本日は性転ナリ。

漆湯講義

94.ハナニガナの花

私は帰り支度を始めた。

と言っても鞄に携帯をしまい、薄い萌黄色のカーディガンを羽織るだけだけど。
本当にこれで良いのだろうかという想いが
頭の中でモヤモヤしている。
だけどどうしたらいいのかが分からない。

「それじゃっ、私…」
鞄を肩にかけ立ち上がると、背中にふわりと柔らかな感触がある伝わった。

それと同時に香ってくる甘い香り。

彩ちゃん…

私は嬉しい気持ちと、何故か湧き出る"罪悪感"に包まれた。
このままでは罪悪感が膨らんでしまう気がして、平常心を装い笑顔で問いかけた。

「あれっ…どうしたの??」

返事の代わりにカーディガンが微かに握られる。


彩ちゃん…

私、ホントはやっぱり…

『よし…充電完了っっ♪』

そう言うと甘い香りが遠のいていった。

待って…
なんてダメだ。私は…どうしたいんだよ…


「彩ちゃんどうしたの?」

今ならまだ間に合う…?

『何でもないっ♪』

彩ちゃんはそう言って笑うと、玄関まで私の背中を押していった。

『衣瑠っ♪…またねっ♪』

その"またね"がもう2度と訪れない気がしてならなかった。

「それじゃぁ…またねっ♪ホントに…私に出来ること、何でも言ってね♪」

これでいいの…?
トモダチ…
私は彩ちゃんとトモダチでいいんだよね。

『うん。衣瑠に出来ること…また言うねっ。そうだ♪黄色いスイセンの花が欲しい♪時間はかかっても良いからさっ♪それじゃっ…』

玄関が閉まり、私と彩ちゃんを遮った。

黄色いスイセン好きなのかな。とびっきり可愛いやつをプレゼントしよう。

それにしても彩ちゃん…少し寂しそうに見えたのは気のせい…かな。

笑顔の奥に潜んだ寂しさが垣間見えた気がして足を止めた。

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