本日は性転ナリ。

漆湯講義

115.屋根のヒメユリ

『夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものそ』

和歌か何かだろうか…生憎、私にはこの歌の意味を理解できる程"それ"に対する知識が無い。

「なにそれ?」

『ヒミツー♪ただ、これを詠んだ人の気持ちはすごい分かるの♪まぁ…気にしないでっ♪』

気にしないでって…気になるよ!!

鶴の恩返しのお爺ちゃんの気持ちすんごいわかるもん!!


「もぅ。なんだよぉ…あ、そういえば林間学校で月見てる時もなんか急に"月が美しいですわね♪"とかなんとか…」

『えっ?…ん…まぁ、ね。ってそんな言い方してないし!』

そーだっけっか?(笑)

「莉結ってさぁ、意外とそうゆうの好きなんだね♪私はそっち系苦手だからさぁ…あははは♪」

いくら医者の息子…いや、娘だからって、結局は遺伝子なんかそんな関係なくて好き嫌いとか、努力次第なんだよなぁ…

『まぁ、それ知ってるからってのもあるけどね♪』

「あー!今バカにしたでしょ!!ったく…ま、いっか♪」

『衣瑠のそーゆーとこ好きだよ♪』

「えっ….」

す…好き?!

『なにぃ?どーかした?』

「別にっ…」

恋愛的に好きって意味じゃないのに…なに焦ってんだろ…




目が慣れてきたせいか、月の光が一面を海面のように光らせていた。

そのせいで横に座る莉結の顔がはっきりと見える。

月明かりが創り出す陰影のアートは莉結の静かな微笑みさえも艶やかな芸術へ変えた。

ふと目が合う。

莉結は何も言わずに潤んだ目で私の視線を占領している。

"ふぅーっ"と私の後ろから冷えた春の風が吹いた…

その風に背中を押されるように自然と2人の距離が近づいていく。

私たちを見ているのは夜空のお月さまだけだ。


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