本日は性転ナリ。

漆湯講義

169.伝心

『こ・の・子・可愛いのッ?』
トントンと指先で叩く先に目をやると、雑誌広告の"コレであなたも薄毛に悩まない!!"の文字を指差すおばさんの微笑ましい笑顔が飛び込んできた。
『もぅ!さっきからぼーっとしちゃって何よっ。レイちゃんとか稚華さんの事は考えすぎないでフダンドーリでいいじゃんッ。その方が良いって!』
いや、それもそうなんだけど…
「莉結、近いよッ…」

『あっ…ごめん。』

あの"堤防の出来事"から妙に莉結を意識しちゃうんだよなっ…
なんて考えるだけで治りつつあった心臓の鼓動が再び速度を増してしまう。

すると莉結が急に真剣な眼差しで雑誌をぼーっと見つめながらこう言った。
『衣瑠はレイちゃんみたいにならないよね…』

その言葉に心臓が一瞬にしてキュッと縮む。
私とレイちゃんは同じ境遇なんだから仕方ない…か。

「私は大丈夫。もしそうなったら…」
『"もし"なんてイヤだ。』
雑誌がクシャリとシワを作る。

『お婆ちゃんだってずっと居てくれる訳じゃない…衣瑠だけは私と一緒に居てくれるよね?』

あぁ、莉結は元気なフリしてそんな事を考えていたのか、と失恋にも似たような妙に切ない気持ちになった。
それと同時に溢れ出る不思議な気持ちが私を満たしていき、莉結の肩を押し回すと横に向かい合った形で両肩を持ち言った。
「どんな事があっても私は莉結と一緒だよ。気づいたんだ。私の未来に莉結が居ないならそれは私の人生じゃないって。」
その言葉を言い終えた時、自分の言葉にかなりの羞恥を覚えると思ったが不思議とそんな気持ちは無く、清々しい達成感というかなんというか…言葉に例えられない気持ちが私を包み込んだのだった。

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