本日は性転ナリ。
71.再訪
再び目に映った"Forest town"の文字に私の胸が落ち着きを無くし始める。でもそれは前回とはまた別のもので、高校の入試を思い出させた。問いに対する自分の答えを頭の中で何度も確認しては不安が襲う。本当に合っているのか、その言葉の真意を見抜けているのか……。どこか不自然だった"あの言葉"をそのまま受け取るべきなのかもしれない。だけど私は、あの言葉には別の意味があって、その答えを出さなければ彩ちゃんがまた独りになってしまう、そんな気がした。
あの日、果てしなく思えた坂道も今日は苦にならない。私は焦る気持ちをグッとその足に押し込んで、力強く坂道を登っていく。
「瑠衣はさぁ、どうしたいの?」
私の背中に小さな声が響いた。
「どう……したい? 何……がっ?」
額に流れる汗を感じながら私は答えた。すると足を速めて横に並んだ莉結は、平然とした面持ちで呼吸を乱さずに「天堂さんと」と言って足を止めた。少し遅れて私の足も止まる。
「どうしたいって……、仲直り……って喧嘩した訳じゃないけどさ、一応付き合ってる訳だし? 普通に戻れればいいなって思うけど」
「一応……ね」
ポツリとそう呟いた莉結が再び歩き出す。そして少し間隔が開いた所で再びその足が止まった。
「じゃぁ私も一応……聞くけど、好き……なんだよね? 天堂さんのこと」
私は莉結の背中を見つめたまま何も言えなかった。
"好き……だよね? 私は"
脳裏に浮かんだ彩ちゃんの笑顔に私は尋ねた。彩ちゃんは優しくて可愛くて、一緒にいて楽しいと思う。私の事を好きだと言ってくれて、 私だけを見てくれている。でも……、私は?
「ごめんっ、変なこと聞いて」
そう言って莉結の背中が遠ざかっていく。私は"ごめん"と言ったけど、多分……、それは通り過ぎる車の音にかき消されてしまった。
静寂に包まれた森の中、遠くに彩ちゃんの家の屋根が見え始める。あの時と同じ、薄らと紅く染まり始めた空。白い外壁が仄かに色を反射している。
「居るかな……」
そう口にしたものの、心の中では確信に近いものがあった。
門の前から二階を見上げると、幾つかある大きな窓には全てカーテンがしっかりと閉められている。
"それでもきっと彩ちゃんは居る"
深呼吸をしてからインターホンのボタンへと指を伸ばした。……呼び鈴の音が妙に大きく響く。
しかし応答は無く、家の中に繋がれたインターホンのマイクからは微かな雑音が響き続けている。
「彩ちゃん……、居る?」
やはりその問い掛けにも返事は無かった。
「天堂さんまだ帰ってないのかな?」
莉結がそう言った時だった。視界の端に違和感を感じる。それはほんの僅かな変化だった。でもそれが何かが分からない。私はすぐに彩ちゃんの家を見渡したけど、それが何か気付く事は出来なかった。
「帰る? それとも待つ?」
私の横顔に莉結の声が響いた。
「もう一回……、もう一回だけ鳴らしてみて出てきてくれないなら別の方法考える」
そして、再びインターホンへと指を伸ばした時だった。
「……てる」
「えっ? 何っ」
「莉結……、私たちが来た時、二階のカーテン全部閉まってたよね?」
私が感じた違和感の正体はそれだった。二階の一番右の部屋。その窓のカーテンが僅かに隙間を覗かせていたのだ。
「一番右の部屋のとこ? 初めからあんなんじゃなかった?」
「ううん、確かに綺麗に閉まってた、絶対」
私はその隙間をじっと見つめた。その先にあるかもしれない瞳に向けて。
「彩ちゃんっ、私は待ってるからねっ!」
私はめいいっぱい声を響かせた。"その壁"の向こう側まで伝わると信じて。
「瑠衣、近所迷惑っ」
