本日は性転ナリ。

漆湯講義

After story...Dear Rei .6


『急だから気をつけてね。』

稚華さんに続き、足元に気を遣いつつ斜面を下っていく。

すると、遠く下の方に私達以外の人影が見えた。

「おっと…どうしたのッ??」

突然その足を止めた稚華さんに私たちの重心がふらつく。

『稚華っ、急に止まらないでもらえるッ??』

その言葉に答える事もなく、佇んだままの稚華さんを不思議に思い、私は横から稚華さんの顔を覗き込んだ。
「稚華さんどーしたのッ??なんかあっ…た…の…」
私は稚華さんの顔を見た瞬間、思わず口を閉じた。
そして目を見開き、ただただ一点を見つめたまま口を微かに震わす稚華さんの視線の先を追った。

暮石の並ぶ斜面の先、顔まで確認はできないが、男の人…黒い服に身を包み合掌する人影をちかさんの視線の先に見た。

『どぉーしたのー??』

私は莉結に手のひらを突き出し再び稚華さんの顔を覗き込む。

金魚みたいに口をパクパクさせる稚華さんから微かな声が聞こえる。

『ぅさ…んで…』

哮り立つような蝉の鳴き声に邪魔されてその言葉がよく聞こえない。

『とぅ…ん…で…』

そして稚華さんの口元へと目を細めた瞬間、何かが憑依したかのように突然その目が見開いたかと思うと、『何でオマエがココに居るんだよッッ!!』
…稚華さんの怒りに満ちた声が一帯に響き渡った。

『どうしたの稚華ッ…』

彩ちゃんが心配そうに駆け寄り稚華さんの手を取った。

『ゴメン、ちょっと待ってて…』

稚華さん震える声を絞り出すと、草原を飛び立つバッタのように階段を駆け降りた。

稚華さんはあっという間に階段を駆け下りると、先程の人影へと真っ直ぐに駆け寄っていく。その足は減速することなくその人影へと向かい、"パシンッ"という大きな音と共にその足を止めた。と同時にその人影が大きくフラつく。

私たちが稚華さんの元へと足を踏み出そうとした時、再び稚華さんの声が聞こえてその足を止めさせた。

『なんで今更…何やってたんだよ!!』

『私たちも行こッ!!』
駆け出した彩ちゃんに続いて階段を降り、墓石の間を駆け足で進む、稚華さんの背中が近づいてくると、低い声が耳に届いた。


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