本日は性転ナリ。
67.リバーシブル
「お待たせっ」
私は買い物を終えると、動物園の出口の前でモデルみたいに背筋をぴんと伸ばした綺麗な背中へと声を掛けた。
でも彩ちゃんはそれに反応する事なくジッと出口の方を見つめたまま。やっぱり私が莉結の名前を出したのがいけなかったのかな、なんてじんわりとした後悔が私に浮かび上がった。
それでも本当に気付いていないだけかもしれない。そう思って私は後悔の中に少しだけ滲み出てきた期待を胸にゆっくりと彩ちゃんの顔を覗き込んだ。
"彩……ちゃん? "
私の目に映ったのはどこか遠くを見つめるような寂し気な瞳だった。すると私に気付いた彩ちゃんはすぐに表情を変え、"びっくりした。早かったのねっ"と微笑んだ。
私は軽く返事をしつつも彩ちゃんが見つめていた視線の先を追った。でもそこには仲の良さそうな普通のカップルが居るだけで、特に変わったものは無かった。
「どうかした?」
私は彩ちゃんに尋ねた。でも彩ちゃんは"何が? "と笑顔で誤魔化して心の内は話してくれない。
「あっそうだ、これっ」
私は その心配を拭うように無理矢理笑顔を作ると、先程買った袋の一つからある物を取り出し、"ジャーン"と言って彩ちゃんの目の前に掲げた。
「えっ?」
「これっ、私から彩ちゃんへのプレゼント!」
私が彩ちゃんをわざわざ店から遠ざけて内緒で買ったものはもちろん"あのぬいぐるみ"だ。あんなあからさまに欲しい事を隠すような態度を取られてしまっては男心……、はたまた母性本能になるのか。とにかく買ってあげたい、そんな衝動に駆られてしまう。……とは言っても今までそんな衝動に駆られた事なんてないのだから、不覚にも母性本能に駆られてしまったということになってしまうのか……。
「ありがとう……。本当に嬉しい」
彩ちゃんはそう言ってぬいぐるみをギュッと抱きしめた。そんな笑顔を見たら、先程の寂しげな瞳もやっぱり私の思い過ごしなんじゃないかって思える。
「良かった。それじゃぁ行こっ」
そう言って私が少し前を歩き出したその時、私の背中にボンッと柔らかな衝撃が伝わった。そして振り返った私の目に飛び込んできたものは……。
「えっ?」
それを見た私の身体が一瞬硬直する。私の脳は理解してしまったはずのその現状を受け入れず、私は"そこ"を除いた周囲を見渡した。でも辺りに人は疎か私へと視線を向けている人すら居らず、私はゆっくりと地面へと落ちていった視線を、自分の勘違いだと願いつつも"そこ"へと向けた。
……艶やかな髪が微風に靡いている。ピンと伸びた背筋は何も変わらずに先程のままだ。しかし、その整った顔立ちから私へと向けられる視線だけが私の知る"彩ちゃん"のものでは無かった。……違う。私が知ったつもりになっていた彩ちゃんのもう一つの顔が"また"顔を覗かせていたと言うべきだろうか。
視線が重なった瞬間から心臓の鼓動が勢いを増し、呼吸が乱れ始めた。あの目を私は見たことがある。忘れもしない、彩ちゃんと出会ったあの日の目を。
その鋭く冷め切った、正に人形の様な目から私を突き刺す視線。それから逃げる様に私は視線を逸らした。……視線の先には、たった今私がプレゼントしたばかりのぬいぐるみがうつ伏せのままぐにゃりと腕を折り曲げ、舗装された地面の上に倒れている。
すると微風に乗せられて無機質な小さな声が私の耳に届いた。
「彩には私だけでいい。こんな妄想はどうせ崩れてしまうのだから」
私は買い物を終えると、動物園の出口の前でモデルみたいに背筋をぴんと伸ばした綺麗な背中へと声を掛けた。
でも彩ちゃんはそれに反応する事なくジッと出口の方を見つめたまま。やっぱり私が莉結の名前を出したのがいけなかったのかな、なんてじんわりとした後悔が私に浮かび上がった。
それでも本当に気付いていないだけかもしれない。そう思って私は後悔の中に少しだけ滲み出てきた期待を胸にゆっくりと彩ちゃんの顔を覗き込んだ。
"彩……ちゃん? "
私の目に映ったのはどこか遠くを見つめるような寂し気な瞳だった。すると私に気付いた彩ちゃんはすぐに表情を変え、"びっくりした。早かったのねっ"と微笑んだ。
私は軽く返事をしつつも彩ちゃんが見つめていた視線の先を追った。でもそこには仲の良さそうな普通のカップルが居るだけで、特に変わったものは無かった。
「どうかした?」
私は彩ちゃんに尋ねた。でも彩ちゃんは"何が? "と笑顔で誤魔化して心の内は話してくれない。
「あっそうだ、これっ」
私は その心配を拭うように無理矢理笑顔を作ると、先程買った袋の一つからある物を取り出し、"ジャーン"と言って彩ちゃんの目の前に掲げた。
「えっ?」
「これっ、私から彩ちゃんへのプレゼント!」
私が彩ちゃんをわざわざ店から遠ざけて内緒で買ったものはもちろん"あのぬいぐるみ"だ。あんなあからさまに欲しい事を隠すような態度を取られてしまっては男心……、はたまた母性本能になるのか。とにかく買ってあげたい、そんな衝動に駆られてしまう。……とは言っても今までそんな衝動に駆られた事なんてないのだから、不覚にも母性本能に駆られてしまったということになってしまうのか……。
「ありがとう……。本当に嬉しい」
彩ちゃんはそう言ってぬいぐるみをギュッと抱きしめた。そんな笑顔を見たら、先程の寂しげな瞳もやっぱり私の思い過ごしなんじゃないかって思える。
「良かった。それじゃぁ行こっ」
そう言って私が少し前を歩き出したその時、私の背中にボンッと柔らかな衝撃が伝わった。そして振り返った私の目に飛び込んできたものは……。
「えっ?」
それを見た私の身体が一瞬硬直する。私の脳は理解してしまったはずのその現状を受け入れず、私は"そこ"を除いた周囲を見渡した。でも辺りに人は疎か私へと視線を向けている人すら居らず、私はゆっくりと地面へと落ちていった視線を、自分の勘違いだと願いつつも"そこ"へと向けた。
……艶やかな髪が微風に靡いている。ピンと伸びた背筋は何も変わらずに先程のままだ。しかし、その整った顔立ちから私へと向けられる視線だけが私の知る"彩ちゃん"のものでは無かった。……違う。私が知ったつもりになっていた彩ちゃんのもう一つの顔が"また"顔を覗かせていたと言うべきだろうか。
視線が重なった瞬間から心臓の鼓動が勢いを増し、呼吸が乱れ始めた。あの目を私は見たことがある。忘れもしない、彩ちゃんと出会ったあの日の目を。
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