莉結の笑い声が後に続いた。それに私も笑い声を重ねると、二階の窓へと大きく手を振った。そしてバッグから出したあのぬいぐるみを袋に入れて、そっと門のハンドルへと掛けると、私達は彩ちゃんの家を後にした。
あの日、果てしなく思えた坂道も今日は苦にならない。私は焦る気持ちをグッとその足に押し込んで、力強く坂道を登っていく。
「瑠衣はさぁ、どうしたいの?」
私の背中に小さな声が響いた。
「どう……したい? 何……がっ?」
額に流れる汗を感じながら私は答えた。すると足を速めて横に並んだ莉結は、平然とした面持ちで呼吸を乱さずに「天堂さんと」と言って足を止めた。少し遅れて私の足も止まる。
「どうしたいって……、仲直り……って喧嘩した訳じゃないけどさ、一応付き合ってる訳だし? 普通に戻れればいいなって思うけど」
「一応……ね」
ポツリとそう呟いた莉結が再び歩き出す。そして少し間隔が開いた所で再びその足が止まった。
「じゃぁ私も一応……聞くけど、好き……なんだよね? 天堂さんのこと」
私は莉結の背中を見つめたまま何も言えなかった。
"好き……だよね? 私は"
脳裏に浮かんだ彩ちゃんの笑顔に私は尋ねた。彩ちゃんは優しくて可愛くて、一緒にいて楽しいと思う。私の事を好きだと言ってくれて、 私だけを見てくれている。でも……、私は?
「ごめんっ、変なこと聞いて」
そう言って莉結の背中が遠ざかっていく。私は"ごめん"と言ったけど、多分……、それは通り過ぎる車の音にかき消されてしまった。
静寂に包まれた森の中、遠くに彩ちゃんの家の屋根が見え始める。あの時と同じ、薄らと紅く染まり始めた空。白い外壁が仄かに色を反射している。
「居るかな……」
そう口にしたものの、心の中では確信に近いものがあった。
門の前から二階を見上げると、幾つかある大きな窓には全てカーテンがしっかりと閉められている。
"それでもきっと彩ちゃんは居る"
深呼吸をしてからインターホンのボタンへと指を伸ばした。……呼び鈴の音が妙に大きく響く。
しかし応答は無く、家の中に繋がれたインターホンのマイクからは微かな雑音が響き続けている。
「彩ちゃん……、居る?」
やはりその問い掛けにも返事は無かった。
「天堂さんまだ帰ってないのかな?」
莉結がそう言った時だった。視界の端に違和感を感じる。それはほんの僅かな変化だった。でもそれが何かが分からない。私はすぐに彩ちゃんの家を見渡したけど、それが何か気付く事は出来なかった。
「帰る? それとも待つ?」
私の横顔に莉結の声が響いた。
「もう一回……、もう一回だけ鳴らしてみて出てきてくれないなら別の方法考える」
そして、再びインターホンへと指を伸ばした時だった。
「……てる」
「えっ? 何っ」
「莉結……、私たちが来た時、二階のカーテン全部閉まってたよね?」
私が感じた違和感の正体はそれだった。二階の一番右の部屋。その窓のカーテンが僅かに隙間を覗かせていたのだ。
「一番右の部屋のとこ? 初めからあんなんじゃなかった?」
「ううん、確かに綺麗に閉まってた、絶対」
私はその隙間をじっと見つめた。その先にあるかもしれない瞳に向けて。
「彩ちゃんっ、私は待ってるからねっ!」
私はめいいっぱい声を響かせた。"その壁"の向こう側まで伝わると信じて。
「瑠衣、近所迷惑っ」
莉結の笑い声が後に続いた。それに私も笑い声を重ねると、二階の窓へと大きく手を振った。そしてバッグから出したあのぬいぐるみを袋に入れて、そっと門のハンドルへと掛けると、私達は彩ちゃんの家を後にした。
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