本日は性転ナリ。
13,芽吹いたキモチ
「会ったばっかだし……私、女だし……変かもしれないけど私は衣瑠ちゃんの事が恋愛として好き……もっと知りたいって思う!」
……あぁ、そうだ。"あの時"もこんな表情してたっけ。
俺の脳裏に浮かんだのはあの頃、入学して間もない頃の記憶。あの頃も麗美はこんな顔をして俺に告白をしてきたんだ。
………………
「あのっ、如月瑠衣くんっ! その……会ったばっかで変かもだけど……良かったら私と付き合ってくださいっ!」
「えっ……誰、お前?」
「あ、そうですよねっ……私、隣のクラスの天野麗美って言います! それでその……良かったら私と付き」
「あぁ……ごめんっ、俺そういうの興味ないんだ」
   それからも麗美は、懲りずに何回も俺に告白をしてきた。俺はそんな麗美の事を、簡単に人を好きになる軽薄な女だと思っていたけど、ある出来事でそれが間違いだったのだと知る事になる。
その日は新発売のパンが出たとかで、購買がやけに混み合っていた。その光景を見た俺は、言うまでもなく教室へと引き返そうとしていた。するとその人だかりの中から、こんな会話が聞こえてきたのだ。
「麗美ったらどんだけ瑠衣くんの事好きなんだよっ」
声のした方を横目で見ると、やはりそこには麗美の姿があった。
「マジ本気でやばいかもっ、麗美の運命の人かもーっ」
    麗美のその返答に、つい鼻で笑ってしまう。
マジと本気は一緒だろっ! それにお前の人生には何人運命の人がいるんだよ。
    すると、麗美と一緒に居た友達の口から耳を疑うような話が聞こえてきたのだった。
「麗美が人を好きになる日が来るとはねぇ……この十何年、男の気配なんてこれっぽっちも無かった意外度千パーセントのあの麗美が男に惚れるたぁ、こりゃ富士山の噴火も近いね」
「ですよねー、日本の終わりも近いねぇ……」
「何それっ、ひどっ! 私だって初めての事でもう訳わかんないんだからちゃんとしたアドバイスしてよね」
「はーいはい、じゃぁまず一つ! 麗美、告り過ぎっ」
「どうかーん」
    そんな会話を聞いて、俺は心の中で"なんか悪かったな"と麗美に謝ったのだった。
「ごめんねっ! やっぱりおかしいよねっ……変な空気にしてごめんっ」
    その声でふと我に返ると、今にも泣き出してしまいそうに微笑む麗美の顔が目に映った。
「……くない……思う。おかしく無いと思うよっ!」
    俺は無意識にそう口にしていた……それは麗美に対してのフォローでも同情でも無い。昼間見た小鳥みたいに……人間だってそう、見た目とか性別とか、そんなの関係無いって思ったから。
「えっ……でも」
    その時だった。
「まーじかぁーっ!」
    教室の後ろの扉の方から、馬鹿にしたような笑い声と共に大きな声が響いた。
その声の方に目をやると、見覚えのある短髪と背の高い男が二人、俺たちの方を見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
……誰だよ、あいつら。他のクラスの奴か。
すると、短髪の男が勘に触る半笑いを浮かべて口を開いた。
「噂の転校生見に来たらとんでもねーの見ちまったわぁ」
それを聞いた麗美は、その男の前へと足早に移動すると、腰に両手を当てて強気な態度でこう言い放った。
「何っ、何か用? その笑い方、ウザいんだけど!」
麗美の言葉にその男の目つきが変わる。
「は? 女のクセにいきがってんじゃねーよレズ野郎、全部聞いてたかんな、お前がその子に愛の告白してたのとかさぁっ!」
「ねぇ! そんな言い方な……」
    莉結の言葉を麗美の手が遮った。それから麗美が言い返すのかと思いきや、麗美は下を向いたまま何も言わない。それをいい事に、短髪の男は再びその口を開く。
「何っ? 本当の事言われて何も言えなくなっちゃった?」
すると調子に乗った背の高い方もふざけた笑みを浮かべて同調を始める。
「しょんねぇよ、こいつレズだもん」
「いい加減にしてっ!」
見かねた莉結が前へと出ると、再び麗美の手が伸び、莉結の腕をギュッと掴んだ。
「何っ? もしかしてお前もレズ?」
    その時だった。
「ごめんね……私のせいで巻き込んじゃって」
    卑劣な男達の笑い声に消えてしまいそうな麗美の震えた声が聞こえた。
……そして、俺の目に、床に落ちていく小さな雫が映ったのだった。
