冒険者は最強職ですよ?

夏夜弘

与えられた試練 13

「フハハハハハハ!!」

「何笑ってんだ気持ち悪ぃ!」

 ジンが今相手にいている敵は、それほど強くはない。それを感じ、ジンはある考えが頭に浮かぶ。

 どうしてこんなにも強さに差があるんだ? それぞれに割り振られているか、もしくはランダムか……何れにせよ、今は目の前の敵を倒さなきゃな。

 ジンは、その敵は難なく倒し、エレンの無事を確認していると、再び視界が歪む。そしてまた元に戻る。

「ウッ……流石に三回もこんなに疲労が襲ってくるとなると厳しいなぁ……さて、あと一回だ」

『本当にごめんね……これで最後よ。頑張って……』

「……はい」

 ジンは、最後の一人、へレーナに掛けられている幻惑魔法へと干渉する。

 はぁ……この感覚もラストだ。へレーナさんをちゃちゃっと助けて皆でご飯でも食べたいな……

 そんな事を思っていると、目の前には火の海が広がっていた。それを見て、ジンは思わず「は?」という声を出してしまう。

「なんだこれ……」

 目の前の火の海を見ていると、今までの三回のどれよりも、強くて邪悪な気を感じる。その邪悪な気に、ジンは思わず息を呑む。

「この如何にもな邪悪な気は……早く探そう」

 ジンはへレーナを探しに走り始める。

 数十分間走り続けているが、見るところ全てが火の海だった。何も無い。誰もいない。ただ、目の前には火の海だけが広がっていた。

「これがへレーナさんの記憶……いったいどんな……」

 その時だった。突然地震が起こり、地面が大きく揺れ崩壊する。

「な、なんだ!?」

 そのまま下へと落ちていくジンは、落下の際の落石で潰されないように、周りの岩を蹴り飛ばす。周りに何もなくなった事を確認し、ジンは数十秒間下へと落ちる。そして着地する。

「かなり下まで来たぞ? ここもやはりダンジョン形式か……」

 そう思いながら、ジンは真っ暗な道を歩いていく。前回や前々回は薄暗くてまだ前が見えていたが、今回は全く見えない。壁を触りながら進んでいくしかない。

 魔力も感じず、ただ邪悪な気だけを感じる。それも彼方此方にだ。

「どうして一つのポイントじゃなくて、いくつもの場所からこんな気を感じるんだ……? そんなに瞬間移動が得意なのか?」

 最初はジンはそう思っていた。だが、この時ジンは勘違いをていた。それに気づくのは、へレーナを見つけてからだった……

 暫く歩き、一つの邪悪な気を発する場所へと到着する。気は目の前に感じるが、何処にいるかはわからない。

「まずいなぁ……もし魔力を使ってこない敵だったら分が悪すぎる……僕はまだ打撃を避ける特訓はしてないからなぁ……」

 だが、そんな心配はすることは無く、敵は何処かで魔力を発生させる。その際、魔法が微弱な光を発してしまうので、魔力など感じなくても位置がわかる。これだとジンは相当楽だ。

 ジンは、魔法を発している敵の位置まで一瞬で近寄り、大体の感覚で攻撃をする。その攻撃は見事的中し、魔法が消えると、数秒後に壁に当たる音がする。

「やばいなぁ。ちょっと力が入りすぎた。何か右手がぬれてる。これは多分血だ。腹に穴開けちまった」

 特に動く様子も無いことを確認し、次へと向かう。それからはずっとそんな感じの闘いばかりだった。全ての敵が魔法を使う。そしてここでようやく気がつく。

「あ、そう言えば今回は敵が大勢いる!? それにどれも弱いとは言えない……でもこの強い邪悪な気は消えない……どこにいるんだ……」

 探しに探し続けて、時間にして約三十分間、探し続けた。

「もうどこにいるんだ……邪悪な気はまだ彼方此方に感じるし……どうなって……」

 ブツブツ言いながら、壁を触りながら歩いている時だった。手で少し先を触りながら歩いていたのだが、ブツブツと言いながら歩いていたため、手の感覚に集中出来ておらず、壁に激突する。

「痛てぇ! な、なんだ!?」

 岩とは違う感覚に、ジンは疑問を抱く。そして、それを手の感触だけで判断し、考える。

「う〜ん……鉄かなぁ? それになんかゴツゴツしてる……ちょっと押してみるか」

 そう思い、力いっぱいに扉を開く。

「おっも! この扉重すぎ!」

 ゆっくりと開いていくと、扉の隙間から光が漏れてくる。

「光!? って事はここは……」

 そして、ジンは扉を自分が通れる程に開き、中へ入る。そして、目の前の状況に、ジンは一つの感情を抱く。怒りの感情を。

 ジンは扉を閉め、殺気を醸しながら一歩、また一歩と歩みを進める。

 そして、目の前の男に問いかける。

「お前は何をしてる? 答え次第ですぐ殺す」

「あれれ? どうしてここに人間が……道理で周りの仲間の気が消えていくわけだ」

「そんな事はどうでもいい。何もしてるって聞いてるんだ」

「何って? ぞくに言うセッ……」

 そこまで言わせると、ジンは感情を抑えられず地面を蹴ってその敵に近寄り、最大威力の殴打を加える。

 そのまま殴った敵は飛んでいき、壁に激突する。そして、ジンはへレーナをすぐさま助ける。

「へレーナさん大丈夫ですか!? ……服がこんなに破られて……僕のを着て!」

 へレーナは、声も出さず、ただ泣きながらジンに抱きつき、力なく呟く。

「ありがとう……ありがとう……」

 それを聞き、ジンは更に苛立つ。そして、顔を上げ、殴り飛ばした敵の方を睨み、こう叫ぶ。

「お前は殺す! 絶対にだ!」

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