Copán

3.ユーリア

先に口を開いたのは彼女だった。「いきなり押し掛けて悪かったとは思うけど気を悪くしないでね、そういうルールなの。私ある物をあなたに届けに来たのよ。物を届けることは組織での私の役目のひとつなの。そしてあなたはそれを受け取らなくてはいけない。それはもう決まっていることなの。私の言っていることは分かる?」
組織?その組織のルールにはノックは40のペースでという項目はあるのだろうか。土足で他人の家に上がるのも組織のルールなのだろうか。
「分かると思う」僕の頭には多くの疑問があったがそれは聞くべきではないような気がした。彼女は僕の答えに満足したのか小さくうなずくと、ゆっくりとその青いボストンバッグから包みを取り出した。そしてその包みを丁寧に一枚一枚はがした。

それは動物の骨のようだった。細長く関節が多い、恐竜の尻尾のように見えなくもなかった。僕は動物の骨をプレゼントしてくれそうな知り合いがいたかどうか考えたがそんな人は1人も知らなかった。「これは何の骨なんだろう。その組織はいったい何の目的があって僕にこんなものを送るんだろうか。」
「そうね、順番に説明するわ。私達は脳の研究をしているの。組織というのは研究所のようなものと思ってくれていいわ。あなたも知ってると思うけれど脳にはまだ明らかになってない場所がたくさんあって数多くの研究員達がその研究を進めているの。そして私達はその中のひとつのパーツについて研究している。ユーリア、それがその場所の名前。そこは脳が作り出す幻想、自己のみの思考世界と強く関係している。そしてユーリアは人それぞれに適応したある動物の骨によって電気的に信号を与えられることが研究で分かったの。これってすごいことだと思わない?私達はあなたのことをこの1ヶ月間監視してどの骨がキーとなるのか見つけたわ。でもその骨が何の骨なのか教えることは出来ないの。それもまた必要なことなの。」
この女は何を言っているんだ。ユーリア?監視?もうどこから聞けばいいのかも分からなかった。何故僕がそんなややこしそうなことに関わらなければならないのだろう。だいたい今日は久々の休日で、。
いや、怒るのはよそう。大人な対応ではない。いつも通りクールにささっと済ませようではないか。
「それで僕はその骨を受け取ってどうすればいいんだい?ただ受け取ればいいのかな?」
僕は出来るだけ平静を保って尋ねた。
「あなたはとても物分かりが良いのね。話が早く進むのって私大好きよ。いちいち質問とか文句ばかり言ってくる人ってうんざりしちゃうもの。あなたにはこの骨であることをしてもらうわ。とても簡単なことよ。私が今から叩くリズムを覚えて、そのリズムに沿ってその骨で軽く左手首を叩くの。ね、簡単でしょ」
僕は黙って頷いた。その行為になんの意味があるのか分からなかったがそれで僕が解放されるなら悪くない話だ。それにこれ以上この訳の分からない組織とやらに関わるのはごめんだった。
彼女はその青い腕時計をじっと見ながらテーブルを一定のリズムで叩いた。それはあのノックのリズムと全く同じだった。やれやれ、どこの物好きが40の腕時計など作るのだろう。彼女はリズムを取り続けながら僕に目配せをする。僕はその細長い骨を手に取り彼女のリズムに合わせて左手首を叩いた。僕の意識は段々と薄れていった。

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