本日は性転ナリ。

漆湯講義

114.月明かりの下


夜空に浮かぶまんまるなお月さまは、周りの空をスポットライトのように輝かせ、"見て!私はこんなに綺麗なんだよ!"と主張しているかのようだ。

「ねぇ!久しぶりに屋根行こうよ!!」

そう言ってやって来たのは莉結の家の屋根の上だ。

莉結の部屋の窓が屋根のすぐ上にあり、容易に屋根の上に降りることができる。

小さい頃はよくここに来て夜空を見上げてはお婆ちゃんに見つかって叱られたものだ。

『久しぶりに来ると怖いね…』

へっぴり腰のまま窓の枠を離さない莉結に手を伸ばしてあげる。

「掴まんなよ♪大丈夫だって♪」

私の手を握ったその手はとても柔らかく繊細なものだった。

その瞬間指先から腕の付け根に向かって急に力が抜けてしまうような感覚が走った。

それと同時に心臓が鼓動を速めていく…

そんな事に気を取られていると莉結がこちらを不思議そうに眺めていた。

『大丈夫…?手震えてるよ?(笑)』

何故か指先が震えていた。
そして顔が火照っている事に気付く。

え?どうしたんだろ…高いところは大丈夫な筈なんだけど…

『瑠衣っ?』

久しぶりに莉結の口から出たその名前に、ふと顔を上げる。

『そっか♪』
莉結はそう言うと両手を広げ、わざとらしく言い放った。

『あっぶなぁーい♪』

次の瞬間、私にダイブしてきた莉結に押され、危うく転落しそうになる。

「ホントに危ないじゃん!!なにすんだよーっ。」

『いいじゃんたまには♪』

莉結の行動はたまによくわからない。

まぁそこも含めて莉結なんだけどね…

莉結は微笑みながら夜空に光る月を眺めている。

そんな莉結の横顔を私はじっと眺めた。

すると莉結は、落ち着いた声で、静かにゆっくりと物語を話し始めるかのような口調でこんなことを言った。




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