本日は性転ナリ。
33.ハダカの付き合い
すると、莉結は目を見開いたまま硬直してしまった。
……自分から"恥ずかしがるな"だの、"身体を洗ってあげようか"だの、"女同士"って事を理由に人をからかっておいて、そんな反応をするなんて言語道断じゃんっ。
「…………無いじゃんっ……」
莉結がぽつりと何かを呟いた。
「えっ、何っ?」
私が聞き返すと、莉結はふと我に返ったように視線を私に戻し、"何でも無いから"と何故か慌てて答えた。
……"無いじゃん"って当たり前じゃん、女なんだからさ。
「えっと……お風呂入ろっお風呂っ」
何故か動揺している莉結を不思議に思いつつも、私は自分の痴的な行動にちょっとだけ後悔して浴槽へと足を進めた。
石張りの広い浴槽は、クラスの女子の人数じゃ狭いけど、二人で入るには贅沢すぎるくらいの大きさがあって、もう少し綺麗だったら優雅な気分を味わえたのになぁ、なんて思ってしまう。そんな広い浴槽の角で、背中合わせにお湯へと浸かっている私達は、何だか勿体無い使い方をしている気がする。
「気持ちいねっ」
水滴が落ちる音がはっきりと分かってしまうくらい静かな浴室に、莉結の声が一際大きく聞こえた。
「う、うん」
「貸切だね」
「だ、だね」
会話がぎこちない。さっきはあんな事しちゃったけど、やっぱり自分の身体を見られるのには抵抗がある。そしてそれ以上に、莉結と一緒にお風呂に入っているという事実に、私の胸は破裂してしまいそうだった。
暫くの沈黙が続く。すると、再び浴室に莉結の声が響いた。
「衣瑠はさぁ、このまま女の子で……本当の姿のままでもいいって思ったりする?」
その声はどこか寂しげに聞こえた。
「うん……もし、戻る方法があったとしても、それは本当の自分じゃないから……だからさ、今はこの身体が本当の自分だって思うようにはしてる」
……そうは言ったけど、"瑠衣に戻れる"ってなったら……その時にどう決断するかなんて分からない。だけど、私はそう思うしか無いんだと思う。だって元に戻るなんて言ってるけど……もう、私は"元に戻ってしまった"んだから。
「まぁ……私からしたらどっちも瑠衣に変わりは無いからさっ」
その莉結の言葉は、私には本心に聞こえなかった。何でかは自分でもよく分からないけど、ずっと莉結と過ごしてきた私にはそう思えた。それでも私を安心させる為にそう言ってくれている事は確かな事だから、私は"ありがと"と背中越しの莉結に言った。
恥ずかしさのせいか、お湯の温度が高いのか……私の頭がぼーっとする。まぁ、いつもは風呂なんて"烏の行水"程度だから、のぼせてきたのかもしれない。
「さて……そろそろ出よっか」
まるで私の気持ちを読んだみたいに莉結が言った。私はクラクラする頭で頷くと、ゆっくり立ち上がり、脱衣所に歩いていく。
浴室を出ると、気持ちの良いひんやりとした空気に変わって、私は壁際に置かれた長椅子に横になったのだった。
「衣瑠っ、そろそろ出ないと時間無いぞっ」
そんな莉結の言葉で、私は心地の良い暗い世界から戻ってくる。身体を起こそうとすると、私を覗き込むようにして見ていた莉結にぶつかりそうになって、慌てて身体を逸らした。莉結はいつの間にか着替えを終えていて、髪も乾かし終わっているみたいだった。
「あっ! 時間っ」
飛び起きた私は、すぐ身体の違和感に気付く。お風呂から上がってすぐに横になったはずなのに、私は服を着ていたのだ。少しの間、自分の記憶を辿ってみたけど、一つの結論がすぐに浮かび上がった。
「もしかして、莉結……?」
私がそう聞くと、莉結は"へへっ"っと自慢げに笑った。
「ちょっと……恥ずかしいじゃん」
「だって時間は決まってるのに衣瑠は完全にのぼせちゃってるでしょ? そんな状況なら仕方無いじゃんっ。でも……大丈夫、見ないようにやったからっ」
恥ずかしい事には変わり無い。だけど、男だったら絶対こんな事してくれなかったんだろうな、って考えると、私がこの身体になったお陰で莉結との距離が縮まったんだなって実感する。これがよく聞く裸の付き合いって奴なのかな。
すると、建物の外から先生が何かを言っている声が微かに聞こえた。多分、キャンプファイヤーが終わったんだと思う。私達は荷物を手に取ると、ロビーへと戻る事にした。
山田先生は相変わらずソファーに座っていて、林間学校の資料のようなものを睨みながら、何やら作業に勤しんでいた。
「先生、ありがとうございました」
私達がお礼を言うと、先生は私達をちらりと見て"おう"とだけ言って、また手に持った紙へと視線を戻した。
間も無く、外から騒がしい声が近づいて来て、ロビーは瞬く間に生徒で埋め尽くされる。そして、先生からお風呂や宿泊する部屋の説明がされると、みんなは自分の荷物を持って部屋へと向かい出す。
「二人ともキャンプファイヤーの時居たっ?」
ほのかさんが行列の中から私達の元へとやってきてそう言った。私達が経緯を説明すると、ほのかさんは羨ましがりながらも、"それじゃ私も荷物置いたらお風呂行ってくるねっ"と部屋に向かった。
「衣瑠、荷物置き行こっか」
人気が疎になった所で、私達も部屋へと向かう事にした。
