冒険者は最強職ですよ?

夏夜弘

与えられた試練 14

 じーっと、飛んでいった敵の方を見ていると、砂煙の中から敵が出てくる。

「痛ててて……酷いじゃない。急に殴ってくるなんて」

「うるさい、お前は許さない事をした。殴られる理由はそれだけあれば充分だ」

「おー怖い。彼女かなんかですかぁー? ていうか、どうやってここまで来たんです? こんなの絶好の機会と思って折角幻惑魔法の中に入ってきたのに」

「同じだ。助けるために来た。それだけだ。お前は殺す」

「いやいや、ここで我々が彼女たちを殺さないとムルド様に怒られてしまうのでね、そう易易と逃げられないのですよ」

「ムルド……もう仕掛けてきたか。だが残念だったな。それもここで終わる。行くぞ……!」

「……!?」

 ジンは、最初から前回モードで攻撃をしに行く。へレーナをあんな事をした奴は許さない。その気持ちがジンを昂らせる。

 ジンの攻撃に付いていけず、ただ攻撃を食らう一方の敵は、何度か反撃をしようもするも、ジンの方がそれを上回るスピーでで攻撃をする。

 ジンは強烈な回し蹴りを顔面に入れ、敵は壁へと飛んでいき、そのまま壁へ衝突する。

 敵はすぐに立ち上がり、血をダラダラと流しながら独り言を言う。

「聞いていた強さと全然違うぞ!? ムルド様がそれ程強くないと言ったから……俺だってそんなに弱いはずは無いのに!」

 いや弱い。絶対にへレーナさんの方が強いのに……そうか。この過去をまだへレーナさんは克服していない。だから落ち込んでいる所を狙われたか……

 ジンは更に苛立ち、目の前の敵にも苛立ち、このタイミングを狙ったかの様に派遣してきたムルドにも苛立つ。

 ジンは、単純にどうやってここに干渉したのかを知りたくなり、敵に問いかける。

「おい、お前らはどうやってここに干渉した? どうやって幻惑魔法を掛けているというのを知った?」

「バカが! そんな事をお前ごときに答えると思って……」

 ジンは一瞬で詰め寄り、首を絞めて床へ押し倒し、脅迫する。

「言え。命だけは助けてやる」

「だから言っただろ! お前なんかに……」

 なかなか喋ろうとしない敵に、ジンは段々と首を絞める力を強めていく。そして、限界まで来たのか、敵が観念したかのように「わかった! 話すから! 命は助けて!」と情けない声で言ってきた。

「わかった。だが力は緩める、がこのままの状態でだ。早く言え」

「ま、魔王さまの側近に未来を詠む力を持ったお方がいるんだ! 名前は言えない、言ったら俺らは死ぬ! その人は月に一度だけ未来を詠める、星詠と言う力を持っている! その人にムルド様が頼み込んで、星詠をしてもらったんだ! そしたら幻惑魔法をかけて特訓をお前らがしているという結果が出たんだ! それで俺達が派遣されたんだ! これでいいだろ!?」

「わかった……」

 話終わった瞬間だった。突然掴んでいた敵の顔が凸凹に膨らみ、体中も歪な形に膨らむ。

「な、なんだ!?」

 ジンは咄嗟に距離をとり、様子を窺う。そして、その敵は徐々に大きさを増していき、限界までくると爆発して、身体がバラバラになる。血が飛び散り、そこら中に腸や眼球や四股が落ちている。ジンは、思わず口を抑える。

「多分今言ってしまったことも、言ってはならないもだったんだな……まあいい。これで理由はわかった。あとは帰ってからだ」

 ジンが振り向くと、視界が歪み、あの感覚に陥る。どうやら元に戻るらしい。そのまま待っていると、現実世界へと戻ってくる。

 ジンはゆっくりと疲れた体を起こし、立ち上がろうとする。その瞬間、全身にさっきよりも酷い疲労がジンを襲い、ジンは思わず倒れてしまう。

 ハハッ……限界っぽいなぁ……へレーナさんは……良かった、元気そうで……

 へレーナが急いで駆け寄ってくるのが見え、そこでジンの意識は途絶える。

 そして、ジンは目が覚める。

「ハッ! ここは……暗闇? って事は!」

 ジンが目を覚ました場所は、レッドの城では無く、前に女神がいた暗闇の世界だった。

「ここは女神様のいた場所だ! 女神様〜! いるんでしょ〜?」

 ジンが、女神を呼びながら歩いていると、見覚えのある椅子が置いてある。

「あ、あの椅子! そこにいるんですね!」

 そして、走って近寄ってみると、誰も座っては居なかった。ジンは不思議に思い、周りを見渡す。が、誰もいない。

「何で誰も……うわっ!? なんだ!?」

 周りを見渡していると、突然椅子の真上から、目が眩む程の光が発生し、ジンは思わず目を両腕で覆ってしまう。

 暫くその状態でいると、突然頭上から、女性の声が聞こえる。

『貴方がジンですね。私は女神代行で来ました、エルです。あなたに話があってここへお呼びしました』

 それを聞き、ジンは不思議に思いながら、ゆっくりと手を退かしていく。

 そして、目の前の高貴なる存在に、ジンは反射的に頭を下げる。

 そして、ゆっくりと頭を上げ、ジンは訊く

「話とは……何でしょうか?」

『そんなに畏まらなくても良いのです。取り敢えず立ち話も何なので、座って話しましょう?』

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