Copán

5.食事

低く重い声だった。口は喋っているというよりは何かをムシャムシャと食べているように見える。
「腹減ってないかい?」
「、、減っている」
実際にはどちらでもなかった。ただなにか返事をしなければと反射的に出た答えだった。動揺していたのだ。
「カリフラワーと牛乳がある」
「少しずつもらえないだろうか」
今度は冷静だった。予想の範囲内だ。少し食べたくらいで鼻がなくなることはないだろう。象は大きな耳でよく分からない合図をするとゆっくりと歩き出した。ついて来いということらしい。

目的の場所へはすぐに着いた。象はそこで立ち止まると僕に好きなだけ食べていいというようなことを言った。だがあたりは依然として白いままだ。はたして本当にカリフラワーなんてあるのだろうか。
僕が茫然と立ち尽くしていると象は右の耳で一点を指した。目を凝らしてみるとそこには小さなカリフラワーがいくつか、野原のタンポポのように広がっていた。カリフラワーが普通どんな生え方をするのか思い出そうとしたが駄目だった。少なくともこうではないはずだ。牛乳もすぐ側にあった。はっきりとは見えないが細い川の流れがあった。触ってみるとそれはどうやら牛乳のようだった。
僕は手を椀にして牛乳を少しだけ飲んだ。味はしない。カリフラワーは少し迷ってから食べないことにした。良いイメージがどうしても持てなかった。
「もういいのかい?」
「ああ。ありがとう」
象はそれに対して小さく頷いた。この象は普段どうやって牛乳を飲んでいるのだろうか。鼻を使わずに牛乳を飲むことは象にとって容易ではなさそうだった。

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