「恋愛として好きっ! もっと知りたいの、女の子のカ・ラ・ダ! だもんなぁ! まじきめぇーっ!」
それを聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
気が付くと俺は、短髪の男の肩を掴み、腹の底から滲み出る怒りが喉を震わせていた。
「馬鹿にすんなっ!」
「な、何だお前っ……離せよ!」
    短髪の男はそう言って俺の手を払おうとしたが、私はぐっとその肩を握りしめ離さなかった。
「痛っ、まじ離せよ! このクソアマ!」
暴れる男に振り回されながらも、俺はか細い腕に渾身の力を込めてしがみ付く。
「なんだよこいつ……まじ、ちょっと頭おかしいんじゃねぇの……」
そして、ようやく大人しくなったその男に、俺は再び口を開いた。
「謝って。麗美さんに謝って!」
「はっ? ふざけんなよ、なんで俺が」
「じゃぁ何で麗美さんにあんな事言ったの」
「当たり前だろ、レズなんだから」
「レズって何? いけない事? 人が人を好きになる事の何がいけないの? みんなしてる事でしょ?」
「話になんねぇ……お前もそっちかよ」
「だから何っ? 人は心が豊かな生き物なんだよ? 心に恋して何が悪いの? 君らみたいな固定観念に縛られた人は、動物みたいに異性にだけ恋してればいい。人として生まれたのに損してるね。ほんと」
そう言って俺は男の目を真っ直ぐ見つめたまま手を離した。
「まじ……頭おかしいわ、お前。勝手にしろよ……おいキョースケ、もう帰ろうぜ」
    男達はそう言うと、静かにこの場を去って行った。
「ありがとう……」
背後で小さな声が響く。俺が振り向くと、麗美が濡れた睫毛を指でなぞって微笑んだ。
「衣瑠、カッコいいじゃん」
莉結がそう言って俺の肩へと手を置いた。
「別に……なんか、あぁいう奴ら嫌いなだけだから。莉結が傷害で停学とかんなったら困るし」
「ばーか。もしそうなったら正当防衛で通すもん」
    静かな教室に三人の小さな笑い声が響いた。
それから俺たちは教室に残り、何でもない会話をした。いつの間にか麗美の顔にはいつもの笑顔が咲き誇っていて……それを見た俺は、友達って存在も悪くないのかも、なんて思ったりしたのだった。
……あぁ、そうだ。"あの時"もこんな表情してたっけ。
俺の脳裏に浮かんだのはあの頃、入学して間もない頃の記憶。あの頃も麗美はこんな顔をして俺に告白をしてきたんだ。
………………
「あのっ、如月瑠衣くんっ! その……会ったばっかで変かもだけど……良かったら私と付き合ってくださいっ!」
「えっ……誰、お前?」
「あ、そうですよねっ……私、隣のクラスの天野麗美って言います! それでその……良かったら私と付き」
「あぁ……ごめんっ、俺そういうの興味ないんだ」
   それからも麗美は、懲りずに何回も俺に告白をしてきた。俺はそんな麗美の事を、簡単に人を好きになる軽薄な女だと思っていたけど、ある出来事でそれが間違いだったのだと知る事になる。
その日は新発売のパンが出たとかで、購買がやけに混み合っていた。その光景を見た俺は、言うまでもなく教室へと引き返そうとしていた。するとその人だかりの中から、こんな会話が聞こえてきたのだ。
「麗美ったらどんだけ瑠衣くんの事好きなんだよっ」
声のした方を横目で見ると、やはりそこには麗美の姿があった。
「マジ本気でやばいかもっ、麗美の運命の人かもーっ」
    麗美のその返答に、つい鼻で笑ってしまう。
マジと本気は一緒だろっ! それにお前の人生には何人運命の人がいるんだよ。
    すると、麗美と一緒に居た友達の口から耳を疑うような話が聞こえてきたのだった。
「麗美が人を好きになる日が来るとはねぇ……この十何年、男の気配なんてこれっぽっちも無かった意外度千パーセントのあの麗美が男に惚れるたぁ、こりゃ富士山の噴火も近いね」
「ですよねー、日本の終わりも近いねぇ……」
「何それっ、ひどっ! 私だって初めての事でもう訳わかんないんだからちゃんとしたアドバイスしてよね」
「はーいはい、じゃぁまず一つ! 麗美、告り過ぎっ」
「どうかーん」
    そんな会話を聞いて、俺は心の中で"なんか悪かったな"と麗美に謝ったのだった。
「ごめんねっ! やっぱりおかしいよねっ……変な空気にしてごめんっ」
    その声でふと我に返ると、今にも泣き出してしまいそうに微笑む麗美の顔が目に映った。
