を引くには十分だった。
「雫、魔法の仕組みについては何か分かったのか?」
「うん、中々に興味深い…」
雫は小さく呟き始める。恐らく今視た光景について頭の中で整理でもしているのだろう。
一度こうなると暫くは長時間他の事に目が入らなくなるのが注意点だが。
魔法に対する期待も見えた俺達は、予定通りスライムを討伐数の10体分倒して依頼を完成させる。
「よし、帰りますか」
雫は未だ考察にふけっているので、仕方がなく俺の背中に乗せることにする。
このまま歩き始めたら躓いて転んだら目も当てられない。
今日は中々に良い日になったかな…。
地球では全ての知識を網羅した雫だった。その為、開発に明け暮れながらもその表情は実につまらなさそうなものになっていた。
その雫が今では未知の光景に当てられて目を爛々と輝かしているのだ。雫の楽しそうな表情を見ていると此方も嬉しくなってくる。妹の幸せを喜ばない兄などいるだろうか。いや、いない。雫の幸せこそ俺の幸せでもあるのだ。
そんな事を思いながらも俺達は帰路についたのだった。
ちなみにスライムは物理攻撃が効きにくいとの話だったが、刀で斬ってみたら何ら問題なく斬れた。…あれ?俺、魔法必要なくね?
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