本日は性転ナリ。

漆湯講義

118.心の鐘

部屋があまりに静か過ぎて、心臓の音がとても大きく聞こえる。

窓が閉まっているせいかすごく暑い。


目の前に見えるその顔は、計算し尽くされた完璧な設計図を元に創られたかのように整っている。

長く綺麗な髪が無造作にその顔を包んでいて、
閉ざされた目には長い艶やかなまつ毛が伸びる。

そして、きめ細やかで芸術的な素肌は、つい触れたくなってしまう。

顔の芯を通るスッと通った鼻筋。

その下の桜のように綺麗な唇に目が止まった。

刹那、周囲は無音となり身体中が沸騰してしまうかのような暑さに見舞われる。

心臓を中心に頭、腕、指先の順に感覚が麻痺していく…


次の瞬間、私の意識が"ふわぁっ"というとても心地よい感覚に包まれた。

白い光が頭の中を満たすと意識の奥深くから鼓動が聞こえてくる。

それはどんどん大きくなっていく。

耳を塞ぎたくなるほどの大きさに達した時。

鼻に何かが触れていることに気づく。


…….!!!


私は身体をバネのように跳躍させた。

その際、机に腕をぶつけてしまったが、痛みに優る"ふわふわ"とした感覚に困惑していた。


頭から離れることのない唇の柔らかな感触…

その瞬間感じたなんとも言えないふわふわとした感覚…

と同時に襲ってきた罪悪感。


私は…なんてことしちゃったんだ…


自分がとった行動が理解できずに、ただ呆然と座り込んでしまっていると手の甲に温かなモノが落ちてきた。


天井を見上げても何も見当たらない。

するとまた温かなモノが頬を伝ってきた。


……なんで、泣いてんだよ私ッ。


声を押し殺し、抑えきれない感情をポロポロと溢し続ける。

静まり返った部屋に響く"カチカチ"という時計の秒針の音だけが、進み続けなければならない"時の無情さ"を私に押し付けていた。












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