「……くない……思う。おかしく無いと思うよっ!」
    俺は無意識にそう口にしていた……それは麗美に対してのフォローでも同情でも無い。昼間見た小鳥みたいに……人間だってそう、見た目とか性別とか、そんなの関係無いって思ったから。
「えっ……でも」
    その時だった。
「まーじかぁーっ!」
    教室の後ろの扉の方から、馬鹿にしたような笑い声と共に大きな声が響いた。
その声の方に目をやると、見覚えのある短髪と背の高い男が二人、俺たちの方を見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
……誰だよ、あいつら。他のクラスの奴か。
すると、短髪の男が勘に触る半笑いを浮かべて口を開いた。
「噂の転校生見に来たらとんでもねーの見ちまったわぁ」
それを聞いた麗美は、その男の前へと足早に移動すると、腰に両手を当てて強気な態度でこう言い放った。
「何っ、何か用? その笑い方、ウザいんだけど!」
麗美の言葉にその男の目つきが変わる。
「は? 女のクセにいきがってんじゃねーよレズ野郎、全部聞いてたかんな、お前がその子に愛の告白してたのとかさぁっ!」
「ねぇ! そんな言い方な……」
    莉結の言葉を麗美の手が遮った。それから麗美が言い返すのかと思いきや、麗美は下を向いたまま何も言わない。それをいい事に、短髪の男は再びその口を開く。
「何っ? 本当の事言われて何も言えなくなっちゃった?」
すると調子に乗った背の高い方もふざけた笑みを浮かべて同調を始める。
「しょんねぇよ、こいつレズだもん」
「いい加減にしてっ!」
見かねた莉結が前へと出ると、再び麗美の手が伸び、莉結の腕をギュッと掴んだ。
「何っ? もしかしてお前もレズ?」
    その時だった。
「ごめんね……私のせいで巻き込んじゃって」
    卑劣な男達の笑い声に消えてしまいそうな麗美の震えた声が聞こえた。
……そして、俺の目に、床に落ちていく小さな雫が映ったのだった。
「恋愛として好きっ! もっと知りたいの、女の子のカ・ラ・ダ! だもんなぁ! まじきめぇーっ!」
それを聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
気が付くと俺は、短髪の男の肩を掴み、腹の底から滲み出る怒りが喉を震わせていた。
「馬鹿にすんなっ!」
「な、何だお前っ……離せよ!」
    短髪の男はそう言って俺の手を払おうとしたが、私はぐっとその肩を握りしめ離さなかった。
「痛っ、まじ離せよ! このクソアマ!」
暴れる男に振り回されながらも、俺はか細い腕に渾身の力を込めてしがみ付く。
「なんだよこいつ……まじ、ちょっと頭おかしいんじゃねぇの……」
そして、ようやく大人しくなったその男に、俺は再び口を開いた。
「謝って。麗美さんに謝って!」
「はっ? ふざけんなよ、なんで俺が」
「じゃぁ何で麗美さんにあんな事言ったの」
「当たり前だろ、レズなんだから」
「レズって何? いけない事? 人が人を好きになる事の何がいけないの? みんなしてる事でしょ?」
「話になんねぇ……お前もそっちかよ」
「だから何っ? 人は心が豊かな生き物なんだよ? 心に恋して何が悪いの? 君らみたいな固定観念に縛られた人は、動物みたいに異性にだけ恋してればいい。人として生まれたのに損してるね。ほんと」
そう言って俺は男の目を真っ直ぐ見つめたまま手を離した。
「まじ……頭おかしいわ、お前。勝手にしろよ……おいキョースケ、もう帰ろうぜ」
    男達はそう言うと、静かにこの場を去って行った。
「ありがとう……」
背後で小さな声が響く。俺が振り向くと、麗美が濡れた睫毛を指でなぞって微笑んだ。
「衣瑠、カッコいいじゃん」
莉結がそう言って俺の肩へと手を置いた。
「別に……なんか、あぁいう奴ら嫌いなだけだから。莉結が傷害で停学とかんなったら困るし」
「ばーか。もしそうなったら正当防衛で通すもん」
    静かな教室に三人の小さな笑い声が響いた。
それから俺たちは教室に残り、何でもない会話をした。いつの間にか麗美の顔にはいつもの笑顔が咲き誇っていて……それを見た俺は、友達って存在も悪くないのかも、なんて思ったりしたのだった。
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