……自分から"恥ずかしがるな"だの、"身体を洗ってあげようか"だの、"女同士"って事を理由に人をからかっておいて、そんな反応をするなんて言語道断じゃんっ。
「…………無いじゃんっ……」
莉結がぽつりと何かを呟いた。
「えっ、何っ?」
私が聞き返すと、莉結はふと我に返ったように視線を私に戻し、"何でも無いから"と何故か慌てて答えた。
……"無いじゃん"って当たり前じゃん、女なんだからさ。
「えっと……お風呂入ろっお風呂っ」
何故か動揺している莉結を不思議に思いつつも、私は自分の痴的な行動にちょっとだけ後悔して浴槽へと足を進めた。
石張りの広い浴槽は、クラスの女子の人数じゃ狭いけど、二人で入るには贅沢すぎるくらいの大きさがあって、もう少し綺麗だったら優雅な気分を味わえたのになぁ、なんて思ってしまう。そんな広い浴槽の角で、背中合わせにお湯へと浸かっている私達は、何だか勿体無い使い方をしている気がする。
「気持ちいねっ」
水滴が落ちる音がはっきりと分かってしまうくらい静かな浴室に、莉結の声が一際大きく聞こえた。
「う、うん」
「貸切だね」
「だ、だね」
会話がぎこちない。さっきはあんな事しちゃったけど、やっぱり自分の身体を見られるのには抵抗がある。そしてそれ以上に、莉結と一緒にお風呂に入っているという事実に、私の胸は破裂してしまいそうだった。
暫くの沈黙が続く。すると、再び浴室に莉結の声が響いた。
「衣瑠はさぁ、このまま女の子で……本当の姿のままでもいいって思ったりする?」
その声はどこか寂しげに聞こえた。
「うん……もし、戻る方法があったとしても、それは本当の自分じゃないから……だからさ、今はこの身体が本当の自分だって思うようにはしてる」
……そうは言ったけど、"瑠衣に戻れる"ってなったら……その時にどう決断するかなんて分からない。だけど、私はそう思うしか無いんだと思う。だって元に戻るなんて言ってるけど……もう、私は"元に戻ってしまった"んだから。
「まぁ……私からしたらどっちも瑠衣に変わりは無いからさっ」
その莉結の言葉は、私には本心に聞こえなかった。何でかは自分でもよく分からないけど、ずっと莉結と過ごしてきた私にはそう思えた。それでも私を安心させる為にそう言ってくれている事は確かな事だから、私は"ありがと"と背中越しの莉結に言った。
恥ずかしさのせいか、お湯の温度が高いのか……私の頭がぼーっとする。まぁ、いつもは風呂なんて"烏の行水"程度だから、のぼせてきたのかもしれない。
「さて……そろそろ出よっか」
まるで私の気持ちを読んだみたいに莉結が言った。私はクラクラする頭で頷くと、ゆっくり立ち上がり、脱衣所に歩いていく。
浴室を出ると、気持ちの良いひんやりとした空気に変わって、私は壁際に置かれた長椅子に横になったのだった。
「衣瑠っ、そろそろ出ないと時間無いぞっ」
そんな莉結の言葉で、私は心地の良い暗い世界から戻ってくる。身体を起こそうとすると、私を覗き込むようにして見ていた莉結にぶつかりそうになって、慌てて身体を逸らした。莉結はいつの間にか着替えを終えていて、髪も乾かし終わっているみたいだった。
「あっ! 時間っ」
飛び起きた私は、すぐ身体の違和感に気付く。お風呂から上がってすぐに横になったはずなのに、私は服を着ていたのだ。少しの間、自分の記憶を辿ってみたけど、一つの結論がすぐに浮かび上がった。
「もしかして、莉結……?」
私がそう聞くと、莉結は"へへっ"っと自慢げに笑った。
「ちょっと……恥ずかしいじゃん」
「だって時間は決まってるのに衣瑠は完全にのぼせちゃってるでしょ? そんな状況なら仕方無いじゃんっ。でも……大丈夫、見ないようにやったからっ」
恥ずかしい事には変わり無い。だけど、男だったら絶対こんな事してくれなかったんだろうな、って考えると、私がこの身体になったお陰で莉結との距離が縮まったんだなって実感する。これがよく聞く裸の付き合いって奴なのかな。
すると、建物の外から先生が何かを言っている声が微かに聞こえた。多分、キャンプファイヤーが終わったんだと思う。私達は荷物を手に取ると、ロビーへと戻る事にした。
山田先生は相変わらずソファーに座っていて、林間学校の資料のようなものを睨みながら、何やら作業に勤しんでいた。
「先生、ありがとうございました」
私達がお礼を言うと、先生は私達をちらりと見て"おう"とだけ言って、また手に持った紙へと視線を戻した。
間も無く、外から騒がしい声が近づいて来て、ロビーは瞬く間に生徒で埋め尽くされる。そして、先生からお風呂や宿泊する部屋の説明がされると、みんなは自分の荷物を持って部屋へと向かい出す。
「二人ともキャンプファイヤーの時居たっ?」
ほのかさんが行列の中から私達の元へとやってきてそう言った。私達が経緯を説明すると、ほのかさんは羨ましがりながらも、"それじゃ私も荷物置いたらお風呂行ってくるねっ"と部屋に向かった。
「衣瑠、荷物置き行こっか」
人気が疎になった所で、私達も部屋へと向かう事にした。
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