本日は性転ナリ。

漆湯講義

173.フダンドーリだよ?

しばらく経っても室内からの声がなく、不思議に思った私たちは部屋の扉を開けた。

『嶺ーっ、まだ…ぁ…』
私たちの目に映った光景に言葉を失った。
こちらを向いたレイちゃんの目は恐怖と不安に満ちていた。
首に通されたままの新しい服、そして顔の前で硬直したままの両手には…艶やかな無数の頭髪が絡みついていたのだった。

静まり返った室内に、空気清浄機の音だけが轟音となって響いている。
そんな中、口火を切ったのは稚華さんだった。

『嶺っ…心配すんなよっ!私が居るからッ!!』
今にも泣き出しそうな瞳は真っ直ぐレイちゃんを見つめ、ガラスに押し当てられた両手はガラスに遮られながらもレイちゃんを必死に抱きしめようとしているように見えた。

俯いたレイちゃんは『着替え…時間かかりそうだからまた明日。』と呟いた。

莉結と病室を後にして、私たちは先生の元へと向かった。
先程の件を相談すると先生は驚く様子もなく答える。
『薬の副作用だよ。嶺さん専用の非常に強い薬を使っているからね…本人も相当辛いだろうに、小さい身体で本当によく頑張っているよ。』

その言葉に私は、真実が怖くて躊躇していた質問を遂に口にした。

「あの…レイちゃんは良くなるんですよね??」

先生は私をジッと見つめて答えた。
『聞きたいかい…?』

"キミに真実を受け入れる覚悟はあるかい?"…私にはそう聞こえた。


翌日、いつも通り振る舞うレイちゃんに「身体大丈夫??辛くない?」と聞いてみたが、『全然平気だよッ♪』といつもの笑顔が返ってきた。
昨日先生は"本人は相当辛いだろう"と言っていたのにそんな気配すらない。

そして楽しい時間は過ぎていく。
『ごめんちょっとトイレっ。』
そう言われ部屋を出るとき以外はずっと何でもないような会話をしていた。








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