本日は性転ナリ。
83.知らぬが仏
そして放課後の待ち遠しさに長く感じると思っていた授業は意外にもあっという間に終わりを告げ、いつもと変わらないホームルームでの先生の話に私は耳を傾けていた。案外、本心では稚華さんの口から自分の求めている言葉が聞けなかった時の事を怖がっているのかもしれない。若しくは今の現状に変化が訪れる事への不安なのか。
「よし、じゃぁ早速行こっ」
そう莉結に声を掛けられた時には既に先生の話は終わっていて、いつの間にか私の机の前へと立っていた莉結が鞄を手に私の顔を覗き込んでいた。私は笑顔をつくり、この時を待ち侘びていたかのように元気よく返事をしてみたけど、少し強張った口元が私の気持ちを素直に表していた。
「あっちゃぁ……、ごめんっ」
すると携帯の画面を見つめたまま莉結がそんな事を言う。
「何っ? どうかした?」
「充電少ないから衣瑠の携帯でナビして」
私は"なんだそんな事か"と鞄から携帯を取り出すと、ホーム画面のナビゲーションアプリを探した。
「あっ……」
私の口から思わず声が漏れる。それもそのはず、携帯の画面に"天堂彩"の文字が見えたからだ。私は莉結に声を掛けると、呆然としたまま画面を見せた。
「えっ、天堂さん? 何だろう、早く見てみなよっ」
そう言って莉結は私へと携帯を押し戻す。でも私は、音信不通だった彩ちゃんからの突然なメッセージに戸惑ってしまいすぐにそのメッセージを開くことができなかった。
「私が見てあげようかぁ?」
少し呆れ気味な莉結の声に私は無言のまま首を横に振る。そして私は小さく深呼吸をした後、親指にぐっと力を込めてそのメッセージを開いた。
"今日、時間はあるかしら"
たったそれだけだった。今日まで何通のメッセージを送っただろう。そして何回電話を掛けた事だろう。しかしそれには一切触れる事無く自分の用件だけを述べたその文面。だけど私に込み上げた感情は"怒り"では無く"不安"だった。
それから莉結にその画面を見せて一言、「どう思う?」と訊いてみた。するとその答えは私と同じく怒りとは無縁な"なんだか心配"というものだった。
「なんだろう……」
そう私が呟くと、莉結は"なんかこれって"と言い掛けてやめた。気になった私はその続きを言うように何度も促したけど、莉結はぎこちない笑顔をつくって"なんでもないよ"を貫き通した。
「あのさぁ……」
そう私が言い掛けると、莉結はそれに重ねて「行って来なよ。私は衣瑠がしたいようにすれば良いと思ってるから」と答えた。
それから私は"今学校終わったからそのまま帰りに寄ってもいい?"と返信すると、莉結に"ありがと"と呟いて鞄を手に席を立った。
「自分が後悔しない選択って大切だと思うよっ。相手がどうこうじゃなくって自分がさ」
教室を出る時に背中に掛けられた莉結の言葉。それは"今の自分がしたい事をすればいいよ"って事なんだと思っていたけど、この時の私はまだ莉結が言った言葉の本当の意味に気付いていなかった。
「よし、じゃぁ早速行こっ」
そう莉結に声を掛けられた時には既に先生の話は終わっていて、いつの間にか私の机の前へと立っていた莉結が鞄を手に私の顔を覗き込んでいた。私は笑顔をつくり、この時を待ち侘びていたかのように元気よく返事をしてみたけど、少し強張った口元が私の気持ちを素直に表していた。
「あっちゃぁ……、ごめんっ」
すると携帯の画面を見つめたまま莉結がそんな事を言う。
「何っ? どうかした?」
「充電少ないから衣瑠の携帯でナビして」
私は"なんだそんな事か"と鞄から携帯を取り出すと、ホーム画面のナビゲーションアプリを探した。
「あっ……」
私の口から思わず声が漏れる。それもそのはず、携帯の画面に"天堂彩"の文字が見えたからだ。私は莉結に声を掛けると、呆然としたまま画面を見せた。
「えっ、天堂さん? 何だろう、早く見てみなよっ」
そう言って莉結は私へと携帯を押し戻す。でも私は、音信不通だった彩ちゃんからの突然なメッセージに戸惑ってしまいすぐにそのメッセージを開くことができなかった。
「私が見てあげようかぁ?」
少し呆れ気味な莉結の声に私は無言のまま首を横に振る。そして私は小さく深呼吸をした後、親指にぐっと力を込めてそのメッセージを開いた。
"今日、時間はあるかしら"
たったそれだけだった。今日まで何通のメッセージを送っただろう。そして何回電話を掛けた事だろう。しかしそれには一切触れる事無く自分の用件だけを述べたその文面。だけど私に込み上げた感情は"怒り"では無く"不安"だった。
それから莉結にその画面を見せて一言、「どう思う?」と訊いてみた。するとその答えは私と同じく怒りとは無縁な"なんだか心配"というものだった。
「なんだろう……」
そう私が呟くと、莉結は"なんかこれって"と言い掛けてやめた。気になった私はその続きを言うように何度も促したけど、莉結はぎこちない笑顔をつくって"なんでもないよ"を貫き通した。
「あのさぁ……」
そう私が言い掛けると、莉結はそれに重ねて「行って来なよ。私は衣瑠がしたいようにすれば良いと思ってるから」と答えた。
それから私は"今学校終わったからそのまま帰りに寄ってもいい?"と返信すると、莉結に"ありがと"と呟いて鞄を手に席を立った。
「自分が後悔しない選択って大切だと思うよっ。相手がどうこうじゃなくって自分がさ」
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