本日は性転ナリ。

漆湯講義

136.疑念

『綺麗な月…』

窓の外を見つめて彩ちゃんが呟く。

すると"ふふっ♪"と微笑んで『夏目漱石さんも上手く言ったものね。』と私を見る。

「えっ?あの"千円札に描かれてたって人??」

『衣瑠は知らない?有名な逸話だよ?"有名な逸話"って変かもしれないけど…』

その時、急に莉結が間に割って入ってきた。

『そ、そうだよねぇ!!てかてか鍋の匂い髪にすごい付いちゃったよね?!お風呂にしたほーがいいかもじゃないですか?』

「そんな事気にした事あったっけ…?」

『衣瑠が良くても彩ちゃんが良くないでしょ!!』

『え…まぁ。けどお腹いっぱいだし…』

『で、でも少し休んだらすぐ入れるようにお湯入れといたほーが良くない??』

「まぁ…そこまで言うなら入れてくるよ。先部屋行ってて♪」

ケチャップを口に付けて平気で外歩くやつが急に何言ってんだろ…ま、いっか。

部屋に戻ると2人で何やら楽しそうにしている。

「なにやってんのー??」

げっ!!なに見てんだよ!!

『んー?アルバムー♪』

視線を莉結たちの手元に移すと、2人して"瑠衣"のアルバムを眺めている。

「アルバムって…えぇ?!」

『ねぇ?衣瑠ちゃんのアルバムは無いの??昔の衣瑠ちゃんも見たいな♪』

私のっ?!そっか。昔の…私…か。

存在しない"私"の過去。彩ちゃんにだったら私の事…
いや、やめよう。そんな事を話しても混乱させてしまうだけだ。

「ごめんね。私のアルバムは…無いんだ。」

その一言に何か感じたのか、『そっか。ごめんね。』と言うとパタンとアルバムを閉じた。

『どの写真にも莉結ちゃんと瑠衣くんしか写ってないんだもん♪莉結ちゃんは、瑠衣くんと仲良しなんだね。』

『瑠衣とは幼馴染だからね♪』

すると彩ちゃんが急に真剣な表情で莉結に問う。

『ずっと入院してるんだったよね?なんでそんなに平気で居られるの?…まるで常に一緒に居るみたい。』




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