本日は性転ナリ。

漆湯講義

102.巡逢

『ざっとだけどそんなとこかな。』

話を聞き終えた私は、自分の身体が小刻みに震えていることに気づいた。
犠牲の上に成り立つ自分の今が許せなくてしょうがない。

『衣瑠ちゃんは気にしないでよ!私たちは何も責めてないからさ♪ちゃんとそれなりの対価は受けたんだし。まぁそれも馬鹿親父のせいで今はこんな有様なんだけどさ…ははは…』

すると先程まで沈黙していたレイちゃんが口を開いた。

『だから私は…ずっと衣瑠さんに会いたかった。私が"役割"を果たしたそのヒトに。なにも思い出せなくて、病院のヒトも何も教えてくれなくて。』

「そっか…ごめんね。」

『謝ることなんてないよ!衣瑠ちゃんがあの日あそこに来てなければ…ヒントをくれてなければ一生逢えなかったかもしれないんだし!』

「ヒント…?」

『あの日話してたでしょ?確信したのは衣瑠ちゃんの口から"シュールマン症候群"って名前が出た時。他のお医者さんに聞いても"そんな病名は存在しない"の一点張りだったからさ。ネットにも出てこないのに知ってる人がいるわけないもん。』


そっか…あの時か。

注射痕のコトとか、へんな病名とか、フツウの人はそんな事言わないもんね。

「あれ…レイちゃんは注射打ってないの?」

私の目に映ったレイちゃんの腕は白くて細く、注射痕など見当たらない綺麗なものだった。

『え?私は始めの1年は病院に通ったけど、先生が"もう通わなくて大丈夫だよ"って。』

「そうなのか…ちょっと待って?レイちゃんはそれからずっと女の子…なの?」

暫く返答は無かった。

そして口を開いたのは稚華さん。

『レイは…1年くらい前に"元に"戻っちゃったんだよ…』

まさかこんな数奇な境遇に見舞われた人が私以外にも居るなんて。


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