本日は性転ナリ。

漆湯講義

148.真相

ある日、一本の電話が私に入った。

その内容は私の気持ちを大きく揺らがせるモノだった。

そして私は今、母さんと病院へとやってきている。

『…という訳だけど。瑠衣くんは…いや、瑠衣ちゃんはどうしたい?勿論、答えはYESだと思うけど。』


あの時、突然の電話に言葉を失った。
"君が元に戻れる薬ができた"
本来なら喜ぶべきなのだろうが、私は素直に喜ぶことが出来ずにいた。
やっとこの身体に慣れて、自分自身を受け入れられてきたのに。

…診察室に沈黙が続いている。
「今は…まだ答えられません。」

その返答に担当の先生は驚きの表情を隠しきれない様子だ。

『何を…てっきり私はキミが喜んでこの件を受け入れてくれると思ったよ。』

先生は頭を抱え眼鏡を外す。

「いや、私は今の自分が好きです。だから…」

『そんな悠長なこと言ってられないんだ!!キミの身体は刻一刻と元に戻れる確率が減少していってるんだ!今なら普通の人生に戻れるんだよ?』
私の両肩を掴み、立ち上がった先生をゆっくりと見上げる。
「…普通の人生って何ですか?普通の人生なんてないじゃないですか。人それぞれ自分の人生があって必死に生き抜いてる。私からしたら今がその"普通の人生"で…ただそれだけです。」

『そうですか…ですが、早急に返答をしてください。もし手遅れになったら手の施しようはありませんよ。それと…これは如月先生に口止めされていましたが…』
そう言って先生は話を始めた。




『そんな…瑠衣が?あの人は何でそれを言ってくれなかったの…』
母さんが涙目に俯いた。

先生が話した内容は、父さんが私を男に変えるに至った"身勝手な、私の事しか考えていない"経緯だった。

そう、父がした行為は"人権を無視した人体実験"などではなく、非公認ながらもちゃんとした医療行為だったという事だ。
それに本人の意思が伴っていなかったのはいただけないが…

『瑠衣…あの話を聞いても本当にまだ決められないの?私は瑠衣の気持ちを尊重してあげたいと思ってるわ。だけど瑠衣に後悔はして欲しくないから。』

私は無言のまま出口へと向かった。

その時、ふと見慣れた人影を見つけた。





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